主役クラスの俳優たちが結集したテレンス・マリック監督作
音楽の街オースティンを舞台に男女4人の関係が交錯する
さまざまな楽曲と美しい映像で引きつけるラブ・ストーリー
主役クラスの人気俳優らが共演し、大御所ミュージシャンたちがカメオ出演している恋愛ドラマ。出演は、『ドラゴン・タトゥーの女』のルーニー・マーラ、『ラ・ラ・ランド』のライアン・ゴズリング、『それでも夜は明ける』のマイケル・ファスベンダー、『ブラック・スワン』のナタリー・ポートマンほか。そしてイギー・ポップ、パティ・スミス、ジョン・ライドン、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、リッキ・リーなどのミュージシャンたちがカメオ出演。監督・脚本は『シン・レッド・ライン』『ツリー・オブ・ライフ』のテレンス・マリック、撮影はアカデミー賞を3度受賞した『ゼロ・グラビティ』のエマニュエル・ルベツキが手がける。ギタリストのフェイは大物プロデューサーのクックに口説かれて密かに付き合うように。ある日、パーティーで気鋭の作曲家BVと知り合ったフェイは、クックにそそのかされてBVとも付き合い始め……。人気俳優たちの即興演技を、ブルースやロックやR&Bなどさまざまなジャンルの楽曲と美しい映像で引きつけるラブ・ストーリーである。
アメリカのテキサス州、音楽の街オースティン。ギタリストのフェイは、大物プロデューサーのクックに口説かれて密かに付き合うように。ある日、パーティーで新進のソングライターであるBVと知り合ったフェイは、クックにそそのかされてBVとも付き合い始める。一方でクックは、ダイナーで出会ったウェイトレスのロンダを誘惑し、ロンダとも関係をもつように。危うく微妙なつながりのなか、4人の気持ちはそれぞれに変化してゆき……。
テレンス・マリック流、散文詩のようなスタイルの恋愛ドラマ。一般的な映画やドラマの感覚でストーリー性を求めると微妙な向きもあるものの、観念的なニュアンスや、自然と人をアーティスティックにとらえる美しい映像、幅広いジャンルの楽曲の数々などで引きつける内容となっている。アメリカとメキシコで撮影し、たくさんの楽曲を用いた本作について、マリック監督は語る。「キャラクターたちの人生の断片を繋ぎ合わせることで、映画を観ながら実際に彼らの人生を経験しているように感じさせたかった。自分で考え世の中を生き、何かの欲望を抱いてその方向に進み、また違った願望を持ったらその方向に進むとしていくと、行きつく先に何があるのか。その生き方、人生の先にいったい何があるのか。それを伝えるのはとても難しいことで、その方法を我々は知らなかった。結果的に多くのロケーションと多くの音楽を使って表現することが、考え得る唯一の手段だった」
ギタリストのフェイ役はルーニーが、裕福ではないが純粋で才能豊かな作曲家のBVと、自信家で退廃的な富豪のクックという正反対の2人の男の間で戸惑う女性を好演。作曲家のBV役はライアンが、音楽を愛しフェイに惹かれ、成功を夢見る男性として。音楽プロデューサーのクック役はマイケルが、フェイやBVら関わった人たちを次々と自分のペースに巻き込む人物として。クックは、“ジョン・ミルトンの『失楽園』に出てくる悪魔のイメージ”とのこと。クックに誘惑されて付き合うダイナーのウェイトレス、ロンダ役はナタリーが貧しい生活のなかで母親を大切にする真面目な女性として。またフェイのバンドのヴォーカリスト役として、1991年の映画『ドアーズ』でジム・モリソン役を熱演したヴァル・キルマーが出演しているほか、ケイト・ブランシェット、ホリー・ハンター、ベレニス・マルローら女優たちの出演も。
登場人物のクックは皮肉な人で、観ていて疲れるような、感じのいい人物では決してない。クックを演じたマイケルは役作りについて、マリック監督から渡されたメモをもとにしたという。「クックは『失楽園』に出てくる悪魔のような存在だったんだ。だから、常に人に揺さぶりをかけ挑発するように演じた。クックは金で買えるものなら何でも手に入れたい裕福な音楽プロデューサーで、拝金主義の世界に人を引き込むのを楽しんでいる。まるで一緒に堕落してくれる人を求めているかのようにね」
バンド活動をしているライアンにとって、ギターやピアノを弾くミュージシャン役はとてもハマッていて、テレンス・マリック監督が『ラ・ラ・ランド』を作ったらこうなる、といった印象を個人的に感じた。まるでライアンの素敵度が存分に伝わるプロモーション・ビデオのよう、とも。才能豊かなエンターテイナーで出し惜しみせず、好きになった女性をいつも笑わせて楽しませ、明るいオーラで抱きしめる包容力はライアン本人の個性だろう。ライアンのキャスティングについて、プロデューサーのサラ・グリーンは語る。「テリー(テレンス・マリック)はライアンが演技を始めて以来のファンでした。同様にライアンはテリーの作品をずっと観ていて、2人は長い間、一緒に仕事をしたいと思っていたの。ライアンは誠実で才能のある素晴らしい人よ」
ライアン自身はマリック監督作品への出演について、このように語っている。「誰もがマリック作品に出演したい、一緒に仕事がしてみたいと思っている。マリックは、数秒その映画を観ただけで彼の作品だとわかる数少ない監督だ。これは非常に稀有なことで、その監督作に出演するのも同じように貴重だ。普通の映画作りとまったく異なるやり方で映画を作るし、今まで培ってきたものをすべて置き去りにして、ただただ飛び込んでいく現場が刺激的で、本当に素晴らしかった」
またルーニーは、マリック監督のスタイルである即興演技に、ライアンとマイケルと共に挑戦できたことへの感謝を語る。「私が戸惑っていると、いつもライアンが手を貸してくれて新しいことを試すことができた。それにマイケルとは一緒に仕事をするには最高の相手だったわ。彼はとてもオープンな人で、どんなことも前向きにチャレンジすることができた」
即興演技による俳優たちのシーンでは、恋人同士として愛し合うことやいさかいなど、あくまでも演じる役のキャラクターとしてであっても、役者たち本人の持ち味が垣間見えるのが面白い。マリック監督は即興演技を用いる自身の演出について語る。「自分は事前に計画を立てたり、先入観を持って物事を実行に移したりするのが苦手です。ストーリーボードなどをもとに映画を撮影することも。普通はそうするのでしょうが、自分はその方法には不適格です。その日その日の撮影がどのようになっても自然にその流れを受け止めて、どこへ行くのかをみるのです。何か物事を起こそうとしたり、自らアクションを起こしたりすると、どうも最初から作られたようなものに思えてしまい、だんだんと演劇を見ているような感覚になってしまう。演劇自体は素晴らしいと思いますが、映画の場合は演劇のように見えてほしくない」
マリック監督の演出と即興演技について、マイケルは語る。「今まで経験したことのない感じだった。とても激しく、面白く、挑戦する感じはやりがいがあり、恐ろしい経験でもあった。彼は常に執筆していて、特に決まった台本があるわけではないので、台詞を短時間で覚えるのは大変だった。監督は書いたセリフを読ませてくれるが、ほとんど即興でやらなくてはいけない。監督が実権を握っている即興で成り立っている。マリックは唯一無二の存在で、この国の偉大な詩人のひとり。私にとってマリック作品に出演するのは夢であり、学校に戻っていろいろと学び直しているような感じだった」
2012年に撮影された本作では、当時にオースティンで開催されたロック・フェスにカメラを持ち込み、たくさんのライブ映像を収録。COVID-19の感染防止対策により大勢が密集するイベントが行われない今、どこか懐かしくまぶしい感覚もある。本作ではバックステージや楽屋なども含め、パフォーマンスから舞台裏までロック・フェスの臨場感ある映像がたっぷり楽しめるのが特徴。スタッフは撮影しながら現場でミュージシャンたちに声をかけていったことで、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、イギー・ポップ、ジョン・ライドンなど世代やジャンルを超えたミュージシャンたちが本作へのカメオ出演を決定。ナタリーは音楽フェスでの撮影について語る。「本当のオーディエンスはエネルギーが違うと思った。こういうシーンでは普通エキストラを使うの。本物のオーディエンスはずっと力強く生気に満ちていたわ。出演するミュージシャンたちはみんな自由奔放よ。すごく興味深い人たちだった。彼らは過激なことを探求しながら、肉体的にも精神的にも満ち足りた人たちなの。それは俳優が目指していることでもある。だから、テリーが本作にさまざまなミュージシャンを起用したのは本当に素晴らしいことだと思うわ」
「ルールは若い時に学んで親を喜ばせたら窓から投げすてろ」。これは劇中でセックス・ピストルズのヴォーカルだったジョン・ライドンが、笑いながらさらっと言う言葉だ。またアトランタのロック・バンド、ブラック・リップスはフェイのバンドとして、ギタリストにルーニー、ヴォーカルにヴァル・キルマーを迎えながらも「いつも通りに演奏した」そうで、フェスのシーンで俳優たちと共に過激なパフォーマンスを披露している。またスウェーデンのシンガーソングライター、リッキ・リーは本作にてBVの恋人のひとりとして演技に初挑戦した。
なにより一番印象深いのは、パンク・ロックのゴッドマザーと呼ばれるパティ・スミスの出演だ。マリック監督とは1970年代からの知り合いというパティは、かけだしのギタリストであるフェイに影響を与える大物ミュージシャンとして本作に出演。劇中でフェイと語り合うシーンでは、自身の亡くなった夫への愛について静かに話している。ルーニーはパティとの共演について、強烈な体験だったと語る。「彼女との出会いは決して忘れることのできない、信じられないほど特別な体験だった。人生や愛について彼女が考えていることをぜんぶ聞くことができたのはラッキーだったわ」
マーラーの交響曲「Symphony No. 2」やドビュッシーの「Nuages」、トレヴァー・モーガン「Jesus Rides The Subway」、パティ・スミスの「Babelogue」「Birdland」、ボブ・ディランの「Rollin N Tumblin」、そしてエンディングにはボブ・マーリー&ザ・ウェイラーズの「It Hurts to Be Alone」などロックを中心に、クラシックやゴスペル、パンクやポップスなど幅広いジャンルの約50曲が流れる本作。ラブ・ストーリーとしてはさておき、各人がさまざまな楽曲や映像、登場人物たちの断片的なセリフなどから響くものはあるかもしれない。プロデューサーのリチャード・リンクレイターは本作のテーマと魅力について語る。「この映画では各キャラクターがそれぞれの人生を探しているという部分が最も胸を打つところだと思います。マリック監督特有の方法論で、ちょっとした風景のシーンや登場人物の回想シーンなどの積み重ねが詩的な深みのような、いったい自分はこの世の中のどこにいるのか、どこに位置しているのかという思いを与えてくれる。映画を観ながら自分がその経験をしているかのようです。この映画はある意味で真にピュアな映画です。“映画”はほかの芸術形態には表現できないものを伝えることが可能であり、『ソング・トゥ・ソング』はそれを成し遂げていると思います」
公開 | 2020年12月25日より新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて全国公開 |
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制作年/制作国 | 2017年 アメリカ |
上映時間 | 2:08 |
配給 | AMGエンタテインメント |
原題 | SONG TO SONG |
監督・脚本 | テレンス・マリック |
撮影 | エマニュエル・ルベツキ |
出演 | ルーニー・マーラ ライアン・ゴズリング マイケル・ファスベンダー ナタリー・ポートマン ケイト・ブランシェット ホリー・ハンター ベレニス・マルロー |
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