天使にショパンの歌声を

1960年代のカナダ・ケベック州で変革のなか
ひたむきに生きるシスターと生徒たちを描く
ピアノ演奏や合唱が快い、心あたたまる人間ドラマ

  • 2017/01/06
  • イベント
  • シネマ
天使にショパンの歌声を© 2015-9294-9759 QUEBEC INC. (une filiale de Lyla Films Inc.)

リストの「愛の夢 第3番」やショパンの「別れの曲」をはじめ、少女たちのピアノ演奏や合唱があたたかく響くヒューマンドラマ。監督はカナダを代表する女性監督で『天国の青い蝶』『翼をください』などのレア・プール。出演はカナダでテレビや映画、舞台などで幅広く活躍するセリーヌ・ボニアー、2012年にカナダを代表する未来の音楽家30人の1人に選ばれたプロの若手ピアニストであり、本作が女優として長編映画デビューとなるライサンダー・メナードほか。1960年代のカナダ・ケベック州にて、音楽教育に熱心な寄宿学校が廃校の危機に。修道院のシスターで校長のオーギュスティーヌは、メディアに音楽教育の素晴らしさを伝えるべく生徒たちとともに催しを企画する。それまでに教会や修道会が運営していた学校の多くが教育委員会直轄の公立学校として民主化していったことを含む、ケベック州で政治、経済、教育、宗教が大きく変化した「静かなる革命(La Revolution Tranquille)」の時代を背景に、変革と困難に際し、対立したり支え合ったりしながらひたむきに生きるシスターと生徒たちの姿を描く。ライサンダーのピアノ演奏やシスターと生徒たちの合唱が快い、心あたたまる人間ドラマである。

天使にショパンの歌声を

1960年代のカナダ・ケベック州。政府の方針により公立高校が増加したことから、修道院の経営による音楽教育に熱心な名門女子校が存続の危機に。シスターで校長のオーギュスティーヌは、修道院の総長から音楽をやめて代わりに良妻賢母になるための教育を、と言われるが、それを拒否。総長が採算の合わない学校として閉鎖を思案する中、オーギュスティーヌはメディアに音楽教育の良さを訴えて世論を動かし学校を存続させようと決意する。そんな折、オーギュスティーヌは転校してきた自分の姪アリスに、ピアニストとして天賦の才があると知り期待を寄せるが、アリスの気ままな振る舞いで校内はトラブル続きに。そしてメディア関係者を招待した音楽イベント当日を迎えるが……。

クラシックの名曲の調べと、シスターと少女たちの合唱が心地よく、変革や困難のなかシスターと生徒たちがともに歩んでいく様子をやさしい目線で描く本作。シンプルなストーリーの小品ながら、真っ白な雪景色のなか黒衣のシスターたちが無邪気にスケートをする姿や、生徒たちが階段に並んでドビュッシーの「家なき子たちのクリスマス」を合唱しゲストを迎えるシーンなど、ふとした映像がかわいらしく観ていて和む感覚だ。シスターのオーギュスティーヌ校長が生徒たちの行列を引き連れて歩くところなど、清楚で儚げな立場の女性たちが体育会系の少年たちのように力強く行進するさまも、どこかユーモラスで面白い。モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」やフォーレの「レクイエム 楽園へ」といった明るい旋律の合唱曲ほか、劇中の選曲についてプール監督は語る。「選曲にメッセ―ジは特にありません。あまり難解でないもの、表情豊かなもの、そして、正直に言うと私たちが好きなものを選びました。この年頃の女の子たちが演奏できて、修道会が実際に教えられるものはそう高度なものではないはずなので、親しみやすい楽曲を選びました」

セリーヌ・ボニアー,ほか

マザー・オーギュスティーヌ役は、セリーヌ・ボニアーが熱血シスターであり学校の存続を目指す校長としてハキハキと元気良く。同僚のシスター役は、ディアーヌ・ラヴァリー、ヴァレリー・ブレイズ、ピエレット・ロビタイユらカナダで活躍する女優たちが、オーギュスティーヌの姪アリスの友人となる素朴な生徒スザンヌ役は、2008年に舞台『アニー』に主演し今回が長編映画デビューとなるエリザベス・トレンブレイ=ギャニオンが好演している。
 注目はやはり、アリス役を演じるライサンダー・メナードだ。1993年生まれの彼女は5歳からピアノを習い始め、ピアニストを目指してモントリオール音楽院に入学。NYのインターナショナル・クレシェンド・コンペティションにて優勝し、カーネギーホールで3度の演奏も。現在はカナダ〜ヨーロッパなどで演奏し、高い評価を得ているプロの若手ピアニストである。劇中の彼女の演奏がとても魅力的だったので、「吹き替え? でも顔から手元のアップまで1カットで映しても本人が弾いているような……」と不思議に思っていたら、後からライサンダー自身がプロのピアニストで本人がそのまま演奏していると知って驚いた。劇中では彼女がジャズ風にアレンジしたクラシックで聴き手の心をつかむところから、情感豊かに「愛の夢 第3番」「別れの曲」を弾くシーン、「別れの曲」にジャン・ロワゼルが詞をつけた「悲しみ」を、トレンブレイ=ギャニオンがライサンダーの伴奏で歌うシーンもあり、それぞれに楽しめる。プール監督はライサンダーの起用を含む本作のキャスティングでこだわった点について、このように語っている。「本物のミュージシャンを使うことです。特にアリス役は。最初はオーディションをしていたのですが、やはりちゃんとピアノが弾ける子でないとダメだと思いました。女優の場合は後で編集でごまかさないといけなくなるので、映画制作的にも功を奏しました」

エリザベス・ギャニオン,ライサンダー・メナード,ほか

ところで、2017年1〜2月の日本公開映画はなぜだか政治色の強い作品や暴力的な表現を含む作品が多い。そんななか、本作も時代背景には政治的な変革があるものの、内容は変わりゆく情勢のなかで女性たちがひたむきに生きる様子を、明るいメロディのクラシックの曲とともに描く前向きなストーリーであり、お正月明けに観る1本としておすすめだ。本作を含め、10代の少女たちの物語を制作することの多いプール監督はこのように語っている。「私はなんだかんだと10代の女の子を描いてしまうので、今撮っている映画も14歳の女の子が主人公の話です。なんでなんでしょうね(笑)。おそらく女性にとって、少女から大人へ変革を遂げる時というのは非常に大事な時期で、私は今でも興味をかきたてられてならないのです。自分にとっても大事な時期でしたし、すべての女性にとってもそうなのだと思います」

作品データ

天使にショパンの歌声を
公開 2017年1月14日より角川シネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2015年 カナダ
上映時間 1:43
配給 KADOKAWA
原題 La Passion d'Augustine
監督 レア・プール
出演 セリーヌ・ボニアー
ライサンダー・メナード
ディアーヌ・ラヴァリー
ヴァレリー・ブレイズ
ピエレット・ロビタイユ
マリー・ティフォ
エリザベス・ギャニオン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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