ソダーバーグ監督×マット・デイモン
大企業のエリート社員による内部告発を
シニカルに描く、微妙な後味の社会派コメディ
’90年代にアメリカの大企業で実際にあった内部告発の顛末を、スティーブン・ソダーバーグ監督がブラック・コメディとして映画化。主演は、本作がソダーバーグ監督と組む第5作目となるマット・デイモン。今回は体格を変えて、小太りのサラリーマンを演じる。企業間の脅迫疑惑でFBIが動きだしたことをきっかけに、自社による世界各国の企業との価格協定を若きエリートが内部告発。FBI側のスパイとして証拠収集に乗り出すが……。まさに“事実は小説よりも奇なり”。ゆるいサスペンスであり皮肉なコメディであり、なんともビミョ〜な後味の物語である。
名門大学を卒業し、33歳で農業関係の大会社アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(AMD)の重役となったマーク・ウィテカー。彼が任されていた世界最大規模の食品添加物の製造工場で’92年にウイルスが発生し、会社は毎月700万ドルという莫大な損失を抱えることに。上層部から責任を問われたウィテカーは、ウイルスは日本の大企業によって仕込まれ、1000万ドル払えばやめると脅迫を受けた、と報告。ADMのトップはFBIに捜査を依頼する。
その後、FBIに自社の内部告発をしてFBIのスパイを自ら買って出たウィテカーは、007の2倍かしこい「0014」と名乗り、盗聴カメラやレコーダーに向かって社内事情を実況中継。自分の告発によって社長や上司がすべて逮捕されれば自分が社長になれる、と皮算用。名門大卒のエリートの頭脳でなぜそんな短絡的な発想になるのかさっぱりわからないが、実際にそうだったのだから仕方がない。劇中では日本の企業、味の素株式会社の名前が具体的にあがっていて、ちょっと可笑しい。
ウィテカーを演じたデイモンは、体重を15kg増量して歯茎に詰め物をしてふっくら顔になり、おでこが後退しているカツラと付け髭でさえないおじさんに変身。暗殺者をクールに演じたボーンシリーズとは対極のダメキャラながら、何を演じてもイケるデイモンらしく、つかみどころのないウィテカーを淡々と演じている。共演は映画やTVなどで活躍している面々で、ウィテカーを担当するFBI捜査官をスコット・バクラとジョエル・マクヘイル、ウィテカーを信じて支える妻をメラニー・リンスキーが好演し、脇には実力派のコメディアンたちが多数出演。ADM社員のテリー・ウィルソン役を演じるコメディアンのリック・オバートンは、本作についてこう語っている。「真実は時として不条理なもので、これこそまさにその典型だね。このストーリーのすごいところは、これがすべて実話という点。状況そのものが笑えるんだ」。
原作はニューヨーク・タイムズ社から出版され、ベストセラーとなった同名のノンフィクション。著者のカート・アイケンウォルドは『ニューヨーク・タイムズ』紙のジャーナリストとして20年にわたって大企業の腐敗を追求する記事を執筆し、ピューリッツァー賞に3回ノミネートされた人物。’96年にはアメリカの腎臓透析治療システムの欠陥を暴いた記事で、’98年にはアメリカ国内最大の私立病院経営会社コロンビアHCAヘルスケア社の違法行為に関する記事で、優れた報道活動に贈られるジョージ・ポーク賞を受賞。この映画の製作にアイケンウォルド自身も参加している。ちなみに本作には製作総指揮として、ジョージ・クルーニーも名を連ねている。
生化学者であり年俸35万ドルのエリートビジネスマンであり、愛妻や子供たちと暮らす家庭人のマーク・ウィテカーは、なぜ内部告発者となったのか? 個人的に爽快感はゼロ。観た後の気分はなんかすっきりしないグレーな感じ。アメリカでは、デイモン人気で30代以降の大人層を中心にそこそこの興行収入となったようだが、日本では果たしていかに。どっぷり不況で不穏な世情である今、日本のビジネスマンはこのトホホな物語に共感するのか、それともこうして仕事がらみで冷笑を誘う話は観たくないと思うのか。日本の観客の反応がちょっと気になる作品である。
公開 | 2009年12月5日公開 恵比寿ガーデンシネマほかにて全国順次ロードショー |
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制作年/制作国 | 2009年 アメリカ |
上映時間 | 1:48 |
配給 | ワーナー・ブラザース映画 |
監督 | スティーブン・ソダーバーグ |
脚本 | スコット・Z・バーンズ |
原作・製作 | カート・アイケンウォルド |
出演 | マット・デイモン スコット・バクラ ジョエル・マクヘイル メラニー・リンスキー |
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