ココ・アヴァン・シャネル

オドレイ・トトゥがココ・シャネルを熱演
貧しい孤児が一流デザイナーになるまでの
恋愛ドラマと栄光を描くサクセス・ストーリー

  • 2009/09/11
  • イベント
  • シネマ
ココ・アヴァン・シャネル© Haut et Court - Cine@ - Warnerbros. Ent. France et France 2 Cinema

2010 年にシャネルの創業100周年を控え、今年はココ・シャネルがらみの作品が続々。今回の主演はフランスの人気女優オドレイ・トトゥ、監督・脚本はフランスで監督、脚本家、女優として知られているアンヌ・フォンテーヌ。トトゥがシャネル・スタイルを着こなし、貧しい孤児から一流デザイナーになるまでを描くサクセス・ストーリーである。

母を亡くした少女ガブリエルは、姉と一緒に父に孤児院へと入れられる。成人したガブリエルは得意な裁縫を生かしてお針子となり、田舎の仕立屋で働きながら、ナイトクラブでココと名乗って歌手を目指すがうまくいかない。そんな折、裕福な将校エティエンヌ・バルサンに見初められ、愛人として郊外の城で暮らすことに。退廃的で贅沢な上流階級の生活の中、ココは実業家の青年ボーイ・カペルと出会う。

オドレイ・トトゥ

本作では晩年が描かれてないことを除き、孤児の少女期〜お針子〜エティエンヌとの生活〜ボーイとの恋愛と、物語のポイントはシャーリー・マクレーン主演の『ココ・シャネル』とほぼ同じ。窮屈なコルセットに動きにくいドレスが主流の中、シンプルで着心地の良い服という画期的なスタイルを提案して女性たちに自由を与えるくだりはやはり魅力的だ。女優が美しくシャネル・スタイルを着こなし、シンプルなサクセスストーリーとしてココの半生をつるっと見せる本作は、ファッションブランドのPVとしては高得点。けれど、かのココ・シャネルの生き様を描く映画としてはやや物足りない印象だ。バルサンが自分の家族との食事の席に、身分違いであるシャネルを同席させなかったというシビアなエピソードには、頑なに自立を目指したココがサクセス以前にたびたび受けた屈辱の原点があるかのように思えた。

トトゥはいつものかわいらしさを封印して口紅を細くひき、唇の薄い仏頂面のココを熱演。「普通の伝記映画はやりたくなかった」という彼女はここ数年でココ役のオファーがいくつかあった中、フォンテーヌ監督のビジョンに共感して本作の出演を決めたとのこと。「私は、ココ・シャネルという人物の現代性――精神力と、彼女が女性に与えた地位――に魅了されていたので、そういう観点から描かれる彼女の役のオファーがあることを密かに願っていたの」と語っている。共演にブノワ・ポールブールド、アレッサンドロ・ニボラ、マリー・ジラン、エマニュエル・ドゥボスと実力派が脇を固めている。

原作はフランス版『ヴォーグ』の編集長で作家のE・シャルル=ルーが執筆した『ココ・アヴァン・シャネル』。脚本は劇作家、脚本家、監督としてイギリスで活躍しているクリストファー・ハンプトンの協力を得て、フォンテーヌ監督がカミーユ・フォンテーヌと共同執筆。ロケ地はフランスのパリとノルマンディー地方にて。パリに再現された帽子店のアトリエをはじめ、ダンスホールや競馬場など19世紀末〜20世紀初頭のフランスを再現した美術や衣装は見応えたっぷり。衣装担当のカトリーヌ・ルテリエ曰く、「ファッション史の映画ではないため、時代考証から外れたこともやった」とのこと。ストライプのニットにまつわる話は、実際にはもっと後の時代のことだそうだ。

オドレイ・トトゥ

注目はラストシーン、例のガラス張りのサロンで階段からモデルたちが降りてくるところ。メゾン・シャネルの協力により、ルテリエはこのシーンのためにコンセルヴァトワール・シャネルで保存されているさまざまな時期のドレスとジュエリーを厳選。実際にココがデザインした本物のドレスが使用されているというから贅沢だ。監督は映画のイメージを伝えるために、現在のシャネルのデザイナーであるカール・ラガーフェルドと数回会って、衣装のスケッチなどを見せたとも。

オドレイ・トトゥ

魅力的な女優トトゥがシャネルを演じ、美術や衣装を丁寧に作りこんだ本作。ココ・シャネルの成功秘話をシンプルに知りたい人にはおすすめだ。個人的には15年の沈黙後、71歳でファッション界に復帰するくだりがないことが残念。そしてココ・シャネル関連の作品に共通して、ちょっとひっかかることがある。それは引退していた15年間、第二次世界大戦下でフランスがナチス・ドイツに占領されていた時、ココが年下のドイツ人将校を愛人にして安穏と暮らしていたこと、戦後はナチス側についた人間としてフランス国内で強い反発があったことについて、まったく触れられていないこと。不名誉な事実とはいえ、そのしたたかさもココがココである要素なのだから、隠したりせずに描いてほしい。またいずれココの映画や舞台が作られる時には、その点にも注目したい。

作品データ

ココ・アヴァン・シャネル
公開 2009年9月18日公開
丸の内ピカデリー2ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2009年 フランス
上映時間 1:50
配給 ワーナー・ブラザース映画
監督・脚本 アンヌ・フォンテーヌ
脚本 カミーユ・フォンテーヌ
脚本協力 クリストファー・ハンプトン
ジャック・フィエスキ
原作 E・シャルル=ルー
美術 オリビエ・ラド
衣装 カトリーヌ・ルテリエ
出演 オドレイ・トトゥ
ブノワ・ポールブールド
アレッサンドロ・ニボラ
マリー・ジラン
エマニュエル・ドゥボス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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