eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

シークレット・スーパースター

ポップスやバラードなど音楽で楽しく盛り上げ、
インドの実社会の家庭における人権問題も伝える
俳優の魅力とコミカルな展開で魅せる、少女の成功物語

シークレット・スーパースター© AAMIR KHAN PRODUCTIONS PRIVATE LIMITED 2017

2017年に本国インドで公開され世界興収約170億円のヒットとなり、インド映画で世界興収歴代第3位となった話題作(2019年4月現在、『ダンガル きっと、つよくなる』『バーフバリ 王の凱旋』に次ぐ)。出演は“インドの国宝”と呼ばれる国民的俳優アーミル・カーン、2016年の映画『ダンガル きっと、つよくなる』で映画デビューし、アーミルと再タッグとなる18歳のザイラー・ワシーム、『バジュランギおじさんと、小さな迷子』のメヘル・ヴィジュほか。監督・脚本はアーミルの元マネージャーであり、本作で映画監督デビューを果たしたアドヴェイト・チャンダンが手がける。歌手を夢見る少女インシアは、支配的な父親にきつく反対されても夢を諦められず……。インドのポップスやバラードなど音楽シーンを伝え、実社会の家庭における人権問題を含みつつ、人気俳優たちの魅力と明るくコミカルな展開で引きつける、少女のサクセス・ストーリーである。

ザイラー・ワシーム

インド西部のグジャラート州ヴァドーダラー。歌手を夢見る14歳のインシアは、両親と大おば、弟と暮らしている。エンジニアの父親は権威的で、少しでも気に食わないと妻に殴る蹴るの暴行をして、女の子であるインシアを疎み、跡継ぎである弟だけをかわいがっている。インシアの音楽活動は、父親から厳しく禁止されていたが、母は娘を応援し、ある日父に内緒で自分の首飾りを売り、インシアにノートパソコンを買い与える。そこでインシアは、母の提案もありブルカで顔を隠して自作の曲を弾き語りで歌い、“シークレット・スーパースター”の名義でYoutubeにアップ。その動画はインド中ですぐに話題となり、“シークレット・スーパースター”の歌声にメディアも注目。しかし父親に、パソコンを使用して歌を歌っていることがバレて激しく糾弾され、インシアは衝動的にノートパソコンを壊してしまう。そんな折、クラスメイトであるチンタンのサポートで有名な音楽プロデューサー、シャクティと携帯で話したところ、インシアに思いがけない展開が……。

インド映画で世界興収歴代第1位の作品『ダンガル〜』のアーミルとザイラーの再共演によるサクセス・ストーリー。物語の軸はシンプルな成功物語であり、少年少女のほのかな恋、女たらしの落ち目のプロデューサーといったコミカルなキャラクターなど、ポップなノリが楽しめる。ただそのなかにも、インドの実社会の家庭における問題をしっかりと描き込み、メッセージやテーマ性がはっきりと伝わってくるのが特徴だ。アーミルは、自身のマネージャーだったアドヴェイト・チャンダンが監督デビューをするにあたり、「君は僕のマネージャーなんだから、いつでもスケジュールを調整してよ」と話し、自ら出演を買って出てプロデューサーも兼任。この物語について、アーミルはこのようにコメントしている。「この作品は自分の夢を守る権利があること、自分らしく生きる勇気をもつことを教えてくれるんだ」

ザイラー・ワシーム,メヘル・ヴィジュ

歌手を目指す少女インシア役は、ザイラー・ワシームがミュージシャンとしての才能とともに、思春期の反骨精神や怒りをもつ、パワフルな少女として好演。2000年生まれのザイラーは、『ダンガル〜』で映画デビュー、2作目である本作でインドのアカデミー賞と言われるフィルムフェア賞で助演女優賞・審査員選出最優秀女優賞を受賞、2018年にアメリカの『Variety』がアジアの次世代スターに贈る「アップ・ネクスト・アワード」の5人のうちのひとりに選出。しかし宗教と信仰心に関わることから、2019年6月に女優活動の引退を発表。2019年10月公開予定の映画『The Sky Is Pink』が最後の出演作になるとのこと。魅力ある若手俳優が映画界を去るのは残念だが、10代というまだ自身が定まっていない時期に、芸能の世界での活動に向き不向きがあるのもわかるし、結婚や子育てがひと段落した後で俳優活動を再開することもできるわけで。大人の女性となったザイラーが映画界に復帰する可能性はゼロではないかも、と筆者は淡く思っている。
 夫に従うインシアの母役はメヘル・ヴィジュが世間知らずな女性としておっとりと、エンジニアであるインシアの父親役はラージ・アルジュンが保守的で男尊女卑のDV夫として、女たらしで落ち目の音楽プロデューサー、シャクティ役はアーミル・カーンが思いの向くまま即行動する憎めない男性としてコミカルに演じている。ほかにも、インシアに懐いているが、弟ばかりをかわいがる父親への反発もあり、仲良くできない幼い弟、インシアをサポートする心優しいクラスメイトの少年チンタン、インシア一家と同居している事情通の大おば、シャクティの離婚裁判で妻側につく女性弁護士シーナなど魅力的なキャラクターたちが登場。シャーンやモナリ・タクールらインドの人気ミュージシャンのカメオ出演も。

劇中ではDV夫であるインシアの父親を通して、“厳格な父親”という言葉では収まらない、インドにおける根深い女性蔑視が描かれている面がある。妻は夫の言いなりで、娘は父親に意見も言えないのが当たり前。妊娠している子どもが女とわかると妊婦は罵倒され、女の赤ちゃんが生まれると疎まれ、娘は自由も尊厳もないまま下級の扱いをされ続け、10代のうちに家系や家長の利益となる姻戚関係を結ぶ駒としてのみ扱われる、と伝わってくるのだ。実際、世界では18歳未満の少女が大人の男性との婚姻を強いられる“児童婚”により、骨盤が未発達である10代の少女たちが早すぎる結婚や出産により体に重い障害を負っていること、生涯にわたる精神的な苦痛が看過され続けていることが報道されている。
 本作で製作も務めるアーミルは、2013年に『タイム』誌にて“世界で最も影響力のある100人”に選出された、“インドの良心”と呼ばれる人物。本作のプロモーションでアーミルがアメリカ版『Newsweek』の取材を受けた際、『シークレット・スーパースター』は自身にとって非常に意義深い作品であり、本作と『ダンガル きっと、つよくなる』は表裏一体であるとコメント。まずは『ダンガル〜』の物語について、アーミルはこのように語った。「男尊女卑の観念は深くインドの文化に根づいており、この物語に登場する権威ある父親は、自分のなすべきことは、息子を持ってこそ自分の夢として叶えられると語る。だが実際、彼の夢を叶えたのは娘だった。実話をもとにしたこの物語はインド全国を揺り動かした。『ダンガル きっと、つよくなる』の主な観客層は子を持つ親だった」
 また「2つの脚本で同じ問題を描けたのはとても幸運だ。しかも違った形で表現できた」とも。

ザイラー・ワシーム,ほか

基本的には少女のシンデレラ・ストーリーであり、コミカルで明るいエンタメ映画である本作。エンディングではシャクティのPV風映像が可笑しく、インシアが朗々と歌い上げるバラードが心地よい。そんななか、劇中の後半に、大おばがインシアに語るエピソードは胸が痛む。インドの家庭における母親と娘の立場、女性たちの現状についてシビアに伝わってくるからだ。それは非常に悲しく恐ろしいことだけれど、インドでは実際にあることなのだろう。この物語ではコメディ、青少年の成長と成功、ポップソングやバラード、家族のドラマという世界共通で好まれるテーマを前面に出しながら、人々が目を背けたくなるような受け入れにくいことであっても、インドが国として変えていくべき、人権にまつわる重要なことを物語に丁寧に含ませているのがよくわかる。メジャーな要素で辛辣さを包み込み、国籍も年齢も問わず幅広い層がみんなで楽しめる良質なエンターテインメントとして国内外の観客に届けるのは、アドヴェイト・チャンダン監督の賢さとスマートさを感じる。
 前述の『Newsweek』の取材にて、アーミルはこの映画のテーマ性についてこのように語った。「『シークレット・スーパースター』も女性の自立が物語の主軸だが、1人の14歳の少女の視点からその問題が語られ、彼女が夢を追う険しい過程が描かれる。この物語の主な観客層は若者たちであり、映画は子どもたちに自分の夢を守る権利があること、自分らしく生きる勇気を持つことを教え、自分の希望や願望を口に出す勇気を与えてくれる」
 歌って踊って盛り上げる“ボリウッド”ももちろんいいけれど、それだけじゃない。今後も増えていくだろう、ドラマ性と現代的なテーマで引きつけるインド映画に、ますます注目していきたい。

2019年7月8日更新

作品データ

公開 2019年8月9日より新宿ピカデリーほかにて全国順次ロードショー
制作年/制作国 2017年 インド
上映時間 2:30
配給 フィルムランド、カラーバード
原題 Secret Superstar
監督・脚本 アドヴェイト・チャンダン
出演 ザイラー・ワシーム
メヘル・ヴィジュ
ラージ・アルジュン
出演・プロデュース アーミル・カーン
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを担当。2015年よりフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を、2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。インタビュー記事の執筆も。