’60年代の名作が舞台を経てミュージカルムービーに。
ロブ・マーシャル監督が豪華俳優陣とともに描く
ひとりの男をめぐる女たちの魅惑のショータイム!
フェデリコ・フェリーニ監督の1963年の映画『8 1/2』から1982年にブロードウェイミュージカル『NINE』が生まれ、2009年にこのミュージカルムービーへと進化。出演はダニエル・デイ=ルイス、ニコール・キッドマン、ペネロペ・クルス、マリオン・コティヤール、ケイト・ハドソン、ジュディ・デンチ、ブラック・アイド・ピーズのファーギー、そしてソフィア・ローレンとアカデミー賞受賞者多数、人気・実力ともに一流の俳優たちが勢ぞろい。監督・製作・振付は『シカゴ』のロブ・マーシャル、脚本はこれが遺作となった『イングリッシュ・ペイシェント』の故アンソニー・ミンゲラと、『ザ・プレイヤー』を手がけたマイケル・トルキン。スランプに陥った天才映画監督が愛しい女たちとの恋や誘惑に溺れながらも道を見出し、仕事と人生を立て直してゆく姿を歌とダンスでスタイリッシュに演出。美術も衣裳も音楽もとにかくゴージャス。美しく構築されたショーの世界がスクリーンいっぱいに広がる、洗練されたミュージカルムービーである。
1964年のイタリア。世界的な映画監督グイド・コンティーニは、9本目の新作『ITALIA』のクランクインを10日後に控えながら脚本は1行も書けておらず、精神的に追い込まれている。理解者である衣裳担当のリリーに甘え、愛する妻ルイザに電話で泣きつき、愛人の人妻カルラを呼び寄せ、カルラと安宿のベッドで過ごす。作品の構想は何も浮かばないまま幻想の世界に浸るうち、死んだママの幻影から、複数の女たちの間を彷徨い続けることに警告を受ける。
ゴージャスでパワフル。大スクリーンとステレオで堪能したい作品だ。メインの俳優ひとりひとりに1曲丸々歌い上げる見せ場があり、その構成と演出が美しい。音楽にはミュージカル版の生みの親、’82年のブロードウェイ版で作詞・作曲を手がけたモーリー・イェストンが参加し、映画のために3つの新曲を制作。そのひとつ、アメリカンヴォーグ誌の記者ステファニー役を演じるハドソンが歌う「Cinema Italiano」はモダンでダンサブルなリードトラックとして、映画のCM映像でも使用されている。
そもそもこの『NINE』は、映画『8 1/2』に10代で夢中になったイェストンの熱意の賜物。1970年代にエール大学で音楽を教えていた時、イェストンはイタリアに赴いてフェリーニにミュージカル化の企画を持ち込み、直々に許諾を得る。そして作品のタイトルを『8 1/2』から『NINE』に変え、1982年にイェストンの作詞・作曲、アーサー・L・コピット原案で46番地の「ストリート・シアター」で初演。『NINE』は大ヒットし、同年のトニー賞®5部門を受賞。とりわけ2003年にブロードウェイにてデヴィッド・ルヴォー演出、アントニオ・バンデラス主演でリバイバル上演された時もトニー賞®を2部門受賞し、大きな注目を集めたという。その後『NINE』は世界各地で上演ツアーを実施し、また日本では’09年にG2の演出で上演されたように、各国で独自のスタッフ&キャストによって上演されたことも話題となった。
映画の一番の魅力は、主演クラスのトップ俳優たちの顔合わせ。デイ=ルイスは、魅力的な女性たちを男として表現者として惹きつけるグイド役を好演。歌でもしっかりと聴かせてくれる。ストイックなイメージもあるデイ=ルイスだが、役にのめり込むことで有名な彼はドンファンを演じてもサマになる。個人的にはグイド役はなぜかフェデリコ・フェリーニ監督ではなく、ウディ・アレン監督本人のイメージが強くダブった。デンチの演じるリリー役にはさすがの説得力とぬくもりがあり、愛人カルラの歌とダンスはクラシックバレエの基礎があるクルスの独擅場で官能的に圧倒される。ブラック・アイド・ピーズのファーギーが演じる娼婦サラギーナをメインに、砂とタンバリンを効果的に用いる群舞も圧巻、『エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜』で表現力が高く評価されたコティヤールは、ヘプバーン風のヘアスタイルと清楚な雰囲気で妻ルイザを演じ、切々と歌い上げる曲と振り切れてファットなナンバーという両極の2曲を情感豊かに表現。キッドマンはグイドのミューズである女優クラウディア役で華を添え、現在75歳とはとても思えない美貌のローレンは9歳のグイドを導くママ役で、絶対的な深い存在感を醸している。
衣装はマーシャル監督作品の映画『シカゴ』と『SAYURI』でアカデミー賞®最優秀衣装賞を受賞し、ティム・バートン監督作品の衣装を手がけることでも知られるコリーン・アトウッドが担当。イタリアの60’sファッションやステージ衣裳はどれも印象的だ。また劇中に登場するローマ郊外のチネチッタ撮影所はフェリーニ監督の『8 1/2』が撮影された由緒あるスタジオ。そこで最大のサウンドステージ「テアトロチンクエ(シアターNo.5)」は「テアトロフェリーニ」とも呼ばれているそう。また背景として映し出されるイタリアの風景が素晴らしく、グイドがママの幻影をのせて水色のアルファロメオのオープンカーで走るシーンではローマのポポロ広場を通り、フェリーニの行きつけだった老舗『カフェ・カノーヴァ』が映るというさりげない仕込みも粋だ。
もと振付家で演出家、映画監督であるマーシャル監督の本領がいかんなく発揮されている本作。ストーリー性よりもショーとして楽しみたい作品だ。一流のスタッフと俳優たちが作り上げた非現実のまばゆい世界。めくるめく魅惑のショータイムに浸り、ひとときのリフレッシュを味わってみてはいかがだろう。
公開 | 2010年3月19日公開 丸の内ピカデリー1ほか全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2009年 アメリカ |
上映時間 | 1:58 |
配給 | 角川映画、松竹 |
脚本 | マイケル・トルキン アンソニー・ミンゲラ |
作詞・作曲 | モーリー・イェストン |
原作戯曲 | マリオ・フラッティ |
原案 | アーサー・L・コピット |
美術 | ジョン・マイヤー |
衣装 | コリーン・アトウッド |
出演 | ダニエル・デイ=ルイス マリオン・コティヤール ペネロペ・クルス ジュディ・デンチ ファーギー ケイト・ハドソン ニコール・キッドマン ソフィア・ローレン |
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