ハドソン川の奇跡

クリント・イーストウッドがトム・ハンクスと初タッグ
航空事故でベテラン機長が155人の命を守った実話を映画化
市井の人々の意志と行動、助け合う姿を称える人間ドラマ

  • 2016/09/23
  • イベント
  • シネマ
ハドソン川の奇跡© 2016 Warner Bros. All Rights Reserved

クリント・イーストウッド監督がトム・ハンクスを迎え、2009年1月15日にニューヨークで実際に起きた航空事故と、その後の顛末を映画化。共演は映画『ダークナイト』のアーロン・エッカート、舞台や映画やドラマで活躍する女優ローラ・リニーほか。ニューヨークの上空850mで155名を乗せた航空機USエアウェイズ1549便の全エンジンが停止。機長の機転と技術によりハドソン川に緊急着水し、乗員・乗客が全員生還したことから、機長は英雄として称えられるが……。アメリカで大いに称えられた出来事と、知られざるその後の事故調査について、実話をもとに描く。アルゴリズムやシミュレーションでは計り知れない人間の底力の証明、事故現場にいち早く駆けつけた一般の人々の協力による迅速な救助など、いざという時の人の姿や結束が胸に響く人間ドラマである。

トム・ハンクス,アーロン・エッカート

2009年1月15日、真冬のニューヨーク上空850mで155名を乗せた航空機にカナダガンの群れが衝突し全エンジンが停止。管制室から近くの空港に着陸するよう指示があるなか、機長サリーはハドソン川への不時着を決断する。事故発生から着水まで208秒(3分28秒)、状況を判断し技術的に難易度の高い水面への不時着を成功させ、乗客・乗員の“全員生存”を成し遂げる。この出来事は「ハドソン川の奇跡」と呼ばれ世界中から注目され、全米の人々やメディアから英雄としてサリーが称賛されるなか、事故調査委員会の調査と聞き取りが始まる。川への緊急着水が正しい判断だったのか、近くの空港へ着陸すべきではなかったのか、徹底した追及が続く中、世論も揺れ始め……。

7年前に実際に起きた航空事故をもとに、機長と副操縦士が直面した事態と顛末、事故の際に人々が迅速に助け合った姿を描く。客観的な視点で過度に演出することなく、机上の分析や追及だけを至上とせずに、人の生身の意志と行動を称える内容がくっきりと伝わってくる。この航空事故を「ハドソン川の奇跡」として人々が嬉しそうに語り、その英雄として称えられることについて、サレンバーガー機長本人は語る。「この事故はアメリカの歴史において、いくつもの世界的な懸案事項を抱えていた時期に起きました。9・11のあとの時代で中東に派兵していて、2008年には金融危機があり……人々は不安でいっぱいだったのです。そういう時期にこの事故がマンハッタンで起き、私たちは生還しました。それが人々に希望を与えたんじゃないでしょうか。たとえ、事故に直接関係のなかった人々にも」
 イーストウッド監督はこの逸話に引きつけられたことについて語る。「事態が悪化している最中に理性を保てる人物、パニックにならずに問題に対処できる人物は、優れた人格者であり、映画で描くには興味深い対象です。でもこの事故においては、あれだけの人命を救ったにもかかわらず、機長の判断を疑問視する事故調査が始まったときに、彼はほんとうの問題にぶつかったんだと私は思います」

アーロン・エッカート,トム・ハンクス

サリーことチェスリー・サレンバーガー機長役はトム・ハンクスが、誠実なベテランの操縦士として。事故は回避したものの精神的なショックに苦しみ、事故調査の追及を受け「あの判断は正しかったのか」と自問する姿を静かに表現している。ハンクスは脚本を気に入り、イーストウッド監督との初タッグを喜び、約6年ぶりにやっととれた休暇を延期して本作の撮影に臨んだとのこと。監督も「サリー役に最初に思い浮かべた」俳優のなかにハンクスがいたそうで、このようにコメントしている。「スケジュール的に無理だろうと思っていましたが、彼は脚本を読んで気に入り、スケジュールを空けてくれました。そして現場での彼はすばらしい、じつに見事なプロで、彼との仕事はある意味、すごく楽でしたよ」
 事故時にサリーと同乗していた副操縦士のジェフ・スカイルズ役はアーロン・エッカートが、サリーを信頼し正しい判断だったと確信している仲間として、サリーの妻ローリー役はローラ・リニーが、夫を信じながらもマスコミの取材攻めと急な状況の変化に戸惑う家族として演じ、また事故調査では国家運輸安全委員会(National Transportation Safety Board、通称NTSB)の調査チームのメンバーとしてマイク・オマリー、ジェイミー・シェリダン、アンナ・ガンが、サリーとジェフ側のメンバーとしてホルト・マッキャラニー、クリス・バウアーが出演している。
 注目は、真冬の凍てつく川に着水した沈みゆく機体から155人の乗客・乗員が速やかに救助されるシーンだ。物語の中でとりわけ胸を打つこのシーンには、当日に実際に救助活動に従事した人々が多く出演している。いち早く救助に向かったフェリーボート“トーマス・ジェファーソン号”のビンセント・ピーター・ロンバルディ船長、ブルックリンのフロイド・ベネット飛行場を基地とするニューヨーク市警(NYPD)のスキューバ空海救助チームに所属するマイケル・デラニー巡査とロバート・ロドリゲス刑事、ヘリから海へ飛び込むダイバーたち、当日に現場で救出された人々に毛布や衣類を配った赤十字職員やボランティアたちが今回の撮影で自分たちの行動を再現したそうだ。さらに劇中には、赤十字のニューヨーク都市圏支部の支部長クリス・メルカード、ニューヨーク地区で活躍する数人のニュースキャスターたち、フライト・シミュレーターのシーンでは本物のパイロットたちが出演している。
 サレンバーガー機長本人は語る。「あの日、誰もが自発的に行動を起こして団結し、それぞれが見事に自分の役割を果たしました。だからこそ、私たち全員の命が救われたのです。そしてだからこそ、私たちはあの日とあのフライトをずっと覚えているんじゃないでしょうか。感謝すること、そして祝うことがたくさんありますから」

ハドソン川の奇跡

原案はサレンバーガー機長本人と「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のコラムなどを手がける作家ジェフリー・ザスローによる著書『Highest Duty』(邦題『機長、究極の決断』)に基づいている。が、映画では本には記されていない、機長本人が製作スタッフに語った事故の後に起きたことにフォーカスして脚本を執筆。事実と異なる点としては、実際にNTSBの聴聞が始まったのは18か月後だったものの、映画では事故直後から調査開始と設定していることだそう。映画では機長本人の心情や、救助活動の様子など、関わった人たちのことを丁寧に描写している。サリー機長本人はハンクス主演、イーストウッド監督による映画化について「まさにドリーム・チームです」と喜び、映画の感想として「とても気に入ったよ。とても感動的な経験だったよ」と嬉しそうに話している。

映画の最後にはサリー機長と妻ローリー、本物のサレンバーガー夫妻が、生還した人々と再会する映像も。イーストウッドはこの映画のテーマについて語る。「この映画で、悪い状況からでもよい結果は生まれるということをお伝えできていればいいなと思っています。何かが悪い方向に進んでも、サレンバーガー機長のように、ほかの人々のために、多くのこと――自分の時間、努力、さらに命さえ――が犠牲になるかもしれないというリスクを冒す人物がいるということを知ってほしい。この映画は『SULLY』という原題ですが、サリーだけではなく、実は私たち誰もがもっている最大の長所を描いているのです」

作品データ

ハドソン川の奇跡
公開 2016年9月24日より、丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2016年 アメリカ
上映時間 1:36
配給 ワーナー・ブラザース映画
原題 SULLY
監督・製作 クリント・イーストウッド
脚本 トッド・コマーニキ
原作 チェスリー・“サリー”・サレンバーガー
ジェフリー・ザスロー
出演 トム・ハンクス
アーロン・エッカート
ローラ・リニー
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。