オール・ユー・ニード・イズ・キル

日本のSF小説×ダグ・ライマン監督×トム・クルーズ
繰り返される時間に囚われ、エイリアンに勝利できるのか?
激しいアクションと人間ドラマ、信頼と愛をキレよく描く

  • 2014/07/07
  • イベント
  • シネマ
オール・ユー・ニード・イズ・キル© 2014 VILLAGE ROADSHOW FILMS(BMI)LIMITED

2004年に発行された桜坂 洋のライトノベル『All You Need Is Kill』をトム・クルーズ主演で映画化。共演は'06年の映画『プラダを着た悪魔』のエミリー・ブラント、映画の監督や製作者としても活動しているビル・パクストン、『ハリー・ポッター』シリーズのブレンダン・グリーソンほか。監督は『ボーン・アイデンティティー』シリーズのダグ・ライマン。地球外生命体の侵略者“ギタイ”の激しい攻撃を受け、滅亡寸前となっている地球。米軍のウィリアム・ケイジ少佐は激戦地に出撃するがすぐに死亡する。が、死んだ瞬間、ケイジは出撃前日の自分に戻っていた――。繰り返されるタイム・ループの謎とは? 人はエイリアンの侵略に打ち勝つことができるのか? 激しいアクションと人間ドラマ、ラブ・ロマンスの要素も含むSF作品である。

最初にドイツが襲撃されてから5年、謎の生命体“ギタイ”の激しい攻撃に、地球は滅亡寸前となっていた。米軍のメディア担当ケイジ少佐は、激戦地の殲滅(せんめつ)作戦を現地取材するように将軍から依頼されるも、恐怖におののき姑息な言い回しで断固拒否。ケイジは“脱走を試みた二等兵”扱いで激戦地へと強制的に送り込まれる。そして出撃した翌朝、実戦経験のまったくないケイジは5分で死亡。が、次の瞬間、前日の自分に戻っていた。そこから戦う、死ぬ、目覚める、というケイジの繰り返しが始まり、周囲はループしていることに誰も気づかないまま延々と続いていく。何度目かのループでケイジは、連合軍最強の女兵士リタから「次に目覚めたら私を探して」と死の直前に告げられる。
 どんなときも絶対的ヒーローのイメージであるクルーズが、我が身かわいさ、保身第一という軟弱者のキャラクターから始まる、というめずらしい本作(これがまたよくハマッている)。ダメ男がボロボロになりながらも、腹をくくって戦うことに決め、世界最強の女性を大切に思い、彼女を守るために男として人として成長してゆく、というドラマが描かれている。この手の作品はエイリアンとの激しい戦闘シーンやアクションがメインになりがちながら、本作には人間ドラマの軸があり、ライマン監督の手腕が冴えている。

エミリー・ブラント、トム・クルーズPhoto by David James

ケイジ少佐役はクルーズが、精神も肉体も貧弱な臆病者から、大切な女性を守るために英雄へと成長してゆくさまを表現。クルーズはケイジの役作りを楽しんだそうで、「僕はずっと前からダグ(監督)と一緒に仕事をしたかったんだ」とコメント。そしてライマン監督はクルーズについて、「ケイジと違って、トムは怖いもの知らずだよ。彼は何でも試すし、何でもやる。自分が演じるキャラクターが屈辱的な目に遭っていても、とんでもない殺され方をしても、彼は役に没頭していた。彼はこの映画のことをほんとうに大事に思い、全力で演じてくれた。その姿自体に彼の周囲すべての人間が触発されたんだ」と語っている。女兵士リタ役はブラントが、パワフルかつ繊細な内面を丁寧に。ライマン監督曰く、「僕はつねに強い女性キャラクターを描きたいと思っているんだが、リタはこれまでの僕の映画の中で最強じゃないかな」というほどのリタ役を、いかつい機動スーツを身にまとってキリリと演じたブラントは、じつはアクション映画は今回が初とのこと。ブラントはクルーズと同じく撮影の数ヵ月前からハードな訓練を積んだそうで、彼女のアクションと演技の両面を監督もクルーズも称揚している。ケイジを激戦地へ送りこむブリガム将軍役はグリーソンが堂々と、激戦地でケイジの上司となるファレウ曹長役はパクストンが荒っぽく、それぞれに演じている。

エミリー・ブラントPhoto by David James

原作が日本のライトノベルである本作。作者の桜坂 洋は1970年生まれのもとシステムエンジニアであり、現代SFファンタジー作品を手がける日本人作家。小説『よくわかる現代魔法』で'03年にデビューし、この作品は7巻のシリーズとなり、TVアニメやコミックにもなったとのこと。本作の原作である’04年に出版された『All You Need Is Kill』は12カ国で翻訳出版され、15カ国でコミックとして出版。今回の映画化について桜坂氏は、「すばらしいものができた」と6月26日のジャパンプレミアで称賛。本作の撮影中に桜坂氏がセットを訪れたとき、クルーズに勧められて衣装の機動スーツを着たそうで(機動スーツはフレームだけで約27〜45kg、装備によっては55kg以上とも)、そのときのことをこのようにコメントしている。「僕には、あのスーツを背負って歩くだけの体格もスタミナもなかった。あれを身につけたら、ほとんど歩くことすらできず、演じるとかほかのことをするなんてとんでもなかった。ダグ・ライマンはあるシーンで、僕に機動スーツを着せてエキストラとして出してくれたんだけど、10テイクほどをただ立ったままだったのに、もうクタクタだったよ!」
 物語はロンドン、パリ、そしてフランスの沿岸部と田舎という設定で展開。撮影はすべてイギリスで行われ、ワーナー・ブラザースのリーブスデン・スタジオを中心に、ロンドン市長ボリス・ジョンソンの協力を得たことから劇中にはイギリスの名所も多数登場。ロンドン中心部のホワイトホールにたたずむ国防省ビル、そしてウォータールー橋や、イングリッシュ・ヘリテッジ(英国政府による歴史的建造物を保護する組織)に指定されている、ピーターズフィールドにある1690年代の農家など。なかでもトラファルガー広場に英国空軍ヘリコプターで着陸、という特別なシーンが撮影できたことには、スタッフもキャストも大いに感動したとのこと。宮殿や寺院、大聖堂などの歴史的建築物が立ち並ぶウェストミンスターのトラファルガー広場には、過去にも英国軍が緊急事態において許可されたことしかないそうで、クルーズの提案に当初はロケーション担当が青ざめたそうだが、本作で実現したそうだ。クルーズは語る。「僕は世界中のロケーションで撮影をしてきたけど、そのキャリアの中でもヘリコプターでトラファルガー広場に着陸したのはとりわけクールな瞬間だった。みんな、すごく盛り上がっていたし、最初のほうでダグが僕をライブで撮ったのもすごくよかったね。あれは僕ら全員にとって最高に楽しい撮影だった」。ライマン監督は撮影時のことをこんな風に語っている。「トラファルガー広場を封鎖し、巨大な英国空軍ヘリコプターで着陸するなんて、誰でも子供に戻ってはしゃぎたくなるような瞬間だった。技術面からいうと、僕のキャリア上でも断トツでいちばん難しい撮影だった。すべてを終わらせるのに3時間しかなく、現場でリハーサルは不可能。いったん離陸したら、轟音の中なのでどんなコミュニケーションもできなくなる。それに、あの朝しか時間がとれなかったので、その範囲で撮れたものがすべてだった。あと1分必要だと思っても、絶対に不可能なんだよ。だから僕はこう思った。『これは生涯一度きりのチャンス。最大限に生かそう』とね」

トム・クルーズPhoto by David James

英雄といえば全世界から称賛されて当たり前のはずなのに、気が遠くなるほどの時間と徒労、命を賭した大勝負を数えきれないほど重ねて世界を救おうとする姿を、誰も知らない、という本作。リタがケイジと初めて会うたびに、「あんた誰?」とうさんくさそうに見やるところがまた気の毒で。観る側が自然に主人公を応援したくなる仕組みとなっているところが特徴だ。この作品の企画が始まったきっかけは、トム・ラサリー(製作)からこの小説を渡されたアーウィン・ストフ(製作)が、映画化したいとすぐに感じたことだったとのこと。映画製作について、ライマン監督はこんな風に語っている。「まず、何かより深い意味をもつこと。それと同時に、観客が観たこともないようなアクション・シークエンスがあって、驚異的なジェットコースターに乗っているような体験ができ、キャラクターが引っ張るコメディ要素もあり、そしてとにかくいろんな意味ですごく楽しめる作品……そんなプロジェクトに出会ったら、もちろん、僕はすぐにその映画を作りたくなるよ」

作品データ

オール・ユー・ニード・イズ・キル
公開 2014年7月4日公開
TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて2D/3D全国ロードショー
制作年/制作国 2014年 アメリカ
上映時間 1:53
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 EDGE OF TOMORROW
監督・製作総指揮 ダグ・ライマン
脚本 クリストファー・マッカリー、ジェズ&ジョン=ヘンリー・バターワース
原作 桜坂 洋
出演 トム・クルーズ
エミリー・ブラント
ビル・パクストン
ブレンダン・グリーソン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。