東京家族 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
東京家族

© 2013「東京家族」製作委員会

小津安二郎作品をもとに、山田洋次監督が現代の家族を描く
東京と島を舞台にある一家のむすびつきを淡々と映し、
いまの日本人にこれからの在り方を投げかける物語

 小津安二郎監督の名作『東京物語』をモチーフに、山田洋次監督が現代の日本の家族を描く。出演は橋爪功、吉行和子、西村雅彦、夏川結衣、中嶋朋子、妻夫木聡、蒼井優、林家正蔵、小林稔侍、風吹ジュンほか。音楽は山田監督作品に初参加となる久石譲。瀬戸内海の小島で暮らす老夫婦が子供たちに会うために上京する。しかし子供たちはみな忙しく……。お互いに大切に思いながら煩わしくもあり、なにもわかっていないと思いながらも通じ合っている。家族のつながりとかかわりを淡々と描き、現代を生きる日本人にこれからの在り方をしずかに投げかける物語である。

 2012年5月。平山周吉と妻のとみこは、子供たちに会うために東京へやってきた。郊外で開業医を営む長男の幸一の家に、しっかり者の長女の滋子、自由に生きる末っ子の昌次が集まり、家族全員が久しぶりに集う。幸一の妻の文子はかいがいしくもてなし、周吉ととみこは孫である長男夫婦の息子2人に目を細めて、団らんの夜に。長男一家は両親を東京見物に連れ出そうとするも急な仕事でキャンセルとなり、周吉ととみこは美容院を経営する滋子夫妻のもとへ泊まるも、夫妻も忙しく一緒にすごすことができないまま、だんだん気まずい雰囲気に。そんななか周吉は東京で暮らす同郷の友人を訪ね、断っていた酒を飲み過ぎて悪酔いをする。一方とみこは昌次の先行きを案じつつアパートを訪ねると、恋人の紀子を紹介されて上機嫌に。そして翌日、思いがけないことが起きる。

 血は水よりも濃い。居心地がよかったりわるかったり、誰よりも近いはずなのに遠く感じたりもする。誰もが思い当たる家族の関係をありのままに描く。親子、兄弟、嫁、婿、親戚、結婚前の恋人というさまざまな立場と距離感が、丁寧に映し出されている。映画を観ているのに、どこか正統派の文学を読んでいるような風合いを感じさせるところは山田監督作品らしい。

吉行和子、橋爪功

 1953年に製作された小津安二郎監督作品『東京物語』をもとに、リメイクではないものの「骨組みをいただいてつくった」(山田監督)という本作。『東京物語』は1958年にロンドン国際映画祭でサザーランド賞を受賞するなど、日本映画の傑作として国際的に知られているそう。2012年8月には英国映画協会が発行する『サイト・アンド・サウンド』誌にて、世界の映画監督が投票で決める“史上もっとも優れた映画”第1位に選出。「その技術を完璧の域に高め、家族と時間と喪失に関する非常に普遍的な映画をつくりあげた」と評価されている。約60年を経ても色あせることなく、世界に認められる秀作の存在は、日本人として誇らしい。

 そもそも本作は2011年4月1日にクランクインを予定し準備を進めていたなか、3月11日に東日本大震災が発生。山田監督は「このまま映画をつくっても現代の日本は描けない」と撮影の延期を決断。監督は宮城県の南三陸町、岩手県の陸前高田と被災地をめぐり、震災以後の日本を見つめた上で脚本を書き直し、本作は2012年3月〜5月に撮影されたそう。クランクインの際、「3・11以後の東京を、あるいはこの国を描くためには、どうしてもそれ(脚本の修正と撮影の延期)が必要だと考えたのです。 あれから11ヶ月。新たに書き直した脚本でクランクインを迎えます。これは、2012年5月の東京の物語です。 長く続いた不況に重ねて大きな災害を経験し、新たな活路も見いだせないまま苦悩する今日の日本の観客が、大きな共感の笑いと涙で迎えてくれるような作品にしたいと、心から願いつつ撮影を開始したいと思います」とコメントしている。

妻夫木聡、蒼井優

 年老いた頑固な父親、周吉役は橋爪功がしずかな存在感で。おっとりとしたかわいらしい母とみこ役は吉行和子がやさしい雰囲気で。長男の幸一・文子夫妻は西村雅彦と夏川結衣が堅実な様子で、長女の滋子役は中嶋朋子が率直に、その夫の庫造役は林家正蔵がお調子よく。次男の昌次役は妻夫木聡が気ままに、恋人の紀子役は蒼井優が気立てよく。そして小林稔侍、風吹ジュンほか脇も演技派が固めている。また昌次の働く舞台美術の仕事現場として歌舞伎の舞台が登場し、中村勘九郎のあざやかな姿がほんのすこし映るシーンも。ここには2012年12月5日に急逝した中村勘三郎氏(勘九郎の父)の要望により、’07年に歌舞伎作品『人情噺文七元結』を山田監督が手がけて新橋演舞場で上演し、シネマ歌舞伎として映画館でも上映された、という背景が思われる。

 監督生活50周年となる山田洋次監督の81作目は、2013年に生誕110年を迎える小津安二郎監督の傑作をもとに。周吉の暮らす故郷の島は、瀬戸内海にうかぶ広島県の大崎上島で撮影。「美しい日本の故郷の原風景」と山田監督が選んだ地で、のどかな風景とおおらかな島民たちが織りなす、やさしい空気に包まれる。製作報告会見では、山田監督よりメッセージが発せられた。「昨年(2011)の3月11日に延期が決まって、うまくいくのか、不安や悩み、焦りを抱き続けながら、今日に至りましたが、今になってそれで良かった、正しかったと思っています。この作品は、“人間というのはなんだかおかしくて、おかしいがゆえに哀しい存在なんだ”ということを思ってつくってきたので、本質的な部分で『人間喜劇』という冠をつけても良い作品だと思います。家族が笑ったり泣いたりしながら、どうやって生きていくかを模索していく、そして、この国がどうなっていくか、ということも皆さん自身が模索できるように提示できる作品になればと思います」。都心と地方、それぞれの時間の流れ、ひとのつながり、家族のいま。これからの日本への思いをうながす、良質な人間ドラマである。

『東京家族』
2012年 日本映画
データ
2012年12月28日更新
妻夫木聡、橋爪功
オフィシャルサイト
『東京家族』

2013年1月19日公開
丸の内ピカデリーほかにて
全国ロードショー

■2012年 日本映画
■上映時間2:26
■松竹配給
■監督・脚本/山田洋次
■脚本/平松恵美子
■音楽/久石譲
■出演/橋爪功
吉行和子
西村雅彦
夏川結衣
中嶋朋子
林家正蔵
妻夫木聡
蒼井優




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。