ダーク・シャドウ

ティム・バートン×ジョニー・デップ第8弾
カルトな人気を誇る、怪奇な一家のドラマを映画化
恋ありバトルありのダークなエンターテインメント

  • 2012/05/11
  • イベント
  • シネマ
ダーク・シャドウ© 2012 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

ティム・バートン監督×ジョニー・デップ主演による8回目のコラボレーションは、1966〜’71年にアメリカでカルトな人気を誇ったドラマ『Dark Shadows』をリメイク。出演はデップ、’80〜’90年代の活躍で知られるミシェル・ファイファー、バートン監督のパートナーである演技派女優ヘレナ・ボナム=カーター、’06年の映画『007 カジノ・ロワイヤル』でボンドガールを務めたエヴァ・グリーン、’10年の映画『キック・アス』『モールス』と話題作の出演が続くクロエ・グレース・モレッツほか。18世紀に魔女によって人間からヴァンパイアにされ、地中深く封印された紳士が、ひょんなことから20世紀に蘇る。恋ありバトルありホームドラマあり、さまざまな要素を含むダーク・ファンタジーである。

1750年。コリンズ夫妻は幼い息子バーナバスとともにイギリスから新天地アメリカのメイン州に渡り、水産業で成功。その地域の名は“コリンズポート”となり、一家は町の名士として暮らし始める。20年後、青年となったバーナバスは大きな屋敷や膨大な資産と権力をもち、美少女のジョゼットと恋に落ちる。が、以前に弄んだメイドのアンジェリークが実は魔女だったことから、強力な黒魔術でジョゼットは死に、バーナバスは吸血鬼にさせられて地中深く封印される。それから200年以上たった1972年、ひょんなことからバーナバスは自由の身に。屋敷にもどり、裕福だった一族が落ちぶれたことを知った彼は、現在のコリンズ家の年長者エリザベスに事情を説明。エリザベスはいぶかしみながらも、肖像画そのままの風貌で本人しか知り得ないことを知り、コリンズ一族に再び繁栄をもたらすことを提案するバーナバスを、周囲には“イギリスの親戚”として受け入れる。

今回はオリジナルの個性が強いことからバートン流の良質なファンタジーというより、悪ノリありエロネタあり、アメリカンなエンターテインメントの仕上がりに。ホラーなニュアンスのダークファンタジーにして、ポップで軽いB級感が特徴だ。誰もが思い出すだろう『アダムス・ファミリー』より全体的にややアダルトで、シリアスな悲劇や精神的外傷、人間心理を描写する側面も。観覧に年齢制限は特になく、エロネタは大人にほのめかす見せ方で、子どもは気にしない程度だとは思うが、バートン×デップのコンビにしてはやや意外な生々しさに驚きも。2人のコラボも第8弾、ともに年齢も50歳前後となり、いろいろな意味で冒険したり吹っ切れたり、ということだろうか。

ダーク・シャドウ

オリジナルのドラマは’66〜’71年にアメリカで放送され、映画版として’70年に『血の唇』、’71年に『Night of Dark Shadows』の2本も製作。また’91年には再びドラマでリメイクも。これらはすべて故ダン・カーティス監督が手がけたそうだ。最初のオンエアから、’60年代当時の昼の連続ドラマ“ソープオペラ”としてはアクの強い、型破りな作品として人気を博したというこのシリーズ。特にバートン監督、デップ、ファイファーはこのドラマの熱烈なファンで、それぞれに強い思い入れをもっているとも。監督曰く「あの番組には独特の雰囲気があった。ソープオペラでありながら、風変わりで超自然的なものが感じられたんだ」、そしてデップは「あのドラマにはヴァンパイアや幽霊や魔女が出てきて、ほかのどんな番組とも違ったよ。僕は、ごく小さいころからああいうジャンルに興味をもっていたので、とにかく夢中になった」と語り、自ら“熱狂的ファン”というファイファーは、バートンが本作を監督すると聞いて「普段なら絶対にしない」ことをしたとコメント。「私ったらものすごく興奮してしまって、自分から出たいと彼(監督)に電話したのよ。その時点ではまだ脚本もなかったけれど、どうしても出たかったので、そうしなければ後できっと悔やむと思ったから」。

デップは18世紀の裕福なおぼっちゃんから、20世紀に迷い込んだ浦島太郎ならぬ、時代錯誤なヴァンパイアと、バーナバス役を楽しそうに好演。オリジナルの製作者ダン・カーティスは今回の映画化が決まるだいぶ前、’00年あたりにはデップにバーナバス役を指名していたとのこと。そのことについてデップは「光栄に思った」そうで、今回の役作りでは最初のシリーズでバーナバス役を演じたジョナサン・フリッドの演技を参考にしたとも。デップは本作で製作としても名を連ねている。また愛憎から敵対する魔女アンジェリーク役はグリーンが体当たりで、コリンズ家を守るエリザベス役はファイファーがリアリストとして、エリザベスの反抗的な15歳の娘キャロリン役はモレッツがキュートに、エリザベスの不肖の弟ロジャー役はジョニー・リー・ミラーが軽薄に、その息子で母親を亡くした少年デヴィッド役はガリー・マクグラスがデリケートに、呪いによって死んだ18世紀の少女ジョゼットと瓜二つで、デヴィッドの家庭教師ヴィクトリア役はベラ・ヒースコートが清楚に愛らしく、精神分析医ホフマン博士役をボナム・カーターが気だるい感じで、酒好きの老いた使用人ウィリー役をジャッキー・アール・ヘイリーがトボけた様子でそれぞれに演じている。そして漁師クラーニー船長役で、これまで4本のバートン作品に出演している個性派のクリストファー・リーや、一大パーティシーンではオリジナル版のキャストであるジョナサン・フリッド、ララ・パーカー、キャスリン・リー・スコット、デイビッド・セルビーらの4人がカメオ出演。またロックスターのアリス・クーパーが本人役で出演し、ヒット曲「ドワイト・フライのバラード」「ノー・モア・ミスター・ナイス・ガイ」を歌うシーンも。

ダーク・シャドウ

サウンドトラックには’70年代のヒット曲がたっぷりと。なかでも1曲丸々流れるカーペンターズの「トップ・オブ・ザ・ワールド」、ギター・カッティングが気持ちいいT.レックスの「ゲット・イット・オン」、カーティス・メイフィールドのファンキーなナンバー「スーパーフライ」やエルトン・ジョンの軽快なポップス「クロコダイル・ロック」など、ダーク・ファンタジーの雰囲気にそぐわない超メジャーなサウンドと、怪しげな映像やキャラクターとの奇妙なズレ感がまた可笑しい。

ヘアメイクに美術やセット、ヴィジュアルを作りこむこともバートン作品の特徴。美術チームはロンドン郊外のパインウッド・スタジオの野外撮影所に、缶詰工場のある港から、バーや映画館、洋品店などが立ち並ぶエリアまで、’72年のコリンズポートの町として一大セットを製作。そしてイングランド南東部サリー州ボーン・ウッズの松の森には、バーナバスの屋敷“コリンウッド”1階の正面部分、中庭と噴水式水飲み場、長さ90メートル以上の外壁も建造したとのこと。またファッションやインテリアは、クラシックなドレスや趣向を凝らした屋敷などが美しい1700年代から、トロール人形やラバライト、ミニスカートが流行している1972年に世界が変わり、バーナバスがカルチャーショックを受けるなど、コメディを盛り上げる要素にもなっている。

バートン監督は語る。「僕は古いものと新しいものをつなげ、両方の世代にとって楽しい作品を作りたかった。時代は移り変わったけど、あのキャラクターたちには時代を超える魅力がある」。人間の生き血を糧とするヴァンパイアでありながら、家族思いでファミリービジネスの成功のために尽力するバーナバス。バトルあり吸血あり、ちょっと怪異な彼の恋と毎日の行く末とは? 2012年5月11日の全米公開前にすでに続編の話もでているという噂もある本作。今回のラストからすると、続編につながる展開も充分に。アメリカ本国のみならず、世界的にヒットしてシリーズ化となるか。引き続き注目したい。

作品データ

ダーク・シャドウ
公開 2012年5月19日公開
丸の内ルーブルほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2012年 アメリカ
上映時間 1:53
配給 ワーナー・ブラザース
原題 DARK SHADOWS
監督 ティム・バートン
脚本・原案 セス・グラハム=スミス
原案 ジョン・オーガスト
出演 ジョニー・デップ
エヴァ・グリーン
ミシェル・ファイファー
ヘレナ・ボナム=カーター
ジョニー・リー・ミラー
クロエ・グレース・モレッツ
ガリー・マクグラス
ジャッキー・アール・ヘイリー
ベラ・ヒースコート
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。