eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ノッティングヒルの洋菓子店

愛する親友を、母を、娘を亡くした3人の女性が
問題山積のなか、力を合わせて夢に向かっていく
多様性も軽妙に描く、やさしい風味の人間ドラマ

ノッティングヒルの洋菓子店©FEMME FILMS 2019

美しいケーキや焼き菓子が並ぶお店を舞台に、大切な人を亡くした3人の女性たちが再生していくさまを描く。出演は、『輝ける人生』のセリア・イムリー、『暮れ逢い』のシャノン・ターベット、『チャーリーとチョコレート工場』のシェリー・コンほか。監督はドキュメンタリーやTVシリーズ、広告などを制作し、本作が初の長編監督デビューとなるドイツ出身のエリザ・シュローダー、脚本は舞台やTVシリーズで注目され、2017年のBBCが選ぶ新人リストで注目の脚本家のひとりとして選出されたジェイク・ブランガーが手がける。ひとりの女性の死をきっかけに3世代の女性たちが支え合い、喪失を乗り越え夢を実現していくさまを軽やかに描く。孫と祖母の関係の修復、母のように慕う親友の母との和解、最悪な印象の旧友との再会、二の足をふむ大人たちの恋愛、シニアたちのほのぼのとしたロマンスなど、洋菓子店をモチーフにしたやさしい風味の人間ドラマである。

ルパート・ペンリー=ジョーンズ,シェリー・コン,セリア・イムリー,シャノン・ターベット©FEMME FILMS 2019

イギリス、ロンドン西部に位置する高級住宅地ノッティングヒル。いま人気のシェフ、オットレンギの愛弟子だったパティシエのサラは、親友のイザベラと共に、長年の夢だった自分たちの店をオープンすることに。しかし突然の事故でサラが急死してしまったことで、投資家は手を引き、店舗の契約解除も不可能という厳しい状態に。一方、ダンサー志望であるサラの娘クラリッサは、父を知らずに育ったなか大切な母を亡くしたショックで、ダンスを続けられず恋人とも別れて同棲を解消、長年交流のなかった祖母ミミの家に転がり込む。イザベラは菓子職人の親友サラを亡くし、貸店舗は手つかずでボロボロ、銀行口座の残金もなく気持ちが折れて諦めかけていると、クラリッサが一緒にお店を始めようともちかける。クラリッサは、サラとは母娘で絶縁していた祖母ミミに出資してもらうという。そしてパティシエを募集すると、ミシュラン2つ星のレストラン「トロワ・ザミ」のスターシェフ、マシューがやってくる。彼はサラとイザベラと共にパリの製菓学校に通った旧知の仲で、サラと因縁があったことからイザベラは渋るものの、作るお菓子のすばらしさを認めて採用。店名を「ラブ・サラ」に決定しオープンするが……。

ロンドンの洋菓子店を舞台に、愛と信頼について、それぞれに痛みや悲しみを抱える三世代の女性たちが再生してゆく姿を描くドラマ。ロンドンの人気シェフ、ヨタム・オットレンギのデリ「オットレンギ」の全面協力により、美しくおいしそうなお菓子の数々が登場する、スウィーツ好きには心躍る映像となっている。ドイツ出身のシュローダー監督は、自身の趣味のお菓子作りが家族の思い出とつながっていることについて、このように語っている。「私が幼い頃、姉がいつも作ってくれたシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ(黒い森のサクランボケーキ)は、子ども時代の魔法のような思い出と結びついています。私にとってお菓子作りは、愛情と家族と一緒に過ごす時間を意味しています」

シェリー・コン,ルパート・ペンリー=ジョーンズ©Laura-Radford

パティシエの親友サラと洋菓子店の開店準備をしていたイザベラ役はシェリー・コンが、実直でひたむきな女性として。サラの母でクラリッサの祖母ミミ役はセリア・イムリーが、もと空中ブランコの名手として人気者だった気の強い女性として。サラの娘クラリッサ役はシャノン・ターベットが、ややがさつでも心根のやさしい今どき女子として。ミシュラン2つ星レストランのもとシェフ、マシュー役はルパート・ペンリー=ジョーンズが、女好きで軽薄というだけじゃない、菓子職人としての確かな腕と親しい人たちへの思いやりをもつ男性として、店のご近所に住むシニアの男性フェリックス役はビル・パターソンが、軽妙かつ上品にミミにアプローチしてくる人物として、それぞれいい味わいで演じている。またほんのわずかに映るサラ役は、アマチュアの参加者たちがお菓子やパンなど“ベイキング”の腕をコンテスト形式で競うイギリスの人気番組「The Great British Bake off」の2016年の優勝者キャンディス・ブラウンが演じているそうだ。
 撮影で本物のお菓子を使った時のエピソードについて、シュローダー監督は笑いながら語る。「菓子を使ったシーンの撮影は楽しかったですね。登場する美味しいお菓子をいただこうと、とにかくその場にいるスタッフとキャスト全員が最後のテイクを心待ちにしていました(笑)」

「挑戦をしたいと思って」 「登山か編み物をしたら?」
 マシューとイザベラの会話など、何気ない会話のユーモアも楽しい本作。異文化を尊重し合うことや多様性について、とってつけたような感覚ではなく、リアルでいて軽やかで柔軟なトーンが物語全体にあるのは、シュローダー監督自身の実感が活かされているからだろう。監督はドイツのハンブルグ生まれ。5人きょうだいの末っ子として育ち、ベルリンのフンボルト大学にてドイツ文学とカルチュアルスタディーズの修士コースで学ぶ。その後、ロンドンのゴールドスミス大学にて映画製作コースで2つ目の修士号を修得。友人とレインスタープロダクションを設立し、制作した短編映画がIMDB新人映画制作者賞にノミネート。またカップケーキ職人についての短編ドキュメンタリーが話題に。そしてTVシリーズ「The Gigolo」の監督、ユニリーバやジミー・チュウなどの広告映像も。フランス人の夫との結婚を機にイギリスへ移住したシュローダー監督は、イギリスの欧州連合(EU)からの離脱(通称:ブレグジット)を含め、さまざまな人たちが暮らす今のロンドンを映す本作について語る。「多様な文化をもつ、るつぼとしてのロンドンを映し出す映画を作りたいと思っていました、特にブレグジットの時代においては。15年前にロンドンに移ってきましたが、今では誇りをもってここを故郷と呼んでいます。ブレグジットの後も、ロンドンがオープンで多様性をもつ街であり続けてほしいと願っています」
 また監督は、夫と1歳、3歳、5歳の子どもたちと共にノッティングヒルで暮らして11年になるとのこと。地元を舞台にした作品で、初の長編映画監督デビューを果たしたこと、ノッティングヒルへの思い入れについて、このように語っている。「ノッティングヒルという街は私にとって大きな意味を持っています。多様性と様々な色彩があり、世界中から来た人々が住んでいてインスピレーションを与えてくれるところです。今は私の故郷となり、自分の心にこんなに近い場所で本作の撮影ができたことはとても幸運だったと思っています。オットレンギのカフェも近所なので、前々からお店の素晴らしいケーキやお菓子の大ファンでした。私の子どもたちも大好きで、よく朝食や学校の後のおやつを食べに行っています」

ビル・パターソン,セリア・イムリー,ほか©Laura-Radford

サラの死、という喪失から始まる本作。この物語の企画と脚本の構想は、監督がゴールドスミス大学院に在学していた頃からあったとのこと。その後、短編やコマーシャル制作を経て、本作のプロデューサーや脚本家と出会ったことでこの企画が進み始め、3人で物語と脚本を練り上げて完成。シュローダー監督も脚本家のジェイク・ブランガーも肉親や親しい人を亡くしたことへの思いを、それぞれこの映画に込めているという。
 監督「数年前に母を亡くしたことをきっかけに、死というテーマを尊厳ある方法で描きたいと思っていました。暗く抑制されたトーンではなく、希望と生命を感じさせる方法で。母の死を悼む一方で、彼女の思い出が生き続け、彼女が誇りに思ってくれるような人生の選択をすることが大事だったのです」
 ブランガー「“悲しみ、悼みの物語”を映画にしたいと思ったきっかけは、2人の近親者を亡くした経験からきています。そこで一番影響を受ける人たち、母親、娘、親友そして元恋人を描きたかった。やり残したことや後悔があり、言いたいことを伝えられないまま旅立った人に、過ちを修正する機会はもうないとしても、残された人たちはそれぞれに人生を変え、本当の意味で自分の力で何かを成し遂げることができる。そうした物語を描きたいと思いました」

親友である大人の女性イザベラ、サラの娘クラリッサ、サラの母ミミ、3世代の女性たちそれぞれの心情と再生を描く本作。3世代のキャラクターをモチーフにしたことについて、シュローダー監督と脚本家のブランガーはこのように語っている。
 ブランガー「私の執筆のモットーは、“人生の肯定”をテーマに、多くの世代の人たちが楽しめるような脚本を書くことです。本作では3世代の家族が一緒に見に行きたいと思うような、互いに絆を強め、人生で大事なことは何かとそれぞれに考えるような、温かく明快な作品にしたいと思いました」
 監督「私にとってこの映画は多くのものを意味しています。互いを愛しているにも関わらず、つながりをもつ方法を見出せずにいる女性たちの葛藤と相違点を描くこと。また3世代の物語にすることで、女性が人生の異なるフレーズでもつそれぞれの強さ、個性、願望を織り込むことができました。そして女性たちが共に団結することで、困難を克服すること、美しいものを作り出し、互いに影響を与え合うことで強くなれることを表現したいと考えていました。私は、ほかの女性たちとの関係と絆が、我々に力を与えてくれると信じています。そして観た方がキャラクターの誰かひとりにでも共感できたら嬉しいです」

2020年12月4日更新

作品データ

公開 2020年12月4日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー
制作年/制作国 2020年 イギリス
上映時間 1:38
配給 アルバトロス・フィルム
原題 Love Sarah
監督・共同製作 エリザ・シュローダー
製作 ラジータ・シャー
脚本 ジェイク・ブランガー
出演 セリア・イムリー
シャノン・ターベット
シェリー・コン
ルパート・ペンリー=ジョーンズ
ビル・パターソン
ライター:あつた美希 CSホロス株式会社代表取締役。フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。これまでに取材した人数は600人以上、2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』でコラム“シネマ・アロマ”を担当。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。