デヴィッド・フィンチャー監督がベストセラー小説を映画化
消えたセレブ妻の真相を、夫と警察とマスコミが追う
強烈な毒気が脳天に直撃する、重量級サスペンス
際限なく繰り出され続ける濃厚な悪意、背筋の冷える恐怖と奇妙な笑い。全米で600万冊以上を売り上げ、アメリカの新聞紙『NYタイムズ』のベストセラー・ランキングで1位となったギリアン・フリンの小説を、デヴィッド・フィンチャー監督が映画化。出演は、監督・主演作の『アルゴ』でアカデミー賞作品賞を受賞したベン・アフレック、映画『007 ダイ・アナザー・ディ』でボンドガールを演じたイギリス人女優ロザムンド・パイクほか。脚本は原作者のギリアン・フリン本人が手がける。
結婚5周年の記念日、夫が自宅に戻ると邸宅のリビングが荒らされ、妻エイミーが姿を消していた。警察の捜査と加熱する報道により、セレブ夫妻の裏側が明かされてゆき……。定番のサスペンス風に始まりながら、裏の裏が次々と露見し、もつれた状況が刻々と変化してゆくさまを追う。丁寧に隙間なく悪意一色に塗りつぶされてゆく顛末を、まざまざと見せつけられる作品である。
アメリカ中西部、ミズーリ州。結婚5周年の記念日、夫ニックがバーから自宅へ戻ると居間のガラステーブルが割られ、妻エイミーが姿を消していた。警察が他殺と失踪の両方の可能性を探るなか、ニックは第一容疑者に。エイミーは人気女流作家の娘であり、幼いころから母の本“アメイジング・エイミー”シリーズのモデルとして知られる彼女が消えたことから、セレブ妻失踪事件として郊外の町がにわかに全米注目の的に。ニックはエイミーが毎年行(おこな)っている“結婚記念日の宝探し”のヒントが残されているのを見つけ、それらをたどってゆくなか、ニック自身の隠していた私生活がメディアに暴かれて窮地に追い込まれる。ニックはマスコミ対策に長ける敏腕弁護士を雇い、SNSやメディアをはじめとする世論への対応を図る。そんな折、エイミーが胸の内を記してきた日記が見つかる。
善悪の範疇を超えた(もしくは大きくはずれた)ところを描く作品。セレブ夫妻、著名人で裕福な妻の両親、双子の妹とバーを共同経営するフリーライターの夫、バーを切り盛りする妹、誠実な女性警官、手練手管で負け知らずの敏腕弁護士、近隣の住民、エイミーを探すファンの人々……。登場人物それぞれの動機と行動、目的と嗜好、信頼や不信、情愛と憎悪、思い入れなどが入り乱れ絡まりながらも、個々のキャラクターがブレないため、観ている側の感覚がどんどん研ぎ澄まされてゆき、臨場感がさらに増幅する。観終わると、ずっしりと重くドス黒いものに美しいリボンをかけて、丁重かつ朗らかに手渡されたような感覚も。
個人的には観ているうちにだんだん「なんでそこまで。もういいじゃない」と、懇願するような気分になり、首や肩が緊張しっぱなしに。観るのはパンチのある衝撃をドーンと受けられる気力・体力がある時を切におすすめしたい。
ニック役のアフレックは、ちょっとイケメンなダメ男をリアルに表現。そこでそうしてしまったら……と地雷の数々を確実にふんでいくあたりは、誰にでも思い当たる節があるようにも感じられ、乾いた共感と笑いを誘う。エイミー役のパイクは複雑怪奇な心情と行動をさりげなく丁寧に表現。女優の誰もが演じたいと思える役ではないだろうし、誰にでも演じられるような容易なキャラクターでもないこの役を、きっぱりと演じきっている。パイクはヒューマンドラマからエンタメ作品、コメディまで幅広く活躍しているなか、本作で放った強烈な存在感で自らの実力を広く知らしめた。2015年アカデミー賞の主演女優賞ノミネートはまず間違いないだろう。そしてニックが依頼する敏腕弁護士ターナー役にタイラー・ペリー、ニックの双子の妹役でキャリー・クーン、事件を捜査する実直な女性刑事ボニー役にキム・ディケンズ、エイミーの古い男友達デジー役にニール・パトリック・ハリスら、キャラクターのアンサンブルが楽しめる。
また、本作の製作に名を連ねている女優のリース・ウィザースプーンは、原作の小説が発売されると同時に映像化権を取得し、エイミー役を演じるつもりでいたとのこと。が、「フィンチャーが監督として名乗りを上げ、ウィザースプーンがエイミー役を演じることに難色を示した」そう。これまでにも『パニック・ルーム』『ドラゴン・タトゥーの女』などで無名の女優を抜擢して映画を製作してきたフィンチャー監督は、自らが思い描く映画化について説明し、ウィザースプーンは納得してプロデューサーに専念することにしたそうだ。個人的にウィザースプーンはコメディなどでかわいい女優さんだと思っているものの、彼女の主演で本作がチープなB級サスペンス・コメディになってしまうかもしれないことは確かに惜しい(それはそれで面白いかもしれないけれど)。製作スタッフとして冷静な話し合いと判断がなされたことは、いち観客として単純にありがたい。
原作者であり本作の脚本を執筆したギリアン・フリンは、1971年アメリカ・ミズーリ州生まれの女性作家。カンザス大学で学士号、ノースウエスタン大学で修士号を習得した後、アメリカの雑誌『エンターテイメント・ウィークリー』でテレビ批評を執筆。2006年に処女小説『KIZU—傷-』を発表し、英国推理作家協会が選出するCWA賞にて新人作家としてジョン・クリーシー・ダガー賞を、優秀ミステリー作品に与えられるイアン・フレミング・スチール・ダガー賞をW受賞。本作の原作である同名の小説は’13年に発表、今回が初となる脚本の執筆について、フリンは語る。
「この小説はとても入り組んでいて相関関係に基づいた物語だから、簡単に合理化できるものではなかった。映画に全てを取り込むことはできないと理解する中で、私がもっとも危惧していたのはいかにプロットを守るかということだった。キャラクターと彼らの関係性のニュアンスを伝える隙間や、ダーク・ユーモアが入りこむスペースを保ちたかった。だって、それが気色悪い、中毒性のある物語が棲む場所だから」。実際フリンは、「小説を書いているときにも、フィンチャー監督が演出していることを想像して書いたシーンがある。彼が覗き込むレンズを通して書いたようなものね」とのこと。フィンチャー監督による原作の映画化について、フリンはこんなふうにコメントしている。「彼なら最高の場所を用意して、サスペンスと閉所恐怖症的な物語を封じ込めるだろうとわかっていた。フィンチャーが恐怖に陥れてくれるのは周知のこと。だけど、彼の作品の最も好きなところは、ダーク・ユーモアがはじけるところなの。『ゴーン・ガール』の邪悪なところは、笑える部分でもある。フィンチャーならそれらをスクリーンに描き出すだろうとわかっていたわ。決して『ゴーン・ガール』を厳格なミステリーで終わらせずに、この物語が本当に伝えたいこと――彼らの結婚生活について探る隙間を与えてくれるだろうと思っていた」。
フリンの原作・脚本×フィンチャー監督の凄味と相性の良さは、本作で充分すぎるほど立証された。今後も2人のコラボレーションが楽しみだ。
母親の求める“セレブ・ガール”から、夫の求める“クール・ガール”となったエイミー。ならば本物の彼女はどこに? ……といったモラトリアムな自分探しも匂わせつつ、そんなぬるく甘酸っぱいものではまったくなく。フィクションは善悪がはっきりしている場合が多いものの、現実の日常は善悪の線引きなどあるわけなく、どちらがどうと定まっているわけもなく。どこまでもグレーなもやもや感、どうしようもないドロドロ感、それでも刻々とうごめき流れてゆくさまざまな状況や心情があるなかで、自分はこうする、と割り切っていくしかなく。いつもの生活で家族や周囲との間で無意識になされている状況を、ものすごく緻密に極端に、振り切って、突き抜けて、卑近な妄想を蹂躙しタブーをあっさりと踏み越える領域まで克明に描かれた、重量級のサスペンスである。
公開 | 2014年12月12日公開 TOHOシネマズ六本木ほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2014年 アメリカ |
上映時間 | 2:29 |
配給 | 20世紀フォックス映画 |
原題 | GONE GIRL |
監督 | デヴィッド・フィンチャー |
原作・脚本 | ギリアン・フリン |
原作・脚本 | ギリアン・フリン |
音楽 | トレント・レズナー&アッティカス・ロス |
出演 | ベン・アフレック ロザムンド・パイク ニール・パトリック・スミス タイラ−・ペリー キャリー・クーン キム・ディケンズ パトリック・フュジット エミリー・ラタコウスキー |
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