ココ・シャネル

75歳のマクレーン=シャネルが小気味いい。
高飛車な態度と名言の数々で示した美学とは?
かのマドモワゼルの痛快な生き様に酔う

  • 2009/08/07
  • イベント
  • シネマ
ココ・シャネル© 2008 ALCHEMY/PIX ALL RIGHTS RESERVED.

「私は流行をつくっているのではない。スタイルをつくっているの」「美しさは女性の“武器”であり、装いは“智恵”であり、謙虚さは“エレガント”である」。数々の名言を残し、独自の美学を鮮烈に貫いたココ・シャネルの人生とは。出演は今年75歳を迎えたオスカー女優シャーリー・マクレーン、イタリアで活躍するバルボラ・ボブローヴァ、イギリスの名優マルコム・マクダウェル。ココが71歳で15年ぶりにデザイナーとして復帰した’54年と、幼い頃からデザイナーとして確立していく1895〜1919年くらいまでの経緯や愛した男性たちとの美しい思い出が交錯。ハーレクイン・ロマンスのような恋愛ドラマであり、貧しい少女が夢を実現していく人間ドラマでもあり。女性のファッションを堅苦しいコルセットと動きにくいドレスから解放し、現代につながる機能的なスタイルへと変革した偉大な女性デザイナー、ココの半生と哲学を伝える作品である。

1954年、パリ。ココ・シャネルは15年の沈黙を経て、再起を賭けた復帰コレクションを開催。が、評論家や顧客たちから酷評されてしまう。ココは母を亡くし父に捨てられ、孤児となった自分がデザイナーとして成功するまでの日々に思いを馳せる。孤児院を出てムーランの衣料品店で働き始めた彼女は、自分なりのデザインを提案するなど充実した毎日を過ごしている。ある日、将校のエチエンヌ・バルサンと出会ったココは恋に落ち、彼の所有するロワイヤリュのシャトーで一緒に暮らすことに。だがデザイナーとしてモノ作りがしたい、自立したいと切に願うココは、生まれながらの金持ちで享楽的なエチエンヌと徐々にかみあわなくなってくる。そこへ仕事が生きがいという青年ボーイ・カペルが現れ、ココとボーイは強烈に惹かれ合う。

バルボラ・ボブローヴァ

恋愛ドラマとしてはできすぎの本作。ココが素敵に見えるように美化されている感もあるが、それはそれでドラマ風のシンプルな勢いと展開がわかりやすくて面白い。自立するために仕事に没頭する女性と、自分のためだけにもっと一緒にいてほしいと願う男性とのすれ違い、という現代にも通じるテーマが描かれている。

見どころは華麗に再現されたシャネルファッションの数々。マクレーンとボブローヴァ2人のために70着の衣装が製作され、シャネルのキーアイテムであるジャージー・ドレス、カメリアのブローチ、ツイード・スーツ、香水のシャネルNO.5などが完成した伝説的な逸話が紹介されていることも興味深い。シンプルな黒いドレス“リトル・ブラック・ドレス”に真珠のネックレスなど、ココが好んだ定番のコーディネイトは今見てもまったく遜色なく、とても洗練されている。

シャーリー・マクレーン

ココが実際に復帰コレクションをした時の年齢71歳に近い、今年で75歳を迎えたマクレーンが’54年のココを絶妙に表現。マクレーンの大物オーラがココのキャラクターとよく合って、くわえ煙草に辛辣で率直な話しぶり、極端なニュアンスのある言い回しも高飛車な態度も、妙に説得力があるところが好い。マクレーンは語る。「オードリー・ヘプバーンが最後に私に語ってくれたことが『ココ・シャネルを演じることを検討してみなさい』ということだったの。これまでずっと彼女のファンだったから、シャネルを演じられてとても楽しかったわ」。ボブローヴァは娘時代のココを情熱的に、マクダウェルはココのビジネスパートナーのボウシエを飄々と、それぞれに好演している。

バルボラ・ボブローヴァ

ココ・シャネルの生誕125周年である’09年は、映画や舞台などシャネル関連の作品が多数。映画は本作のほか、9月18日公開のオドレイ・トトゥ主演『ココ・アヴァン・シャネル』、舞台では’69年のブロードウェイミュージカル『COCO』を鳳蘭主演で、オリジナルのミュージカル『ガブリエル・シャネル』は大地真央主演で上演。舞台『COCO』とオドレイの映画を観たところ、どちらにも魅力がありながら、個人的にはこの映画に一番染み入るものを感じた。実話がドラマとして多少都合よく調整されているにしても、ココが貫き通した美学をより鮮明に際立たせてあるから。時に孤独で不遜、時に素直で情熱的なマドモワゼルの生き様は少々イタく、やっぱりとても痛快で、働く女としては不思議と魅了されてしまうのである。

作品データ

ココ・シャネル
公開 2009年8月8日公開
Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
制作年/制作国 2008年 アメリカ・イタリア・フランス
上映時間 2:15
配給 ピックス
監督 クリスチャン・デュゲイ
脚本 エンリコ・メディオーリ
コスチューム・デザイン ピエール・イブ・ゲロー
出演 シャーリー・マクレーン
バーボラ・ボブローヴァ
マルコム・マクダウェル
オリヴァー・シトリュック
サガモア・ステヴナン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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