ナラタージュ

人気俳優を迎え、島本理生の小説を行定勲監督が映画化
大学2年の泉は高校時代の教師に思いを寄せるが……
雨とともにドラマティックに描くラブ・ストーリー

  • 2017/10/10
  • イベント
  • シネマ
ナラタージュ©2017「ナラタージュ」製作委員会

松本 潤、有村架純、坂口健太郎、人気俳優の共演による恋愛映画。2006年の「この恋愛小説がすごい」で1位となった島本理生の小説『ナラタージュ』を、『世界の中心で、愛をさけぶ』の行定勲監督が映画化。共演はさらに、ドラマ『私結婚できないんじゃなくて、しないんです』やNHKのバラエティ『グレーテルのかまど』の瀬戸康史、映画『シン・ゴジラ』の市川実日子ほか。大学2年生の泉は、高校時代に思いを寄せていた恩師・葉山と再会し……。年上の男性への思慕、同世代の男友だちとの恋愛、そして同僚の後輩との心地よい関係。日本を舞台に現代女性の恋愛について、フランス映画のような雰囲気で描くラブ・ストーリーである。

有村架純

大学2年生の泉は、出身高校の演劇部の顧問教師・葉山から、後輩の卒業公演に参加を、という連絡を受けて懐かしい高校へ。葉山は高校時代に孤独だった泉を心配し、演劇部に勧誘してくれた恩師であり、彼に思いを寄せていたものの何も言えずに高校を卒業した泉は複雑な思いでいたが、葉山と再会したことで改めて思いを募らせてゆく。泉と同級生だった演劇部OBの黒川や志緒、そして黒川の大学の同級生で演劇経験のある小野、現役の演劇部の生徒たちとの日々を過ごすうちに、泉は葉山から離婚の成立していない妻がいることを告げられる。泉が自らの思いを忘れようとするなか、ある事件が起きる。

もともとの原作のストーリー、人気俳優たちの共演と監督の演出により、やや耽美的なニュアンスのあるラブ・ストーリー。入り込める人は浸って楽しむこともできるし、美しい俳優たちの恋愛模様を客観的に眺めるのもアリだろう。筆者は後者よりで、どことなく現代女性の恋愛あるあるをシリアスに描くかのような感覚も。ストーリーについて、人によっては「こうなってほしかった」と別のエンディングを望む向きもあるだろうし(特に俳優たちと同じくらいの若い世代にとっては)、物語の結末に正解も不正解ももちろんない。ただ働く女性となるヒロインを思うと、経緯に思うところはいろいろあれど、結末の方向性として個人的には悪くない選択だろうな、とも。

有村架純,坂口健太郎

高校の演劇部の顧問教師・葉山役は松本 潤が影のあるひとりの男性として、葉山への思いを断ち切ろうとする泉役は有村架純がひたむきに、泉と出会い彼女に惹かれる、靴職人を目指す大学生の小野役は、坂口健太郎が感情の暴走にさいなまれる青年として、葉山の妻・美雪役は市川実日子が、泉が就職した会社の後輩・宮沢役は瀬戸康史が、それぞれに演じている。

原作は小説家の島本理生氏が20歳の時に書き下ろし、2005年に発表した小説。この映画について島田氏はこのようにコメントしている。「言葉にならない、という表現がこれほどしっくりくる映画はないと感じた。三者三様の美しくも異様な演技と、鮮烈な映像が脳裏に焼きついて、時間が経った今も頭から離れない」
 映画化に構想10年をかけたという行定監督は、2017年8月23日に東京で行われた完成披露試写会にて、このように語った。「(この映画は)かつて日本映画がたくさん作っていた恋愛劇であり、成瀬巳喜樹監督作のようなものが作れればと思い、この小説ならばできると粘った。10年待って、やっとこのキャストに出会えた。2人にとってリスクの高い部分もあるが、一緒に作ってくれることを受け入れてくれた。だからこそ今日が迎えられました」

思わせぶりだが自分からは積極的に動こうとしない葉山、葉山を思う泉、泉を思う小野。松本、有村、坂口、3人の美しい俳優たちが恋愛のもつれを演じる本作。劇中で葉山、泉、小野のキャラクターには長めに映すベッドシーンがあり、俳優たちがまさに体当たりで挑んだ様子が伝わってくる。余談ながら、今秋はベッドシーンをリアルに描く邦画が多い(洋画でも『オン・ザ・ミルキー・ロード』『愛を綴る女』『ロダン カミーユと永遠のアトリエ』などがあるが、洋画はもともとそうした表現をオープンにしてきている)。本作、『あゝ、荒野』『月と雷』『彼女がその名を知らない鳥たち』『光』……これまで邦画では20代〜30代前半の人気俳優がベッドシーンを生々しく演じることはそうなかったけれど、そうした暗黙の了解のようなタブーやリミットや境界がなくなってきていて、ストーリーに必要な流れの一部であれば演じる、ということだろうか。それは行定監督の言う通り俳優にとって「リスクの高い部分もある」のだろうけれど、なんにせよ作品として充実するなら、いち観客としては、スタッフとキャストに危険さえなければどんな挑戦も大歓迎と思う。

有村架純

ところで先生と生徒というタブーの恋愛は、昔から現実にも物語にもずっとあり続ける王道ストーリーのひとつ。日本のドラマでは『高校教師』『大切なことはすべて君が教えてくれた』、コミックでは映画化もされている『ひるなかの流星』『近キョリ恋愛』などかなりの数があって。最近のトピックでは、フランスの大統領エマニュエル・マクロン氏の妻ブリジットとの馴れ初めもそう。マクロン氏が15歳のときに同級生の母親だった24歳年上の国語教師ブリジットと出会い、周囲からの長年にわたる大反対をものともせず、彼が29歳のときに遂に彼女と結婚し、今も仲睦まじい夫婦であるというエピソードは何度も報道されている。
 また今秋には河原和音氏の人気コミックを映画化した『先生! 、、、好きになってもいいですか?』の公開も(10月28日公開、出演:生田斗真、広瀬すず)。同時期の公開で、ジャニーズの松本 潤と生田斗真が先生と生徒の恋愛ものでそれぞれに先生役を演じている、というのもなんだか面白い。

雨の多いヴィジュアルでドラマティックに演出する、秋向きのラブ・ストーリーである本作。前述の完成披露試写会にて、松本 潤と有村架純は観客に向けてこのように語った。
 松本:「昨年の夏に心血を注いで作った作品です。とてもステキでとても苦くてとても濃厚なラブ・ストーリーが出来上がりました。たくさんの人に長く愛される作品になれば。最後まで見てもらえれば伝わるものがあるはずだと思います」
 有村:「見終わった後に大切な人や、大好きな人を思い出してくださったらとても嬉しい。エンディングまで楽しんでください」

作品データ

ナラタージュ
劇場公開 2017年10月7日より全国ロードショー
制作年/制作国 2017年 日本映画
上映時間 2:22
配給 東宝=アスミック・エース
監督 行定勲
原作 島本理生
脚本 堀泉杏
出演 松本 潤
有村架純
坂口健太郎
大西礼芳
古舘佑太郎
神岡実希
駒木根隆介
金子大地
市川実日子
瀬戸康史
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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