eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

トールキン 旅のはじまり

オックスフォード大学の教授にしてベストセラー作家
壮大なファンタジーの生みの親トールキンの半生とは
逆境のなか愛と友情を得て、自らの道を見出す姿を描く

トールキン 旅のはじまり©2019 Twentieth Century Fox

映画『ロード・オブ・ザ・リング』、『ホビット』三部作の原作である、『指輪物語』『ホビットの冒険』を生み出したイギリスの作家J・R・R・トールキンの実話をもとに描く注目作。出演は、『X-MEN』シリーズや『女王陛下のお気に入り』のニコラス・ホルト、2014年の映画『あと1センチの恋』のリリー・コリンズ、『シンデレラ』のデレク・ジャコビ、『ダンケルク』のトム・グリン=カーニーほか。監督は第90回アカデミー賞の外国語部門にてフィンランド代表に選出された映画『トム・オブ・フィンランド』のドメ・カルコスキ、脚本はアイルランド出身の劇作家で脚本家のデヴィッド・グリーソン、演劇と映画の脚本家として活動するイギリス出身のスティーヴン・ベレスフォードが手がける。3歳で父を、12歳で母を亡くしたジョン・ロナルド・ロウエル・トールキンは、弟とともに無一文の孤児になり……。逆境のなか少年から青年へと成長し、愛や友情のつながりに支えられ、自らの道を見出してゆく。本やゲームやコミックなど、現在のカルチャーに大きな影響を与え続けるトールキンの壮大なファンタジーはいかにして生まれたのか。その背景や経緯を伝えるかのような人間ドラマである。

ニコラス・ホルト,リリー・コリンズ

1916年、第一次世界大戦下。戦況が激化するなか“ソンムの戦い”の戦場で、トールキンは行方不明になった親友ジェフリーを捜していた。しかし高熱で倒れ、思いは過去へと流れてゆく。3歳の時に父を亡くしたトールキンは、母と弟ヒラリーとイギリスのセアホール・ミルで暮らしていたが、12歳の時に母が急死。トールキン兄弟は無一文の孤児となり、後見人となった母の友人モーガン神父の支援により、フォークナー夫人の家に下宿しながらキング・エドワード校に入学する。良家の子息が通う名門校で、貧しい奨学生のトールキンは孤立していたが、利発な応対と凛としたふるまいに、最初はいじめやケンカを仕掛けてきた3人の少年たち、校長の息子で画家志望のロバート・ギルソン、劇作家を目指し詩作にも長けるジェフリー・スミス、クラシック音楽の作曲家として1曲出版しているクリストファー・ワイズマンも一目置き、次第に親しくなってゆく。4人はバロウ・ティールームに入り浸り、お茶を飲みながらあらゆることを議論するなか、自分たちの集まりを “ティー・クラブ・バロヴィアン・ソサエティ(略称T.C.B.S.)”と名付け、「芸術で世界を変えよう!」と誓い合う。16歳になったトールキンは下宿に同居し、コンサート・ピアニストを目指す3歳年上の孤児の女性エディスと惹かれ合うが、大学入試に失敗したことで、モーガン神父から21歳になるまで交際を禁じられる。そして世界大戦が勃発し……。

時代を越えて愛されるイギリスの作家トールキンの半生を、実話をもとに描く作品。トールキンの読者やファンではなくとも、ひとりの青年の青春と成長を描く人間ドラマとして魅力的な作品だ。両親を亡くし、自分の身以外は何ひとつないところからさまざまな経験を経て、仲間や師や伴侶と出会い、世界が広がって道を見出してゆく。トールキン本人が著書『指輪物語』の内容について、世界大戦の実話からとったものではないと明言していたことを示しつつも、この作品の企画を立ち上げた劇作家で脚本家のデヴィッド・グリーソンは、今回の映画化について語る。「トールキンに互いを刺激し合う親友たちがいたことは大発見だった。やがて4人は一緒に第一次世界大戦に志願し、恐ろしい危険に直面することで真の絆を築く。この絆はトールキンの胸の内に宿り、創作のテーマとなってゆく。トールキン自身は、作品と自分の人生をはっきりと分かち、プライベートなことには沈黙を続けた。だが、その関係性を知った今、私はそれを描かずにはいられなかった」
 トールキン作品の大ファンというカルコスキ監督は、「12歳の頃からトールキンを愛読していた。本を読んだ時の感動を、この映画に込めることを最も大切にした」とコメント。そしてこの映画のテーマについて熱く語る。「この作品は愛と友情についての魔法のような物語だ。孤児の少年が友に出会い、戦争に行き、永遠に愛する女性を見つける。そして才覚あるトールキンが、それらの実体験を、いかにしてあの信じがたいほど活力みなぎる幻想の作品世界に練り込んでいったかを描いている」

アンソニー・ボイル,トム・グリン=カーニー,パトリック・ギブソン,ニコラス・ホルト

のちに大学教授となり作家となる、ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン役は、ニコラスが好演。思春期の揺れ動く感情や成長してゆくさま、従軍体験による衝撃と喪失を抱えながらも生きてゆく姿を丁寧に表現している。トールキンと惹かれ合う女性エディス役は、リリー・コリンズがきっぱりとした心の強さをもつ情の深い女性として。カルコスキ監督曰く、リリーが実際のエディスの風貌に「気味が悪いほど似ていた」というのも興味深い。トールキンがキング・エドワード校で出会った3人の友人たち、厳格な校長の息子で画家志望のロバート役はパトリック・ギブソンが明るい俺様ふうに、劇作家を目指して詩人としても才をもつジェフリー役はアンソニー・ボイルが繊細に、クラシック音楽の若き作曲家クリストファー役はトム・グリン=カーニーがスマートに、そしてトールキンを支援するフランシス神父役はコルム・ミーニイが、オックスフォード大学で言語学を教えるジョセフ・ライト教授役はデレク・ジャコビが、それぞれに演じている。また戦争シーンの傭兵役として、トールキンの実の曾孫であるカルム・トールキンも出演している。

J・R・R・トールキン本人は、1892年に南アフリカで銀行家の父アーサーと母メーベルの間に生まれる。3歳で両親の母国イギリスに渡り、父がアフリカで脳溢血とリューマチ熱で他界したことから、母とトールキンと弟の3人はバーミンガムの母の実家でしばらく過ごし、その後セアホールに母子3人で引っ越して暮らし始めた。トールキンが12歳の時に母が糖尿病で死去、孤児となった兄弟は、フランシス神父の支援により10代を過ごす。そしてトールキンはバーミンガムのキング・エドワード校に奨学生として通い、オックスフォード大学に入学、在学中に研究を古典文学から英語の言語学と文学に変更。1915年に大学を卒業後、第一次世界大戦によりイギリス陸軍に入隊、従軍するが前線で塹壕熱にかかり、1916年の秋にイギリスに帰国、第一次世界大戦が終戦後に退役。リーズ大学の英語学教授を経てオックスフォード大学のロウリンソン・ボズワース記念アングロ・サクソン語教授となり、1945年にオックスフォードのマートン記念英語英文学教授となり、1959年に引退。一方で作家としては、1937年に『ホビットの冒険』、1954年〜’55年に『指輪物語』第1〜3部を発表するなど、多くの物語を執筆した。エディスとは1916年3月に結婚、4人の子どもに恵まれ(息子3人と娘1人)、妻エディスは1971年に82歳で他界、トールキンは1973年に81歳で死去した。そして没後は、残された膨大なメモや資料、いくつもの草稿や書きかけの物語などをもとに、三男のクリストファー・ジョン・ロウエル・トールキンが長い時間をかけて編集し、1977年に『シルマリルの物語』、1980年に『終わらざりし物語』、1983〜2002年に『The History of Middle-earth(中つ国の歴史)』のシリーズなど数々の作品を発表している。

ニコラス・ホルト,リリー・コリンズ

トールキンとエディスが眠るオックスフォードの墓地にて、エディスの墓石には『シルマリルの物語』の作中で、恋におちた人間ベレンのために、不死の魂を捧げたエルフ(妖精)の王女ルーシエンの名前が刻まれていて、トールキンの墓石の本名の下には、ルーシエンが命を投げうった死すべき定めの人間ベレンの名が刻まれているという。そして映画では、ルーシエンの誕生秘話として知られる、ツガの木立のなかで踊るエディスをトールキンが見つめる、夫妻のエピソードが幻想的に映像化されているのも見どころのひとつ。カルコスキ監督はこの逸話を映像で再現することに「武者震いした」と語る。そしてトールキン本人は、このように書き残しているという。「ルーシエンを、エディス・ルーシエンと書いたことはない。しかし、エディスは『シルマリルの物語』の源になっている。最初に思いついたのは、ツガの木々が生い茂る低湿地の森のなかだった。当時のエディスの髪は漆黒で、透き通るような肌と、見たこともないような輝く目をしていた」
 また劇中には、トールキンが子ども時代を過ごし、『ホビットの冒険』や『指輪物語』などに描かれる集落“ホビット庄”の着想を得た、イギリスのミッドランド西部の田園地帯にあるセアホール・ミルが登場。少年時代のトールキンが下宿したフォークナー夫人の家は、エドワード朝の大きな家で撮影、T.C.B.S.が集まるバロウ・ティールームは、新古典主義様式の典型的な19世紀建築というリバプールのセントジョージホールを使用して再現し、トールキンが仲間たちと出会ったキング・エドワード校は、マンチェスターのビクトリア様式のロッチデールタウンホールに華やかなゴシック様式の美術セットを用いて再現された。

イギリスが誇る作家の物語を、アイルランド生まれの脚本家が企画し、フィンランドを代表する監督が手がけたアメリカ映画である本作。カルコスキ監督は孤児ではなかったものの、フィンランド人の母のもとキプロスで生まれ、14歳になるまでアメリカ人の父と会うことはなく育ったことから、少年時代のトールキンの孤独と自立に深く共感したとのこと。またトールキンがヨーロッパの神話伝承から影響を受けているなかに、フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』が含まれていることに親近感を覚えたとも。壮大なファンタジー作品であるトールキンの作品は、文学としての評価は“極端に分かれている”というものの、その一方で、世界中の大勢のファンが時代を越えて大きな影響を受け続けていることは周知のことだ。2019年5月8日(現地時間)にロサンゼルスで行われた本作のプレミアイベントにて、トールキンの大ファンと公言する、海外ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」の原作者ジョージ・R・R・マーティンが特別ゲストとして参加。現代のクリエイターたちへの影響について、マーティンはこのように語った。「トールキンは素晴らしいインスピレーションをもっていた。多くのエピック・ファンタジーは彼の作品に影響を受けていると思う。トールキンは『指輪物語』や『ホビットの冒険』で“ファンタジー”を再定義したんだ。僕やほかの作品が描く影のあるファンタジーは、彼が創り上げたといっても過言ではないよ」
 最後にLAプレミアにて、カルコスキ監督がファンに語ったメッセージをお伝えする。「劇中で描かれる少年たちの仲間の物語はとても美しいんだ。彼らはアートで世界を変えようと誓い、お互いに影響し合い、助け合う素晴らしい存在。僕は彼らのようになりたいと思ったし、映画を観た人にもそれを感じて、劇場を出たら友だちとこの物語をシェアしてもらいたい。みんなにとって、(この映画が)インスピレーションの行路の物語になることを祈っているよ」

2019年8月9日更新

作品データ

公開 2019年8月30日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 アメリカ
上映時間 1:52
配給 20世紀フォックス映画
原題 TOLKIEN
監督 ドメ・カルコスキ
脚本 デヴィッド・グリーソン
スティーヴン・ベレスフォード
出演 ニコラス・ホルト
リリー・コリンズ
デレク・ジャコビ
トム・グリン=カーニー
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを担当。2015年よりフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を、2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。インタビュー記事の執筆も。