人生、ブラボー! 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
人生、ブラボー!

© 2011 PCF STARBUCK LE FILM INC.

遺伝子学上の子ども533人がいる上、恋人の妊娠が発覚!
仕事もおざなりで借金苦の独身男42歳の行く末は?
笑ったのち胸がじわっとあたたまる、ユニークな家族のドラマ

 遺伝子学上533人の子どもがいて、そのうちの142人から身元開示の裁判を起こされた――!?  有名なキャストもスタッフもなく、2011年のトロント国際映画祭をはじめ世界中の映画祭で観客賞を受賞し、ハリウッドのリメイクが決定した話題のカナダ映画。出演は俳優・コメディアン・監督として活躍するパトリック・ユアール、映画やテレビなどで活躍するジュアリー・ル・ブルトン、アントワーヌ・ベルトランほかカナダの個性派を中心に。監督・脚本はカナダで俳優や作家としても認められているケン・スコット、共同脚本はコメディアンで俳優のマーティン・プティ。その場しのぎで生きてきた42歳の独身男がしでかした出来事とその顛末を描くコメディであり、それぞれが人として赦し合い、成長しながら関係をつむいでゆくさまを描く家族のドラマである。

 父親が経営する精肉店で配達を担当する、42歳の独身男ダヴィッド。堅実な両親や兄弟とちがって仕事はいいかげん、80000ドル(約640万円)の借金の取り立てから逃げ回り、金策のためと大麻栽培に手を出す始末だ。そんな折、恋人ヴァレリーから妊娠を告げられるも、ダヴィッドの煮え切らなさに彼女は「自分ひとりで育てる!」と宣言。そして見知らぬ弁護士から、ダヴィッドが過去にクリニックで行った693回の精子提供により、533人の子どもの父親であり、そのなかの142人の子どもたちから身元開示の裁判を求められている、と通達される。

ジュエリー・ル・ブルトン、パトリック・ユアール

 予告映像や紹介文だけでは伝わりにくい、このおもしろさ! 俗っぽくダメダメな主人公、生活に追われながらも地に足の着いた周囲の人々、常識と非常識のせめぎあい、混沌の末に突き抜ける限界突破のラストまで。ふらふらダラダラ暮らすダヴィッドがヒーロー風の使命感に燃えて調子にのり、痛い目をみたり落ち込んだり失敗や脱線を繰り返しながら、心からの思いに目覚めて行動をおこしていく経緯は、とても人間くさくて好い。家族や恋人に叱られ、子だくさんで弁護士の幼なじみにたしなめられ、142人の子どもたちから起訴され……それぞれにどう決着をつけていくのか。挫折と再生、対立と和解において、移り変わってゆく登場人物たちの心情をていねいに描く。物語の途中であかされる家族のエピソードもまたあたたかい。

 大人になりきれない中年ダヴィッド役はユアールが好演。ダメ男の憎めない姿をのびのびと自然体で演じ、自身でも「この役のために、僕はこれまでの人生すべてをかけて準備をしてきたんだと思う」とコメントしている。しっかり者の恋人ヴァレリー役はブルトンがくっきりと演じ、ダヴィッドへの説得力ある辛口な物言いで笑わせてくれる。大きな体格でやんちゃな幼い子どもたちに手を焼く弁護士役は、ベルトランがトボけた様子で。ダヴィッドに友人としてシビアな助言をしながら、自身も弁護士として一旗あげようとはりきり、友だちの深刻なトラブルに対して天真爛漫に野心的であることも可笑しい。とくに重要な局面ののちに気がゆるみ、つるっと口をすべらせる“一言”は、あまりにもおバカで最高だ。

パトリック・ユアール

 原題『STARBUCK(スターバック)』は、世界中に20万頭の子どもたちがいる、カナダの優良種である種牛の名に由来しているという本作。冒頭からいきなり下ネタのシーンが長く続き、このネタが劇中で何度も引き合いにだされ、かわいた笑いをさそう。良識派が顔をそむけるような露骨な下ネタあり、ダメダメ男が優柔不断に右往左往する物語でありながら、ありふれたコメディとは一線を画しているのはなぜか。本作は人の弱さや情けなさ、ずるさを臆さずにバンバン見せながら、それでも人は捨てたもんじゃない、というところを大げさでなくささやかに示していく。家族とは? 血のつながりとは? 説教くさくなくさりげなく、じつはヒューマンドラマとしての妙味がふんだんにあるところが大きな魅力だ。

 この作品は、すでにハリウッドでリメイクが決定したとのこと。権利はスティーブン・スピルバーグ率いるスタジオ「ドリームワークス」が獲得し、リメイク版でもケン・スコットに監督と脚本を依頼したという情報も。ダヴィッドとおなじ42歳のカナダ人であるスコット監督が、ハリウッド向けに脚本を新たに書き直して再び監督を手がけ、本作のプロデューサーであるアンドレ・ルーローも参加するそうだ。大きな資本を受けてメジャースタジオの関係者の目が光るなか、どのように自分たちらしい表現をしていけるか。オリジナル版スタッフによるハリウッド・リメイク版もたのしみである。

『人生、ブラボー!』
2011年 カナダ映画
データ
2013年1月18日更新
パトリック・ユアール
2013年1月26日公開
シネスイッチ銀座ほかにて
全国ロードショー

■2011年 カナダ映画
■上映時間1:50
■クロックワークス、コムストック・グループ配給
■原題/『STARBUCK』
■監督・脚本/ケン・スコット
■共同脚本/マーティン・プティ
■出演/パトリック・ユアール
アントワーヌ・ベルトラン
ジュエリー・ル・ブルトン




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。