プレシャス 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
プレシャス

© PUSH PICTURES, LLC
第82回アカデミー賞で助演女優賞と脚色賞を受賞
実の親から虐待されて育った16歳の少女が
愛と希望を見出すまでを描く苛酷な人生ドラマ



 ’10年の第82回アカデミー賞で助演女優賞と脚色賞を受賞した話題作。’09年の全米公開時はクチコミで評判となり18館から174スクリーンに拡大上映され、公開3週目に全米興行収入第3位をマーク。出演は本作で俳優デビューした新人ガボレイ・シディベ、今回のシリアスな演技でアカデミー賞助演女優賞を獲得したコメディ女優モニークほか。監督・製作は’01年の映画『チョコレート』のプロデューサーとして知られるリー・ダニエルズ。ニューヨークのハーレム、苛酷な環境下で生きる16歳の少女の生き様を描く、社会派ヒューマンドラマである。


 16歳のクレアリース・プレシャス・ジョーンズは、とても太っていて読み書きもあまりできない。今は2人目の子供を妊娠している。最初の出産は12歳で、2人の子供は実の父親による性的虐待によって妊娠した。その父親は失踪し、今は実の母親から罵詈雑言をあびせられ暴力をふるわれ、肉体的・精神的虐待を受け続けている。クレアは学校で2度目の妊娠を指摘され退学になり、問題のある子供たちが通う“代替学校”のフリー・スクールに通うことになる。
ガボレイ・シディベ、ポーラ・パットン
 劣悪な環境をサバイバルして、一筋の希望を掴み取るクレアの物語。それまでの彼女の日々は、知識を与えられず考えることを許されず、残虐な母親の面倒をみるだけで過ぎてゆくだけ。その容赦のない現実に選択肢はない。“そういうことがある”と文字で知っていることと、ドラマとして疑似体験することは実感が異なる。この作品は、同性としては相当な重圧がズシッとくる内容だ。物語ではフリー・スクールに通うことで、クレアは信頼できる先生や話のできる同世代の友人たちと出会い、生まれて初めて自分の居場所を手に入れる。


 本作では撮影の数週間前まで主役が見つからなかったことをはじめ、キャスティングに苦労したとのこと。クレア役を演じたシディベは、本作で俳優デビューをしたまったくの新人。もともと女優志望ではなく、歌手である彼女の母にクレアの母親役の話があったことをきっかけにスタッフに見出されたとのこと。シディベはやりすごすだけの毎日から自分らしく生きることに目覚めていくクレアの変化を自然に表現している。クレアと信頼関係を育むフリー・スクールの先生、ミズ・レイン役はポーラ・バットンが誠実に演じ、娘を虐待する母親メアリー役はモニークが演じ、怒りや苛立ちや劣等感で混沌とした内面の暗黒にゾッとさせられる。またソーシャルワーカーのミセス・ワイス役にダニエルズ監督の長年の友人であるマライア・キャリー、病院の看護士ジョン役にレニー・クラヴィッツと、大物ミュージシャン2人のさりげないカメオ出演も話題に。マライアは原作について、「私の人生を変えた本」とコメントしている。
ポーラ・パットン
 原作者のサファイアは、ニューヨークを拠点に活動している詩人。’94年に暴力や貧困に屈せずに生きる人々の姿を綴った詩集『American Dreams』を出版し、’96年にこの映画の原作である処女小説『Push(邦題:プレシャス)』を発表。サファイアは’83年から10年間ハーレムに住み、10代から大人まで幅広い世代に読み書きを教えた経験を基にこの小説を執筆。ハーレムで起きている非道な問題に率直に切り込んでいるため、当時はその衝撃的な内容が論争となり評判となったという。「私がこの物語を綴ったのは、語られる必要があったから」。サファイアの言葉はとてもシンプルだ。「インスピレーションを与えてくれたのは、恐ろしい環境の中で暮らしているのに、美しさと知性と回復力をもっている多くの若い女性たち」とコメントしている。


 辛くて哀しくて残酷で非道、逃げようのない道に救いはあるのか。ミズ・レインの「私の好きなカラーはパープル」というさもない台詞に、1982年に発表されたアリス・ウォーカーの小説『カラーパープル』(’85年にスティーブン・スピルバーグによって映画化)を思い出した。製作総指揮のオプラ・ウィンフリーは、女優として映画『カラーパープル』でアカデミー賞の助演女優賞にノミネートされたことでも知られる人物。自身が未婚のティーンエイジャーカップルの間に生まれたという境遇もあり、慈善活動に力を入れている。なによりウィンフリーはテレビ番組の司会者やプロデューサーとして活躍している世界唯一の黒人ビリオネア(10億ドル以上の資産家)であり、アメリカで“最も影響力のある女性”のひとりとも。またコメディ作品の監督・脚本家・俳優としてアメリカで有名なタイラー・ペリーも、製作総指揮に名を連ねている。スタッフ・キャストともにアフリカ系アメリカ人が中心となって製作された本作。アフリカ系アメリカ人の成功の象徴であるウィンフリーや有名人のタイラーが関わっていることでも、大勢の人々に夢や希望をもつことの大切さを伝えているのだろう。社会の陰で苦闘するすべての人に、静かなメッセージを届ける佳作である。 
『プレシャス』 2009年 アメリカ映画
データ
2010年4月更新

ガボレイ・シディベ
2010年4月24日公開
TOHOシネマズシャンテほか
全国ロードショー

■2009年 アメリカ映画
■上映時間1:49
■ファントム・フィルム配給
■監督・製作/リー・ダニエルズ
■脚本/ジェフリー・フレッチャー
■原作/サファイア
■製作総指揮/オプラ・ウィンフリー
タイラー・ペリーほか
■出演/ガボレイ・シディベ
モニーク
ポーラ・パットン
マライア・キャリー
シェリー・シェパード
レニー・クラヴィッツ 



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
あつた美希