アウトレイジ 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
アウトレイジ

© 2010『アウトレイジ』製作委員会
北野武監督7年ぶりのバイオレンス映画に賛否両論
怒涛の暴力で男たちの悲哀や滑稽さを映し出す。
豪華な演技派キャストのヤクザぶりを堪能



 2010年の第63回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門に選出され、上映後に2300人の観客から3分以上のスタンディングオベーションを受けたり、フランスの雑誌や新聞、評論家から酷評を受けたりと、賛否がまっぷたつに割れた北野武監督の最新作。2001年の『BROTHER』、そして’03年の『座頭市』以来7年ぶりに、バイオレンス・アクションを描く。出演はビートたけし、椎名桔平、加瀬亮、三浦友和、國村隼、杉本哲太、塚本高史、中野英雄、石橋蓮司、小日向文世、北村総一朗ら、バイオレンス映画にはなじみのない演技派も多数。残虐な暴力の応酬により熾烈な闘争が展開するヤクザ映画であり、ストレートなバイオレンス・ムービーである。


 関東一円を仕切る巨大暴力団組織 山王会の組長・関内(北村)は、若頭の加藤(三浦)を通じて直参である池元組の組長・池元(國村)にあることでクギを刺す。それは池元と古なじみの弱小ヤクザ村瀬組の組長・村瀬(石橋)との懇親ぶりを制し、“村瀬組をシメろ”という命だった。影で村瀬とツルんでいる池元は直接手を下すことを避け、自分の配下にある弱小ヤクザ大友組の組長・大友(たけし)に脅しを依頼。卑劣で要領のいい池元の下にいる大友は、厄介なヨゴレ仕事ばかりを常に押し付けられている。いつものこととボヤきながらも大友組の若頭・水野(椎名)や部下の石原(加瀬)らとともに仕事をこなすと、それが火種となって事態が混迷。巨大暴力団組織の一大抗争へと発展してゆく。
ビートたけし
 監督自身が描きやすいモチーフでのびのびと遊んでいる作品。人が無意味にバンバン死んでゆく残忍なバイオレンスものとして反発を感じ、「今さらただの暴力映画?」という向きがあることはわかる。ただやはり、監督自身がニュートラルに投影しやすい映像世界には迷いがなく、持ち前のブラックユーモアやダークな陰影、怒涛の勢いが歯切れよくクッキリと描き出され、妙に引き込まれてしまうものがある。


 カンヌ映画祭の記者会見にて、「よくぞカンヌがこの映画をコンペに呼んでくれたと、もう感謝感激でございます」と照れかくしに茶目っけを含み、嬉しそうにコメントしていた北野監督。「賞を意識したか?」という質問に対しては、「カンヌ意識していたらこんな暴力映画にはなってないよ」と一笑。また「お客さんを見事にKOした感じで。本当は半分以上の人が席を立つかなと思ってたんだけど、KOされて外にでられなかったのかなと。(単に足が)しびれて立てなかったんじゃないかな」と冗談も交えて語っていた。
ビートたけし、椎名桔平、加瀬亮
 キャスティングは若手から中堅、大御所まで、すべてが魅力的。北村は巨大暴力団組織・山王会の組長を飄々と演じ、三浦は暗めのドーランで肝臓の悪そうな顔色になって若頭の加藤としてドスをきかせ、國村は虫唾が走るほどタチが悪く要領がいい池元組の組長をサラリと怪演し、杉本は池元組の若頭・小沢の野心を抑えた演技で見せ、石橋は弱小ヤクザ村瀬組の組長役で完膚なきまでにヤラれまくり、村瀬の部下役を演じた中野と塚本のハメられぶりが見物。そしてたけしが“昭和ヤクザ精神”の大友組組長としてゆるぎない存在感を発し、椎名は大友組の若頭・水野として硬派に、加瀬は頭脳派でプライドの高い大友組の部下・石原をクールに演じ、小日向は腹に一物ある刑事・片岡をゆるく表現している。ここに名前をあげた中心的な出演者たちは全員、北野作品は初出演。全員が北野監督の的確な演出とスピーディな撮影に驚いたとのこと。個人的には北村、三浦、小日向、加瀬ら“いい人”役でヒューマンドラマの出演が多い役者たちが、ヤクザ者に仕立て上げられる妙味を堪能した。なかでも加瀬の出演シーンは、衣装合わせをしている加瀬から監督がインスパイアを受けたことから当初の予定よりも大幅に増加。台本が書き換えられ、撮影中もどんどん出演場面が増えていったそう。監督から「とにかくキレ方がいい」と絶賛されている加瀬の“蹴り”シーンにはぜひ注目を。


 「んだとコラァ」「ナメてんじゃねぇぞコラァ!」怒号と罵声が飛び交う本作。自身が昔撮ったバイオレンス映画のパターンにただ戻ることをよしとせず、あえて台詞を増やしてわかりやすくしたという意図も。また監督は完成披露記者会見で、自らの率直な思いをこのように伝えた。「この映画を撮る時はお笑いをなくそうと思っていたので笑わせる気はぜんぜんなかったんだけど、人間てのは不思議なもので、あまりにも痛かったり暴力的だったりするとつい笑ってしまう。極限状態で笑うしかない状態に、観る方々も笑ってしまうシーンがあると思います。でもよく考えりゃ、これヒドイところで笑ってるぞ! という感じがうまくでて(笑)。久々にエンターテインメントとして映画をリリースできることになりました」。子供に見せたい映画では決してないため、映倫は15 歳未満の観覧を禁止するR15+指定。獣さながら、目前の暴力に“死んでたまるか”という生存本能だけで向かってゆく人々の悲哀や滑稽さ、その行き着く先とは。濃厚な苦味や辛味が粘膜にビリビリ響く、エスニック料理のような感覚の作品である。
『アウトレイジ』 2010年 日本映画
データ
2010年5月更新

加瀬亮、ビートたけし
2010年6月12日公開
丸の内ルーブルほか
全国ロードショー

■2010年 日本映画
■上映時間1:49
■ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野配給
■監督・脚本・編集/北野武
■音楽/鈴木慶一
■出演/ビートたけし
椎名桔平
加瀬亮
三浦友和
國村隼
杉本哲太
塚本高史
中野英雄
石橋蓮司
小日向文世
北村総一朗



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
あつた美希