ローズメイカー 奇跡のバラ

バラの育種家と助手、素人3人組がコンクール優勝を目指す
世界屈指のローズブランド監修による美しい映像と共に
家族のようなあたたかいつながりを描く人間ドラマ

  • 2021/05/14
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ローズメイカー 奇跡のバラTHE ROSE MAKER © 2020 ESTRELLA PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - AUVERGNE-RHÔNE-ALPES CINÉMA

頑固なバラの育種家とお人好しのアシスタント、世間からはみだした素人3人組がひょんなことから出会い、世界最高峰のバラ・コンクールに挑む物語。出演は、『大統領の料理人』のカトリーヌ・フロ、インディーズ系のラッパーとして知られるメラン・オメルタ、『TAXi ダイヤモンド・ミッション』のコメディ俳優ファツァー・ブヤメッド、映画や舞台やTVなどで活躍するマリー・プショー、『パリの家族たち』のオリヴィア・コート、ヴァンサン・ドゥディエンヌほかフランスで活躍するメンバーを中心に。監督・脚本は、短編映画『Les Miettes』でセザール賞短編映画賞を受賞したピエール・ピノーが手がける。これまでに数々の賞を受賞してきたバラ育種家のエヴは、数年前から巨大企業に賞も顧客も奪われ、亡き父から継いだバラ園も倒産寸前に。助手のヴェラが職業訓練所から3人の働き手を格安で呼び寄せるが……。一流ローズブランドの完全監修によりスクリーンに広がる一面のバラやさまざまな種類のバラが美しく、バラの栽培や育種のシーンなどを撮影。人が出会い、対立しながらも支え合うことで大きな夢を目指し、それぞれの道を見出してゆくさまを描く、あたたかな人間ドラマである。

カトリーヌ・フロ

フランス郊外のバラ園。これまで数々の賞を受賞してきたバラ育種家のエヴは、数年前から巨大企業に賞も顧客も奪われ、亡き父から継いだバラ園の経営が倒産寸前に。助手のヴェラは何とか立て直そうと、職業訓練所から格安で3人の働き手を呼び寄せる。しかし前科者のフレッド、定職に就けないサミール、異様に内気なナデージュの3人はバラの栽培はまったくの素人で、エヴとヴェラも未経験の従業員の教育に疎いことから、数日後には一晩で200株のバラを枯らしてしまうことに。そんな折、エヴは新種のアイデアを閃くも、交配に必要な希少株をライバルの巨大企業ラマルゼル社が独占していると知り、とんでもない計画を思いつく。その後、悪天候や資金難に苦しむなか、エヴはラマルゼル社からバラ園の買収を持ちかけられるが、断固拒否。エヴたちは次回の国際バラ新品種コンクールを目指し、さまざまな困難にアイデアを出し合い実践しながらみんなで乗り越えるなか、連帯感が生まれてゆくが……。

美しい映像メインのシリアスなフランス映画ではなく、倒産寸前のバラ園をめぐる経営者と従業員を描き、コミカルなくだりや厳しい就業状況、格差社会や育児放棄といった現代のフランス社会を反映する要素もある人間ドラマ。劇中には、コメディ部分とはいえエヴの手段を選ばないある行為は現実離れしすぎているし、わかりやすすぎる展開に観ていて物足りなさを感じる向きもあるだろうけれど、人が支え合うことについてシンプルな教訓を含む良心的な物語となっている。また本作で描く、異なる品種をかけ合わせて魅力的な新種を開発するバラの育種について、ピノー監督は語る。「多くの人は、バラの創作はフランスの専門分野であるということを知らないでしょう。不思議なことに、フランスの知られざる得意分野なのです」

ファツァー・ブヤメッド,マリー・プショー,カトリーヌ・フロ,メラン・オメルタ

亡き父から継いだ小さなバラ園の経営者エヴ役はカトリーヌ・フロが、色、形、香りのすべてにバラの美を追求する職人気質の育種家として。独身で子どももなくバラにしか興味がないワンマン気質のエヴが、フレッド、サミール、ナデージュと関わるうちに、人間味を深めていく姿を自然体で表現している。劇中のバラを監修するローズブランドのひとつ、1930年創業のフランスの老舗ドリュ社で身に着けたカトリーヌの役作りについて、ピノー監督は語る。「カトリーヌは撮影前と撮影中に、かつてバラ育種家としてバラの交配と新種開発の仕事をしていたドリュ社のドリュ夫人から指導を受けていました。カトリーヌは完ぺきにその動作を再現しています」
 強盗や傷害などの前科をもつ小悪党のフレッド役はメラン・オメルタが、親から見捨てられた寂しさを抱える青年として、移民の血筋ですでに市民権はあるも失業率の高さから定職に就けないサミール役はファツァー・ブヤメッドが、内気すぎて人とのコミュニケーションが困難であるナデージュ役はマリー・プショーが、ラマルゼル社のトップであるラマルゼル役はヴァンサン・ドゥディエンヌが、それぞれに演じている。個人的に胸に響いたのは、オリヴィア・コートが演じるエヴを献身的にサポートする助手のヴェラだ。ワンマン社長のエヴに、ランチのジュースを飲み干され、車を壊され、コツコツためた貯金を丸ごと会社の運営資金に借りると勝手に決められても、まったくブレずに粛々とエヴを支える姿に、なんてお人好しな、と観ていてあきれながらも、その心根の清廉さが沁みる。
 監督は、関わることでそれぞれに内面が変化してゆくエヴとフレッドの関わりについて語る。「エヴとフレッドの関係が私自身に一番近く、思い入れがあります。第三者が彼/彼女の可能性を信じることが彼/彼女に自信を与え、その結果、彼/彼女が未来に一歩を踏み出す勇気をもらうことができる。とても美しいことだと思います。本作でエヴはあることには失敗しますが、代わりにフレッドの人生を“咲かせる”ことができ、それはなによりも美しい創造だと思います」

本作では、色とりどりの上質なバラが並ぶコンクールや、一面に咲き誇るバラの野原などさまざまなバラの映像が楽しめる。バラの監修には、前述のドリュ社の創業者の孫であるジョルジュ・ドリュとフランソワ・ドリュ、1850年の創業から6世代に渡り100%家族経営でバラ事業を行う名門ローズ・ナーセリー、メイアン・インターナショナル社の代表アラン・メイアン、1970年からアマチュアとしてバラの交配を始め、世界的なコンクールで数々の受賞歴を誇る“フランスのバラ育種家の長老”ミシェル・アダンが参加。映画でエヴが経営しているバラ園は、フランス南東部のモンタニー地方にあるドリュ社のバラ園にて、エヴが視察する巨大企業ラマルゼル社の広大な温室は、メイアン社の温室にて撮影。映画撮影のためのリサーチや、バラの成長を早回しで見せるドキュメンタリーさらながらの生き生きとした映像について、監督は語る。「私は企画のリサーチ中にドリュ社のバラ園を知り、脚本を執筆中にバラの世界にどっぷりと浸かるため、実際にバラ園を訪れました。素晴らしい景色とドリュ社の皆さんの親切に圧倒されましたよ。また、たった2か月の撮影期間で季節の移ろいを見せるのは本当に大変でした。時の流れによる変化を見せるため、バラの野原に無人カメラを設置して撮影を10か月間しました。季節変化の恩恵が得られる9月と10月は、最初の何週間かは燦燦と日が照り草木も青々とした夏でしたが、最後の数週間は秋が既にはっきりと現れていました」
 そして監督は花や庭園への思い入れについて、このように語っている。「母と祖母が花や庭園を好きだったこともあり、昔から縁があります。庭園は我々に人生や季節の移り変わり、気まぐれな天気を受け入れること、そして忍耐や辛抱強さを教えてくれます。また平和が生まれる場所でもあります」
 またピノー監督は日本の映画や絵画や建築などへの強い思いがあるそうで、このようにコメントしている。「日本の偉大な映画監督たちの作品に感動し、影響を受けてきました。特に小津安二郎監督ですが、他にも溝口健二監督、黒澤明監督、是枝裕和監督、そして勿論、宮崎駿監督です。彼は素晴らしい想像力と独特の世界観の持ち主で、フランスでとても愛されています。私は日本画や浮世絵、エッチングも好きです。これらの日本芸術には形式的また視覚的な大胆さ、繊細さ、さりげなさと強さ、驚くほどの美しさと洗練を見ることが出来ます。また日本の建築では、安藤忠雄氏の作品に深く心を動かされます。そして勿論、日本庭園や、自然や花々の美を愛でる日本の文化にも影響を受けています」

カトリーヌ・フロ,オリヴィア・コート

バラ園を舞台に、血縁ではなくとも家族のようなあたたかいつながりを描く本作。映画ラストの“母に捧ぐ”というメッセージについて、監督は語る。「母はこの企画をとても気に入っていたのですが、私がこの脚本を書いている間に体調を崩し、この世を去ってしまいました。そのため、この映画の成功を誰よりも願っているであろう母に本作を捧げることにしました。エヴが育種家として新しい花、そして人生を生み出す姿を通して、すべての母親たちに敬意を示しているとも言えます」
 そして監督は本作のテーマについて、「“誰でも輝くことができる”ことと、“誰でも誰かを輝かせることができる”こと」とコメント。生き生きとしたバラの映像と共に、素直な主題をてらいなくストレートに描く本作。まさにバラのシーズンである5〜6月に、スクリーンに広がる鮮やかなバラの世界とやさしい物語を楽しむのも一興だ。

作品データ

公開 2021年5月28日より新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
制作年/制作国 2020年 フランス
上映時間 1:36
配給 松竹
原題 La Fine fleur
監督・脚本 ピエール・ピノー
出演 カトリーヌ・フロ
メラン・オメルタ
マリー・プショー
オリヴィア・コート

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