リリーのすべて

世界で初めて性別適合手術を行った画家とその妻
2人の苦悩と選択、類まれな信頼関係と愛情について
充実のスタッフとキャストが実話をもとに繊細に表現

  • 2016/03/11
  • イベント
  • シネマ
リリーのすべて© 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

1930年、世界で初めて男性から女性への性別適合手術を行ったデンマーク人画家と、その妻の実話をもとにした物語。出演は『博士と彼女のセオリー』のオスカー俳優エディ・レッドメイン、2016年の第88回アカデミー賞にて本作で助演女優賞を受賞したアリシア・ヴィキャンデル、『007』シリーズのベン・ウィショー、『マジック・マイク XXL』のアンバー・ハード、『君と歩く世界』のマティアス・スーナールツほか。原作はアメリカの作家デイヴィッド・エバーショフが2000年に発表し、世界約20ヵ国で翻訳出版されている処女作『The Danish Girl(邦題:世界で初めて女性に変身した男と、その妻の愛の物語)』、監督・製作は『英国王のスピーチ』『レ・ミゼラブル』のトム・フーパーが手がける。デンマークで風景画家のアイナー・ヴェイナーは、肖像画家の妻ゲルダに女性モデルの代役を頼まれたことを機に、自分の内面に女性がいると気づき……。仲睦まじい夫妻が模索し悩み抜いた末に、夫の意志と選択を尊重し、妻が心からサポートするに至るまで。ひとりのトランスジェンダーの女性と愛情深いパートナーを描く、「とてつもない次元の無条件の愛の物語」(フーパー監督)である。

エディ・レッドメイン

1926年、デンマークの首都コペンハーゲン。結婚6年目の風景画家のアイナー・ヴェイナーと肖像画家の妻のゲルダは仲睦まじく暮らしている。ある日、ゲルダがバレエダンサーの肖像画を仕上げるため、代理のモデルを頼まれたアイナーはしぶしぶストッキングとサテンの靴を履き、白いチュチュを体に沿わせて協力。そのとき不思議な恍惚感に包まれたアイナーは、女性用の下着やネグリジェに興味を示すように。ただの遊び心だと受け止めたゲルダは、アイナーにメイクしてドレスを着せ「アイナーの従妹リリー」として舞踏会に一緒に出席。それ以来アイナーは、女性のリリーとして過ごす時間が増えていき、心と身体が一致しない自分に困惑と苦悩を深めていく。そんな折、ゲルダの描いたリリーの肖像画が認められパリで展覧会を、というオファーを受け、夫妻はパリへ移住。どうすべきか模索するなか、ひとりの婦人科医と出会う。

トランスジェンダーの女性だけを主眼においたストーリーではなく、夫婦それぞれの苦悩、アイナーとリリーとゲルダの関係の変容を丁寧に描いていることが大きな特徴である本作。自分自身や居場所についての違和感、愛する人を大切に思いながらも自分らしさを諦めないこと、愛と信頼についての物語となっているため、特異なテーマでありながらたくさんの人たちに訴えかける内容となっているのが魅力だ。
 脚本を執筆したルシンダ・コクソンはこの物語について語る。「(原作で)特に感銘を受けたのは、ふたりの画家の結婚と愛を描いている点。そして、特殊なテーマを通じて普遍的なテーマを語っている点。ふたりは愛し合うカップルであり、画家としてともに作品を作り上げる関係でもあり、絶えずお互いを解放させようとしていた。問題は、結婚がどれだけの変化を許容できるのかということだった」
 そしてフーパー監督は映画化についてこのように語っている。「素晴らしい脚本に惚れ込んだところからすべてが始まったんだ。これはルシンダ・コクソンが’08年後半に書いた脚本で、当時私は『英国王のスピーチ』の準備の初期段階にいた。僕は感傷的な人間ではないけれど、美しい脚本に深く感動したし、読んでいる間に3回は泣いたよ。それから7年間ずっと映画化したいと思い続けて、やっと実現したんだ」

エディ・レッドメイン,アリシア・ヴィキャンデル

エディは愛妻家の画家アイナーからトランスジェンダーの女性リリーへ、変化してゆくさまを丁寧に表現。ゲルダを愛しながらも自分の内面を見つめて苦悩し、決断するまで、という繊細な表現に取り組んだエディは役作りについて語る。「脚本をもらったあと、まずトランスジェンダーのコミュニティーの人々に会うところから始めた。そこから本当の意味での“教育”が始まったんだ。自分がいかに無知だったかを痛感したし、会った人全員が本当に寛大で感激したよ。個人個人の話を聞くうちに、1つにくくれるものではなく、人それぞれ違った体験をしているということに気づいた。これが役作りにおけるスタート地点だったよ。それから、リリーの歴史を学ぶために、彼女の死後に発表された回顧録『Man into Woman(邦題:変えられた性 男から女になったデンマーク画家の記録)』と、(原作である)デイヴィッド・エバーショフの小説『The Danish Girl』を読んだ。そうして、今回トランスジェンダーの人々と会って学んだことや、リリーの歴史を調べて見つけた情報などを全て役作りに取り入れて、自分自身の中に存在するリリー的な要素を見つけようとしたんだ」
 アイナーの妻からリリーの良き理解者となるゲルダ役はアリシアが深い情愛をあたたかく。苦しみながらもあらゆることに挫けることなく相手に寄り添い、愛情を注ぎ続ける姿に胸を打たれる。監督は語る。「ゲルダは夫であるアイナーを失ってしまうリスクがあるにも関わらず、リリーになろうとする彼女をサポートした。これはとてつもない次元の無条件の愛だ」
 また舞踏会でリリーを見初めるヘンリク役はベン・ウィショーが、夫妻の友人でバレエダンサーのウラ役はアンバー・ハードが、アイナーの幼なじみでゲルダの相談役となるパリの画商ハンス役はマティアス・スーナールツが、それぞれに演じている。

原作者のデイヴィッド・エバーショフは、プリンストン大学、ニューヨーク大学、コロンビア大学でライティングを教えている人物。またアメリカの大手出版社ランダムハウスのバイス・プレジデント兼編集長であり、フィクション、ノンフィクション、詩集など幅広い作品の編集を担当している。エバーショフ氏は本作の原作『The Danish Girl』で小説家としてデビューし、ラムダ賞トランスジェンダー・フィクション部門賞、アメリカ芸術文学アカデミー(AAAL)のローゼンタール基金賞など受賞多数。その後’02年に2作目の『Pasadena』、’09年に世界で75万部を販売した最新作『The 19th Wife』などを発表。アメリカのLGBTQの雑誌『Out』が毎年選ぶ「影響力のあるLGBT 100人」に2度選出された経験もあるそうだ。

エディ・レッドメイン

アメリカの現地時間2015年11月22日に、大統領官邸(ホワイトハウス)でも試写が行われた本作。その前日、現地時間11月21日にロサンゼルスで開催された本作のプレミアイベントにて、ファンに向けて語ったスタッフやキャストのコメントをここにご紹介する。 
エディ・レッドメイン 
「観客のみなさんも僕が初めて脚本を読んだときと同じように感じてくれたら嬉しい。これまでに読んだり、観たりしてきたどんなラブ・ストーリーとも違う。これは、本当の自分になるための勇気についての物語でもある。“自分自身になる”というのは、すごく簡単なことのように聞こえるけれど、それはとても勇気がいることだ」 
アリシア・ヴィキャンデル 
「エディと私が何度も話し合っていたことなのだけれど、極限とも言える素晴らしいラブ・ストーリーであると同時に、リリーやゲルダと同じような経験をした人たちにとっても、真実と思えるように忠実に描かなければと思ったわ」 
トム・フーパー監督 
「脚本に惚れ込んで、すぐにインターネットで調べたんだ。でもリリーやゲルダについてはほとんど情報がのっていなかった。なぜこの物語が歴史から見過ごされてしまっているのだろう、1930年代に史上初めての性別適合手術が行われたということを誰が知っていただろうか……この物語を人々に伝え、彼女らに敬意を示したかったんだ。それと今、僕はとても興奮しているんだよ!なぜかと言うと、明日ワシントンに行き、ホワイトハウスで『リリーのすべて』の試写をやるんだ。この映画がリリーたちの物語を世界に大きく広め、彼女たちのもつ権利のさらなる拡大につながれば嬉しいと思っているよ」 
原作者デイヴィッド・エバーショフ 
「この映画が“本当の自分自身になる”、“偽りの人生は人生ではない”ということについて、観た人がインスパイアされることを願っている。自分の内面を見つめ、本当の自分に気づくまでは偽りの人生を生きているのだということを、リリーは示してくれた。彼女が私たちに残してくれたものを、エディの演技を通してみなさんに伝えられたら良いなと思っています」

作品データ

リリーのすべて
公開 2016年3月18日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 イギリス
上映時間 2:00
配給 東宝東和
映倫区分 R15+
原題 The Danish Girl
監督・製作 トム・フーパー
脚本 ルシンダ・コクソン
原作 デイヴィッド・エバーショフ
出演 エディ・レッドメイン
アリシア・ヴィキャンデル
ベン・ウィショー
アンバー・ハード
マティアス・スーナールツ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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