ゲンスブールと女たち

バルドーやバーキンら美しい女たちを愛し、
数々のヒット曲や、映画や絵画を制作し、
独自の表現とスタイルを貫いた男の生涯を描く

  • 2011/05/06
  • イベント
  • シネマ
ゲンスブールと女たち© 2010 ONE WORLD FILMS-STUDIO37-UNIVERSAL PICTURES INTERNATIONAL
FRANCE - FRANCE 2 CINEMA - LILOU FILMS - XILAM FILMS

フランス・ギャルの世界的ヒット曲「夢見るシャンソン人形(原題Poupée de cire, poupée de son)」の作詞作曲をはじめ数々のヒット曲を送り出し、シンガー、映画監督、俳優、画家、執筆と多彩な活躍で独自の感性を発信し続けたセルジュ・ゲンスブールの半生を描く物語。出演は舞台の演出も手がけるフランス人俳優エリック・エルモスニーノ、モデルで女優、本作が遺作となったルーシー・ゴードン、フランス全土の市庁舎に胸像が飾られる“マリアンヌ”に選出された人気女優レティシア・カスタ、’09年の映画『シャネル&ストラヴィンスキー』のアナ・ムグラリスほか。監督・脚本はフランスのバンド・デシネ作家としてコミックやアニメーション作品でも知られ、本作が長編初監督であるジョアン・スファール。独特のクリーチャーやぬくもりのあるアニメ映像などを盛り込み、ユーモラスでモダンな仕上がりに。ゲンスブールの創造性と愛を伝える作品である。

1930年代のパリ。リュシヤン・ギンズブルグ少年はピアニストの父から厳しいピアノレッスンを受け、叱られてばかり。両親がロシア出身のユダヤ人であるリュシヤンは、ユダヤ人の印である“ダビデの星”を朝一番で役所へ取りに行き、カフェで世慣れたシャンソンを歌い、生まれもった才気で大人たちを圧倒している。リュシヤンは絵画の勉強をした後、パリの有名なキャバレーのピアニストに。セルジュ・ゲンスブールと名乗るようになり、’58年に自身で作詞作曲した「リラの門の切符切り」で歌手としてメジャーデビュー。自身の歌手活動のほかエディット・ピアフやアンナ・カリーナら人気スターに曲を提供し、トップ・アーティストのひとりに。そして人気女優のブリジット・バルドーと出会い、激しい恋に落ちる。

エリック・エルモスニーノ

人妻のブリジット・バルドーと熱愛し、20歳年下のジェーン・バーキンと結婚し、愛娘のシャルロット・ゲンスブールを授かり、心筋梗塞で倒れても酒と煙草をやり続け、62歳の生涯を駆け抜けた男の人生とは。アイドルのポップソングの歌詞には露骨なエロスや風刺を隠喩で表し、晩年にはフランス国家をレゲエにアレンジして右翼団体から命を狙われるなど、反体制的な創作活動とスキャンダラスな女性遍歴で批判と賞賛を浴び続けたことはあまりにも有名だ。

ゲンスブールの名前を知らなくても、彼の作ったヒットソングを耳にしていることは多いはず。本作には、バルドーに捧げた「イニシャルB.B.」「コミック・ストリップ」「ボニーとクライド」「ハーレー・ダヴィッドソン」、バルドーと作り、のちにバーキンとのデュエットを発表し世間から猥褻と批判されながらもヨーロッパでNo.1ヒットとなった「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」、フランス国家をアレンジした「祖国の子供たちへ」をはじめ、数々の曲がちりばめられている。曲はすべて本作のために再録音されたもので、オリジナルの音源はあえて使っていないとのこと。2011年の第36回セザール賞(フランスの映画賞)では主演男優賞と初監督作品賞、そして音響賞を獲得している。

アナ・ムグラリス、エリック・エルモスニーノ

青年期〜晩年のセルジュを演じたエルモスニーノは、セザール賞で主演男優賞を受賞。長編映画初主演で、フランスの現代カルチャー・シーンに大きな影響を与えた伝説的人物を堂々と演じきり、その確かな表現力が高く評価されている。バルドーを演じたカスタは全裸にシーツで歌い踊り、メイクと振る舞いでバルドーの奔放な雰囲気をつかんでいる。バーキンを演じたゴードンはゲンスブールの恋人、妻、そして子供たちの母へと変化してゆく関係を体当たりで表現。本作の撮影後’09年5月にゴードンは自殺し、これが最後の出演作品となった。歌手のジュリエット・グレコ役にムグラリス、ゲンスブールの最後のパートナーであるバンブー役にミレーヌ・ジャンバノワと、一流メゾンのモデルをつとめたことのある女優たちが出演し、ゲンスブールの女性遍歴を華々しく彩っている。

ルーシー・ゴードン、エリック・エルモスニーノ

’91年の3月2日にセルジュ・ゲンスブールが62歳で他界し、没後20年を迎えて。「彼(ゲンスブール)を熱愛している」と語るスファール監督は、本作について誇らしげに語る。「この映画は彼の人生にとても忠実なものではあるが、伝記映画ではない。これは本物の物語なんだ。史実に基づく作品でも、逸話に富んだ作品でもない。この映画が望むものは、モダンな神話を詳しく語ることにある。なぜなら、ゲンスブールという人は徹底的にモダンなのだから。彼の英雄的資質をここまで深く掘り下げた書籍や映画はない。彼ほどキリストのような人も、ユダヤ人らしい人も、ロシア人らしい人もいないんだ」。実在した人物を描く物語でありながら、手描きのアニメーションや、ゲンスブールの心象風景を模する特殊なクリーチャーが実写によりそい、飽きのこない工夫がなされている本作。この演出はバンド・デシネ作家として、コミックやアニメーション作品を多数手がけてきたスファール監督の手腕が活きている。監督は「僕は間違いなくゲンスブールの“本当の人生”を知り尽くしているけれど、“現実的”または“報道的”な映画は作りたくなかった。それよりも、ロシア寓話のような現代の伝説を作りたかったんだ」とコメントしている。ゲンスブール本人や彼の曲、女優たちのことを知らないと多少わかりにくい面もあるものの、いま活躍しているアーティストたちに多大な影響を与えた、フランスのいち時代を牽引したカルチャーを知るにはぴったりの作品。ヘルシーでエコロジーな今の風潮の対極にある、退廃的でスキャンダラス、反体制的でショッキングでもどこか憎めない伊達男の世界。ジタンの煙とアニス酒のパスティス51が香る世界を、ほんのひととき味わってみてはいかがだろう。

作品データ

ゲンスブールと女たち
公開 2011年5月21日公開
Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー
制作年/制作国 2010年 フランス=アメリカ
上映時間 2:02
配給 クロックワークス
原題 GAINSBOURG,Vie heroique
監督・脚本 ジョアン・スファール
出演 エリック・エルモスニーノ
ルーシー・ゴードン
レティシア・カスタ
ダグ・ジョーンズ
ミレーヌ・ジャンバノワ
アナ・ムグラリス
ヨランド・モロー
サラ・フォレスティエ
クロード・シャブロル
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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