グリーン・ゾーン

マット・デイモン×ポール・グリーングラス監督
フセイン政権崩壊後、イラクで何が起きたのか?
ノンフィクションをベースに描くアクション大作

  • 2010/04/30
  • イベント
  • シネマ
グリーン・ゾーン© 2009 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

マット・デイモンを主役に迎え、ポール・グリーングラス監督が放つ、『ボーン・アルティメイタム』のタッグが再び。キャストはデイモンほか、グレッグ・キニアやブレンダン・グリーソンら実力派の俳優たちが顔をそろえる。サダム・フセインの政権が崩壊した2003年のイラクにて、一体何が起きたのか? アメリカのイラク政策に隠された事実をノンフィクションで伝える、果敢なアクション大作である。

2003年のフセイン政権崩壊後、連合国暫定当局(CPA)の統治下で復興作業が始まったイラク。街の中心部には米軍駐留地域“グリーン・ゾーン”が設置され、ロイ・ミラー上級准尉の率いる部隊は極秘任務として大量破壊兵器を捜査。が、いくら探しても見つからないことから、ミラーは大量破壊兵器の情報に関して軍内部や国防総省に疑いの目を向け始める。

マット・デイモン

わかりやすいアクション・サスペンスとは一線を画する、硬派の世界。アメリカがイラク戦争を始めた大義名分、“大量破壊兵器”の存在に迫る問題作。この物語に入り込むには、政治的背景やグリーン・ゾーンについて少し事前に知っておくといいだろう。’03年4月にバグダード市を制圧した米軍は、フセインの宮殿やイラク政府があった一等地をCPAの拠点グリーン・ゾーンに定める。約10万平方キロメートルものエリアを塀で囲み、そこにはアメリカのファーストフードやデューティーフリーの店も並ぶように。’09年1月にはイラク側にこのエリアの主権返還がなされたものの、今も米軍によって厳重に警備されているという。本作で描かれているイラク戦争直後の’03年3月〜5月には、一部の米軍兵士がサダム・フセインの持ち物や文化財、隠し財産である巨額のドルを着服したことが問題になったことも。

原案はワシントン・ポスト紙の元バグダード支局長ラジブ・チャンドラセカランが’06年に発表したベストセラー小説『Imperial Life in the Emerald City(邦題:グリーン・ゾーン)』。チャンドラセカランは’94年にワシントン・ポストに入社し、カイロ、東南アジア支局を経て、’01年の9・11以降はアフガニスタンの取材チームに参加。’03年4月〜’04年10月にバグダード支局長を務め、アメリカのイラク占領を報道。膨大な内部資料やインタビューをもとにアメリカのイラク政策の裏側を暴いたこの小説は優れたノンフィクションとして評価され、’07年にイギリスの権威ある文学賞サミュエル・ジョンソン賞を受賞した。

マット・デイモン

今もイラクで任務に就いている実在の人物、ロイ・ミラー上級准尉役はデイモンが熱演。さまざまな思惑に翻弄されながらも真実を追い求める軍人の姿をストイックに表現している。不審な動きをみせる国防総省のパウンドストーン役はキニアが、ミラーと同じ疑念を抱くCIAのブラウン役をグリーソンが演じ、緊迫感を高めてゆく。軍人役には、実際にイラクやアフガニスタンに赴任していた本物の兵士たちを起用。軍事アドバイザーはベテランの軍人がつとめ、リアリティを伝える仕上がりに。記者会見にプレスが集まるシーンでは、原作者のチャンドラセカランとアメリカの三大ネットワークのひとつ、CBSのキャスター兼プロデューサーのマイケル・ブロナーも参加。ブロナーはかの有名な番組『CBS 60ミニッツ』の仕事でイラクに滞在していたという。

ジェイソン・アイザックス、マット・デイモン

グリーングラス監督は本作について、「イラク戦争を描いたものではない」と強調し、「あくまでイラクを舞台にしたサスペンスであり、テーマは全く別物だ。経験上、サスペンスはモラルが厳しく問われる極限状態で最大限の効果を発揮する」とコメント。そもそもグリーングラス監督は、イギリスの民放局ITVにて各地の国際紛争を10年取材し続け、その内情をレポートするジャーナリストとしてキャリアをスタート。’87年にもと英国諜報機関MI6のピーター・ライトと共著で『スパイ・キャッチャー』を発表。映画監督デビュー後はイギリスで起きた“血の日曜日事件”をドキュメンタリー風に描いた’02年の『ブラディ・サンデー』(日本未公開)、同時多発テロでハイジャックされた航空機内を舞台に、犯人と対峙した人々の闘いを描く’06年の『ユナイテッド93』など社会派の作品を製作。エンタテインメント性の高いアクション・サスペンスのボーンシリーズで大きな成功を収めたことを機に、より広い層に社会的な作品を届けていきたい、という監督の真摯な思いが見え隠れするかのよう。本作について、「正直かなり難しい題材だった」と語る監督。「どう思ったり感じたりするか、観客に押しつけたくないんだ。生々しい体験を味わって、それぞれが自分なりの結論を得ることのできる作品にしたい」と切に願いつつ、製作に没頭したとのこと。平易な作品では決してないが、“アメリカのイラク政策で隠された事実”を知ることができる、貴重な作品である。

作品データ

グリーン・ゾーン
公開 2010年5月14日公開
TOHOシネマズスカラ座ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 1:54
配給 東宝東和
監督・製作 ポール・グリーングラス
脚本 ブライアン・ヘルゲランド
原案 ラジブ・チャンドラセカラン
出演 マット・デイモン
グレッグ・キニア
エイミー・ライアン
ブレンダン・グリーソン
ジェイソン・アイザックス
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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