eHills Club 試写会日記

毎週、映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ! 傑作でもB級でも映画ってやっぱり素敵!!

ジュゼップ 戦場の画家

セザール賞長編アニメーション賞など数々を受賞
収容所で絵を描き続けた画家の実話をもとに
彼の足跡と戦争の現実を伝えるアニメーション作品

ジュゼップ 戦場の画家©Les Films d'Ici Méditerranée - France 3 Cinéma - Imagic Telecom - Les Films du Poisson Rouge - Lunanime - Promenons - nous dans les bois - Tchack - Les Fées Spéciales - In Efecto - Le Mémorial du Camp de Rivesaltes - Les Films d'Ici - Upside Films 2020

スペイン出身の画家ジュゼップ・バルトリの実話をもとに、フランスで風刺画のイラストレーターとして知られるオーレルが始めて長編映画の監督を手がけてアニメーション化し、ヨーロッパで数々の映画賞を受賞した注目作。脚本は、『マルセイユの恋』『キリマンジャロの雪』などのジャン=ルイ・ミレシが執筆。声の出演は、スペインのカタルーニャ出身である『パンズ・ラビリンス』のセルジ・ロペス、『プチ・ニコラ 最強の夏休み』のヴァレリー・ルメルシェ、『クリスマス・カンパニー』のダヴィ・マルセほか。絵を描くのが好きなフランス人の少年ヴァランタンは、祖父セルジュから1枚の古い絵にまつわる思い出を聞き……。1930〜’40年代の戦時下の収容所における厳しい生活のなか、ひたすらに絵を描き続ける画家、“有刺鉄線を越えた友情”を育む憲兵と難民、脱走を繰り返した画家がたどり着いたところとは。現代を生きる少年の視点や架空の人物によるナレーションなどオリジナルの要素を加え、1人の画家が戦時下を生き抜き、後世に伝える絵を描き続けた姿を描き出す。アーティストの足跡と戦争の現実を伝える、フランス・スペイン・ベルギー合作によるアニメーション作品である。

絵を描くのが好きなフランス人の少年ヴァランタンは、母親に連れられて、病気で寝たきりの祖父セルジュのアパートへ。部屋で孫と2人きりになった祖父はふと、苦しげな男の顔が描かれた1枚の絵を手にとり、その思い出を少年に語り始める。
 1939年2月、スペイン内戦(反ファシズムを掲げる人民戦線政府とフランコの指揮する軍部との戦い)を逃れた大勢の難民が、隣国フランスにやってくる。フランス政府により強制的に収容所に閉じ込められた難民たちは劣悪な環境のもとで寒さ、飢え、病魔に苦しむことに。難民のひとりであり、共産党活動家としてフランコ軍と戦った画家のジュゼップ・バルトリは、建物の壁や地面などあらゆるところに黙々と絵を描き続けていく。新米の若きフランス人憲兵セルジュは、ジュゼップに鉛筆と紙を与え、ふたりは友情を育んでいく。そしてセルジュは、ジュゼップが再会を願っている消息不明の婚約者マリアを探し始めるが……。

ジュゼップ 戦場の画家

スペインのカタルーニャにて20代で風刺漫画家として活動し、共産党活動家としてフランコ軍と戦い、ナチス・ドイツを含むファシストの追手から逃亡し続け、メキシコに亡命したジュゼップ・バルトリの実話をもとに描くアニメーション作品。前半の収容所での日々はとても苛酷で、観ていてつらくなる向きもある。また最近のアニメーションのようになめらかな動きや自然な背景ではなく、あえて手描きの絵をざっくりと組み合わせる手法にしていること、セリフにはフランス語、スペイン語、英語と多言語が入り乱れているので、とっつきにくさもあるかもしれない。しかし、戦時下の収容所のリアリティをアニメーションで描くことで、年齢や国籍を問わず多くの人たちに、という意図も感じる。本作の手描きによる画像は、やわらかな色調の水彩画のようであり、ラフに描いたデッサンのようでもあり、どこか親しみのある素朴なタッチが、厳しい内容を少しは和らげている面もあるようだ。劇中では、収容所での劣悪な環境で、悪辣な憲兵によるリンチや強姦が横行するなか、ひたむきに絵を描き続けるジュゼップが描かれていく。そしてセルジュとの友情や、のちにジュゼップがメキシコの画家フリーダ・カーロと出会うことなど、あたたかなエピソードに観ていてホッとする。

劇中にはいろいろなキャラクターが登場する。現代のパートでは、絵を描くのが好きな今どきのフランス人少年ヴァランタン、その祖父セルジュほか。そして1939〜40年代には、かつて収容所に赴任し新米憲兵だったセルジュ、収容所に難民としてやってきたジュゼップ、その後に収容所にやってきた彼の旧友エリオス、そして難民の仲間たち。その後に逃亡生活の末、ジュゼップが亡命先のメキシコで出会ったフリーダ・カーロなど。またセルジュはさまざまな出会いにより成長し、第二次世界大戦下でフランスがナチス・ドイツに占領されていた時には、レジスタンスとして反ナチ活動に身を投じてゆく姿が描かれている。

ジュゼップ 戦場の画家

74分の上映時間である本作では、ジュゼップの人生は収容所から逃亡し続け、メキシコでフリーダ・カーロの愛人になったくだりまで、1939〜1942年頃のことが描かれている。ジュゼップ・バルトリ本人は、1910年スペインのバルセロナ生まれ。カタルーニャの共産党活動家として、スペイン内戦ではアラゴン戦線でフランコ軍と戦った。風刺漫画家としてはカタルーニャの雑誌に寄稿し、26歳でカタルーニャ報道漫画家組合を設立。30歳の時にアンダルシア難民のマリア・バルデスと出会い、恋に落ちる。しかし1939年に妊娠中の恋人マリアが乗っていた列車がドイツ軍により爆撃される。1939年2月にファシストから狙われ、避難所を求めてたどり着いたフランスで強制収容所へ連行。フランス人将校の助けにより脱走したが、逮捕され別の収容所に移送。その間、収容所での生活や看守たちのことをスケッチしていた。1940年にナチスのダッハウ収容所行きの列車から飛び降りて死から逃れ、その後も複数の収容所で脱走を繰り返した後、1942年にメキシコへの亡命に成功。メキシコ革命に関わったアーティストたちと人脈を築き、フリーダ・カーロと出会い、彼女の愛人となる。1944年に収容所での体験を描いた「Campos de concentracion (1939-194...)」を発表。1945年にニューヨークに渡り、マーク・ロスコ、ウィレム・デ・クーニングといった画家たちと交流し、雑誌『ホリデイ』や『サタデー・イブニング・ポスト』のイラストなどを手がけ、芸術家として本格的な評価を得る。1995年に85歳で他界した。

オーレル監督はジュゼップについて、「レジスタンスとジャーナリストの精神を持ち合わせた人物」とコメント。オーレルの名前は知らなくても彼の絵は見たことがある、という人は多いだろう。オーレルは、1980年フランスのアルデーシュ出まれのイラストレーター。フランスの全国紙「ル・モンド」と週刊風刺新聞「カナール・アンシェネ」のイラストを担当しているほか、様々なフランスの新聞のグラフィックを手がけている。漫画家としては2冊のノンフィクションコミック『Clandestino』と『La Manuiserie』など約20冊の本を出版。2011年にはFlorence Corre との共同監督で初の短編アニメーション『Octobre Noir』を制作。オーレルは、ジュゼップの絵画に強く触発されたことをきっかけに、10年かけて本作を完成させたとのこと。彼が初めて長編アニメーションの監督を手がけた本作は、ヨーロッパなどで数々の賞を受賞した。

ジュゼップ 戦場の画家

フランスの第46回セザール賞で長編アニメーション賞、第26回リュミエール賞でアニメーション賞と音楽賞、第33回ヨーロッパ映画賞長編アニメーション賞など、ヨーロッパのさまざまな映画賞を受賞した本作。日本では『この世界の片隅に』の片渕須直監督らが審査員を務めた東京アニメアワードフェスティバル2021にて、グランプリと東京都知事賞を受賞した。第二次世界大戦中の広島で暮らす市井の家族の姿を描いた『この世界の片隅に』の片渕監督は、『ジュゼップ 戦場の画家』についてこのようにコメントしている。「時の流れの向こうに残してきた人々。時はどこから来てどこへ流れてゆくのか。それは何かを浄化してくれるのか。それとも、苦しみを苦しさとして残したまま漂うのか。ジュゼップならどう答えてくれるだろう?」
 映画のラスト、さらりとした少年のエピソードが感動を誘う本作。劇中には子どもには厳しい苛酷なシーンもあるが、アニメーションで戦争の現実について次世代が知ることができる作品のひとつとして、挙げられる作品ではないだろうか。映画の途中にたびたび、また後半にはたくさんのジュゼップ本人が描いた作品が映し出される。戦時下に見失われるもの、それでも見出されるもの、ジュゼップが目をそらさずに見つめたもの、それは何だろう、と改めて考えるのである。

2021年7月2日更新

作品データ

公開 2021年8月13日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
制作年/制作国 2020年 フランス・スペイン・ベルギー合作
上映時間 1:14
配給 ロングライド
原題 JOSEP
監督・芸術監督 オーレル
脚本 ジャン=ルイ・ミレシ
声の出演 セルジ・ロペス
ヴァレリー・ルメルシェ
ダヴィ・マルセ
ジェラルド・ヘルナンデス
ブルーノ・ソロ
シルビア・ペレス・クルス
フランソワ・モレル
アラン・コーシ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。