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プラネタリウム

ナタリー・ポートマン×リリー=ローズ・デップ
1930年代のパリで出会った姉妹と男の顛末を描く
哀しくも美しい、ノスタルジックなフランス映画

  • 2017/09/06
  • イベント
  • シネマ
プラネタリウム© Les Films Velvet - Les Films du Fleuve - France 3 Cinema - Kinology - Proximus - RTBF

オスカー女優のナタリー・ポートマン、ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディを両親にもつリリー=ローズ・デップの初共演による話題作。1930年代のパリを舞台に、降霊術ショーで人気のアメリカ人姉妹が映画プロデューサーの男と出会い、それぞれの人生が大きく変化してゆくさまを描く。監督・脚本は『美しき棘』『グランド・セントラル』に次いで3本目の長編映画監督作品となるフランスのレベッカ・ズロトヴスキ、共同脚本は『パリ20区、僕たちのクラス』のロバン・カンピヨが手がける。実在した人物に着想を得てフィクションで描く、哀しくも美しい、ノスタルジックなドラマである。

ナタリー・ポートマン

1930年代のフランス、パリ。アメリカ人のスピリチュアリスト姉妹、ローラとケイトのバーロウ姉妹は、渡仏して憧れのパリで仕事を始める。ショーを仕切る野心家の姉ローラと、好奇心旺盛で純粋な妹ケイトはとても仲が良く、息の合ったコンビとして活動。美人姉妹の降霊術ショーとして話題となり活躍するなか、映画プロデユーサーのコルベンから個人の降霊の依頼を受ける。その体験に感動したコルベンは、世界初の本物の心霊映画を撮影するべくバーロウ姉妹と契約。姉妹はコルベンの広い屋敷で暮らすようになり、ローラは戸惑いながらも業界のライフスタイルに慣れて楽しむようになり、女優としても活動を始める。そして妹のケイトは、コルベンの依頼で個人的な降霊や危険な電磁波を用いた降霊の記録実験などに積極的に応えていくが……。

アメリカ人の浮世離れした若い姉妹と、フランス人の世慣れた男。スピリチュアルと業界人、フィクションかノンフィクションか、事実なのか詐欺なのか、幻想のようでありリアルのようでもある。似て非なる異質な背景をもつ者たちが出会い、物語は展開してゆく。姉妹と男の疑似家族のような幸福な時間、姉は男に異性として惹かれ、妹は男の探究心に同意し、男は姉妹を大事にしながらも野心を優先する。親しい人たちとの結びつきと対立、嫉妬や独占欲、野心と破滅、人生の転機をすぎゆく彼らの、素晴らしかった時間が映されてゆく。

リリー=ローズ・デップ

物語はフィクションであるものの、登場人物にはモデルとなった実在の人物がいる。19世紀後半に活動していたアメリカ人スピリチュアリストのフォックス三姉妹と、フランスの名門映画会社パテの経営者として手腕を揮ったユダヤ人の映画プロデューサー、ベルナール・ナタンだ。ズロトヴスキ監督は着想を得た人物について語る。「この作品のほとんどはフィクションです。私はフォックス姉妹とベルナール・ナタンの出会いを想像し、バーロウとコルベン(イディッシュ語で「犠牲となった者」の意)と名前を変えて、奇妙な(疑似)家族のストーリーにしました。フォックス三姉妹は降霊術の世界で重要な役割を果たしたスピリチュアリズム(心霊主義)の先駆者で、信奉者はヨーロッパの知識階級にまで広がりました。なかでもあまり知られてないエピソード――裕福な銀行家が亡き妻の霊を呼び出すために姉妹の1人を雇ったという話に、私は魅せられました。そしてルーマニア生まれのナタンは、フランスに帰化してクロワ・ド・ゲール勲章も授与された映画プロデューサーで、1929年にパテ映画の経営権を握りましたが、その後ユダヤ人排斥運動の犠牲になった人物です。彼は地位とフランス国籍を剥奪され、フランス当局の手でドランシー収容所を経由してアウシュヴィッツ収容所に送られました。映画黄金期の10年間に、彼は作品をプロデュースしトーキー映画を導入してフランスの映画製作に足跡を残しましたが、現在では彼の名前を知る人はほとんどいません。そうした悲劇的な運命を映画として描きたいと思い、彼の孫娘からの同意を得て、史実を元にするという制限つきながら、(フィクションとして)自由に描いたのです」

バーロウ姉妹の姉ローラ役はナタリーが野心的な美女として、妹ケイト役はリリー=ローズが純真で好奇心旺盛な霊感少女として表現。リリー=ローズのキャスティングは、ナタリーの指名で決まったとのこと。ナタリーは語る。「レベッカが私の妹役の女優を探していたので、リリー=ローズ・デップの写真を彼女に送ったの。私がその写真を見た時、彼女なら姉妹に見えるかもって思ったからよ。そしてリリー=ローズがすごく才能のある女優だとわかったの」
 2回目の映画出演となる本作について「私にとって映画で最初の本物の役柄」と語るリリー=ローズは、ナタリーからの指名について嬉しそうに話す。「ナタリーはすごいキャリアの持ち主だし、彼女の出演した映画はほとんど見ているわ。私たちはよく似ているって言われるんだけど、レベッカに私のことを話したのがナタリーだと知って、感激したの。改めて映画を見ると、自分でも2人が本当の姉妹のように見えるわ」
 監督はリリー=ローズの抜擢について語る。「2人はあまりにも似ていたから、ピンときたの。リリー=ローズ・デップは驚くほどのスレンダーなボディの上に、一風変わった白鳥のようで意思の強そうな顔がある。彼女の何もかもが気に入ったわ。まだ若くて経験は浅いけれど、彼女の名前は興奮と好奇心と欲望を掻き立てる。10代のナタリーがそうだったように、彼女は無名ではなく、セレブの世界でほかの人の願望で形作られている。先天的な能力があり世界ツアーをする若きスピリチュアリストの役を演じてもらうのに、申し分なかったわ」
 姉妹をスカウトする映画プロデューサーのコルベン役は、エマニュエル・サランジェが仕事では確かな実績もあり野心的で、プライベートでは男女の区別なく火遊びを楽しむ男として、ローラが共演しキスシーンを演じる俳優フェルナン役はルイ・ガレルが、それぞれに演じている。

ナタリー・ポートマン,リリー=ローズ・デップ

本作はナタリーがフランス語での演技に挑戦していることも話題に。今回のオファーは、ナタリーが夫であるもとパリ・オペラ座バレエ団の芸術監督でフランス人振付師のバンジャマン・ミルピエと子どもたちとともにパリへ移住してきた時だったという。そしてフランス映画への出演はいい経験になること、ナタリーはズロトヴスキ監督の作品をずっと高く評価していて友達としてすでに信頼があったこともあり、脚本が未完成の段階で即快諾したそうだ。イスラエル出身のユダヤ系アメリカ人であるナタリーの起用について、監督は語る。「フランスの企画にアメリカ人のスターが出演することは、大きな責任のようなものが生じるの。フランス映画にアメリカ人女優を起用する必然性をどう落とし込むか、極めて映画的な問いね。どっちの言語を話させるか、フランス人の観客やファンにどんな意味をなすのか。私たちが映画について話し合った時、2015年の最初のテロリズムの波(パリ同時多発テロ)が押し寄せてきて、自分が住んでいる国を外国人の目を通して見てみる必要があることに気づいたの。だから彼女の目を通して、フランスやヨーロッパを観察したのよ」

移り変わる状況と時代とともに流れてゆく幸せな時間ははかなく、思い出はいつも美しい。姉妹でショーをして、コルベンの庇護のもと、この幸せがずっと続いていくような気さえしていた。バーロウ姉妹の幸せだった頃を中心に描かれるこの物語は、1930年代のパリの華やかな時代を生きた女性ローラの記憶の一部でもあって。はっきりとしたオチやメッセージがあるわけではなく、思い返せば夢のように楽しかった懐かしい日々を、ナタリーとリリー=ローズという魅力的な女優2人の共演とノスタルジックな映像美で楽しむことができる作品だ。2017年7月20日に東京で行われたジャパンプレミアにて、本作の魅力についてズロトヴスキ監督はこのように語った。「すべてを受け入れ、“夢”とは何かを考えていただきたいです。劇場を後にしたときに、世界が違って見えることを祈っています。ナタリーとリリー=ローズの美しい姿を満喫していただければと思います」

作品データ

プラネタリウム
劇場公開 2017年9月23日より新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2016年 フランス・ベルギー映画
上映時間 1:48
配給 ファントム・フィルム
原題 Planetarium
監督・脚本 レベッカ・ズロトヴスキ
脚本 ロバン・カンピヨ
出演 ナタリー・ポートマン
リリー=ローズ・デップ
エマニュエル・サランジェ
ルイ・ガレル
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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