イタリア人のゲイカップルが帰郷して
両親にカミングアウトと結婚報告をするが……
同性婚に対する偏見への風刺を軽妙に描くコメディ
ニューヨークのオフ・ブロードウェイでロングラン上演した人気の舞台「My Big Gay Italian Wedding」を映画化。イタリアで最も美しい村に登録された観光地チヴィタ・ディ・バニョレージョを舞台に、ゲイカップルの結婚と家族間のドラマを描く。出演は、『リッチョーネの日差しの下で』のクリスティアーノ・カッカモ、『TAXi ダイヤモンド・ミッション』のサルヴァトーレ・エスポジト、『エーゲ海の天使』のディエゴ・アバタントゥオーノ、映画や舞台などで活躍するモニカ・グェリトーレほかイタリアの俳優たちを中心に。監督はイタリアで脚本家や俳優として活躍している実力派のアレッサンドロ・ジェノヴェージが手がける。アントニオと恋人のパオロは結婚を決め、互いの親の理解を得ようと帰郷するが……。戸惑う親世代、ストーカー気質の元カノ、祝福する友人、新たな同居人となる変わり者、カリスマ・ウエディング・プランナー、村の人々……周囲の人たちとの関わりのなか、同性婚に対する偏見や差別への風刺をコメディタッチで軽やかに描く、家族のドラマである。
ドイツのベルリン。アントニオは恋人で役者仲間のパオロにプロポーズし、結婚に向けてお互いの親の理解を得ようと決意する。しかしパオロはゲイであることをカミングアウトして以来、母親と疎遠になっていた。まず、両親に何も話していないアントニオは、故郷であるイタリアのチヴィタ・ディ・バニョレージョへ、パオロと友人2人と共に4人で帰省。両親に自分がゲイであることのカミングアウトと同時にパオロを婚約者として紹介し、結婚することを伝えようとするが……。
2018年にイタリアで初演した舞台「Puoi baciare lo sposo」を映画化した本作。原案の舞台「My Big Gay Italian Wedding」は、劇作家で俳優のアンソニー・J・ウィルキンソンが執筆し、2003年にニューヨークのオフ・ブロードウェイで初演後、アメリカ国内で30カ所以上、そしてイギリス、アイルランド、香港、カナダ、フランスなどで上演。2018年にはロサンゼルス、2019年には16周年記念としてニュージャージーで上演も。この舞台は著名人を主役に起用するなどし、「結婚の平等」や「トレヴァー・プロジェクト(LGBTQ+の若者たちを支援するアメリカの非営利団体)」への意識向上と資金集めのために貢献した。イタリアでは2016年に下院議会で同性カップルの結婚に準ずる権利を認める「シビル・ユニオン」法が可決されたこともあり、『天空の結婚式』はイタリア国内でヒット。国際的なLGBTQ作品の映画祭「Outflix国際映画祭」にて最優秀外国映画賞を受賞した。
両親にカミングアウトと結婚の報告をするアントニオ役はクリスティアーノ・カッカモが、流されやすい面のある青年として。アントニオの婚約者パオロ役はサルヴァトーレ・エスポジトが、一途で心優しいナポリ出身の青年として。アントニオの母アンナ役はモニカ・グェリトーレが、息子を心から愛するしっかり者のマンマとして、観光地チヴィタ・ディ・バニョレージョの村長であるアントニオの父ロベルト役はディエゴ・アバタントゥオーノが、保守的な昔気質の父親として、アントニオとパオロのベルリンでの大家であるベネデッタ役はディアーナ・デル・ブッファロが裕福で自由なタイプとして、あることで妻子に家から追い出されたバス運転手のドナート役はディーノ・アッブレーシャが情緒不安定なおじさんとして、修道士フランチェスコ役はアントニオ・カターニアがヤギと会話するユーモラスな人物として、それぞれ個性的に演じている。また今“イタリアで一番有名なウェディング・プランナー&デザイナー”として、実際にテレビのコメンターとして活躍しているエンツォ・ミッチョが、本人役で出演している。
原作の舞台のタイトル「My Big Gay Italian Wedding」で思い出すのはやはり、2002年の映画『マイ・ビッグ・ファット・ウエディング(原題: My Big Fat Greek Wedding)』だ。この作品は主演女優ニア・ヴァルダロスが自身の実話をもとにしたひとり芝居を映画化し、世界的に大ヒットしたことは周知の通り。ギリシャ系アメリカ人の女性がアメリカ人男性と恋愛結婚をするのに、育った環境や宗教観や親戚づきあいの違いや、アメリカとギリシャの異文化間のカルチャーギャップのなか、互いに受け入れ理解しようと歩み寄るドタバタぶりが面白い、ハートウォーミングなコメディだ。『天空の結婚式』の場合は同性婚をテーマに、愛し合う誰もが平等に結婚できるべきであることや、親世代が理解し受け入れることができるか、ということを軽やかなタッチで描いている。
映画の主な撮影は、イタリアのラツィオ州ヴィテルボ県バニョレージョにあるチヴィタ・ディ・バニョレージョにて。“イタリアで最も美しい村”に選ばれたこの村は、宮崎駿監督の映画『天空の城ラピュタ』のモデルになった場所としても知られている。この地域の歴史はローマ帝国よりも古く、イタリア中部の先住民のエトルリア人によって約2500年前の紀元前8世紀頃に町としてつくられた。現在の地形になったのは、時間の経過と共に雨風や度重なる地震により台地が侵食され徐々に崩落し、断崖絶壁の上にある「天空の村」の形になったのではないかと言われている。劇中では、村に入る唯一の手段である長さ約300mの細い橋をアントニオたちが歩くシーンもあり、村の全景をとらえた映像などがとても印象的だ。
ラストシーンはハロルド・メルビン&ザ・ブルー・ノーツの1975年の曲「Don't Leave Me This Way」で明るく盛り上がる本作。この曲はテルマ・ヒューストンがカバーしたバージョンがオリジナルを超えて世界的にヒットし、グラミー賞の最優秀女性R&Bヴォーカル部門を受賞したことで有名だ。また「私を置いていかないで あなたの愛なしで生きていけない」という詞と相まって、テルマのカバー版は、エイズが流行していた1980〜’90年代のアメリカ西部のゲイ男性のコミュニティでテーマ曲のようになっていたとも。この映画ではミュージカル仕立てのシーンで流れ、ダンサーじゃない人たちも老若男女みんなで踊り、振りがヨタついたりバラついたりしている感じも、アバウトでノリ重視のイタリアっぽくてキュートだ。“結婚の平等”というメッセージや、差別や偏見への風刺を家族のコメディ・ドラマとして軽妙に描く良質な作品なので、“新年の初映画”としてもおすすめの1本だ。
公開 | 2021年1月22日よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国順次公開 |
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制作年/制作国 | 2018年 イタリア |
上映時間 | 1:30 |
配給 | ミモザフィルムズ |
原題 | Puoi Baciare Lo Sposo |
監督 | アレッサンドロ・ジェノヴェージ |
原案 | アンソニー・J・ウィルキンソン |
出演 | ディエゴ・アバタントゥオーノ モニカ・グェリトーレ サルヴァトーレ・エスポジト クリスティアーノ・カッカモ |
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