ラビング 愛という名前のふたり

黒人女性と白人男性の夫婦が米国連邦最高裁判所にて勝訴し、
全米で異人種間の結婚が合法化された50年前の実話を描く
静かな愛情をたたえるパーソナルな人間ドラマ

  • 2017/03/03
  • イベント
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ラビング 愛という名前のふたり© 2016 Big Beach, LLC. All Rights Reserved.

アメリカのいくつもの州で異人種間の婚姻が禁止されていたなか、今から50年前の1967年の裁判で市井の夫婦の訴えが認められ、アメリカの法律が是正された実話をもとに映画化。出演は、映画『華麗なるギャツビー』のジョエル・エドガートン、『プルートで朝食を』のルース・ネッガほか。監督・脚本は映画『MUD マッド』の気鋭の監督ジェフ・ニコルズが手がけ、プロデューサーに本作のもととなっている2012年のドキュメンタリー作品『The Loving Story』のナンシー・バースキー、『英国王のスピーチ』の俳優コリン・ファースが名を連ねる。バージニア州で生まれ育った黒人のミルドレッドと白人のリチャードは愛し合い結婚するが、州の判事から有罪を言い渡され……。現在では当然のことである異人種間の結婚がアメリカ全土で合法化されるまで、ラビング夫妻がたどった軌跡を描く。愛し合う夫婦と子どもたちの暮らしを映す静かな物語であり、世界の意識として大切な人種の平等を現在のアメリカに改めて問いかけるかのような、良質な物語である。

1958年、バージニア州キャロライン郡。恋人のミルドレッドから妊娠を告げられたレンガ職人のリチャード・ラビングは、子どもができたことを喜び、彼女にプロポーズする。バージニア州では異人種間の婚姻は禁じられていたため、黒人女性と白人男性である2人はワシントンD.C.に赴いて結婚。地元に戻り夫婦として幸せに暮らしていると、ある日、2人はブルックス保安官に逮捕される。異人種間の婚姻はバージニア州では法律違反だから有罪だというのだ。リチャードが依頼したビーズリー弁護士と判事との司法取引により、1年間の服役は執行猶予となり、「この先25年間、2人一緒にバージニア州に戻ってはならない」という条件を提示される。ミルドレッドとリチャードは家族や友人たちのいる生まれ育った故郷を離れ、ワシントンD.C.で暮らすミルドレッドの親戚の家に身を寄せる。それから5年、リチャードはレンガ職人としてひたすら働き、ミルドレッドは3人の子どもの育児をしてワシントンD.C.で暮らし続けるなか、親戚に勧められ、公民権運動を支援するロバート・ケネディ司法長官に手紙を書く。

アラーノ・ミラー,テリー・アブニー,ルース・ネッガ,ジョエル・エドガートン

1958年〜1967年まで10年かけて、自分たちの結婚は違憲ではなく人間としてアメリカ国民として正当である、という思いを貫き、米国連邦最高裁判所にて「すべての異人種間結婚禁止法は違憲であり、修正第14条の平等の保証に違反している」という満場一致の判決を得た、ラビング夫妻の実話をベースにした物語。といっても法廷ものでも政治的なメッセージ性の強い内容でもなく、あくまでも夫婦の思いと生活を中心に、地に足の着いた市井の夫妻が歴史的な結果を得るに至った経緯を映す、静かな愛情をたたえる人間ドラマとなっているところが魅力だ。ミルドレッドが米国司法長官のロバート・F・ケネディに手紙を書いたことから、アメリカ自由人権協会(ACLU)に委ねられ、ワシントン大行進など公民権運動の最中、変わることはないのだろうと諦めかけていたことがひとつ変わったという情勢の変化を、あくまでもパーソナルな抑えた表現で描いたことについて、ニコルズ監督は語る。「これは僕が考えた物語ではなく、本当にあった出来事なんだ。彼らはささやかに暮らしていた。政治に関心がなく公民権運動にも参加せず、ただ家族として一緒に生きていきたいと思っていた。それがとても重要で、至誠なことだと感じたんだ」

レンガ職人のリチャード役は、ジョエル・エドガートンが無骨ながらも妻を深く愛する誠実な男性として、夫と子どもたちを愛するミルドレッド役は、ルース・ネッガが控えめで物静かでもゆるがない意志をもち、いざという時にははっきりと主張することもできる女性として。ルースは自身の両親も異人種間結婚だったことから、この役に特別な思い入れを抱き、オーディションで選出された。ジョエルは「これは人の心に迫り、情感の深くにまで届く物語だ」とコメント。ルースとジョエルはともに夫妻の資料を丹念にリサーチし、2人で彼らの思い出の場所を訪ね、夫妻の墓参りに行ったとも。本作の顧問として、ラビング夫妻の実子で今も唯一存命である、当時5歳だったペギーが参加。撮影セットにも訪れ、このように話したそうだ。「俳優たちが自分の両親へと完璧に切り替わっている様子に驚きました」
 またミルドレッドの姉ガーネット役はテリー・アブニーが、夫妻を支えるレイモンド役はアラーノ・ミラーが、異人種間の結婚を嫌悪し夫妻を逮捕する白人のブルックス保安官役はマートン・ソーカスが、夫妻に協力する若手弁護士バーナード・コーエン役はニック・クロールが、人権派のベテラン弁護士フィリップ・ハーシュコプ役はジョン・ベースが、ライフ誌のカメラマンのグレイ・ビレッド役はマイケル・シャノンが、それぞれに演じている。

ジョエル・エドガートン,ルース・ネッガ

そもそもはこの作品のプロデューサーであるドキュメンタリー映画監督のナンシー・バースキーが監督・脚本・製作を手がけ、エミー賞など数々の賞を受賞した2012年の『The Loving Story』がもとになっている本作。バースキーは2008年にミルドレッド・ラビングの死亡記事を読み、深い信頼と愛情で結びついたラビング夫妻が法律を変えたことを知り、夫妻のドキュメンタリー作品を作ろうと決意。1967年の判決の前夜にABC-TVが特集を組んだラビング夫妻のフィルム映像と記録文書、ライフ誌のカメラマンのグレイ・ビレットによる写真を参考にドキュメンタリーを製作した。その後、プロデューサーとしてフィクション長編映画版の企画を進め、コリン・ファースに打診したところプロデューサーとして快く参加を決め、ファースは2011年にプロデューサーのゲド・ドハティと製作会社レインドッグフィルムズを設立し、最初の企画として本作を提案したそうだ。ファースは語る。「社会的にも人道的にも意義のある話だけど、何より素朴な夫婦のキャラクターに魅了された。これは本当に素晴らしい2人の人間のラブ・ストーリーだと思ったんだ」

ジョエル・エドガートン,ルース・ネッガ

1967年6月12日にアメリカの最高裁判所でラビング夫妻の結婚が正当であると認められ、「すべての異人種間結婚禁止法を違憲であり、修正第14条の平等の保証に違反している」と判決されたことから、現在アメリカでは毎年6月12日は、最高裁判所によって異人種間の結婚が合法化された“Loving Day”として記念日となっているとのこと。ドナルド・トランプ新大統領が移民の取り締まりの強化やメキシコ国境に壁を築く宣言をするなど混乱が続くアメリカで、こうした作品が公開することで少しでも伝わることもあるのかもしれないと個人的に思う。ニコルズ監督は本作のメッセージについてこのように語っている。「この映画の素晴らしいところは、人種問題の向こう側にいる人々にも届く可能性があるという点だ。例えば彼らは同性愛婚に対しても固い信念をもっている。アメリカにこういう人たちは大勢いて、彼らにも作品を届ける唯一の方法は『ある2人の人間が互いに純粋な愛情をもっていたこと、この物語に関わる人たちのことを知れば、あなたの考え方ももしかしたら変わるかもしれない』というメッセージを伝えることだ。……彼らはたぶん変わらないだろうけれど、いずれ変わる可能性だってある。ラビング夫妻の結婚は当然ながら、政治的な抵抗ではなかった。僕はただただ、2人の間に生まれた愛に衝撃を受けた。この作品では裁判や法律の物語より、今までにない愛についての映画を作りたかったんだ」

作品データ

公開 2017年3月3日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2016年 イギリス・アメリカ
上映時間 2:03
配給 ギャガ
原題 Loving
監督・脚本 ジェフ・ニコルズ<
プロデューサー ゲド・ドハティ
コリン・ファース
サラ・グリーン
ナンシー・バースキーほか
出演 ジョエル・エドガートン
ルース・ネッガ
マートン・ソーカス
ニック・クロール
テリー・アブニー
アラーノ・ミラー
ジョン・ベース
マイケル・シャノン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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