原作者トーベ・ヤンソンの生誕100周年を迎え、
フィンランドの人気キャラクターの物語が母国で再始動
手描きの絵と独特の色彩で、ぬくもりと哀愁を含む味わいに
フィンランド人の原作者トーベ・ヤンソンがロンドンのイブニング・ニュース紙にて連載していたコミックの絵をもとに、手描きのアニメーションにこだわり、初めてフィンランドで製作されたムーミン長編映画。監督・共同プロデューサーはフランス人監督グザヴィエ・ピカルド、共同監督とプロデューサーはフィンランド出身で映画監督・プロデューサーとして活動しているハンナ・へミラ、アソシエイト・プロデューサーとしてトーベの姪であり(トーベの弟ラルス・ヤンソンの娘)、ムーミンの著作権管理会社「ムーミンキャラクターズ社」のクリエイティブディレクター兼会長をつとめるソフィア・ヤンソンが参加。
ムーミン一家は住み慣れたムーミン谷から地中海のリゾート、リヴィエラにバカンスに出かけるが……。日本で親しまれているのどかな仲良し一家の物語と比べると大人向け、おなじみのキャラクターたちの本来の個性や、風刺を含むもともとの内容が伝わってくるストーリー。トーベの絵をもとにした背景やムーミンらのデザインや表情、全体を彩るヨーロッパの色調により、キャラクターたちの俗っぽさやルーズな面、それぞれの主張や諍い、そして大切なことも丸ごとさらりと描く、味わいのある作品である。
ムーミン一家は、ムーミン谷から嵐の風に乗り、船で地中海沿岸のリゾート、リヴィエラへとバカンスに出発。高級ホテルに着くと、マナーも何も知らない一家は逆に高貴な人々と勘違いされ、スイートルームに宿泊することに。ムーミンのガールフレンドのフローレンは、憧れの映画スター、オードリー・グラマーと知り合い、プレイボーイのクラークにナンパされて大はしゃぎ。ムーミンパパは自らを伯爵と名乗り、友だちになった貴族のモンガガ侯爵と一日中語らい、贅沢な暮らしにどっぷりと浸りきる。そんな2人に反発し、豪華すぎる部屋にもなじめないムーミントロールとムーミンママは、ホテルから姿を消し……。
1945年にトーベ・ヤンソンによって発表され、日本でもアニメーションやキャラクターグッズなどで長年の人気を誇るムーミンの世界。
今回の映画はムーミン・コミックス10『春の気分』(筑摩書房)に収録されている「南の島へくりだそう」を原作に、ほかのエピソードを加えて製作されている。トーベによるムーミンの本は44言語に翻訳され、1,000万部超を売り上げているとのこと。このシリーズは1945年に1作目『小さなトロールと大きな洪水』が、翌年'46年に2作目『ムーミン谷の彗星』が、'48年に3作目『たのしいムーミン一家』を出版。3作目の『たのしい〜』が英語で出版された初めての作品だったため、1980年代まで第1作目として販売されていたそうだ。1954年にムーミンシリーズ初のコミックをロンドンのイブニング・ニュース紙にて連載を開始し、1960年以降はトーベから弟のラルス・ヤンソンに引き継がれ、20年に渡って連載が続いたとのこと。そして'70年にシリーズ最終作『ムーミン谷の十一月』が、'77年に絵本『ムーミン谷へのふしぎな旅』が出版された。
アニメーション化は、'59年にドイツでパペット・アニメ(人形のアニメ)として、'79年にはポーランドでパペット・アニメになり、同年にスウェーデン映画協会が『さみしがりやのクニット』をアニメに。日本では'60年に『ムーミン』、'72年に『新・ムーミン』としてアニメ化。'90年にはトーベ&ラルス・ヤンソン姉弟も参加し、日本とオランダの共同製作による『楽しいムーミン一家』としてアニメ化され、'91年の『楽しいムーミン一家 冒険日記』を含め、世界60カ国で楽しまれているとのこと。昭和版ムーミンはどちらも絵や世界観が原作とは異なるとして原作者トーベから批判され、トーベが製作に参加した'90年のアニメ『楽しいムーミン一家』からは絵や物語が原作により基づいた内容になっているという。筆者が子どもの頃に観ていたのは昭和版の再放送で、1作目と2作目のどちらを観ていたのかは定かではないものの、淡い記憶をたどると、純真で明るい、シンプルなファミリーものだったような。大人となった今では、原作の絵や今回の映画にある、ほのぼのとしながらペーソスが見え隠れする世界観、昔ながらのヨーロッパの絵本を思わせる色調とデザイン、詩的で風刺や影を含む物語性により魅力を感じる。ただ幼児にとっては、わかりやすい昭和版ムーミンが好まれそう、とか個人的に思ったり。
余談ながら資料を調べるうちに、あの有名な主題歌「ねえ! ムーミン」をはじめ、昭和版ムーミンでは挿入歌など多くの曲の作詞を井上ひさし氏が手がけていることに驚いた。
日本語の吹き替えは、テレビアニメの『楽しいムーミン一家 冒険日記』や映画『楽しいムーミン一家 ムーミン谷の彗星』の声優陣が参加。ムーミントロールを高山みなみ、ムーミンパパを大塚明夫、ムーミンママを谷育子、フローレンをかないみか、ミイを佐久間レイが、そして出番は少ないながら、スナフキンを子安武人、ミイの姉ミムラを小林優子が担当。ゲスト声優として、さまぁ〜ずの三村マサカズがモンガガ侯爵を、大竹一樹がプレイボーイのクラークを、そして犬のピンプルとして木村カエラが声の出演をしている。
個人的にはフィンランド語を話す本場のムーミンを字幕で観たい気もするものの、今回の字幕版は、英語版を新宿武蔵野館で上映予定のみ、とのこと。2014年のフィンランド映画祭でも英語版の上映だったそうだし、フィンランド語の字幕翻訳者がいるのかどうか謎だし、予算の面などいろいろアレなのだろうなと思いつつ。
2010年に製作を始め、2014年のトーベの生誕100周年に無事公開させたという本作。製作のきっかけと経緯について、共同で本作の監督・脚本を手がけるプロデューサーのハンナ・へミラは語る。「ソフィア・ヤンソンさんが『誰もトーベ・ヤンソンのオリジナルのコミックで映画を作ろうとしないのよ』と残念そうにしていたので、私の方で思いついたのが〈フランス〉でした。もともとフランスはコミックから映画にする、という歴史を作ってきた国ですし、そういうことができる人がいるのです。そういう話をしたところ、その方を一度紹介することになりました。そしてフランス人監督グザヴィエ・ピカルドさんと2分半の試験的な映像を手描きで作りました。それを作った2010年の段階で、ムーミンキャラクターズ社とソフィア・ヤンソンさんの方からGOサインが出まして、映画製作が始まりました」。
製作ではCGではなく、あくまでも手描きにこだわったとのこと。そして色調は、これまでにアニメーション化されたときとはまったく違う色を採用しているとも。「日本のアニメーションは子供を対象としたアニメーションだったと思うのですが、トーベ・ヤンソンのコミックは大人向けでした。大人向けのユーモアがあるものでしたので、それを意識した色使いとなっています。まず大人に観てもらい、そして子供に観てもらえるように意識しました」。
原作者トーベの姪であり、ムーミンの著作権管理会社「ムーミンキャラクターズ社」のクリエイティブディレクター兼会長のソフィア・ヤンソンは語る。「私はプロデューサーでも監督でもないので、そういう意味では映画製作に携わっていたわけではないですが、ずっと一緒に協同で手をとりあってやってきました。特に脚本のチェックと、それぞれのキャラクターがどう見えるか、やはりムーミンのなかにはそれぞれの形がきちっとあるので、その形が大丈夫かどうかという確認の部分で協力しました。無事に完成し、ムーミンが愛されている日本の皆さんにご覧いただけることをとても楽しみにしています」
本国フィンランドの配給元ノルディスクによると、国内では15万人の動員が確実とのこと。本作はフィンランド語のほかスウェーデン語、フランス語、英語でも制作され、スイス、イスラエル、中東、香港での公開も既に決定しているそうだ。そして詳細は未定ながら、すでに次回作の話がでているとも。ハリウッドやディズニーといったメジャースタジオの手法ではなく、本家本元のスタッフが納得のいくまで関わり、再始動したムーミン一家の物語。次回作も楽しみだ。
公開 | 2015年2月13日公開 TOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国ロードショー |
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制作年/制作国 | 2014年 フィンランド・フランス合作 |
上映時間 | 1:17 |
配給 | ファントム・フィルム |
原題 | MUUMIT RIVIERALLA |
英題 | MOOMINS ON THE RIVIERA |
監督・共同プロデューサー・共同脚本 | グザヴィエ・ピカルド |
プロデューサー・共同監督・共同脚本 | ハンナ・へミラ |
脚本 | レスリー・スチュアート アンニナ・エンケル ベアータ・ハリュ |
アソシエイト・プロデューサー | ソフィア・ヤンソン ベサ・ハリュ |
出演 | 高山みなみ かないみか 大塚明夫 谷育子 佐久間レイ 子安武人 小林優子 三村マサカズ 大竹一樹 木村カエラ |
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