eHills Club 試写会日記

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プロミシング・ヤング・ウーマン

第93回アカデミー賞脚本賞受賞、キャリー・マリガン主演作
医大を中退したキャシーは学生時代の友人と再会し……
恋愛ドラマと復讐劇を鮮やかに描くエンターテインメント

プロミシング・ヤング・ウーマン©2020 Focus Features

脚本・監督・製作を手がけ長編映画デビューをしたエメラルド・フェネルが、2021年4月の第93回アカデミー賞授賞式にて脚本賞を受賞、また全米脚本家組合賞にてオリジナル脚本賞を受賞し、各国で高い評価を得ている話題作。出演は、本作の製作総指揮も務める『17歳の肖像』のキャリー・マリガン、脚本家、監督、コメディアン、作曲家、俳優として活動し初監督映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』が評判となったボー・バーナム、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』のアリソン・ブリー、トランスジェンダーの女優であり、LGBTの擁護を訴えるアクティビストである『エマの秘密に恋したら』のラヴァーン・コックスほか。幼い頃から優秀だったキャシーはある事件により医大を中退。そして今、昼はカフェの店員をして、夜はバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下して過ごしている。ある日、大学時代の同級生ライアンと再会し……。ポップでキュートなラブロマンスあり、犯罪ギリギリのリベンジ・スリラーあり、ブラック・コメディの面もあり。絶望と希望、信頼と不信、健全な明るい場所からダークな精神世界への転落、幸せな恋愛、そして……。各国で共感と論争を呼んでいる、シリアスな人間ドラマであり、甘いラブストーリーであり、鮮やかなエンターテインメントである。

“前途有望な若い女性(プロミシング・ヤング・ウーマン)”だったキャシーは、ある事件により医大を中退。29歳の今は実家で両親と3人で暮らし、昼間はカフェの店員をして、夜にはバーで泥酔したフリをして、お持ち帰りオトコたちに裁きを下していた。ある日、大学時代のクラスメートで現在は小児科医となったライアンと再会。学生時代から好意を寄せていたというライアンから何度もまっすぐに口説かれ、キャシーは男性への警戒を緩め、彼と付き合うことに。幸せな日々を過ごすなか、キャシーは過去の事件の関係者たちについて知り……。

キャリー・マリガン© Focus Features

カラフルなファッションやインテリアといったかわいらしいビジュアルにポップ・ソング、そして復讐劇とロマンス。“ジャンルレス”でありながら、破綻することなく観客をグイグイと引き込んでゆく非常に魅力的な作品だ。ジェンダーバイアスについては、女性と男性の対立だけではなく、「女はこうあるべき」と圧をかけてくる女性同士の対立もあり、キャシーと旧友マディソンの再会シーンなどでそれが描かれている。核としてシリアスで重厚なテーマがありつつも、とても楽しいエンタメ作品でもあること、そして女性の本質について、フェネル監督はインタビューでこのように答えている。「私はまず、金曜の夜に恋人や友達と見に行くような映画を作りたかったのです。内容がハードだからといって、観るのがつらい映画である必要はないと思います。スリリングでエキサイティングでおもしろくてロマンティックで怖い。そのすべてを表現したいと思いました。人生について考えると、特に女性の人生は、美しくて恐ろしくて激しくて柔らかい。そして居心地が良い魅力的な世界を作りながら、心のなかでは他者に対し過剰な同情心をもっているのが、本質的には女性だと感じたのです。物事を砂糖でごまかす感覚を、きっと私たち誰もが理解しているでしょう。つまり本作のトーンやサウンドトラックはスプーン一杯の砂糖です。本作全体がヒ素のような薬なのです」

恋人なし友人なし、結婚にも興味がない、医大を中退した29歳のカフェ店員キャシーことカサンドラ役はキャリー・マリガンが、自身の道をゆく人物として。キャシーが希望と絶望、喜びと悲しみ、楽しさと苦しさといった両極を行き来し、葛藤し苦悩する心情をキャリーが熱く表現している。撮影の大半はロマンティック・コメディのように楽しんだ、というキャリーは、俳優でもある監督が現場を打ち解けた雰囲気にしてくれていたおかげで難しいシーンも演じ切れた、とコメントしている。「ハードなテーマが込められているシーンやキャシーが人を操ったり脅迫したりしに行くシーンでさえ、まるで彼女が楽しんでいるかのように遊び心をもって演じられました。みなさんにも楽しんでご覧いただけると嬉しいです」。キャリーは監督と最初のミーティングを終えた時に、「この役を誰にも譲れない」と思い、出演を即決したとのこと。本作で主演と製作総指揮を務めたキャリーは、“キャリア史上最高の演技”と称賛されている。
 キャシーの医大時代のクラスメートで小児科医の彼氏ライアン役はボー・バーナムが、明るく楽しく優しい、キャシーを溺愛する恋人として。キャシーの大学時代の同級生マディソン役はアリソン・ブリーが、キャシーの父親スタンリー役はクランシー・ブラウンが、キャシーの母親スーザン役はジェニファー・クーリッジが、キャシーが働くカフェの同僚ゲイル役はラヴァーン・コックスが、キャシーが通っていた大学のウォーカー学部長役はコニー・ブリットンが、それぞれに演じている。
 フェネル監督は当初からキャシー役にキャリーをイメージしていたそうで、キャシーという人物のこと、またキャリーが演じたことについて、このようにインタビューで答えている。「男性が主役の復讐を描いた一般的な洋画は、復讐と償いだけをひたむきに求めていきます。しかし女性を主役にすることで、感じ方が変わるというのが面白いのです。なぜなら映画に登場する全員が、キャシーに向かって『もう諦めな』と言うからです。そして私たちもみな、きっと同じことを彼女に言うと思います。家庭や職場、恋愛などのあらゆる場面で、本作のように、ある女性が『でも私は絶対に、何があっても諦めないわ』と言ったら何が起こるでしょう。この戸惑いこそが本作の魅力であり、また本作が多くのジャンルを持ち合わせているのは、キャシーがさまざまな人生の可能性に引っ張られているからだと思います。もし復讐を諦めたら、彼女はとても魅力的で期待が膨らむようなすばらしい人生を送れるのです。しかし彼女は非常に苦しい人生を送ることを選びます。そんなキャシーを演じ切れるのはキャリーだけだと私は思います。つらい思いをしてでもキャシーが復讐している理由を、私たちは理解しているのです」

ボー・バーナム,キャリー・マリガン© Focus Features

本作のキュートなビジュアルについて、監督は語る。「キラキラしたものや、ピンク色など、“女の子が好きそうなモノ”を再利用して、恐ろしいものを作りたかったんです」
 美術担当のマイケル・T・ペリーは、1980〜’90年代の映画やテレビシリーズ、ミュージックビデオなどを参考に、ネオンカラーを採用。キャシーが働くカフェの看板や、キャシーとライアンが歌い踊るドラッグ・ストアのロゴなどに用いられている。一方、クラシックなスタイルであるキャシーの両親が所有する家は、製作スタッフが現存する家を見つけ、天使の絵や犬の写真などを飾って内装を作り上げたとのこと。キャシーのかわいらしい“ティーンエイジャー風の寝室”の裏側にある、“時が止まっている”深刻さが、映画を観ているうちにじわじわくる。またキャシーのファッションは、昼間にカフェ店員をしている時は、パステルカラーやギンガムチェックや花柄の服を着て髪にリボン、夜にバーへ向かう時には、ゴージャスなヒップスター、飲み過ぎた仕事帰りの女、ボディコンシャスのドレスを着た遊び人と、あらゆるスタイルの女性としてさまざまな着こなしを披露している。

本作の撮影は、2019年にロサンゼルスとその近郊を中心に23日間で実施。当時フェネル監督は妊娠7カ月で、映画の製作を終えた3週間後に第2子を出産したというのもパワフルだ。製作には、この物語のテーマを支持したマーゴット・ロビー(『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』の主演・製作)が参加。マーゴットがトム・アカーリーとジョジー・マクナマラと共同で代表を務める製作会社ラッキーチャップ・エンターテインメントが脚本を送ったことにより、独立系映画製作会社であるフィルムネイション・エンターテインメントがラッキーチャップと共に製作に加わり、同社がこの映画に100%出資し配給した。
  本作の脚本・監督・製作を手がけたエメラルド・フェネルは、1985年、イギリス・ロンドン生まれ。女優としての出演は、2011年の映画『アルバート氏の人生』、2015年の『リリーのすべて』、ドラマ「ザ・クラウン」のシーズン3よりカミラ・パーカー=ボウルズ役など。初監督作品としては2018年の短編映画『Careful How You Go』、そして長編デビュー作であり脚本・監督・製作を手がけた本作で、2021年の第93回アカデミー賞にて5部門にノミネート(作品賞、監督賞、脚本賞、主演女優賞、編集賞)され、脚本賞を受賞した。彼女はアメリカのアカデミー賞にて、監督賞にノミネートされた最初のイギリス人女性となった。(第93回アカデミー賞では、『ノマドランド』の中国出身のクロエ・ジャオがアジア系女性として初めて監督賞を受賞したことも記憶に新しい)
 内容について、さまざまな論争を呼んでいるという本作。そのひとつとして、この作品が「#MeTooの復讐映画と呼ばれている」と、『The guardian』の2021年3月19日(最終更新5月12日)のインタビュー記事「‘It’s wild!’ Carey Mulligan and Emerald Fennell on making Oscars history」にある。またイギリスでは、女性への暴力に対する抗議運動が続いていること(2021年3月9日にサラ・エバラードさんを誘拐・殺害した容疑でロンドン警視庁の警察官ウェイン・カウゼンズ容疑者が逮捕されたことなど)、そうした背景とこの物語との関りについて、フェネル監督は同記事にて、「この映画を自警団の映画とは思っていません。怒りであり、悲しみであり、私たちがどのように許し、社会としてどのように前進できるかということです」とコメント。また「ここ数年で、私たちはより公的な場で、恐怖や怒り、苦悩について対話し、伝えることができるようになりました。これまでのなかで初めて、そうしたことに人々が進んで耳を傾けているように感じています」と語り、今は社会のシステムに真の変化が起こりつつあると感じていて、希望をもっている、とも。
 そもそもこの映画を創ったきっかけについて、フェネル監督は「女性による復讐の映画を書きたかった」とコメント。「人に頼らず自分の力で問題を解決する女性の映画が増えていますが、その手の映画はひどく暴力的だったりセクシーだったり、異様に暗かったりする。私が描きたかったのは、現実の世界で普通の女性が復讐するリアリティのある映画で、銃とはまず無縁です」

キャリー・マリガン© Universal Pictures

公式HPの予告映像にあるキャシーが最初に登場するシーン、泥酔している風のキャシーのポーズはキリストの磔刑を彷彿とさせ、キリスト教について特に知らなくても、最初からハッと目を引くものがある。劇中でキャシーが知能を駆使して下していく制裁には、厳格なマイルールというような丁重さがあり、緻密で手際がよく、クライマックスには唸らされる。本作の顛末そのものは、これまでの作品でも思い浮かぶものはあるが、なんといっても軽やかで鮮やか、ラストにある種の爽快さが漂うのが味わい深い。女性は生きていれば、キャシーのように衝撃や怒り、やるせなさを大なり小なり抱いている場合も、マディソンのようにそれをなかったことにしている場合もあるだろう。けれど、本当に復讐を実行するかどうかと言えば、安易にできるわけがないし、個人的には本当に現実を変えることができるという確約がある時にこそ、とも思う。ただキャシーの行為は正しいのか/間違いなのか/意味があるのか、といった問いに対して、映画というフィクションがあるとも言える。ショックを、憤怒を、忘れたふりで無意識下に沈殿してゆくやりきれなさを、ある意味で癒し、「それは間違っていない」と寄り添うような共感が伝わってくる、とも言えるかもしれない。
 最後に、フェネル監督から観客へのメッセージをお伝えする。「この映画に極悪人は出てきません。この映画に出てくる男女はみんな、セックスに関してやや無責任な態度を取る文化の一部にすぎません。この悪しき文化を断つためにはどうすればいいのかという、根本的な問題を問うことが私にとって重要なんです。まずはみなさんがこの映画を存分に楽しんでから、ちょっと緊張して映画館を後にして、そして映画について自由に分析してもらえたら嬉しいです」

参考:「People」、「The guardian

2021年6月28日更新

作品データ

公開 2021年7月16日よりTOHOシネマズ日比谷&シネクイントほか全国公開
制作年/制作国 2020年 アメリカ
上映時間 1:53
配給 パルコ
映倫区分 PG-12
原題 PROMISINGYOUNGWOMAN
脚本・監督・製作 エメラルド・フェネル
出演・製作総指揮 キャリー・マリガン
出演 ボー・バーナム
アリソン・ブリー
クランシー・ブラウン
ジェニファー・クーリッジ
ラヴァーン・コックス
コニー・ブリットン
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。