フラワーショウ!

コネも経験も資金もない地方出身の女性が
世界的なランドスケープ・デザイナーに!
実話をもとに自然への思いと夢の実現を描く

  • 2016/07/08
  • イベント
  • シネマ
フラワーショウ!© 2014 Crow’s Nest Productions

世界的に活躍するランドスケープ・デザイナーとして、自然と調和し、瑞々しい生命力を感じさせる庭園を手がけるメアリー・レイノルズの実話をもとにした物語。出演はアメリカのTVドラマ『シェイムレス 俺たちに恥はない』のエマ・グリーンウェル、映画『アバウト・タイム 〜愛おしい時間について〜』のトム・ヒューズ、2016年公開予定のハリー・ポッターの新シリーズ『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』のクリスティン・マルツァーノほか。監督・脚本は弁護士から映画監督に転身し、処女作のインディペンデント映画『Fiona’s Fortune』(未)を製作したヴィヴィアン・デ・コルシィ。アイルランドの田舎で育ったメアリーは、著名なガーデン・デザイナーのもとで働くべく首都ダブリンへ。そこで働き始めるが……。地方出身の女性が都会に出て、コネも経験も資金もなく信じていた人に裏切られ、悪戦苦闘しながらも自らの能力とアイデアで大きな成功を掴んで自立する――。アイルランドやエチオピアの雄大な自然を鮮やかに映し出し、逆境下でもハートで考え仕事に恋に体当たりで進んでゆく女性の実話をもとにした、爽やかなサクセス・ストーリーである。

アイルランドの田舎で育ったメアリーは、子どもの頃から自然とともに過ごし、植物や土地に敬意を抱きながら過ごしてきた。そして大人になった彼女は、“自然を活かした庭をデザインしたい”という夢をもつように。そしてメアリーは首都ダブリンに出て、有名なガーデン・デザイナーであるシャーロットのアシスタントに応募し採用される。そこで働き始めると、実質的にメアリーが手がけたデザインのすべてはシャーロットの名前で発表され続け、あげくには長年描き溜めていたデザインノートを盗まれた上クビにされてしまう。メアリーはショックを受けながらも、世界中から注目されるチェルシー・フラワーショーで金メダルを獲ることを思い立つ。そしてコネも資金も経験もないなか情熱と知恵をもって、メアリーは2000人の応募者の中からわずか8枠のひとりとして見事合格。出展用の庭園を造るべく、ヒッピー風の石職人や密かに思いを寄せる植物学者クリスティに造園を手伝ってほしいと相談するも、彼らの所属する自然保護団体フューチャー・フォレストの考えと異なる、という理由からなかなか引き受けてもらえず……。

エマ・グリーンウェル

2015年のダブリン国際映画祭にて観客賞に選ばれた作品。映画として規模が小さくキャストは有名ではない若手俳優が中心で、監督も映画界でのキャリアはほとんどないながら、ストーリーと映像、実話ベースというエピソードが相まってとても魅力的な作品だ。どこまでが実話かというと、有名デザイナーに弟子入りしてアイデアを盗まれるエピソードはフィクションで、あとはチェルシー・フラワーショーのくだりもクリスティに恋をしたことも実話だそう。劇中でチェルシー・フラワーショーに出展した庭も、実際にメアリーが2002年に出展した時と同じクリスティを含むメンバーが再集結し、同じデザインで同じ手段によって庭園を再現したそうだ。この素晴らしい庭園は劇中で何度も映されるので、どうぞお楽しみに。
 アイルランドの地方出身の女性が都会に出て、自分の能力で自立する、というストーリーの内容としては現在日本で公開中の映画『ブルックリン』と共通する風合いも。作品の規模自体は本作の方が断然小規模ながら、本作では自然の美しさと大切さを軸に伝えていること、実在する女性をモデルに実話ベースのお仕事サクセス・ストーリーであることが大きな特徴。またコルシィ監督にとって本作が大きな1歩となることは間違いなく、今後の活躍も楽しみだ。

ランドスケープ・デザイナーを目指すメアリー役は、エマが夢にまっすぐに向かってゆく女性を生き生きと好演。お人好しのため他人に利用されたり、アイデアはあってもキャリアもコネも資金もないことでスムーズにはいかなかったりすることに悩みながらも、時には突飛に時には大胆に行動を起こしていく、ずば抜けたポジティブ・パワーがよく伝わってきて清々しい。造園の相談をする植物学者クリスティ役は、トムが自らの思想に頑ななほど誠実であろうとする男性として。メアリーが弟子入りする有名なガーデン・デザイナーのシャーロット役は、クリスティンが調子よくずうずうしく、部下の手柄は自分のもの、自分の失敗は部下のもの、というよくいるタイプの上司として演じている。世間知らずで気のいいメアリーに助言しサポートしてくれる友人、ヒッピー風の石職人たちや、アレルギーに困っている電話番の女性、エチオピアの風習・風俗に生きるアフリカの人々など、味のある人物たちが登場し、物語の世界を群像劇としても飽きさせない内容となっている。

フラワーショウ!

メアリーがイギリスの権威のあるチェルシー・フラワーショーに2002年に応募した際は、キャリアも資金も彼女よりしっかりあるだろう2000人の応募者の中から、彼女は見事8人の出展者のひとりに選出、というエピソードを描く本作。そこから実際に出展するためには、庭園の制作費関連25万ポンドもの資金を用意→ 80日後に施工開始→ 3週間で庭園を完成、という一連の資金調達・段取り・制作のすべてを応募者自身がやらなければならない、という高いハードルに直面して。出展者に選ばれたのはいいものの、デザインと思いはあってもコネも資金も経験もないメアリーが一体どうやってこれだけのことをこの短期間に成し遂げるのか、ということがひとつの見どころとなっている。当時チェルシー・フラワーショーにどうしても参加したかった理由について、メアリー本人はこのように語っている。「自分のコンセプトやデザインを表現したくても、そうさせてくれるクライアントがいなかったからです。だからチェルシー・フラワーショーで自分のアイデアを皆さんに見せることができればと考えました。そこには世界中からガーデンに関するアイデアが集まり、洗練された形になっていると知っていましたし、『人々の“庭”に対する姿勢を変えたい』という思いをただ頭ごなしに言うのではなく、デザインで伝えた方が人の心に訴えるのでは、と。何かを変えるきっかけになれたらと思ったんです」
 メアリーの庭園は、芽吹いて育ち、咲いて実り、種を落として枯れた後にまた芽吹く、という移りゆく植物の姿やサイクルそのものを大切にしていて。そのために出展時は、自身の企画した庭園が型破りとなっていたことについてメアリーは語る。「チェルシー・フラワーショーを主催する英国王立園芸協会はすごくルールに厳しくて……例えば『花は完璧に咲いていなければいけない』というルールがあります。でも私は、『生きているものもあれば死んでいるものある、枯れた葉っぱがあったって自然としては普通のことだ』と思いながら庭を作っていたので、そういった面では要項を破っていました」
 500種類の野草に樹齢200年のサンザシの木、昔ながらの手法で石を組んだゲートで構成されたメアリーの庭園“ケルトの聖域”は、「平凡な日常を忘れ、自然の力を感じられる魔法の地」というコンセプトで制作。ほかの出展者たちによる、色とりどりの花や美しい植物を用いて優美な演出が施された庭園と比べると華やかさには欠けるものの、メアリーの庭園はフラワーショウ!とコンセプトの通り、見る者に力強さや郷愁を感じさせ、そこに訪れる人を穏やかなエネルギーで満たすパワースポットであるかのように神秘と親しみを覚える庭園になっていて。劇中の庭園は実際にメアリーが2002年に出展した時と同じメンバーが再集結し同じ植物と建材で再現され、映画の観客もメアリーの本物の庭園を疑似体験できるのが楽しい。メアリーが2002年のチェルシー・フラワーショーに応募した時、願書にはこのように記したそうだ。「人は自然の美しさを求め世界中を旅します。しかし、現代の庭園は自然が本来持っている素朴な美しさを見失っている……この素晴らしい自然が永遠に失われる前に、私たちはそれぞれのやり方で守っていくべきです」

コルシィ監督は2006年にアイルランドの西コークにあるメアリーがデザインした庭園でメアリー本人と出会い、本作の脚本を書き始めたとのこと。監督は異色の経歴の持ち主で、現在に至るまでの経緯はユニークかつエネルギッシュだ。彼女はアイルランド最大の総合大学、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで法学を専攻し、卒業後はアメリカに渡りシカゴのイリノイ工科大学で法学の博士号を取得。イリノイ州弁護士会へ入会し、シカゴでコーポレート・ファイナンスを扱う弁護士となり法律事務所でM&Aやベンチャーキャピタルなど大規模な貸付案件を担当していたとのこと。その後、金融機関の融資担当部門に勤めた後、執筆活動をするうちに政治スピーチ原稿の作成を手がけるようになり、1992年のクリントン大統領の選挙運動の先遣隊リーダーを務めたそうだ。そして1998年に処女作のインディペンデント映画『Fiona’s Fortune』(未)の脚本を執筆し、監督兼製作を担当。この作品が認められ全米監督協会の会員になり、2001年に16年間のアメリカでの生活を終えてダブリンへ。監督はアイルランドで弁護士を続けながら、2006年にメアリーと出会ったことが本作を作る転機となったそうだ。
 脚本を執筆した後、監督は自らが製作したティーザー映像『Little Mary』やケルト民族の聖域を模した庭園の模型などを用いて映画製作の資金を集め、本作を完成させたとのこと。その経緯は、劇中でメアリーが「こういう庭を作りたい!」という夢とビジョンはあるけれど資金とキャリアがない、というところから資金を集め庭園を完成させたこととよく重なる。実際にメアリー本人も、劇中に登場するメアリーは自身とコルシィ監督をミックスしたような人物だと語っている。この映画と監督について、メアリーはこのように語っている。「私の一番伝えたいことである自然の美しさや大切さがしっかりと感じられ、監督の誠実さが伝わってきました」

フラワーショウ!

メアリーはその後、2003年に英国政府の依頼により、ロンドンのキュー王立植物園(世界遺産)の野生庭園の設計を手がけ、同年にアイルランド政府の依頼でダブリンのファームリーハウス(官庁)の庭園に彫刻庭園を建造。’04年からは公共施設や国内外の個人宅のさまざまなガーデン・デザインを手がけ、’08〜’12年には年間平均視聴率が36%のアイルランドで大人気のガーデニング番組『スーパーガーデン』の司会を担当。’11年に著名なランドスケープ・デザイナーであるダーマッド・ギャビンが選出する「世界で最も偉大なランドスケープ・デザイナー10人」に、’14年にランドスケープ・アーキテクト通信が選出する「知っておくべき世界の7人の女性ランドスケ―プ・デザイナー」に選出。’16年4月にメアリーはランドスケープ・デザインに関する初の著書『THE GARDEN AWAKENING(庭の目覚め)』を出版したとのこと。当時28歳だったメアリーは現在42歳。その後、子どもを2人産み、子育てをしながらランドスケープ・デザイナーとしての仕事を継続してきたそうだ。本を執筆するうちに得た気づきと、新たに始めている活動についてメアリーは語る。「今まで私が作ってきた庭は、自然との調和を考えてデザインしてきたつもりだったものの、デザインがどれだけ優れていたとしても、自然自体が本来壊れたいと思っているのでコントロールをしようとしても無理なのですよね(移ろうものをデザインしようとするのは……という意味か)。そう気づいてから、自分が自然について見落としているものが何なのかを5年間考え続けました。その結果、昔ながらの人と自然との関わり方に戻ろうと。そのことについて記したこの本をきっかけに、自然との関わり方に革命が起きて、人が土地や自然の守護者になると良いと思っています。時間も差し迫っているので(自然破壊が急激に進んでいる現状か)、現在はその土地の自然がありのままで育っていけるように手助けとなる活動をしています」

そういえば、夢ってこう叶えるんだった、と思い出させてくれる本作。根回しも段取りも何も知らないからこそエイッとできてしまう、この感じ。多くの人を巻き込むことのできる、社会や世界にプラスとなるビジョン、能力と熱意と誠意、くじけない意志をもち続け、やり続けることさえできれば、夢はいつか必ず叶う、というこの原点。
 そこから経験を積み新たな気づきを得たメアリーは、現在の自然に対する考えについてこのように語った。「サバンナのような特別な生態系でない限り、植物が望む形は森林です。森林は、何百年前から非常に安定した生態系であって、微生物も動植物もそこに住むことができます。成長した森林は人間で言うと大人のようなものですので、(森も大人になるまでは)人がそこまで育てていかなければいけません。現在の産業化した世の中は、自然に対しても人に対しても有毒なことが多いと感じます。自然を増やし、私たちもそこから癒しをもらえばいいのだ、という非常にシンプルな考え方にいきついたところです」 最後に、この映画についてのメアリー本人のメッセージをご紹介する。「この映画が、皆さんが大切にしている自然をさらに大事に育(はぐく)むきっかけになればと思います」

作品データ

フラワーショウ!
公開 2016年7月2日より、恵比寿ガーデンシネマほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2014年 アイルランド
上映時間 1:40
配給 クロックワークス
原題 Dare to be wild
監督・脚本 ヴィヴィアン・デ・コルシィ
出演 エマ・グリーンウェル
トム・ヒューズ
クリスティン・マルツァーノ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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