砂漠でサーモン・フィッシング 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
砂漠でサーモン・フィッシング

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中東の大富豪の奇抜な望みが英国の国家プロジェクトに?
大人同士の友情や恋、奇想天外な夢への情熱を率直に描く
ラッセ・ハルストレム監督によるあたたかな人間ドラマ

 監督は『ギルバート・グレイプ』『ショコラ』のラッセ・ハルストレム、脚本は『スラムドック$ミリオネア』で2009年の第81回アカデミー賞脚色賞を獲得したサイモン・ビューフォイ。「砂漠の国イエメンで鮭釣りがしたい」というイエメンの大富豪の奇抜な望みが、イギリスの国家プロジェクトに? 出演は『スター・ウォーズ』シリーズなどハリウッドでも活躍するイギリス人俳優ユアン・マクレガー、『プラダを着た悪魔』のエミリー・ブラント、『サラの鍵』のクリスティン・スコット・トーマス、『シリアナ』でハリウッドに進出したエジプトのスター俳優アマール・ワケドほか。水産学者のジョーンズ博士は、見知らぬ中東の大富豪の無茶ぶりを「不可能!」と代理人に言い渡すが……。奇想天外なプロジェクトの背景と経緯、国も人種も立場も異なる男同士の友情、仕事を通じて惹かれあう大人の男女のゆくえを描く。シンプルであたたかい人間ドラマである。

 砂漠の国イエメンで、鮭釣りがしたい――。イエメンの大富豪シャイフ・ムハンマドの代理人である女性コンサルタントのハリエットから、水産学者アルフレッド・ジョーンズ博士のもとへメールが届く。そのプランは不可能、とすぐに返信したものの、中東との緊張緩和をめざす英国外務省が急遽この企画の支援を決定。アルフレッドは上司からの強要で中心メンバーにすえられ、英国首相お墨付きの国家プロジェクトとして推進することになる。

ユアン・マクレガー

 原作はイギリスで40万部のベストセラーとなり、23言語に翻訳されたポール・トーディの処女作『イエメンで鮭釣りを』。eメール、日記、新聞や雑誌、議事録などさまざまな文書で構成され、映画化は難しいといわれていた小説をビューフォイが脚本として再構築。その脚本に感銘をうけたハルストレム監督が「長い映画人生の中で最高の脚本だ」と称賛し、自ら監督として名乗りをあげたそうだ。監督は語る。「ユーモアのトーンやセンスが素晴らしいし、物語に奥行きがある。まるで寓話のようで、奇想天外な要素もありながら、実生活に根付いた感情や人間関係もあり、それらが混在しているところに良さがある。真実を描くには、ドラマとコメディの両方が必要なんだ」。

 水産学者のアルフレッド・ジョーンズ博士役はマクレガーが実直に。学問と釣りにしか興味のない生真面目な男性が奇抜なプロジェクトに関わり、ハリエットやシャイフとの交流や仕事を通じて徐々に変化してゆくさまを自然に演じている。コンサルタントのハリエット役はブラントが素直で陽気な雰囲気で。恋にも仕事にも率直な大人の女性を等身大で演じている。首相の広報担当官マクスウェル役はトーマスがコミカルに。女性ながら剛腕のやり手をイギリス人らしい皮肉なユーモアをもって表現している。大富豪シャイフ役はワケドがエレガントかつさわやかに。イエメンの土地と人々を思うさま、ジョーンズやハリエットと心を通わせるところも好い。軍人であるハリエットのボーイフレンド、ロバート役にトム・マイソン、ジョーンズの上司のザグデン役にコンリース・ヒル、アルフレッドのワーカホリックな妻メアリー役にレイチェル・スターリングと、どの役もそれぞれの個性がよく表現されている。

 撮影はロンドンやスコットランド高地、そしてイエメンの入国が禁じられたためモロッコのウアルザザテ地方にて。砂漠のシーンでは広く遠く見渡せる景色が、スクリーンに心地よく映される。アルフレッドが妻と暮らす自宅はハムステッド郊外にあるエドワート朝時代の家屋が建ち並ぶエリアで、シャイフが所有するスコットランドの土地は、スコットランド高地のアーガイル・ビュートにあるロング湖のほとりのアロカ村にて撮影。伝統的な建物と美しい自然の組み合わせは、眺めていてとても気持ちがいい。

クリスティン・スコット・トーマス

 原作者のトーディは本作の原作『イエメンで鮭釣りを』で、’07年に59歳で作家デビューを果たしたイギリスの小説家。オックスフォード大学ペンブルック・カレッジで学び、家業である船のエンジン修理の会社で30年間ビジネスマンとして勤めたのち、会社が買収されて非常勤会長となったことを機に作家活動を開始。そして処女作がベストセラーに、という長年の夢をみごと実現した人物だ。トーディは語る。「中東や水産学者と関わった自分の経験から紡いだ物語だった。映画化が決まり、素晴らしい俳優たちとすごい監督、脚本家が参加しながら新たなプロジェクトが走り出した。夢のようだよ。」

 ハルストレム監督は本作に感じた魅力について、「この物語は、私の感受性にあっていた。何通りもアプローチ方法があり、そこが素晴らしいところだ。人間を誠実に描いている。ロマンスと寓話、ドラマとコメディの奇跡的な融合だ」とコメント。脚本を手がけたビューフォイは、「いままで読んだことのない不思議な構造の小説だった。僕はこの本のもつ温かなトーンに恋をしたんだ。脚本化は難しかったが本当に楽しかったよ」と語っている。劇中では道を歩く人々を俯瞰で映し、まるで川を泳ぐ魚のようにとらえるなど、どこかかわいらしいシーンも。けっして派手さはなく、ストーリーがよめる展開も多々あるものの、大人の友情や恋、夢への情熱をストレートに描く、ハルストレム監督らしいあたたかな人間ドラマである。

『砂漠でサーモン・フィッシング』
2011年 イギリス映画
データ
2012年11月16日更新
オフィシャルサイト
『砂漠でサーモン・フィッシング』

2012年12月8日公開
丸の内ピカデリーほかにて
全国ロードショー

■2011年 イギリス映画
■上映時間1:48
■ギャガ配給
■原題/『Salmon Fishing in the Yemen』
■監督/ラッセ・ハルストレム
■脚本/サイモン・ビューフォイ
■原作/ポール・トーディ
■音楽/ダリオ・マリアネッリ
■出演/ユアン・マクレガー
エミリー・ブラント
クリスティン・スコット・トーマス
アマール・ワケド
トム・マイソン
コンリース・ヒル
レイチェル・スターリング




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。