ミックマック

『アメリ』のジャン=ピエール・ジュネ最新作
市井の人々がトリックと頓智で武器産業をやりこめる!
戦争反対と脱・暴力をユーモラスに主張する群像劇

  • 2010/09/03
  • イベント
  • シネマ
ミックマック2009 © EPITHETE FILMS -TAPIOCA FILMS -WARNER BROS.
PICTURES -FRANCE 2 CINEMA -FRANCE 3 CINEMA

1991年の『デリカテッセン』、2001年の『アメリ』を手がけたフランスの個性派ジャン=ピエール・ジュネが、監督・脚本・プロデュースを手がけた最新作が日本公開。実父を地雷で失い、何の関わりもない銃撃戦で頭に銃弾を打ち込まれた不運な男バジルと、奇妙な仲間たちが引き起こすミックマック(フランス語でイタズラの意)の顛末を描く。出演は監督や脚本家としても活動しているダニー・ブーン、ジュネ監督作品でおなじみのドミニク・ピノン、ベテランのアンドレ・デュソリエほか。独特のアナログな風合いや郷愁、ユーモラスでシュールな群像劇でありながら、戦争反対と武器商人へのボイコットを明確に打ち出した作品である。

ある日、レンタル・ビデオ屋の店員バジルは発砲事件に巻き込まれ、命は助かったものの頭の中に銃弾を残したまま生きていくことに。入院中に職も家も持ちモノも、なぜかすべてを失ったバジルはホームレスとなり、パントマイムで小銭を稼ぐその日暮らしをし始める。そしてある日、廃品を改造しながら7人で集団生活をしている男プラカールに誘われるまま、バジルは個性的な人々と共同生活をスタート。新しい生活に慣れ始めた頃、バジルは自分の頭に打ち込まれた銃弾を製造した会社と、30年前に父の命を奪った地雷を製造した会社を発見。2つの会社に復讐することを思い立つ。

ダニー・ブーン

社会からはみ出した人々が力をあわせ、古典的な仕掛けやからくりで、兵器産業を牛耳る2つの巨大企業を懲らしめていく、という痛快な物語。主要な登場人物が変わり者だらけ、キャラ設定や彼らの表現が少々やりすぎでクドいところなどは、いかにもジュネ監督らしい。

バジル役のブーンは、どこか遁世的でテンポのズレたフランス男を好演。“ギロチン男”のプラカール役はジャン=ピエール・マリエルが、“料理番”であり肝っ玉母さん的存在のタンブイユ役はヨランド・モローが、見るだけで何でも計測できる少女、“計算機”ことカルキュレット役はマリー=ジュリー・ボーが、廃品から緻密なからくりを編み出す“発明家”ことプチ・ピエール役はミッシェル・クレマド、昔ギネスにのったことが自慢の“人間大砲”ことフラカス役はピノン、そして体が異様に柔軟な“軟体女”ラ・モーム・カウチュ役はジュリー・フェリエ、ことわざ好きのもと民俗学研究者の“言語オタク”ことレミントン役はオマール・シーが演じ、個性的で楽しそうな擬似家族を表現。武器製造会社の経営者をデュソリエとニコラ・マリエが演じ、バジルたちのいたずらに翻弄される“マヌケな大人”をそれらしく演じている。

ジャン=ピエール・マリエル

見どころは、兵器産業内で対抗している2人の社長の対立を激化させるように、バジルたちが次々といたずらを仕掛けていくところ。現代アートかお笑いのコントか、というようなトリックの数々も魅力的だ。個人的に好きなのは、ささやかなエピソードを重ねて面白味が引き出されていくところ。バジルは教会で食糧の配給をしている女性が好みだと、ホームレスではない素振りで施しを受けずにタクシーで去るふりをしてみたり、自分は河のほとりで野宿でも、船上パーティをしている人々を遠目に眺めて楽しい気分に浸ってみたり。全財産を失ってもちょっとした伊達男ぶりやパリジャンの心意気は失わない、という表現はいかにもフランス映画らしい。「どこの組織の者だ!?」と詰問され、「フリーランスでやってます…」とバジルが脱力系の気弱さで飄々と答えるやりとりも、なんとも可笑しい。また台詞が少ないシーンでは、ブーンがチャップリンを彷彿とさせる演技も。まるで無声映画やパントマイムの作品のように、観る側の想像力に訴えかけ、流れや状況を察するようにみせるところも、ジュネ監督らしくどこかクラシックでユニークだ。

ダニー・ブーン、ジュリーフェリエ

「世界が平和でありますように」。’04年の壮大な恋愛映画『ロング・エンゲージメント』で訴えた戦争反対、非暴力の訴えを、ユーモラスな群像劇というまったく新しい表現で作り上げた本作。前作『ロング〜』から最新作までの5年間に、実はジュネ監督にはいろいろ事情があったとのこと。’09年の『ハリー・ポッターと謎のプリンス』の監督のオファーを「興味がない」という理由で断り、カナダの作家ヤン・マーテルの冒険小説『パイの物語』の映画化を2年がかりで進めるも予算オーバーで頓挫。そこで、長年の相棒である脚本家ギョーム・ローランとともに、ジュネ監督のアイディアを2、3カ月でシナリオにまとめ、本作が完成したのだそう。万人ウケのわかりやすいエンターテインメントではないし、規模も小さめの小品だけど、メッセージは明確で表現はオリジナル。ジュネ監督印の良質なフランス映画なのである。

作品データ

ミックマック
公開 2010年9月4日恵比寿ガーデンシネマにて先行公開
2010年9月18日より全国ロードショー
制作年/制作国 2009年 フランス
上映時間 1:45
配給 角川
監督・脚本 ジャン=ピエール・ジュネ
脚本 ギョーム・ローラン
出演 ダニー・ブーン
アンドレ・デュソリエ ニコラ・マリエ
ジャン=ピエール・マリエル
ヨランド・モロー
ジュリー・フェリエ
オマール・シー
ドミニク・ピノン
ミッシェル・クレマド
マリー=ジュリー・ボー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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