カツベン!

“日本映画のはじまり”を映す周防正行監督の最新作
大正時代を舞台に、活動弁士を志す青年の成長と
周囲の人々とのドラマを描く和製エンターテインメント

  • 2019/12/06
  • イベント
  • シネマ
カツベン!©2019 「カツベン!」製作委員会

“日本映画のはじまり”を描く、周防正行監督の5年ぶりの最新作。出演は、本作が映画初主演となる『人間失格 太宰治と3人の女たち』の成田凌、ドラマ「アシガール」の黒島結菜、そして永瀬正敏、高良健吾、井上真央、音尾琢真、竹野内豊、周防作品の常連である竹中直人、渡辺えり、小日向文世ほか充実の俳優陣が集結。脚本・監督補は、周防作品『舞妓はレディ』などでチーフ助監督を、『ハッピーウエディング』で監督を務めた片島章三が手がける。ニセ弁士として泥棒一味に取り込まれた染谷俊太郎は逃亡、本物の活動弁士を目指して小さな町の映画館にて住み込みで働き始め……。大正時代を舞台に、無声映画に独自の解説をつける活動弁士を志す青年と、周囲の人々とのドラマを生き生きと描く。恋ありアクションあり、レトロ感覚の表現がユニークな喜劇であり、周防監督が「今だからこそ、この映画を撮る意味がある」と語る、和製エンターテインメント作品である。

成田凌,黒島結菜

大正時代の日本。子どもの頃に活動写真小屋で観た活動弁士に憧れていた染谷俊太郎は、“心を揺さぶる活弁で観客を魅了したい”という夢を抱いていたが、今はニセ弁士として泥棒一味に取り込まれている。ある日、泥棒一味から逃亡した俊太郎は小さな町の映画館「青木館」に流れつき、本物の活動弁士を目指して働き始める。館主夫婦や活動弁士たちや映写技師などアクの強い曲者ぞろいで右往左往しながらも、プロの活動弁士の仕事ぶりを間近で学ぶなか、俊太郎が泥棒一味から持ち逃げした形になった大金をめぐって追手が迫りくる。そして幼なじみの初恋の人・梅子と再会し……。

大正時代のレトロな映像やサウンドとともに、若手からベテランまで充実の俳優陣の共演で引きつける群像劇。映画がサイレントでモノクロだった約100年前に日本で始まった、楽士の奏でる音楽と共に独自の“しゃべり”で観客に映画の内容を解説する活動弁士=通称“活弁(カツベン)”による上映方式が盛んだった当時の様子と、活弁を志す青年の成長を描くドラマとなっている。2019年9月21日に東映京都撮影所にて行われた囲み取材にて、周防監督は本作への思いをこのように語った。「日本映画の無声映画時代には“活動弁士”という存在がいて、映画を解説しながら上映していた時代があり、これは世界でも日本独自の文化でした。日本映画の始まりの物語をエンターテインメントとしてみなさんに知っていただき、日本映画の歴史というものを感じてもらいたかったという気持ちが一番強かった」

竹野内豊,音尾琢真

活動弁士を目指す染谷俊太郎役は成田凌が、紆余曲折のなか成長していく姿をひたむきに。俊太郎の幼馴染で新人女優の栗原梅子役は黒島結菜が、いざという時には芯の強い女性として。「話芸の神様と言われた名活動弁士・徳川夢声をモデルにしました(片島)」という、俊太郎が憧れていたかつての人気活動弁士・山岡秋聲役は永瀬正敏が、自信家のイケメン活動弁士・茂木貴之役は高良健吾が、俊太郎に恨みを持つ泥棒一味のひとり・安田虎夫役を音尾琢真が、“日本映画の父”と呼ばれる実在の映画監督・牧野省三役は山本耕史が、同じく実在した映画監督・二川文太郎役は池松壮亮が、また活動写真小屋の青木館の館主・青木夫妻役は竹中直人と渡辺えりが、青木館のライバルであるタチバナ館の社長で、ヤクザとして暗躍する橘重蔵役は小日向文世が、重蔵の娘で社長令嬢である橘琴江役は井上真央が、ニセ活動弁士と泥棒を追う熱血刑事・木村忠義役は竹野内豊が、また青木館で働く職人気質な映写技師・浜本祐介役は成河が、青木館で働く汗かき活動弁士・内藤四郎役は森田甘路が、梅子の母親役は酒井美紀が、青木館で働く三味線担当の楽士・定夫役は徳井優が、青木館で働く鳴り物担当の楽士・金造役は田口浩正が、青木館で働く管楽器担当の楽士・耕吉役は正名僕蔵が、それぞれに演じている。
 成田は活弁の特訓として、声量を上げるボイストレーニング、言い回しや間やイントネーションのとり方などの特訓をのべ4カ月間徹底的に行い、劇中でその成果を堂々と披露している。活動弁士の役を演じた成田、永瀬、高良には、別々の指導者をそれぞれにあて、個性豊かな活動弁士のキャラクターを作り上げていったそうだ。
 ひとりの青年の成長物語であり、日本で映画が上映され始めた当時の人々の姿を明るく描く本作の内容について、周防監督は語る。「今回は活動弁士の存在意義を問うようなお勉強映画にはしないようにしました」活動写真にオマージュを捧げた脚本に込められた思いを、ストーリーに反映したと監督は語る。「まずはあの時代の活気ある映画界を描きたかった。活動弁士という職業をきちんと見せるのは当然だけど、この映画には当時の活動写真のような楽しさをもたせたかった」

劇中に登場する無声映画を、現代の人気俳優たちで再現しているのも見どころのひとつ。実在する『不如帰』『ノートルダムのせむし男』『椿姫』『金色夜叉』『国定忠治』は、実際の映像を参考にしながら撮影。『椿姫』の高級娼婦マルギュリット役は草刈民代が、彼女に恋をする青年アルマン役は城田優が、『金色夜叉』のいわゆる“寛一お宮”のお宮役は上白石萌音が、実在の活動弁士・生駒雷遊の有名なフレーズ「ああ、春や春、春南方のローマンス」で知られる『南方のロマンス』のヒロイン役はシャーロット・ケイト・フォックスが、それぞれに演じている。監督はリスペクトを込めて、これらの無声映画を可能な限り35mmのモノクロフィルムで撮ったそうだ。無声映画をすべて新しく撮影したことについて、周防監督は語る。「僕が撮った大正時代の映画のなかに、本当に大正時代に撮影された無声映画があると、もうひとつ違った時制、つまり“大過去”が入るようで違和感があった。だから今回は登場する無声映画もすべて、新しく撮影しようと決めた」
 また本作オリジナルの無声映画として、片島章三が脚本を書き下ろして撮影した『火車お千』『後藤市之丞』『怪猫伝』なども注目だ。
 撮影は、京都の東映京都撮影所、栃木の日光江戸村、名古屋の姿勢資料館、岐阜の白雲座と鳳凰座、滋賀の三井寺と近江八幡など各地の趣ある建物や施設にて。なかでも青木館の内部を撮影した福島市の旧廣瀬座は、明治20年から存在する芝居小屋だった建物で、戦後からは映画館としても人々に親しまれたという国定重要文化財。もともとある定式幕や桟敷、花道といった設備に、美術で映写室と木製のスクリーンを作り、提灯を吊るして、当時の活気に満ちた空間を作り上げたそうだ。

成田凌,ほか

ほかの人のシナリオで監督する、時代もの、デジタル方式での撮影と、周防監督にとって初めての挑戦がいくつもある本作。周防監督は本作のテーマについて語る。「映画の定義。つまりフィルムで撮って、フィルムで上映して、不特定多数の人がスクリーンで観る。その定義がデジタル化によって変わらざるを得なくなってきている今だからこそ、この映画を撮る意味がある」
 そもそもの始まりは、周防作品『それでもボクはやってない』『終の信託』『舞妓はレディ』でチーフ助監督を務めた片島章三が約20年温めてきた脚本に、周防監督が惹かれたことがきっかけだったとのこと。大正時代のなかでも時期を具体的に特定したことについて、片島章三は語る。「大正14年の設定にした最大の理由は『雄呂血』(1925年)が撮影され、公開された年だから。それまでの歌舞伎町の殺陣からアクションへと変貌した、エポックメイキングな剣戟映画『雄呂血』の情報を入れることで、明らかに時代が移り変わったことを表したかったんです。実在の情報を入れることで、創作だけではないリアル感を映画に出したかった」

日本で映画の上映が始まった大正時代を舞台に描く、活動弁士を志す青年の成長物語であり、若手からベテランまで充実の俳優陣の共演で引きつける群像劇である本作。2005年の映画『ALWAYS 三丁目の夕日』の大ヒットもあり、昭和時代が映画でも人気テーマの定番となったなか、本作ではさらにさかのぼって大正時代のレトロ感覚を映していて。古き良きモノクロの名作やオリジナルの無声映画が登場し、当時の街や人々の雰囲気を生き生きと伝える内容は、シニア層の映画ファンにも大いに愛されそうだ。名匠・小津安二郎が自身の作品を活動弁士に扱われることを好まなかったことや、以前は「活動弁士のおかげで日本映画界の発達は止まった」とも言われていたことを踏まえた上で、周防監督は本作に込めた思いについて、このように語っている。「最近出た『黒澤明の羅生門:フィルムに籠めた告白と鎮魂(ポール・アンドラ著)』という本では、活動弁士だった兄からの影響についても言及されています。それくらい日本映画の発展に、活動弁士はさまざまな影響を与えています。小津監督や黒沢監督の映画も世界的に見ても特別な環境で育まれたもの。それが世界に誇る日本映画の黄金時代につながった。そういう歴史があって今の日本映画があることを、多くの人に、特に映画界を目指している若者に知ってほしいですね」

作品データ

公開 2019年12月13日より丸の内TOEIほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 日本
上映時間 2:06
配給 東映
英題 Talking the Pictures
監督 周防正行
脚本 片島章三
音楽 周防義和
出演 成田凌
黒島結菜
永瀬正敏
高良健吾
音尾琢真
竹中直人
渡辺えり
井上真央
小日向文世
竹野内豊
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
XInstagram

記載内容は取材もしくは更新時の情報によるものです。商品の価格や取扱い・営業時間の変更等がございます。