龍三と七人の子分たち

元ヤクザの親分のジジイV.S.元暴走族のオレオレ詐欺
勢いまかせで仁義なき戦いになだれ込み……!?
北野武監督×平均年齢73歳のやくざ者(もん)コメディ

  • 2015/04/17
  • イベント
  • シネマ
龍三と七人の子分たち© 2015『龍三と七人の子分たち』製作委員会

俺たちに明日はない!? 北野武による監督・脚本・編集、平均年齢73歳のベテラン俳優陣によるコメディ作品。出演は藤竜也、近藤正臣、中尾彬、品川徹、樋浦勉、伊藤幸純、吉澤健、小野寺昭、安田顕、萬田久子、そしてビートたけしほか。引退した元ヤクザの龍三はオレオレ詐欺にうっかり騙されそうに。その元締めが、元暴走族を中心とした詐欺集団の若い奴らと知り、目に物見せてやろうと昔の仲間を招集する。
 オレオレ詐欺や食品偽装問題、超高齢化社会などの時事ネタで日本の今を風刺したかと思えば、古典的なギャグの応酬で煙に巻き、「けっ」とばかりにぜんぶ丸ごと笑い飛ばす。68歳の北野武が贈る、タフで懲りないシニアたちが大暴れするやくざ者(もん)コメディである。

かつては“鬼の龍三”という異名で畏れられたヤクザの組長、高橋龍三70歳。背中〜両腕に大輪の緋牡丹の刺青を誇らしげに背負(しょ)ってる龍三は、現在は組を引退し、一緒に暮らす息子一家から煙たがられ、「義理も人情もあったもんじゃねぇ」とボヤきながら、肩身の狭い思いで暮らしている。
 ある日、龍三は家族の留守中、「500万円用意しないと会社をクビになる」というオレオレ詐欺の電話を真に受け、金を渡しに行くも、受け取りに来た若い男は龍三の風体と言い分に恐れをなし、金も受け取らずに逃げ帰る、という顛末が。それから龍三は兄弟分のマサと街をぶらつくうちに、古い仲間のひとりであるモキチと顔見知りの刑事・村上と会い、飲みに行くことに。世間話をするうちに、自分を騙そうとした連中が元暴走族を中心とした詐欺集団だと知った龍三は、「若い奴らに勝手な真似はさせられねぇ」と、昔の仲間にハガキで招集をかける。

集まった7人の仲間たちは皆そろって白髪で、昔は懇意にしていた社長に挨拶に行くと「そうした方々とのお付き合いは……」と代替わりした社長に追い返され、「ヤクザと名乗って暴れたら逮捕だよ」と刑事に諭されて。いわゆる北野作品にあるバイオレンスのキレや凄味、ヒューマンドラマの深み、アート作品の味わいとは風合いがまったく異なりつつも、サービス精神旺盛かつ高濃度で容赦のない手法が、コテコテの盛りすぎコメディとして特化されていると考えると、ある意味、方向性が違うだけでフルパワーが同様に注がれているのだなとわかるような。
 北野武監督の手癖のようなニュアンス、生まれ育った下町の持ち味を全開にのびのびとリラックスしている感覚が伝わってくる作品だ。

中尾 彬,藤 竜也,近藤正臣,ビートたけし

龍三のもとに集まった7人の仲間たちは、昔やった悪事を点数制にして順位を割り出し、上位に役割を決めて「一龍会」を立ち上げて。親分となった龍三役の藤竜也と、若頭となったマサ役の近藤正臣によるべらんめえ口調の丁々発止のかけあいは、内容が殺伐としながらもどこかほのぼのと。寸借詐欺を生業にする元親分“はばかりのモキチ”役は中尾彬が、プルプルと震える手で愛用の銃をかまえる元親分“早撃ちのマック”役は品川徹が、数々の敵を斬り捨てた仕込みステッキも今やシケモクを拾う道具となっている元親分“ステッキのイチゾウ”役は樋浦勉が、五寸釘をダーツのように投げて刺せるものの心臓病で入院中の元親分“五寸釘のヒデ”役は伊藤幸純が、カミソリで喉を切り裂く使い手だったはずが今では自分のヒゲをそるのも危うい元親分“カミソリのタカ”役は吉澤健が、終戦ちょい前生まれなのに自分が特攻志願兵だったと思い込み右よりの活動をしている元ヤクザ“神風のヤス”役は小野寺昭が、普通の暮らしを望みつつ父・龍三に振り回される息子・龍平役は勝村政信が、キャバクラのママ役は萬田久子が、それぞれに体を張ってコミカルに演じている。またマル暴の刑事・村上役のビートたけしとして、「いまヤクザになるとこうなる」と龍三たちを諭すときの言葉は、自身のバイオレンス映画の設定や内容がいかに“あり得ない”ことであるかをシニカルに語るようでもあり、ユニークだ。
 個人的にツボだったのは、元暴走族のヘッドで京浜連合のトップ・西役の安田顕。試写で観た時、園子温監督作『新宿スワン』と本作をたまたま2作品続けて観たところ、安田顕が「主人公と敵対する組織の頭(社長)」というまるきり同じ立場の役柄で。表現力、可笑しさ、情けなさ、ヤラれキャラ、女性に嫌われない感じとか、確かによくハマるなあ……と、しみじみと。

2015年4月14日に行われた舞台挨拶付き試写会にて、北野監督は超ベテランのキャストと本作の撮影現場について、笑いながら語った。「こうやってみんなで揃うと、戦没者慰霊祭みたい(笑) 楽しい現場だったけれど、心配したこともあった。『よーいスタート』が聴こえなくて『えっ?』って返しちゃう人がいたり、カンペが見えないって言うから大きくしたらどんどん大きくなってとんでもないでかさになったり、衣装をそのまま着て帰っちゃう人がいたり、何をとち狂ったか、衣装さんをくどいているおじいちゃんがいたり(笑)」

龍三と七人の子分たち

高齢化社会の中、日本の映画やドラマなどでもシニアが主役の作品が増えつつ、その内容のほとんどは戦争関連やヒューマンドラマや時代劇という流れがあったものの、2014年にテレビドラマ化された有川浩の原作による『三匹のおっさん』が高視聴率で大好評となったことで、大きく流れが変わったように思える。ありていに言うと、「シニアによる説法の説得力とアクションのカッコよさを打ち出すのはウケがいいぞ」という製作側の含み笑いも感じるものの、シニアの存在意義と大切さをエンターテインメントとして広く知らしめるのは単純に素敵なことだな、と。
 『三匹のおっさん』は2015年4月から続編『三匹のおっさん2〜正義の味方、ふたたび!!〜』として再びドラマ化され、9月には別メンバーで舞台化もされるとのこと。また個人的に、大竹しのぶと室井滋の共演による'15年1〜2月のNHK BSプレミアムのドラマ『アイアングランマ』も楽しかった(ドラマ『NIGHT HEAD』や映画『アナザヘヴン』を手がけた飯田譲治の作・演出)。
 海外ではシニアのラブ・ストーリーやアクションものがたくさん製作されていることは周知のことで、痛快なアクションといえばブルース・ウィリス主演の'10年の映画『RED/レッド』や'13年の続編『REDリターンズ』も(引退した元スパイが大暴れ、という展開は『アイアングランマ』も同じ)。ベテランの魅力的な俳優陣が「まだまだいくぜ!!!」とばかりに暴れまくる様子はたのもしくほほえましく、人生の先輩方が折れない様子は「なんだかいいな」と素直に元気になる感覚だ。

龍三と七人の子分たち

元ヤクザのジジイV.S.元暴走族のオレオレ詐欺、勢いまかせの仁義なき戦いはどこへ行く? 前述の試写会で本作について、「自分の映画はちょっと暴力映画が多いですけど、たまにはお笑いの映画をと思って撮っていました。とにかく最後まで楽しんで下さい!」と語った北野監督。また「この映画がヒットしたら2(ツー)を、『龍三と七人の幽霊たち』で」とブラックジョークも。“ジジイパワー”炸裂なるか? 無謀なシニアたちが無鉄砲に突き進む姿を無茶苦茶カラフルに描くコメディ作品である。

作品データ

龍三と七人の子分たち
公開 2015年4月25日公開
丸の内ピカデリーほかにて全国ロードショーー
制作年/制作国 2015年 日本
上映時間 1:51
配給 ワーナー・ブラザース映画/オフィス北野
原題 原題
脚本・監督・編集 北野 武
音楽 鈴木慶一
出演 藤 竜也
近藤正臣
中尾 彬
品川 徹
樋浦 勉
伊藤幸純
吉澤 健
小野寺 昭
安田 顕
矢島健一
下條アトム
勝村政信
萬田久子
ビートたけし
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。