eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

メアリーの総て

18歳のイギリス人女性メアリーは、いかにして
異端の名作『フランケンシュタイン』を生み出したのか
エル・ファニング主演で知られざる半生を描く

メアリーの総て© Parallel Films (Storm) Limited / Juliette Films SA / Parallel (Storm) Limited / The British Film Institute 2017

かの『フランケンシュタイン』を生み出したのは、18世紀末に生まれ、19世紀のイギリスを情熱的に生きた18歳の女性メアリー・シェリーだった――。出演は『マレフィセント』のエル・ファニング、『ノア 約束の舟』のダグラス・ブース、『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』のベル・パウリー、『オン・ザ・ロード』のトム・スターリッジほか。監督はサウジアラビア初の女性映画監督であり、『少女は自転車にのって』が第86回アカデミー賞にて外国語映画賞サウジアラビア代表に選出されたハイファ・アル=マンスールが手がける。亡くなった思想家の母に憧れ、作家の父の影響もあり、16歳のメアリーは小説の構想を日々書き綴っている。ある日、ロンドンを出てスコットランドの父の友人のもとで暮らし始めたメアリーは、詩人の青年パーシー・シェリーと出会い……。女性が思い通りに生きるのが難しい時代に、突き動かされるかのように疾走したメアリーの愛と人生、『フランケンシュタイン』が誕生した経緯と背景について実話をもとに描く作品である。

ダグラス・ブース,エル・ファニング

19世紀初頭のイギリス、ロンドン。亡くなった母の墓にもたれて、16歳のメアリーは今日も小説の構想を書き綴っている。メアリーは貧しくとも誇り高い政治学者で作家の父を敬愛していたが、継母との折り合いが悪く、スコットランドで暮らす父の友人バクスターのもとに身を寄せることに。そこで出会った21歳の詩人パーシー・シェリーと惹かれ合い、彼に妻子がいると知るも、メアリーは彼と一緒に生きようと決意。父から猛反対を受け、メアリーとパーシーは駆け落ちをする。そして自分も一緒に行きたいと懇願したメアリーの義妹クレアも同行し、若い3人の暮らしがスタートする。経済的な危機などの困難もあるなか、メアリーが妊娠。そんな折、パーシーは自由恋愛を主張し……。

母はフェミニズムの先駆者と言われる思想家のメアリ・ウルストンクラフト、父は政治学者であり作家のウィリアム・ゴドウィン、という血筋で、実母は自分を生んだ時に他界し継母と折り合いが悪く、不遇な家庭環境に育ったメアリーが、18歳で『フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス(原題:Frankenstein: or The Modern Prometheus)』を執筆したいきさつを描く。18歳の少女が怪奇譚の古典にして原点のひとつともいえる名作を執筆した、という事実だけ聞くと、まず「天才か」と驚く。しかしこの映画を観て改めて彼女のたどった経緯を知ると、死人を蘇らせ、愛を求め悲しみと絶望にまみれる怪物の物語をなぜ書くに至ったのか、その強い衝動の理由がわかるストーリーとなっている。マンスール監督は本作への思いについて語る。「現代の人々が自分を重ねられるように、メアリーの人生に敬意を払い、正確に再現しなければならないという大きな責任を感じたわ。『フランケンシュタイン』は非常に多くの人々から、様々な理由で愛されているから、あまり公には知られていない彼女個人の遍歴に光を当てたかったの。やりがいのある挑戦だった」

16歳のメアリー・ゴドウィン役は、初めて時代映画に主演したエルが、少女から女性へと駆け抜けるなか異端の名作を生み出した経緯を印象的に表現。メアリーと惹かれ合う詩人パーシー・シェリー役はダグラスが、“自由恋愛”をモットーに刹那的に生きる男性として。メアリーの義妹クレア役はベル・パウリーが、メアリーやパーシーの主義を都合よく鵜呑みにして流されるように生きる女性として、メアリーの父ウィリアム・ゴドウィン役はスティーヴン・ディレインが厳格ながらもメアリーの才能を尊重する父親として、数々のスキャンダルで知られる第6代バイロン男爵こと詩人ジョージ・ゴードン・バイロン卿役はトム・スターリッジが、アクが強いながらも独自の鋭い審美眼をもつ人物として、それぞれに演じている。
 劇中では、メアリーがいくつもの出版社に小説の原稿を持ち込むも、内容が異端であること、18歳の女性らしくない内容であること、何よりも著者が若い女性であるというだけで敬遠され続ける。そこで最初は匿名で出版という条件をのみ、ようやく初版にこぎつけるというくだりがあり、この時代に生きる女性にとって権利や存在を主張することがどれほど困難だったかということが伝わってくる。

エル・ファニング

本作では、実母がメアリーを産んだときに産褥死したことから、理想化した母への愛と憧れ、悲しみと申し訳ないと思う気持ち、義母とソリが合わないことから父とも距離ができてしまう孤独があり、自分が夫を奪った後にパーシーの妻が入水自殺、その20日後にパーシーと結婚、女性が自分の意見を述べるだけで非難され敬遠される生きづらさがあった、というメアリーの状況が描かれている。また劇中では微妙に違う設定になっている、映画では描かれていないその後のメアリーの人生には、多くの死別があった。15歳でパーシーと出会い、16歳で駆け落ち。17歳で産んだ第1子が11日間で死亡したことをはじめ、授かった子を次々と亡くし、妊娠した5人の子のうち成人するまで生き延びたのは第4子ひとりであること、メアリーの異父姉ファニー・イムレイは20歳で自殺、パーシーは駆け落ちから8年後にヨットの事故により29歳で死亡、メアリー自身は1851年に脳腫瘍により53歳で他界したという。またバイロン卿の侍医ポリドリは25歳で自殺、バイロン卿は36歳で病死、クレアとバイロン卿の娘は5歳で病死したとも。
 奔放に生きるとは、それに付随する悪評、その行為により傷つく人々の苦しみや恨みもすべて背負う覚悟をもつべきであり、その覚悟をもてないなら、してはならないことで。劇中で後先考えず衝動的に突っ走るメアリーとパーシーとクレアの状況は、眺めていると複雑な思いも感じる。タブーに身を投じるからこその作家であり、喜びや悲しみや後悔や苦悩が極まって『フランケンシュタイン』を生み出した、突発的な事故とトラブルの果てにあるようでいて、すべてはそこに帰結する、という向きもそうなのだろうけれど。
 映画では後世に残る作品を創作したメアリーの感性と胆力に驚き感動する。そして時代を超えて愛される作品を遺す才能への憧れや羨望を感じるのと同時に、身近な人たちを大切に支え合って生きる穏やかな日常を選択できることは、とても幸せなことなのだなとしみじみと思った。

また本作には、“ディオダディ荘の怪奇談義”として知られる有名な逸話がストーリーに盛り込まれているのも見どころのひとつ。1816年のスイスのレマン湖畔、侍医ポリドリとともにバイロン卿が借りて滞在していた別荘に、メアリーとパーシーとクレアが訪れ、ともに過ごすことに。悪天候が続き別荘にこもりきりとなっていた6月に、バイロン卿は皆でひとつずつ怪奇譚を書く、というお題を提案。これをきっかけにメアリーは小説『フランケンシュタイン』の、ポリドリは小説『吸血鬼(The Vampyre)』の着想を得て、彼らはその後も執筆を続け長編として書き上げた。この日のお題から生まれた2つの有名な怪奇譚の2大キャラクターは、今や時代を超えて誰もが知る怪物や伝説的存在の代名詞となった。その流れを汲んだ作品は、現代でも映画や舞台や小説や漫画などで新たな物語として創作され続けているのだから、不思議なめぐり合わせだ。

エル・ファニング,ベル・パウリー,トム・スターリッジ,ダグラス・ブース,ほか

女性の権利がほとんど認められていない19世紀初頭に、16歳で人生最初のロマンスに身を投じ、恋愛、出産、喪失、結婚、苦悩、創作への昇華を経験し、少女から大人へと一気に駆け抜ける、メアリーの胆力に驚かされる本作。マンスール監督はメアリーへの思い、現代の若い世代へのメッセージをこのように語っている。「200年以上前の時代を描いているけれど、今の時代に当てはめることができるわ。衣装を取り払ってしまえば、今の18〜19歳の若者も自分たちとの共通点がたくさん見つかると思う。観客のみなさんにはメアリーの中に自分を重ねられる要素を見出してほしい。メアリーは完璧ではないし、首をかしげたくなるような選択や間違いもする。でも落胆や喪失の苦しみに押しつぶされず、前へ進み続ける。悲しみを深遠な芸術作品へと昇華させていくアーティストの1人よ。途中でいつでも諦めることもできたし、著名な両親や才気あふれる夫に従うこともできたはず。でも彼女は自分の声で語る道を選んだの」

2018年12月3日更新

作品データ

劇場公開 2018年12月15日よりシネスイッチ銀座、シネマカリテほかにて全国順次公開
制作年/制作国 2017年 イギリス、ルクセンブルク、アメリカ
上映時間 2:01
配給 ギャガ
原題 MARY SHELLEY
監督 ハイファ・アル=マンスール
脚本 エマ・ジェンセン
出演 エル・ファニング
ダグラス・ブース
トム・スターリッジ
ベル・パウリー
スティーヴン・ディレイン
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/2015年はハースト婦人画報社『25ans』で“姫のためのエンタメ・コンシェルジュ”、フレグランスジャーナル社『アロマトピア』で“シネマ・アロマ”を連載。インタビュー記事の執筆も。