ゼロ・ダーク・サーティ 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
ゼロ・ダーク・サーティ

Jonathan Olley©2012 CTMG. All rights reserved.

実話をもとにCIAによるビンラディン追跡の経緯を描く
脚本家のマーク・ボールとキャスリン・ビグロー監督が
ドキュメンタリーさながらに打ち出す社会派作品

 2011年5月1日、パキスタン北部アボッターバードに潜伏するビンラディンが死亡した――。長年にわたるCIAのビンラディン追跡と殺害にいたる経緯を、ドキュメンタリーさながらに描く。キャスリン・ビグロー監督と脚本家のマーク・ボール、2010年の第82回アカデミー賞にて作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞など6部門を受賞した映画『ハート・ロッカー』の2人が再びタッグを組む。出演は『ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜』で実力が認められたジェシカ・チャステイン、『パブリック・エネミーズ』のジェイソン・クラーク、『英国王のスピーチ』のジェニファー・イーリー、『ジャッキー・コーガン』のジェームズ・ガンドルフィーニほか。’12年12月19日の全米公開から大勢の観客を動員し、批評家から高い評価を得て、2013年2月25日(日本時間)に発表される第85回アカデミー賞では作品賞・主演女優賞・脚本賞など5部門にノミネート。実話をもとに客観的な視点から描く、非常に厳格な作品である。

 ’03年、パキスタンの首都イスラマバードにあるCIAの秘密施設。20代半ばの女性分析官マヤが到着する。華奢で現場に不慣れであるものの、天才的な情報収集と分析能力をもち、’01年の9.11ののちに失踪し、テロ活動を指揮し続けているビンラディンの追跡チームに投入された精鋭だ。現場チームが徹底した調査と関係者の逮捕、水責めによる捕虜の尋問を繰り返すなか、’05年にはロンドンで地下鉄・バス爆破テロが、’08年にはイスラマバードのマリオットホテルで爆破テロが発生。後者にはマヤ自身も同僚のジェシカとともに巻き込まれる。そして’09年、アルカイダ内通者との取引をすすめるなか、自爆テロがおこりジェシカを含むCIA局員7名が死亡、という“アメリカ諜報史上最大の惨事”が起こる。マヤは正義や義憤による使命を超え、殺気と執念をたたえて「関係者を全員見つけてビンラディンを殺す」と静かに言い放つ。

ゼロ・ダーク・サーティ

 完成まで数々の妨害が入ったという本作。非公開であるはずのCIAの活動、世界中で暗躍するテロリストの逮捕と尋問、ビンラディン殺害にいたる経緯まで、アメリカの国家機密にかかわる内容が徹底した取材とリサーチをもとに描かれている。脚本家のボールはもともとジャーナリストであり、’04年の映画『告発のとき』の原案に起用された、イラク戦争についての記事(男性誌『PLAYBOY』に掲載)を執筆したことでも知られる人物。今回はまずワシントンで関係者へのインタビューを数か月間行い、パキスタンをはじめ中近東の国々でさまざまな機関の事務局におもむき、情報を集めていったとのこと。実際に事件を体験した多くの人々と話をして、その人々の体験をもとに脚本を書きあげていったそうだ。

 そもそもビグロー監督とボールは、’06年にトラボラで失敗したビンラディン捕縛作戦についての映画を企画していたとのこと。その後『ハート・ロッカー』を経て、’11年にその作品の製作に入ったものの5月1日のビンラディン殺害の報を受けて企画を白紙に戻し、あらためて取材とリサーチをはじめたそうだ。そしてCIAのビンラディン追跡チームの中心に若い女性分析官がいたこと、最新技術による情報収集、アメリカ国内では法律で禁じられている拷問をほかの国に設置した秘密の収容所で行っていることなど、さまざまな事実をつかんでゆく。拷問の場面に関してビグロー監督は語る。「人間としては、目をつぶりたくなるような光景だったが、映画監督としては出来事をありのまま伝える責任があると感じた」。

カイル・チャンドラー、ジェシカ・チャスティン

 女性分析官マヤ役のチャステインは、「このような複雑な感情を抱いた人物のリアルな物語を演じるために、私は女優をやっている」とコメント。ビグロー監督は「ジェシカは真剣さと強烈さを兼ね備えていて、どんな些細なセリフでも、深みとニュアンスを与えることができる」と絶賛している。追跡チームのリーダー、ダニエル役はクラークが過酷な現場を牽引しつつも心が蝕まれてゆく姿を、マヤとうちとける年上の女性分析官ジェシカ役はイーリーが気丈に、ネイビー・シールズ隊員のパトリック役はジョエル・エドガートンがたのもしく、CIAのパネッタ長官役をガンドルフィーニが独特の存在感で演じている。

 “ゼロ・ダーク・サーティ”とは“午前0時30分”を意味する軍の専門用語で、ビンラディンの潜伏先にアメリカ海軍の特殊部隊“ネイビー・シールズ”が踏み込んだ時刻を指す。マヤが追跡チーム入りし、その時点にたどり着くまでの「8年」という激烈な時間の重み。「孤独な若い女性分析官がチームを牽引する責任者として育ってゆく、ひとりの女性の成長物語」と、女性としてすんなり共感できるかというと、そう容易なことではない。ただ作品を通じてほぼ事実である苛酷な内容を受けとめるにあたり、マヤの存在が比較的観やすい視点となっていることは確かだ。ビグロー監督と脚本家ボールは現在、次作の企画『Triple Frontier』をすすめているとのこと。題材は南米のブラジル、アルゼンチン、パラグアイの国境における麻薬密売取引であり、関係国の観光大臣からはげしい抗議を受けたという情報も。そうかといって、ひるむ彼らではないことは周知の通り。彼らは必ずやりとげ、世界にまたしても事実をつきつけることだろう。

『ゼロ・ダーク・サーティ』
2012年 アメリカ映画
データ
2013年2月22日更新
オフィシャルサイト
『ゼロ・ダーク・サーティ』

2013年2月15日公開
TOHOシネマズ有楽座ほかにて
全国ロードショー

■2012年 アメリカ映画
■上映時間2:38
■ギャガ配給
■原題/『Zero Dark Thirty』
■監督・製作/キャスリン・ビグロー
■脚本・製作/マーク・ボール
■出演/ジェシカ・チャステイン
ジェイソン・クラーク
ジェニファー・イーリー
ジョエル・エドガートン
マーク・ストロング
カイル・チャンドラー
エドガー・ラミレス
ジェームズ・ガンドルフィーニ




プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。