eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

新国立劇場「巣ごもりシアター」

上質なオペラ公演の全幕を自宅でゆっくりと堪能
公演の記録映像を無料ストリーミングにて配信する
新国立劇場がみんなに贈る贅沢なスペシャル企画

新国立劇場「魔笛」より新国立劇場「魔笛」より

新型コロナウィルス感染に対して政府から緊急事態宣言が発出され、東京都でも緊急対応策を発表。東京都の映画館は現在、2020年4月11日〜5月6日まで休館となり、全国的にみんなで外出を自粛しているなか。今回は特別編として映画ではないものの、今の日々を応援する良質なスペシャル企画、新国立劇場の「巣ごもりシアター」をご紹介する。
 東京都渋谷区にある新国立劇場は、「長期に渡りご自宅などでの待機を余儀なくされている皆様へ、そして舞台芸術を愛する皆様に向けて」、公演の記録映像を無料ストリーミングにて配信スタート。まずはオペラ3作品、W.A.モーツァルト作曲の『魔笛』(2018年10月3日公演)、G.プッチーニ作曲の『トゥーランドット』(2019年7月20日公演)、P.チャイコフスキー作曲 オペラ『エウゲニ・オネーギン』(2019年10月1日公演)。上質なオペラ公演の全幕を自宅でゆっくりと堪能できる、贅沢な企画である。

オペラ『魔笛』(2018年10月3日公演)
配信日:2020年4月10日(金)15:00〜17日(金)14:00

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが最晩年の1791年に作曲を完成させたといわれる名作。夜の女王に仕える侍女3人と森で出会った王子タミーノは、邪悪なザラストロにさらわれたという女王の美しい娘パミーナを救うことに。夜の女王から魔法の笛を与えられたタミーノと、銀の鈴を授けられた“鳥刺し男”パパゲーノはザラストロの神殿へと向かう。そこで話を聞くと、ザラストロは暴君ではなく賢人であり、高慢な夜の女王からパミーナをかくまっているという。タミーノは徳と正義を得て、一目惚れしたパミーナと共に幸せに生きるため、神殿で試練を受けることを決意。妻と出会いたいパパゲーノもしぶしぶ同行するが……。
 2018年10月3日公演の『魔笛』は、大野和士オペラ芸術監督の就任第1作として上演され、ドイツ出身で現在はロシア・ミハイロフスキー劇場の主席客演指揮者であるローラント・ベーアが指揮。演出は南アフリカ・ヨハネスブルグ出身の現代美術家ウィリアム・ケントリッジが手がけ、自身の作品を用いた美術がとても印象的だ。舞台では、素描が生き生きと自発的に動くかのような、手描きのぬくもりがあるアニメーションを効果的に用いて、プロジェクションマッピングのように音やリズムとともに映像と舞台全体が調和。時には演技者の表現をふくらませ、ドイツ語上演(日本語字幕付き)でもストーリーが視覚的にわかりやすくなっているのが特徴だ。オペラを初めて見る人にも内容が伝わりやすく、オペラって古典的で退屈そう、というイメージをもつ人や、これまでに王道のステージは何度も観ている、という目の肥えたオペラファンにも新鮮な感覚だろう。ケントリッジの演出は、ユーモラスで軽やかな“鳥刺し男”パパゲーノのシーンと、愛のために試練に挑む王子タミーノのシリアスなシーンのメリハリが効いていて、モダンな歯切れよさを個人的に感じた。出演は、タミーノ役の世界的に活躍するオーストラリア人テノールのスティーヴ・ダヴィスリム、ザラストロ役のセルビア出身の若手実力派サヴァ・ヴェミッチ、パパゲーノ役のイタリア出身のアンドレ・シュエン、夜の女王役の安井陽子、女王の娘パミーナ役の林正子、パパゲーナ役の九嶋香奈枝ほか。楽曲は、コロラトゥーラ・ソプラノの超絶技巧で有名な夜の女王の2つのアリア(第2幕の「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え」のコロラトゥーラのメロディが筆者はお気に入り。タイトルはコワイけれどリズミカルで華やかな迫力がある)、パパゲーノが陽気に歌う「おいらは鳥刺し」などの名曲が楽しめる。ストーリーとして、神殿や教義といった大上段の決めつけで、“女は邪悪で男が正しい”といった文言については女性としてややひっかかるものの、当時はモーツアルトも所属し、今も続いている結社フリーメイソンの活動が特に盛んだったことをふまえて、興行主で俳優・歌手だったエマーヌエル・シーカーネーダーによる18世紀後半の創作である台本を、男性の大義や理性や建前=タミーノ、本能や本音=パパゲーノととらえてみると、人間味を感じて面白い。

オペラ『トゥーランドット』(2019年7月20日公演)
配信日:2020年4月17日(金)15:00〜24日(金)14:00

新国立劇場「トゥーランドット」より新国立劇場「トゥーランドット」より

数々の『トゥーランドット』のなかでも、ジャコモ・プッチーニの作曲により、1926年にイタリア・ミラノで初演された傑作。古代の北京。皇女トゥーランドットの謎かけを解き明かせば彼女が自分のものになると知った青年カラフは、3つの謎に挑戦する。解けなければ死を、と命がけながら、実は敗退した某国の王子であり、知己に富むカラフは3つの謎すべてをすぐに解き明かす。狼狽する皇女に、カラフは自分の名を謎として与え、「明日の夜明けまでに名を知れば私は死のう」と伝える。皇女は手を尽くして青年の名前を調べるが……。
 2年連続で大型作品を上演する国際的なオペラプロジェクト「オペラ夏の祭典2019-20 Japan↔Tokyo↔World」第1弾として、2019年7月に新国立劇場にて上演したステージ。指揮はこのプロジェクトの総合プロデュースをつとめる大野和士、演出はスペインの前衛パフォーマンス集団ラ・フーラ・デルス・バウスの芸術監督のひとりアレックス・オリエが手がけ、“大胆な解釈”と評されている。「大都会東京のようなメガロポリスを連想させる美的要素を凝縮したい」とオリエ氏がイメージした近現代的な美術セットと、カラフがトゥーランドットの美貌ではなく権力に惹かれていき、思いがけない結末を迎えるというストーリーで引きつける内容だ。出演は、トゥーランドット役のソプラノであるイレーネ・テオリンとジェニファー・ウィルソン、カラフ役のルーマニア出身で詩人としても活躍するテオドール・イリンカイ、カナダ出身のテノールであるデヴィッド・ポメロイ、カラフの父・老王ティムールを支えて共に放浪してきた女奴隷リュー役の中村恵理と砂川涼子、老王ティムール役の妻屋秀和ほか。管弦楽は大野氏が音楽監督を務めるバルセロナ交響楽団が来日、また新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブルによる合同の大合唱シーンも見どころのひとつ。なかでも第3幕でカラフが「夜明けに私は勝利するだろう」と高らかに歌い上げる名曲「Nessun dorma(誰も寝てはならぬ)」は必聴だ。

オペラ『エウゲニ・オネーギン』(2019年10月1日公演)
配信日:2020年4月24日(金)15:00〜5月1日(金)14:00

新国立劇場「エウゲニ・オネーギン」より新国立劇場「エウゲニ・オネーギン」より

詩人で作家のアレクサンドル・プーシキンの韻文小説を原作に、ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーが作曲、男女の愛のすれ違いを描くロシア・オペラの代表作。農村の地主の2人娘、物静かな姉タチヤーナと外交的な妹オリガ。タチヤーナは妹の婚約者レンスキーの友人オネーギンに一目ぼれし、恋文で伝える。しかしオネーギンは「自分は結婚に向かない」と冷たく告げ、地主宅での舞踏会に付き合いで行くも自分とタチヤーナの噂話に辟易。この状況を招いたレンスキーへの腹いせに、オネーギンがオリガとばかり踊ったことで、レンスキーはそれを侮辱と捉えて口論となり、決闘に。決闘でオネーギンは勝利するも、自分の銃撃で友人が死んだことにショックを受けて放浪の旅に出る。数年後、優雅な公爵夫人となったタチヤーナに再会したオネーギンは、彼女に夢中になるが……。演出は、モスクワの歌劇場ヘリコン・オペラの創設者であり、現在はエストニア・ブリギッタ音楽祭芸術監督であるドミトリー・ベルトマン、指揮はポーランド国立歌劇場音楽監督のアンドリー・ユルケヴィチがつとめ、ロシアの俳優・演出家のスタニスラフスキーが手がけた1922年の演出をモチーフに、現代的な視点を取り入れて2019年10月に新制作。出演はロシア人歌手を中心に、世界各地でオネーギン役を演じているワシリー・ラデューク、タチヤーナ役にサンクトペテルブルク室内歌劇場のソリストであるエフゲニア・ムラーヴェワ、レンスキー役に一流の歌劇場で活躍している若手パーヴェル・コルガーティンほか。見どころは、チャイコフスキー自身が思い入れをもって作ったと言われている、タチヤーナが恋文を書く“手紙の場”のアリア「私は死んでもいいの」、レンスキーが決闘の前に自身の人生とオリガへの未練を歌うアリア「青春は遠く過ぎ去り」、オーケストラのコンサートなどでも演奏されることの多い第3幕の華々しいポロネーズなど。ロマンティックなチャイコフスキーの音楽が、すれ違う愛を情感豊かに表現していると高く評価されている。

大野和士大野和士

各国の有名な作品を、オリジナリティある新制作で上演した3つのステージ。ドイツ語、イタリア語、ロシア語と、それぞれの個性ある楽曲を歌い上げる演者たちと、日本人歌手たちとの共演も楽しめる。
 また「巣ごもりシアター」と同時に、新国立劇場にて2020年4月7日〜12日の上演が中止となったオペラ『ジュリオ・チェーザレ』のリハーサル映像と、同公演に関連する「大野和士×リナルド・アレッサンドリーニ×ロラン・ペリー鼎談動画」、新国立劇場オペラ芸術監督が作品の魅力を解説する「大野和士のオペラ玉手箱」も配信中。大野氏のメッセージをご紹介する。「新国立劇場から皆様方に、とっておきのプレゼントをお送り致します。オペラ部門からは、私の過去2シーズンから、まずは3作の新制作オペラ、『魔笛』『トゥーランドット』『エウゲニ・オネーギン』 の全曲配信です。どちらも大きな話題を呼んだプロダクションですので、初めてご覧になられる方々には新鮮な感動を、劇場で既にご覧になられた方々にも違う角度からの発見をお届けできれば幸いです。再び、劇場で皆様方にお目にかかれる日を心待ちにしながら」

今回の無料ストリーミング配信サービス「巣ごもりシアター」では、英語版のページ「NNTT at Home」も用意。世界各地のなるべく多くの人たちに速やかに届くよう配慮がなされていることも特徴だ。日本でも首都圏をはじめ各地で、みんなで一斉に外出と人と接する機会を極力減らし、自宅で過ごしている今。家族と一緒でも一人暮らしでも、思考がぐるぐると空回りして苛立ったり煮詰まったりと気疲れすることもあるだろう。そんな時は、この状況で気分の浮き沈みなんてあって当たり前と開き直り、無理なくできるペースで、気持ちをなんとか平常に保っていけたらいいのかなと個人的に思う。そしてエンターテイメントやアートが気分転換を促し、“いつもの感じ”を取り戻すきっかけや一助に、もしなれたらといいなと。新国立劇場のスタッフは「巣ごもりシアター」の試みについて、また視聴者へのメッセージをこのように語っている。「お客様を劇場にお迎えできないこの状況下においても、新国立劇場を応援してくださる皆様と常に共にありたいという思いから、まずはオペラ公演からの3作品を無料で配信する運びとなりました。新国立劇場オペラパレスでの臨場感あふれる公演記録映像を、ご自宅でお楽しみいただき、そして、再び安心して新国立劇場に御来場いただける日が訪れるまで、舞台芸術の力を支えに“巣ごもり”をしていただければと願っております」

2020年4月14日更新

新国立劇場「巣ごもりシアター」

視聴はこちら
https://www.nntt.jac.go.jp/sugomori/

英語版「NNTT at Home」
https://www.nntt.jac.go.jp/english/news/all/nntt-at-home.html

※動画視聴に伴う通信料は視聴者の負担。
※感想を各種SNS で募集。ハッシュタグ「#巣ごもりシアター」「#nnttathome」。

W.A.モーツァルト作曲 オペラ『魔笛』(2018年10月3日公演)
ドイツ語上演 日本語字幕付

配信日 2020年4月10日(金)15:00〜4月17日(金)14:00
指揮 ローラント・ベーア
演出 ウィリアム・ケントリッジ
出演 サヴァ・ヴェミッチ、スティーヴ・ダヴィスリム、安井陽子、林 正子、アンドレ・シュエン、九嶋香奈枝、升島唯博ほか
合唱 新国立劇場合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団

G.プッチーニ作曲 オペラ『トゥーランドット』(2019年7月20日公演)
イタリア語上演 日本語字幕付

配信日 2020年4月17日(金)15:00〜4月24日(金)14:00
指揮 大野和士
演出 アレックス・オリエ
出演 イレーネ・テオリン、テオドール・イリンカイ、中村恵理、リッカルド・ザネッラートほか
合唱 新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル、TOKYO FM 少年合唱団
管弦楽 バルセロナ交響楽団
制作 新国立劇場・東京文化会館

P.チャイコフスキー作曲 オペラ『エウゲニ・オネーギン』(2019年10月1日公演)
ロシア語上演 日本語字幕付

配信日 2020年4月24日(金)15:00〜5月1日(金)14:00
指揮 アンドリー・ユルケヴィチ
演出 ドミトリー・ベルトマン
出演 エフゲニア・ムラーヴェワ、ワシリー・ラデューク、パーヴェル・コルガーティン、鳥木弥生、アレクセイ・ティホミーロフほか
出演 イレーネ・テオリン、テオドール・イリンカイ、中村恵理、リッカルド・ザネッラートほか
合唱 新国立劇場合唱団
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。