ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

原作者自身がモデルの次女ジョーの視点で名作を映画化
少女から大人へ、四姉妹が日々を模索する姿を描く
人気若手俳優と演技派の共演で引きつける人間ドラマ

  • 2020/06/02
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ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

四姉妹の日々をみずみずしく描く、ルイーザ・メイ・オルコットの自伝的小説『若草物語』をもとに、『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグが監督・脚本を手がけて映画化。出演は、『ブルックリン』のシアーシャ・ローナン、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ、『ハリー・ポッター』のエマ・ワトソン、HBOのドラマ『シャープ・オブジェクツ』のエリザ・スカンレン、『ミッドサマー』のフローレンス・ピュー、Netflixのドラマ『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーン、オスカー女優のメリル・ストリープほか。四姉妹の次女ジョーは小説家を目指して執筆に励むなか、町のダンス・パーティーで資産家の1人息子ローリーと出会う。原作者オルコットの姿が投影されている次女ジョーの視点から、四姉妹のストーリーを現代的な演出で映し出す。無邪気な少女時代から恋に戸惑う青春の頃、そして大人になりどう生きていくかを模索する女性たちの姿を描く人間ドラマである。

シアーシャ・ローナン,ティモシー・シャラメ

19世紀のアメリカ。マーチ家の四姉妹のなかでも際立って個性的な次女ジョーは、自らを曲げられないために周りとぶつかりながらも、小説家を目指して日々執筆をしている。控えめで美しい長女メグ、心優しい病弱な三女ベス、気が強くおしゃれが大好きな四女エイミー、尊敬するパパは南北戦争に牧師として出征中だけれど、姉妹にたっぷりの愛情を注ぐママと一緒に、裕福ではなくとも家族みんなで幸せに暮らしている。ある日、町のダンス・パーティーに出かけたメグとジョーは、資産家の一人息子ローリーと出会う。ジョーとローリーが意気投合し、何かと一緒に過ごすうちに、メグはローリーの家庭教師ジョン・ブルックと知り合い……。

1868年の発売以来1度も絶版にならず、55言語以上に翻訳され、これまでに舞台、テレビ、映画、オペラやアニメなどさまざまな形で作品化されている名作『Little Women(邦題:若草物語)』をもとに映画化。原作の小説から多大な影響を受け、映画化を切望したというガーウィグ監督は、なるべくオリジナルのセリフを使いつつ、会話を軽快なスピードで、テンポの良いかけ合いをするなど、古臭くならないように工夫するといった誠実なアプローチを心がけたとのこと。また女性が仕事をして経済的に自立するのは難しい時代に、作家として成功した原作者ルイーザ・メイ・オルコットのエピソードを実話や推察を織り交ぜて劇中に入れ込み、有名なストーリーに新鮮な印象をプラスしている。製作のエイミー・パスカルは『若草物語』のストーリーがいま改めて伝えたい物語である理由について、このようにコメントしている。「この物語には女性たちが、自分がなりたいように強くなれることと同時に、愛され尊敬されたいという願う気持ちが込められています。そして女性のもつパワーや芸術性を描き、すべての人々がありのままの自分でいるべき、と励ましてくれるのです」

シアーシャ・ローナン

小説家を目指す次女ジョー役はシアーシャが溌溂と表現。熱意があり頑固ではっきりと主張するさまを生き生きと演じている。マーチ姉妹の長女メグ役はエマが穏やかで堅実な女性として、三女のベス役はエリザ・スカンレンが音楽と家族を愛する病弱で心優しい少女として、四女のエイミー役はフローレンス・ピューがおしゃれが大好きで反発心の強い生意気さを憎めない感覚で。四姉妹の母親マーミー役はローラ・ダーンが献身的で愛情深く、内面の強い正義感や怒りを自身でコントロールする人物として、財産により再婚せずに独身を満喫するマーチ伯母役はメリル・ストリープが優雅でありつつも歯に衣着せぬリアリストとして。マーチ家の隣人であり裕福なローレンス家の一人息子ローリー役はティモシーが、四姉妹と親しくなりジョーの自由さや強さに強く惹かれるさまを繊細に、ローリーの祖父で資産家のローレンス役はオスカー俳優のクリス・クーパーがもの静かで威厳のある人物として、四姉妹の父親で牧師であるロバート役はボブ・オデンカークが妻子から敬愛されている穏やかな男性として、ローリーの家庭教師でメグに惹かれるジョン・ブルック役はジェームズ・ノートンが質素で真面目な青年として、ジョーがニューヨークで出会う学者のフレデリック役はフランス人俳優のルイ・ガレルが知的で率直な教授として、それぞれに演じている。

『Little Women(邦題:若草物語)』は1868年10月にルイーザ・メイ・オルコットが35歳の時に妹メイの挿絵で出版してベストセラーに。次女ジョーのモデルが原作者自身であることは有名で、オルコットは家計を助けるために16歳ごろから本格的に執筆し始め、家庭教師やお針子や看護婦などさまざまな仕事をしながら書き続け、1863年の『Hospital Sketches(邦題:病院スケッチ)』、1865年の『Moods(邦題:ムーズ)』など数冊ののちに、『Little Women』を発表。この著書が世界で翻訳出版されたことにより富と名声を得て、父が学校経営に失敗して抱えた莫大な借金を完済したという逸話がある。映画製作にあたり、ガーウィグ監督はオルコットが書いた手紙や書物を読むなどリサーチを重ねて、映画ではさらにオルコット本人が体験したかもしれないことや実際に実現したこと、もしかするとこうしたかったのかもしれないという推測を、ジョーのエピソードとして加えているのが興味深い。当時は女性という理由で作家として認められにくかったこと、単行本の発売にあたり著作権や報酬について出版社との交渉で自身の権利を主張して獲得したこと。劇中では四姉妹の物語とともに、自立心旺盛な女性が生きづらかった19世紀の社会において、女性が有名になるのは結婚と相続と犯罪以外の理由では珍しかったなか、何があろうとも信念をもち目標に邁進していったオルコット自身の姿勢を伝える内容になっている。ガーウィグ監督はジョーというキャラクターへの子どもの頃からの強い思い入れについて語る。「ジョーは男の子の名前を持った女の子で、作家になりたくて、野心があって、怒りも持ち合わせていて……彼女のそういうたくさんのことに私は共鳴するの。彼女の反抗心、性別によって決められた人生を超えたいという望み。それは今の私たちにとっても、とてもエキサイティングだと思う。彼女は私たちを自由にしてくれるのよ」
 マーチ家の両親は、原作者オルコットの両親がモデルになっていることから、母親役のローラと父親役のボブは役作りで、オルコットの実際の両親であるアビゲイル・メイとブロンソン・オルコットを参考にしたとのこと。名家に生まれた母アビゲイル・メイはもともと一家が奴隷制廃止運動をはじめ慈善事業を熱心にしていたことから、アビゲイルも活動家となり、後年には貧民救済に尽力してソーシャル・ワーカーになったとのこと。父ブロンソン・オルコットは教育者で超越主義の哲学者であり、アメリカで最初に大人向けの教育プログラムのひとつを設立したことで知られる人物。理想主義の思想家であるブロンソンは、学校で有色人種の生徒を白人の生徒たちと分け隔てなく受け入れるといった、当時には相当に進歩的な教育を試みたことから学校の運営に失敗したことも。そうしたことからオルコット一家は経済的に貧しかったが、子どもたちの個性を引き出して伸ばす教育といった面ではとても優れていて豊かだったとうかがえる。オルコット家はアメリカの超越主義を牽引したラルフ・ウォルドー・エマソンとヘンリー・デイヴィッド・ソローとは家族ぐるみの付き合いで、ルイーザはエマソンやソローから多大な影響を受けたとも。実際のオルコット四姉妹は、長女アンナは結婚して母として妻として暮らし、次女ルイーザは女流作家として大成して生涯独身を貫き、三女ベスは22歳で病死、四女メイは絵の勉強をしながら関連本を発表した。

エリザ・スカンレン,シアーシャ・ローナン,ローラ・ダーン,フローレンス・ピュー,ほか

映画の撮影もデジタルが主流となっているなか、本作はフィルムで撮影。オルコットは小説でマーチ家が暮らす町の名前を具体的にあげていないものの、自身が暮らしたマサチューセッツ州コンコードのイメージであることから、コンコードにて撮影。現在は歴史的保存物であり博物館となっているオルコットの自宅オーチャードハウスからほど近くに、その家を参考にしながら撮影用の美術セットとしてマーチ家を手作りで制作。ローリーが暮らすローレンス家のセットは、マサチューセッツ州ランカスターにある豪邸にて。エイミーが子どもの頃に通う教室として、オーチャードハウスの敷地内にある、ルイーザの父ブロンソンが哲学と文学の学校のために建てた建造物にて、ジョーが家庭教師として働くニューヨークの下宿先は、1860年代の建築であるボストンのギブソン・ハウス博物館にて、そのほかエマーソン・コロニアル・シアター、パーク・プラザ・キャッスル、シュタイナートビルといったボストンの歴史的建造物にて撮影した。またマーチ伯母とエイミーがパリの散歩道を馬車で通るシーンは、映画の撮影は本作が初となるアーノルド樹木園の庭にて撮影。フレデリック・ロー・オルムステッドがデザインし、現在はハーバード大学が所有・運営する、“最高の自然の宝物”と称されるというこの樹木園では、これまでずっと撮影を断り続けてきたものの、オルコット作品の映画化であることで撮影の許可を得たそうだ。
 また2020年の第92回アカデミー賞にて衣装デザイン賞を受賞した本作では、『プライドと偏見』『アンナ・カレニーナ』でもオスカー受賞経験のあるジャクリーン・デュランが衣装を担当。デュランは原作を子どもの頃に読み大好きだったものの、数々の映像化作品はまったく観たことがなかったとのこと。本作では19世紀のスタイルに造詣が深い一流の衣装スタッフであるクリスティン・エッツァルトとジョン・ブライトとともに、登場人物のイメージをカラーやデザインやコーディネイトで印象的に打ち出している。

女性の権利がほとんど認められていなかった時代に、少年や青年が活躍する冒険でもサスペンスでもなく、少女や女性たちの日常を描く家族の物語など退屈で無価値といわれていた頃に、初刷りの23章が数日で売り切れ、出版社から懇願されて続編を執筆して完成したという『Little Women』。この47章をもとに今どうしてもこの映画を作りたかった、というガーウィグ監督は、その理由についてこのように語っている。「芸術を生み出す、お金を稼ぐ、そして自分なりの選択する……すべての女性たちは少女の時にもっていた勇気を大人になってももち続けることができる、という物語を伝えたかったの。原作を読んでいると、世界が自分を支持してくれているように感じることがある。この物語が今も昔も変わらず私たちに響くのは、ヒューマニストの作品だから。家族の、そして性別を超えた人間同士のつながりの物語は、場所も時間も越えることができるから」

作品データ

ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
公開 2020年6月12日(金)より全国順次ロードショー
制作年/制作国 2019年 アメリカ
上映時間 2:15
配給 ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
原題 Little Women
監督・脚本 グレタ・ガーウィグ
原作 ルイーザ・メイ・オルコット
出演 シアーシャ・ローナン
エマ・ワトソン
ティモシー・シャラメ
フローレンス・ピュー
エリザ・スカンレン
ローラ・ダーン
メリル・ストリープ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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