すべての現代音楽につながるルーツとは。
ビヨンセらが往年の名アーティストを演じ
’50S〜’60Sに活躍した音楽関係者の栄光と衰退を描く
まだソウルやロックンロールというジャンルが存在しない’40年代。アメリカのシカゴでスタートしたレコード会社のオーナーとミュージシャンたちの栄光と衰退のドラマを映画化。出演はオスカー俳優のエイドリアン・ブロディ、トニー賞受賞歴をもつジェフリー・ライト、トップ女性アーティストのビヨンセ・ノウルズ。監督・脚本は、ハリウッドのメジャースタジオから長編映画の監督を任された初の黒人女性として知られるダーネル・マーティン。ローリーング・ストーンズやビートルズら大物アーティストたちが強い影響を受けたブルースやソウル、ロックンロールの名曲にのせて、事実を基に描き出す。現代音楽が生まれたルーツや背景をなぞる、熱い人間ドラマである。
ポーランド移民の白人レナード・チェスは、シカゴに黒人用のナイトクラブをオープン。才能ある黒人ミュージシャンのマディに声をかけ、レナードは’47年にチェス・レコードを立ち上げる。厳しい人種差別が横行する時代、黒人と白人の2人が車に同乗しているだけで奇異の目で見られる中、「ビジネスパートナーは家族と同じ」とレナードは明言。2人はめぼしいラジオ局を巡るプロモーションを続け、マディのレコードは大ヒットする。ハーモニカ奏者のリトル・ウォルターとマディのブルースギターは最高の相性でヒットを飛ばすが……。
乗る車も入る店も人種で規制されていた時代。黒人のマディと白人のレニーが組んで成功したというエピソードはとても興味深い。実際には、レナードは兄弟のフィルとともに事業展開をしていたそうだが、本作ではレナードの存在のみで描かれている。また、のちにチェス・レコード所属となるロックンロール創始者のひとりチャック・ベリーの曲が大ヒットし、白人社会にどんどん浸透していく流れはとても痛快だ。反面、チャックの曲が勝手に白人バンドのビーチ・ボーイズにオリジナルとして改作される(「サーフィン・U.S.A.」)といったトラブルなど、若い世代の音楽ファンに新鮮に感じられるであろうエピソードもしっかりと描かれている。
思慮深いマディはライトが抑えた演技で、ワンマンなレナードはブロディが濃い目にくっきりと表現。酒やドラッグに溺れるウォルターは若手のコロンバス・ショートが体当たりで好演している。またエタ・ジェイムズを演じ、製作総指揮も務めたビヨンセ、チャックを演じたモス・デフなど音楽シーンで活躍する面々が往年の名アーティスト役で出演。本作では彼らをはじめ、出演者たちが名曲のパフォーマンスを披露するシーンが大きな見せ場となっている。ライトがマディ・ウォーターズの「フーチー・クーチー・マン」を渋く深く、モス・デフがチャック・ベリーの「メイベリーン」を明るく楽しく、そしてなんといってもビヨンセがエタ・ジェイムズの「アット・ラスト」を万感の思いを込めて歌い上げるシーンは胸に響く。この「アット・ラスト」は、オバマ大統領就任祝賀パーティでビヨンセが披露したことでも知られている。
このほか本作には、マディのシビれるようなボトルネック・ギターの音色や、チャックのギターを弾きながら腰を低く落としてステージ上を練り歩く“ダックウォーク”など、’50〜’60年代に青春を過ごした大人たちの心をググッとつかむエッセンスもたっぷりと。関連CDとしては、出演者たちが歌う名曲やビヨンセの新曲「ワンス・イン・ア・ライフタイム」を含むサントラ盤のほか、映画に登場する歌のオリジナルを集録した『ベスト・オブ・チェス・レコード〜キャデラック・レコード・オリジナルズ』も発売。音楽ファンなら両方を聴き比べるのも楽しいだろう。現代のR&Bやヒップホップのファンはビヨンセやボス・デフが往年の名アーティストに扮する姿を、ブルースやロックンロールのファンは当時の音楽やファッションを楽しめる。当時のシビアな世情とともに、現代音楽シーンを愛する人たちにその源流の一端を伝えるために作られた、じっくりと聴かせる映画である。
公開 | 2009年8月15日公開 新宿ピカデリーほか全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2008年 アメリカ |
上映時間 | 1:48 |
配給 | ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント |
監督・脚本 | ダーネル・マーティン |
出演 | エイドリアン・ブロディ ジェフリー・ライト ビヨンセ・ノウルズ コロンバス・ショート モス・デフ セドリック・ジ・エンターテイナー ガブリエル・ユニオン イーモン・ウォーカー エマヌエル・シュリーキー |
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