食べて、祈って、恋をして

世界800万部超の女性作家の自伝的エッセイを映画化
NYで離婚し、ローマで飽食し、インドで修行し、
バリ島でゆきついた自分探しの旅の顛末とは?

  • 2010/08/20
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食べて、祈って、恋をして

全世界40カ国以上に翻訳され800万部を突破した、アメリカの女性作家エリザベス・ギルバートの自伝的エッセイを、ジュリア・ロバーツ主演で映画化。共演は、スペイン出身のオスカー俳優ハビエル・バルデム、映画や舞台の監督や脚本も手がける美形俳優ジェームズ・フランコほか。監督は、映画脚本の執筆やTVドラマの監督として活動し、2006年に『ハサミを持って突っ走る』(日本未公開)の脚本・監督・製作を手がけて映画界に本格的に進出したライアン・マーフィー。ニューヨークで人生に行き詰まった30代の女性ジャーナリストが、1年をかけてイタリア、インド、インドネシアをめぐり、自身を見出すまでを描く。美しい風景やおいしそうな料理とともに自分探しの旅を映す、シンプルな作品である。

ニューヨークでジャーナリストとして活躍するエリザベスは、優しい夫と結婚8年目。郊外に一軒家を購入し、仕事も順調だ。が、順風満帆の生活の中、リズは精神的にとても不安定になり、結婚生活を続けることに疑問を抱き始めていた。そんな折、取材旅行でインドネシアのバリ島に行き、薬療師(メディスンマン)の老人クトゥと出会い、人生についてユニークな予言を受ける。そしてニューヨークに戻ったリズは苦悩の末、夫に離婚を告げるが同意されず、泥沼に。その頃、年下の青年デイヴィッドと恋に落ちるも、互いに夢中な期間が過ぎるとうまくいかなくなり、夫に全財産を渡して離婚が成立した頃には、2人は行き詰まった状態に。すべてに疲れ果てたリズは1年間ニューヨークから離れ、心から望む場所をめぐり、自身のバランスを見出すための旅に出る。

ハビエル・バルデム、ジュリア・ロバーツ

ローマで大好きなイタリア語を学び、おいしい料理をたらふく食べて、インドでアシュラム(ヒンドゥー教の修行道場)に滞在してヨガと瞑想に打ち込み、インドネシアのバリ島で薬療師クトゥと語らい、自然に親しむ生活の中で瞑想していると、運命的な出会いが……。昼メロか漫画か、という突飛でイージーな物語のように感じられるかもしれない本作。原作には、こう綴られている。「『イタリアでは喜びの奥義を、インドでは信仰の奥義を、インドネシアでは、その両者の間でバランスをとる奥義を探りたい。』さて、この思いつきを賢明なる友人たちに、どんなにばかにされたことか……」。確かにこの映画を観ている時、個人的にはまさに彼女の“友人たち”と同じ視点に。長いエッセイを2時間半弱にまとめていることもあり、映画では主人公のバックグラウンドがやや伝わりにくく、説得力に欠ける印象も。実際は、原作者のギルバートはあらゆる手を打ちまくってもどうにもならず、自分でもバカをやっているのかもしれないと承知の上で、袋小路の自分を打破すべく旅を続け、この夢物語を得るに至った――という経緯がある。彼女ほど極端ではないにせよ、都会で働く女性なら、何がなくともどんどん追い詰められて疲弊してゆく感覚は、誰しも身に覚えがあるのではないだろうか。

リズ役のロバーツは、発売と同時に原作を読み、親友にも1冊送って一緒に共感した、というエピソードも。スクリーンにはロバーツらしい明るい魅力が前面に出ていて、ファンにとって嬉しい仕上がりとなっている。年下の恋人デイヴィッド役はフランコが“いかにも”といった風情で演じ、リズがバリで出会うブラジル人フェリペ役をバルデムがフェロモンたっぷりに演じている。つい先日、有名俳優たちとの恋愛を経たグラマー女優ペネロペ・クルスとの結婚を発表したバルデムが、“大人の女性を導く熟練の男”を演じるのはよくハマっている。41歳のバルデムが原作で52歳の役を演じていて、彼がロバーツの実年齢より2歳若くても。また物語には、インドの修行場でリズの理解者となるテキサスのリチャード(俳優はリチャード・ジェンキンス)、歯のない口で楽しそうに笑うバリの薬療師クトゥなど、味なキャラクターたちの存在も楽しい。

ジュリア・ロバーツ

撮影はニューヨークに始まり、イタリア、インド、インドネシアと物語の時系列に沿って進められたとのこと。ニューヨークの喧騒から、ローマの趣ある街並、山盛りのパスタやアスパラに卵に生ハムの盛り合わせなどおいしそうな料理の数々、静かな庭を有するインドのアシュラム、自然や神に寄り添う昔ながらの暮らしのなかで芸術を尊ぶバリ島の村ウブドの暮らしなど、リズの心の変化が風景やヴィジュアルとしても表現されている。

ジュリア・ロバーツ

さて、観てから読むか、読んでから観るか。もし多少なりと“身に覚えがある”と感じることがあるなら、ぜひ原作を読むことをおすすめしたい。真剣すぎる、髪を振り乱して猛進する必死の探求は、時に滑稽に映るもの。友人や世間から一笑を買ったりもする。原作ではそうしたカッコ悪さやみじめさもしっかりと描写し、自分で自分に日々ツッコミを入れながらもハートで感じ、精神的な自立を狂おしいほどに渇望して、七転八倒しながら突き進んでゆく。そんないい意味でのみっともなさ、自虐的なユーモアや皮肉、泣いて地べたを這いつくばりながら、それでもやろうとまた立ち上がる姿が赤裸々に記されていて、深い共感を誘う。この原作が世界的なベストセラーになったことから、筆者のギルバートは’06年のタイム誌で“世界で最も影響力のある100人”に選出。「人は変わる必要があると感じないと、変われないと思うの。映画にはそんなメッセージも含まれています」と語っている。もし本作が、グルメとスピリチュアルとヒーリングと恋愛、という女性の大好物を詰め合わせた、チョコレートや焼き菓子のギフトボックスのように見えたとしても、それはそれで。求めている人のもとに原作が届くきっかけとしては、わるくない。最後に、バリの女薬療師ワヤンの一言を。「愛のためにバランスを失うことも、バランスの取れた人生を生きることの一部よ」。

作品データ

食べて、祈って、恋をして
公開 2010年9月17日公開
TOHOシネマズ有楽座ほか
全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 アメリカ
上映時間 2:20
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
監督・脚本 ライアン・マーフィー
脚本 ジェニファー・ソルト
原作 エリザベス・ギルバート
出演 ジュリア・ロバーツ
ハビエル・バルデム
ジェームズ・フランコ
リチャード・ジェンキンス
ビリー・クラダップ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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