eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ファヒム パリが見た奇跡

バングラデシュからの難民の少年が、12歳未満の
チェスのフランス全国選手権で優勝した実話を映画化
周囲の人たちと支え合い、少年が“王”になるまでを描く

ファヒム パリが見た奇跡©POLO-EDDY BRIÉRE.

バングラデシュからの難民の少年が、12歳未満向けのチェスのフランス全国選手権で優勝した実話をもとに映画化。出演は、本作が映画初出演でキャスティングの3ヶ月前にバングラデシュから渡仏したアサド・アーメッド、『シラノ・ド・ベルジュラック』のジェラール・ドパルデュー、『アメリ』のイザベル・ナンティほか。監督・脚本は俳優としても活躍するピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァルが手がける。8歳のファヒムは母や兄弟と別れ、父と共に政情不安のバングラデシュからフランスのパリへ国外脱出。父子で亡命者として政治的保護を求めるなか、母国でも抜きんでたチェスプレイヤーだったファヒムは優秀なコーチのいるチェス教室を訪れる。言葉も地理も文化もわからない異国で難民として生き抜くこと、少年がチェスを通じてさまざまな出会いや交流を経て、新しい生活に徐々になじみ自身の生き方を模索していく姿をぬくもりのある風合いで描く。若きチェスプレイヤーとして実力が認められているファヒム・モハンマドの実話をもとに映すドラマである。

アサド・アーメッド,イザベル・ナンティ,ほか

2008年、政変が続くバングラデシュの首都ダッカ。8歳のファヒムはチェスが大好きで、6歳の時から大会で勝利を重ねるほどの腕前だ。しかし親族が反政府組織に属していたことで父ヌラが目を付けられ、ファヒムのチェス大会での優勝が妬まれたことから、一家は脅迫を受けるようになり、ヌラは家族でフランスへの亡命を決意。まずはファヒムを連れてフランスへ渡り、難民申請をして仕事や住居を決めてから妻子たちを呼び寄せることを決断する。父子は家族と別れてダッカを発ち、なんとかパリに到着して難民センターに身を寄せる。そしてセンターのスタッフの紹介で、フランスでも有数のチェスのトップコーチであるシルヴァンのいるチェス教室を訪れる。ファヒムはシルヴァンの威圧的な指導にはじめは苦手意識をもつが、教室の子どもたちと親しくなるうちにコーチとも次第に打ち解けてゆく。そんな折、父子の難民申請が却下され、ヌラが姿を消してしまう。強制送還までのリミットが迫るなか、ファヒムは12歳未満向けのチェスのフランス全国選手権に出場する。

難民が先進国で生きることを伝えると共に、家族、師弟、友だちと支え合い、少年が実力で“チェスの王”になるまでを描くあたたかな物語。もともとコメディを多く手がけてきたマルタン=ラヴァル監督が初めて実話ベースの作品に挑戦したそうで、社会的な視点を含みながらも、軽妙な日常のやりとりや子どもたちの率直な明るさが感じよく、ドラマとしてシンプルに楽しめる内容だ。そもそもは監督が、2014年にファヒム・モハンマド本人が人類学者で作家のソフィー・ル・カレンネックと、チェスの師匠グザヴィエ・パルマンティエとの共著で発表した本『UN ROI CLANDESTIN(英題:A King in Hiding、「密入国者の王さま」の意)』について話す、当時13歳だったファヒムのインタビュー映像をテレビで見て感銘を受けたことがきっかけだったとのこと。監督は映画化を決めた、その時の思いについて語る。「それまで彼のことをまったく知りませんでしたが、落ち着いた声で話すこの少年に魅了され心を揺さぶられたのです。なぜ8歳の時に急に母親から引き離され、国を出なければならなかったのか。父親と一緒に言葉も生活習慣も知らないフランスに降り立ち、その4年後に、不法滞在のホームレスであったにもかかわらず、どうやって12歳以下のチェスのフランス王者になったのか。すごい道のりです! 私の映画作家としての血が体をひと巡りし、すぐにこの映画を作りたいと思ったのです」

アサド・アーメッド,ザヌル・ラハマン

チェスの天才少年ファヒム役はアサド・アーメッドが、今回が演技初挑戦とは思えない自然な雰囲気で体現。ファヒムの父ヌラ役はやはり演技初挑戦であるミザヌル・ラハマンが子ども思いの父親として、ファヒムを指導するチェスのコーチ、シルヴァン役はジェラール・ドパルデューが、チェスひと筋でほかのすべてに不器用な男性として、チェス教室の事務を担当するマチルド役はイザベル・ナンティが、きっぱりとしながらも心優しく頼りになる女性として、それぞれに演じている。劇中ではチェス教室の子どもたち、なかでもおっとりとしたデキる女子のルナ、難民センターで暮らすアフリカ系の兄弟といったファヒムを取り巻く子どもたちそれぞれのやりとりがとても微笑ましい。

本作は、ファヒム・モハンマド本人が半生を伝える共著『UN ROI CLANDESTIN』をもとに映画化。本を出版した理由についてファヒムは語る。「書籍には、路上で生活する亡命者や難民に対する世間の目を変えたいという思いが込められています」
 ファヒムは良くも悪くも自分に起きたすべてのことはチェスによるものだと語っている。「6歳の時にバングラデシュで命に危険が及んだのは、僕がチャンピオンになったことへの妬みのせいでした。一方で、父と僕がフランスで身分証を取得できたのは、チェスのトーナメントで勝ったからです。チェスのおかげで人生と自由を手に入れることができ、僕の半生を語る本が出版され、僕の名前が冠された映画ができたのです」
 映画化について連絡がきたのは14歳の時で、驚きはしたもののよくわかっていなかったとのこと。小規模なドキュメンタリーかなと想像していて、世界に配給される規模の映画とは思ってもいなかったという。映画化にあたり少し“フィクション化”されている面も含めて、「この映画をとても好きです」というファヒムは、映画への思いをこのように語っている。「この映画がどのような運命をたどるのかはわかりません。書籍同様、難民に対する世間の目を変えることに貢献してくれることを願っています。僕よりも辛い思いをした人もいます。映画では、悲惨なことだけではなく美しいことも語られているので好きです。最終的には、みんなが困難を乗り越えます。また、チェスが頭脳的ではなく冒険的なゲームとして描かれているところも好きです。チェスを知らない人にも楽しんでもらえると思います」

アサド・アーメッド

8〜11歳の頃のファヒムを描く本作。2000年生まれの彼は現在20歳になった。難民には制約が多く、フランスでは外国籍の子どもは18歳でようやく最初の滞在許可証(有効期限1年)を取得できるとのこと。つまり、ファヒムは8歳でフランスに来てからフランスを離れる権利がなく国外旅行もできず、10年の間不安定な状況だったのだ。まずは滞在許可証があればフランスで就労できるし国外旅行もできるとのこと。そしてフランス国籍を取得するにはさらに5年が必要という。ファヒムは2019年にバカロレア(高校卒業試験)に合格して、商業学校に入学。国籍を取得してこのままフランスで暮らし、「資産管理か国有財産の管理の仕事をしたいです」と語り、将来を考えはじめている。「人生のすべてをチェスに捧げようとは思っていません。何人かの偉大なチャンピオンのように正気を失いそうで怖いからです。だから、数ヶ月前にチェスの練習を休むことにしました。段階的に再開するつもりではいますが……。今、僕は落ち着いています。路上で寝ていた頃のことを考えることもなくなりました。前に進みながら生きようとしています」
 また自身のフランスへの思いと、敬愛する父の映画への思いをこのように語っている。「僕を受け入れてくれた国に感謝していますし、父も息子の名前を冠した映画ができたことをとても誇りに思い、感謝しています」
 最後に、劇中でファヒム役を演じたアサドのメッセージをお伝えする。アサドは撮影が始まる約3ヶ月前にファヒムと同様、バングラデシュから政治亡命者の息子として渡仏してきた2003年生まれの少年で、この映画への思い入れをこのように語っている。「脚本の内容を聞いた時、とても感動しましたし、バングラデシュの首都ダッカで起こっているいろいろな問題を思い出しました。ファヒムの物語は僕のものではありません。でも僕が経験してもおかしくなかった。この映画を通して、人々が難民の生活が簡単ではないとわかってくれることを願います」

2020年8月19日更新

作品データ

公開 2020年8月14日よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2019年 フランス
上映時間 1:47
配給 東京テアトル/STAR CHANNEL MOVIES
原題 Fahim
監督・脚本 ピエール=フランソワ・マルタン=ラヴァル
出演 ジェラール・ドパルデュー
アサド・アーメッド
ミザヌル・ラハマン
イザベル・ナンティ
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。