eHills Club 試写会日記

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望み

雫井脩介のベストセラーを堤幸彦監督が映画化
少年が消息を絶った日、彼の同級生が殺害される
家族の心情と事件の顛末を描く重厚なサスペンス

望み© 2020「望み」製作委員会

『犯人に告ぐ』『検察側の罪人』の雫井脩介による20万部超えのベストセラーを、『人魚の眠る家』『十二人の死にたい子供たち』の堤幸彦監督が映画化。出演は、映画や舞台やドラマで活躍する堤真一、2020年12月公開の映画『サイレント・トーキョー』の石田ゆり子、ドラマ「中学聖日記」の岡田健史、2021年放送予定のNHK連続テレビ小説「おかえりモネ」の清原果耶ほか。脚本は、映画『八日目の蝉』『おおかみこどもの雨と雪』の奥寺佐渡子が手がける。ある日、高校生の少年が無断外泊で帰宅しなかった翌日、同級生が殺害されたとニュースが流れる。両親と妹がそのままずっと帰宅しない少年を心配するなか、殺人事件への少年の関与が疑われ……。少年は本当に事件に関わっているのか、被害者なのか加害者なのか、その真相とは。時間がたつにつれ、追い込まれてゆく家族のギリギリの心情を、張り詰めた緊張感と共に映す人間ドラマであり、殺人事件の顛末を描くサスペンスである。

堤真一,ほか

建築家の石川一登は自らデザインした邸宅で、フリーの校正者である妻・貴代美や高1の息子・規士(ただし)と中三の娘・雅と共に幸せに暮らしている。規士はケガでサッカー部を辞めてから遊び仲間との無断外泊が増えて、高校受験を控えた雅は塾通いの毎日だった。冬休みのある晩、規士が無断外泊をしたまま連絡が途絶え、両親が心配していると、テレビで規士の同級生が殺害されたというニュースが流れる。その後、警察官が訪ねて来て、被害者は規士の友人であり、規士を含めて数名の遊び仲間が事件の日から行方がわからないと伝える。高校生同士の殺人事件かという衝撃的な展開にマスコミの取材は過熱し、「もう1人死んでいる」という噂がSNSで拡散。ネットでは誰が加害者で被害者か、原因は何か、憶測と中傷が駆け巡り、石川家に影響が及び始める。

殺人事件の行方と、姿を消した少年の家族が追い詰められてゆく心情を描く本作。息子を信じ、家族を守るためにも被害者となっていても仕方ないと考える父親と、加害者であっても生きていてほしいと強く願う母親、ネットやメディアの追及が激しくなるにつれ、兄を心配しながらも不安に呑み込まれそうになる妹、交錯し対立する家族の思いが迫りくる感覚だ。映画化は、原作の小説連載時から映画化を考えていた二宮直彦プロデューサーが堤監督に依頼して企画がスタート。家族4 人のキャスティングと脚本づくりに約4 年かけて、撮影に臨んだという。原作の小説の魅力と映画化への思いについて、堤監督は語る。「この家族のほんとうの気持ちは何なのか……原作を読んだときこのテーマをものすごく興味深く感じました。サスペンス性の高い演劇を見ているような味わいがあります。登場人物の心理描写が非常に緻密な原作の芯になる部分を的確に紐解き、抽出し、ギミックのある演出を施すことなく、俳優の演技一本勝負でストレートに作品と向き合うことは、シンプルゆえに難しくもありますが、同時に、映画を作る者として挑戦してみたい魅力にあふれていました」

堤真一,岡田健史

建築家の石川一登役は堤真一が、息子の無実を信じる父親として。フリーの校正者である一登の妻・貴代美役は石田ゆり子が、加害者であってもとにかく生きていてほしいと切に願う母親として。消息を絶つ高1の長男・規士役は岡田健史が、中3の妹・雅役は清原果耶が、事件を追う週刊誌の記者・内藤役は松田翔太が、事件を捜査する刑事・寺沼役は加藤雅也が、貴代美の母・扶美子役は市毛良枝が、一登の取引先である建設会社の社長・高山役は竜雷太が、それぞれに演じている。
 劇中では、規士を信じながらも混乱して思いがぐらつく父親・一登と妹・雅の思いや、とりわけ家庭的で穏やかなタイプの貴代美が、規士の行方についてだけは頑として譲らずに夫に意見するシーンなどが印象的だ。堤監督作品ではコメディでもシリアスでも母と子どもの結びつきが響くことが個人的に多く、監督の大切なテーマのひとつであるように感じる。この映画の撮影は登場人物の感情の移り変わりを重視して、ほぼ順撮りで行ったとのこと。家族の痛切な心情をくっきりと描くこの物語について、小説で強烈に感じたことと映画として描きたいことを堤監督は語る。「息子が事件の被害者となるか加害者となるか、どちらの結末を迎えても惨憺たる結果になるこの物語はミステリーであるだけでなく、設定や行動のディティール、父と母の葛藤とその心理描写の緻密さに圧倒されました。社会的にも経済的にも成功した主人公が、息子の失踪をきっかけにその『家族』が壊されていく。我が身に明日起きても不思議ではない。そのスリルと感情の揺れをストレートに役者の芝居で描きたいと考えました」
 原作者の雫井脩介氏は、執筆時に最も苦しみ抜いたという作品の映画化について、キャストとスタッフへの思いをこのように語った。「『望み』は、父と母の心理描写を軸にして紡いだ作品であり、その心理描写が使えない映像というジャンルでこの物語を活かすことは難しいのではと思っていました。しかし、奥寺佐渡子さんから素晴らしい脚本が上がったことでその不安は消え、シリアスな社会派ドラマを含めた多くの作品を手がけてきた堤幸彦監督が、これをどのようにスクリーンに映し出してくれるかという楽しみが一気にふくらみました。堤真一さんと石田ゆり子さんはその安定感でもって、よき父、よき母にしっくり収まります。それゆえ、事件によって平穏な日常が壊れていく様も際立ち、観る者に強く訴えかけてくることだろうと思います」

清原果耶,石田ゆり子

ラストに、事件の真相と背景から、規士の言動の理由がわかることで一気に帰結する本作。何が、誰が、正しいか正しくないかではなく、ひどく辛く苦しい状況のなかで変化してゆく家族それぞれの思いには、それぞれの“真実”があることがよく伝わってくる。エンディングでは森山直太朗が本作を観てから書き下ろしたという主題歌『落日』が流れ、ゆっくりと街を映す映像にとてもよく合っている。もともと原作の小説の大ファンだったという規士役の岡田健史は、本作への熱い思いを語る。「愛とは、親子とは、人とは、いろんなことを考えさせられる作品です。たとえ、親子であっても子どもは親の所有物ではない。人は孤独でしかない。そのなかで互いを愛し、愛され合うという儚さ、愛おしさを感じていただけたら幸いです。ぜひ、劇場で観てください」
 この作品のジャンルについて、観客へのメッセージと共に堤監督は語る。「社会派であるとかエンターテインメントであるとか単純には括れない作品になるのではないかと思います。撮影中は、もっとハラハラするサスペンスにするべきか、あるいはもっとひたすら泣けるものに落とし込むべきではないか、などといろいろ考えましたが、原作者、俳優やスタッフの想い、そういうものを感じながらひとつひとつ紡いでいくことで、自然に心が揺さぶられる作品になったように感じます。観た方それぞれの人生によって受け止め方は違うとは思いますが、観終わって、何とも言えない余韻が残ることを期待します」

2020年10月8日更新

作品データ

公開 2020年10月9日よりTOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国ロードショー
制作年/制作国 2020年 日本
上映時間 1:48
配給 KADOKAWA
監督 堤幸彦
原作 雫井脩介
脚本 奥寺佐渡子
出演 堤真一
石田ゆり子
岡田健史
清原果耶
加藤雅也
市毛良枝
松田翔太
竜雷太
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。