ムーンライズ・キングダム 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
ムーンライズ・キングダム

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駆け落ちした少年少女を大人たちが大追跡!
ウェス・アンダーソン監督が練り上げた世界に包まれて
出会いや縁のドラマをあたたかくユニークに描く群像劇

 どこかなつかしくどこまでもあたたかく、オフビートの抜け感がありながら、独特の洗練が心地よい。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『ダージリン急行』のウェス・アンダーソンが監督・脚本・製作を手がける最新作。出演は『ダイ・ハード』のブルース・ウィリス、『ファイト・クラブ』のエドワード・ノートン、『スタンドアップ』のフランシス・ マクドーマンド、 『フィクサー』のオスカー女優ティルダ・スウィントン、そしてアンダーソン監督作品の常連であるビル・マーレイ、ジェイソン・シュワルツマンほか実力派が顔をそろえる。12歳のサムとスージーは駆け落ちを決意し、愛の逃避行へ――大人たちは2人を探して大追跡を開始する。映像、音楽、ファッションとすみずみまで丁寧に練り上げられた世界観と、ちょっと奇妙でユニークな感覚、じつはシンプルに筋の通った、とても良質なアンサンブル・ドラマである。

 1965年、アメリカのニューイングランド沖にうかぶ全長26kmの小島、ニューベンザンス島。12歳のサムとスージーは教会の野外劇で互いにひと目で惹かれあい、文通を1年続けたのち、ついに駆け落ちを決行。2人で秘密の場所“ムーンライズ・キングダム”を目指す。ボーイスカウトのウォード隊長と隊員の子供たちは失踪したサムを追い、スージーの両親は島で唯一の警官に通報して捜索を開始。2組の捜索隊はサムとスージーが一緒にいると気づき、海岸沿いで2人を見つけるも激しい攻防戦となる。

エドワード・ノートン

 「最高」という評判どおり、最初から最後までやさしいきもちで満たされる作品。不思議な規則性とおかしみがセンス良くミックスされた音楽は、『英国王のスピーチ』でアカデミー賞作曲賞にノミネートされたアレクサンドル・デスプラが担当。小西康陽さんのサウンドに通じるイメージもあり、映像や物語にバランスよく融合しながらも、かくし味のようなアクセントが効いている。

 いまや有名俳優たちがこぞって出演を熱望するというアンダーソン監督作品は、豪華な顔合わせも見どころに。独り身のシャープ警部役はウィリスが、厳格ながらキレ芸もみせるスージーの父ウォルト役はマーレイが、わが道をゆくたくましいスージーの母ローラ役はマクドーマンドが、生真面目で損な役回りのウォード隊長役はノートンが、それぞれに中年の哀愁をおびて、大人たちが陥りがちな状況や心情の妙味を表現。威圧的な福祉局員役は身長180cmの女優スウィントンが異彩を放ち、ボーイスカウトのベン役はシュワルツマンがお約束どおりにややクドく演じている。そして愛の逃避行を繰り広げる少年少女はオーディションで半年以上かけて選出され、ともに本作で俳優デビュー。サム役はジャレッド・ギルマンが理屈っぽく、スージー役はカーラ・ヘイワードが早熟な文学少女をクールに演じ、異端児の2人が恋に落ち思いつめていく様子が、とてもよく引き出されている。また劇中ではたくさんの子役たちが活躍していることもほほえましい。個人的にいちばんのツボは、島や登場人物について解説するナレーターであり、スクリーンにちょいちょい登場する赤いニットのおじいさん役を演じるボブ・バラバン。ひょうひょうとした存在がとてもいい具合で、シュールな感覚をほのぼのと醸し出している。

カーラ・ヘイワード、ジャレッド・ギルマン

 海を見晴らす大きな屋敷、長く続く海岸線、岩肌がごつごつとした渓谷、子供たちがさまよう森や草原など生き生きとした映像にも引き込まれる。撮影はアメリカのニューイングランド、ロードアイランド州を中心に、ナラガンセット湾のプルーデンス島などで行われたとのこと。1965年という設定について監督は、「意図したわけではなく、偶然そうなったかんじなんだ。なんとなくノーマン・ロックウェルが描くアメリカをイメージした。皆がイノセントだった最後の時代という印象があったから」とコメント。風景、家の外観や内装、インテリア……映像から、彼らの生活のすみずみまで、素朴なぬくもりや居心地のいい風合いがいきわたっていることが感じられる。プロデューサーのジェレミー・ドーソンは語る。「ウェスは脚本家としてプロデューサーとして監督として、衣装からキャスティングまで、映画に関するありとあらゆることに口を出す。そのすべてが、彼が作り上げたい世界に関係しているからだ」。

 子どもたちが主人公である本作について、アンダーソン監督は語る。「子どものころに楽しかったこと、感じたことを映画にしようと思った。“こんな子供時代をすごせたらいいな”という願望をこめたよ。スージーは、家族から孤立して悩んでいる。でも僕がいつも思うのは、またちがった形の家族というものもあって、家族を築き上げようとしている人たちもいる。僕は決して子どもが皆イノセントだとは思わないけど、彼らの話し方や行動にでる純粋さというのは子どもたちにしかだせないもの。それは彼らにとっての特権だし、なんでも可能だという証なのかもしれない」。クライマックス、追い詰められた彼らが見いだす道がまたとてもいい。愛ゆえのパワー全開クリーンヒット。子どももおとなも真剣勝負、森に山に海に島を駆け巡る彼らの行き着く先は? 苦みや毒を含みつつもかわいくて面白く、ひとの結びつきのユニークさを小気味よく描く。しあわせな余韻がひろがる、ウェス・アンダーソンらしさ満載の群像劇である。

『ムーンライズ・キングダム』
2012年 アメリカ映画
データ
2013年1月11日更新
ブルース・ウィリス
2013年2月8日公開
TOHOシネマズシャンテほかにて
全国ロードショー

■2012年 アメリカ映画
■上映時間1:34
■ファントム・フィルム配給
■原題/『Moonrise Kingdom』
■監督・脚本・製作/ウェス・アンダーソン
■共同脚本/ロマン・コッポラ
■出演/ブルース・ウィリス
エドワード・ノートン
ビル・マーレイ
フランシス・マクドーマンド
ティルダ・スウィントン
ジェイソン・シュワルツマン
ボブ・バラバン
ジャレッド・ギルマン
カーラ・ヘイワード




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。