ラブリーボーン

殺された少女が美しい彼岸から見つめる世界
家族たちの苦悩と再生、殺人犯の罪と顛末。
ベストセラーを映像美とスリラーで簡明に

  • 2010/01/15
  • イベント
  • シネマ
ラブリーボーン© 2009 DW STUDIOS L.L.C. All Rights Reserved.

2002年に発表され、世界30カ国以上で1000万部以上の売上を誇るベストセラー『ラブリー・ボーン』を映画化。監督は『ロード・オブ・ザ・リング』3部作でアカデミー賞®を受賞したピーター・ジャクソン、製作総指揮はスティーブン・スピルバーグ。出演は『つぐない』で注目されたアイルランド系の若手女優シアーシャ・ローナン、確かな演技力で知られるマーク・ウォールバーグやスタンリー・トゥッチ、オスカー®女優のレイチェル・ワイズやスーザン・サランドンと実力派がズラリ。原作のディープな世界観をわかりやすく簡略に再構築し、スピリチュアルな映像とシリアスなサスペンスを前面に押し出した、シンプルなヒューマンドラマである。

1973年12月6日。仲の良い両親と妹と弟と暮らす14歳の少女スージーは、ある男に殺害される。そして彼女は、幻想的で雄大な景色がどこまでも広がる、天国と地上の“中間の地”に立っていた。そこからはスージーの死に打ちひしがれる家族たち、初恋の少年レイや霊感の強い同級生ルースの姿がよく見えるが、彼女はどうすることもできない。捜査が難航し、警察が犯人を逮捕できずにいる中、父は犯人を執拗に探し続け、母は娘を守れなかった罪悪感にさいなまれ、利発な妹は八方ふさがりの状況に苛立ち、幼い弟はよくわからないながらも小さな胸を痛めていた。

ラブリーボーン

今も昔も世界中で、命を残虐に奪われていった少女たちに捧げるレクイエム(鎮魂歌)のような作品。深刻なテーマを扱いながらも、視覚効果などを駆使した美しい映像と良質なサウンドにより、映画全体を通して魂が救われていくイメージを壮大に描いていく。

殺害された少女スージーは、ローナンがピュアに生き生きと表現。死者の役に“生き生き”というのも妙だが、スージーに普通のティーンの愛らしさがあればあるほど、観客の哀しみを誘う。娘を殺害した犯人探しに執着する父役にウォールバーグ、母親役にワイズ、陽気な酒好きの祖母役にサランドン、そして妹リンジーにローズ・マックィーバが扮し、壊れてゆく家族と再生までの姿をしっかりと演じている。近所の男ハーヴィはトゥッチが演じ、絶妙な雰囲気で底知れない闇を感じさせる。

シアーシャ・ローナン、リース・リッチー

原作者のアリス・シーボルドは、大学生の時に自らがレイプされ乗り越えるまでを綴った1999年のノンフィクション『ラッキー』で衝撃のデビューを果たした人物。2002年に初小説『ラブリー・ボーン』を出版し、世界的なベストセラーとなった。この原作で味わい深くあたたかく表現されているのは、残された両親や弟妹が“家族の死”にそれぞれに向き合っていく全身全霊の闘い、どうにもならない悲しみや痛みを受け入れ、時間をかけてゆっくりと再生されていく日々。そして周囲の人々が愛すべき隣人の死を悼む気持ち。死後の世界における、死んだ少女本人の精神的な成長。リアルな感覚やブラックユーモア、現実や日常に存在してしまう残酷さも時にずけずけと書き、殺人や暴行の露骨な表現やむきだしの感情も臆さずに記して読者の心を揺さぶる。女流作家らしい精神的な野太さが好い。

マーク・ウォールバーグ、シアーシャ・ローナン

ただこの映画は、原作の小説とは似て非なるもの。映画では犯人を追うサスペンスと彼岸の神秘的な描写がメインで、偽善的な商業映画に見えかねないところは否定できない。子供から大人まで幅広い層が一緒に楽しめるよう万人に向けた映画に、という意図はわからないでもないが、少女の殺害というシビアな事件を扱う内容がそもそも容易ではない。全米では’09年12月から限定公開が始まり、’10年1月15日から全米公開となる本作。本国アメリカでの評価はいかに。ふと思うのは、男性スタッフの視点から腫れ物には触れないように調整し、映像美でみせるドラマとして製作された映画と、自身も暴行の被害者となった経験のある女流作家の視点から真摯に練り上げられた長編小説、という違い。映画と小説、より深く共感するのはどちらの世界か、自身で確かめてみるのも興味深いことだろう。

作品データ

ラブリーボーン
公開 2010年1月29日公開
丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
制作年/制作国 2009年 アメリカ
上映時間 2:15
配給 パラマウント ピクチャーズ ジャパン
監督・脚本・製作 ピーター・ジャクソン
脚本 フラン・ウォルシュ
フィリッパ・ボウエン
製作総指揮 スティーブン・スピルバーグ
原作 アリス・シーボル
出演 シアーシャ・ローナン
マーク・ウォールバーグ
レイチェル・ワイズ
スーザン・サランドン
スタンリー・トゥッチ
マイケル・インペリオリ
ローズ・マックィーバ
リース・リッチー
キャロリン・ダンド
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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