竜とそばかすの姫

細田守監督が国内外の実力派を迎えて描く最新作
仮想世界で歌姫となったすずは、謎の“竜”と出会う
変わりゆく世界の勇気と希望を鮮やかに描く

  • 2021/07/14
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竜とそばかすの姫©2021 スタジオ地図

細田守が原作・脚本・監督を手がけ、国内外の実力派クリエイターたちを迎えて描く最新作。声の出演は、ソロやバンドなどさまざまに活動しているミュージシャンの中村佳穂、デビュー曲「夜に駆ける」で知られるYOASOBIのボーカルikuraこと幾田りら、『まともじゃないのは君も一緒』の成田凌、『空海 -KU-KAI-美しき王妃の謎』の染谷将太、『AI崩壊』の玉城ティナ、『すばらしき世界』の役所広司ほか。17歳の女子高校生・すずは、幼い頃に母を事故で亡くし、今もその傷を抱えている。ある日、ユーザー数50億人以上のインターネット上の仮想世界<U(ユー)>で新しい世界とつながり……。声の出演にはミュージシャン、俳優、声優、製作にはアニメ界に加えて、デザイナー、音楽家、研究者などが参加し、細田監督のもとでジャンルを超えたコラボレーションが実現。魅力的なサウンド、疾走感のあるバトル、王道のロマンティックなシーンなど、鮮やかなビジュアルで観客を引き込む。子どもたちはもちろん幅広い世代が楽しめる、変わりゆく世界の勇気と希望を描くアニメーション作品である。

自然豊かな高知の村に住む17歳の女子高校生・すずは、幼い頃に母を事故で亡くし、父と2人で暮らしている。母と一緒に歌うことが大好きだったすずは、その死をきっかけに歌うことができなくなっていた。曲を作ることだけが生きがいとなっていたある日、親友ヒロちゃんに誘われ、全世界でユーザー数50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U>に参加。<U>では、「As(アズ)」と呼ばれる自分の分身を作り、まったく別の人生を生きることができる。それまで歌えなかったすずは、「ベル」と名付けたAsとしては自然に歌うことができたことで、<U>の歌姫ベルとして世界中の人気者になっていく。そして数億のAsが集うベルの大規模コンサートの日、ベルの前に突然「竜」と呼ばれる謎の存在が現れ……。

竜とそばかすの姫

声のキャストに注目のミュージシャン、人気の俳優や声優を起用し、さまざまなジャンルのメンバーが製作に参加した細田守監督の最新作。高知の村ののどかな風景とカラフルな仮想世界、普通の女子高生の日常といきなり人気スターとなったベルの世界という2面性で、観客をドラマティックに物語の世界へ引き込んでゆく。劇中にはディズニーの名作アニメ『美女と野獣』をものすごく彷彿とさせるシーンがあるものの、ヒロインのもうひとつの名前がベルということからしても、オマージュをこめて描いているのだろう。ラスト近くには、現代社会で特に重要な問題でありサポートをとても必要としていることについても描かれ、今日性を感じる面も。スタッフは、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオで、『アナと雪の女王』『塔の上のラプンツェル』『ベイマックス』『モアナと伝説の海』など数々のキャラクターを手がけるジン・キムがベルのキャラクターデザインを担当していることをはじめ、音楽、衣装、映像など各界のメンバーが監督のもとでそれぞれに本領を発揮。この渾然一体となった作品への思い入れについて、細田監督はこのように語っている。「この『竜とそばかすの姫』は、“ずっと創りたいと思っていた映画”です。アニメーション映画監督になる前から、自分もいつかこういう映画が作れたらいいなと思っていたものであり、今まで様々な作品を創ってきたからこそ、やっと今回実現できるようになりました。恋愛やアクション、サスペンスの要素もありつつ、一方で、生と死という本質的な大きなテーマもありエンタメ要素の高い映画になっていると思います」

17歳の女子高校生・すずこと内藤鈴役は、声優は初となるミュージシャンの中村佳穂が劇中歌の歌うシーンも吹き替えなしで担当。millennium parade × Belle名義のメインテーマ「U」は華やかに、監督と共に中村が作詞に参加している劇中歌の「歌よ」「心のそばに」「はなればなれの君へ」などすべてを魅力的に歌い上げている。シングル「U」と映画のサウンドトラック、双方とも注目だ。細田監督は数年前から何度か中村のライブを観ていて、差し入れをしたり直接話をしたりといったつながりがあったとのこと。本作のオーディションで細田監督から「彼女こそすず!」と見出された中村は、「まさか細田監督の作品に参加することになるなんて、嬉しい気持ちです」とコメントしている。すずの同級生の親友ヒロちゃんこと別役弘香役は、幾田りらがネットを使いこなす毒舌メガネ女子として。中村と同じくシンガーソングライターで本格的な演技は初めてながら、監督もうなるハマりぶりを披露している。すずの幼なじみである久武忍役は成田凌が、すずたちの同級生でカヌー部をひとりで立ち上げたカミシンこと千頭慎次郎役は染谷将太が、吹奏楽部でアルトサックスを吹く、モデルのような容姿の渡辺瑠果役は玉城ティナが、すずの父親役は役所広司が、すずの母親役は声優の島本須美が、<U>の謎の存在・竜役は佐藤健が担当している。また、すずのことを幼い頃から温かく見守る合唱隊5人のメンバーとして、森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、岩崎良美、中尾幸世が参加。5人は劇中で合唱曲を歌っている。そして<U>の自警団ジャスティスのリーダー、ジャスティン役は声優の森川智之が、<U>での「竜の正体探し」で候補にあがる現代美術アーティスト、イェリネク役は津田健次郎が、同じく候補となる豪邸に住む貴婦人スワン役は小山茉美が、「竜の正体探し」を盛り上げるYoutuber、ひとかわむい太郎&ぐっとこらえ丸の2役は宮野真守が担当している。

竜とそばかすの姫

本作には、細田監督が希望する多くのアーティストやクリエイターが参加。仮想世界<U>のコンセプトアートとプロダクションデザインは、ロンドン在住で新進気鋭の建築家でありデザイナーのエリック・ウォンが担当。そして『ウルフウォーカー』『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』などのアイルランドのアニメーションスタジオ、カートゥーン・サルーンのトム・ムーア、ロス・スチュアート監督ほかのスタッフが参加。構想から5年をかけて完成した本作の挑戦について、映画公式HPの最新情報 #10「Making of 竜とそばかすの姫:細田守×『竜とそばかすの姫』」にて、細田監督は語る。「CGを使ってドラマを語れるかどうか。それが大きな挑戦でした。日本で作られたCGの映画は僕にしたら物足りないところがあって、もっとちゃんと観ている側の気持ちに寄り添った表現にならないかなと。CGはコンピューターで作っていて、普通のアニメの方が手描きだからあったかいとか、そんなことはないんですよ。CGも手描きもぜんぶ人が作っていますからね。今までずっと積み上げてきたなかで、デジタル・フロンティア(『サマーウォーズ』以降、細田監督作品のCGを担当している映像制作会社)の信頼できるCGディレクターの堀部亮さんと下澤洋平さんと一緒に、『今回は人物の芝居を表現しよう』と。大変な試行錯誤を経て、映画でその表現ができるまで高めることができました。日本映画のCG表現が、この映画で壁をひとつ突破した。それははっきりと言えるんじゃないでしょうか」

劇中では、誹謗中傷で深く傷つくこと、どこにいようと誰であろうと実力が認められれば世界的なスターになれるといった、インターネットの悪い面と良い面の両方を描いている。広告が多くついているとエライとか、実体をさらされる恐怖とかそのあたりも含めて、いかにも今を描いている、としっくりくる感覚が。2009年の細田監督作品『サマーウォーズ』然り、本作でもインターネットをテーマにした理由について監督は語る。「僕は、若い人が面白く楽しく世界を変革していくのではないかと、インターネット世界を題材にした映画を今までにも創ってきました。インターネットは、誹謗中傷やフェイクニュースなどネガティブな側面も多いですが、人間の可能性を広げるとても良い道具だと思っています。インターネットそのものが変わってきている今、肯定的な未来に通じるような映画ができないかと考えていました」
 <U>という仮想世界を創るにあたり、細田監督は2人の研究者と話したとのこと。公式HPの最新情報 #6「Making of 竜とそばかすの姫:細田守とクリエイター〜Uの発想〜」にて、次世代通信規格「5G」を策定した永田聡氏と、人とコンピューターが相互作用するボディシェアリングの研究者・玉城絵美氏との対談が紹介されている。玉城氏はこの物語の先見性にとても驚いたと言う。「(この映画を観たら、)未来のその先の部分まで、そういう技術があったらどういう世の中になり、どういう問題が起きて、人間はどういった哲学になるのか、ということがわかって、想像力がすごいなと。私は技術的なエビデンスを示すことしかできなくて、ちょっとびっくりしました」

キャラクターの衣装は、『おおかみこどもの雨と雪』以降ずっと細田監督作品を手がけているスタイリストの伊賀大介が担当。そして彼のアイデアで、冒頭にベルがまとう赤い花のドレスはフラワーアーティストの篠崎恵美が、透明なクリスタル風に輝くベルのコンサート衣装は、ブランド「アンリアレイジ」のデザイナー森永邦彦が担当。音楽監督は映画『SR サイタマノラッパー』『モテキ』、アニメ『血界戦線』などの岩崎太整が手がけ、音楽家はゲーム音楽などを手がけるスウェーデン出身のルドウィク・フォシェル(Ludvig Forssell)、米津玄師や宇多田ヒカルの楽曲アレンジなどで知られる作曲家・坂東祐大、そしてオーケストラは坂東が率いるEnsemble FOVEが参加している。さらに映画のメインテーマ「U」には細田監督と初タッグとなる、プロデューサーでソングライターである常田大希を中心としたmillennium paradeが参加。さまざまなシーンを表現するために異なるジャンルの音楽家たちが参加しているのがユニークだ。

竜とそばかすの姫

本作は、2021年7月に開催の第74回カンヌ国際映画祭オフィシャル・セレクション内に新設された「カンヌ・プルミエール部門」に選出。細田監督はこの選出について「とても光栄です」と話し、このようにコメントしている。「アニメーション映画がカンヌ国際映画祭に選ばれること自体が極めて稀なことであり、今回の選出が、これから変化していく新しい映画の価値を観客に指し示す兆しと思います。コロナ禍の中で一時途絶えていた映画文化が再び復活する姿を、共にカンヌの地で祝い、感じたいと思います」
 細田監督とプロデューサーの齋藤優一郎が2011年に設立し、本作を企画・制作したスタジオ地図は10周年を迎えるとのこと。代表取締役である斎藤プロデューサーは、スタジオ地図とこの映画について、このようにコメントした。「スタジオ地図は、これまでもずっと、大きく変容する社会の中で、溢れるバイタリティで成長という大きな一歩を踏み出す、子どもと若者の未来を肯定する映画を作り続けてきました。細田守監督最新作『竜とそばかすの姫』も、こう言う時代だからこそ『もう、ひとりじゃない』、みんなと手を取り合いながら生きていく未来を祝福しています」
 実際の肉体の情報を仮想世界のボディが共有するインターネットサービス、という最新の技術が一般化している少し未来の世界を描く本作。この世界に希望はあるのか、という漠然とした問いに、全体で答えるような面も個人的に感じた。最後に、本作をこれから観る人に向けて、混沌とした状況が続く“今”のこと、映画をつくることなどについて、細田監督のメッセージをお伝えする。「去年来、普及するのにまだまだ時間がかかると思っていたインターネットを通じた仕事や生活が、常識と共に大きく変化し、未来に10年くらいぐっと近づいた気がしています。今までの常識に捕らわれずどんどん変化している時代の中で、変化していく世界についての映画を創るというのは、どこか必然性を感じています。その一方で、最終的に大事にしないといけないものは変わらないのではないかとも思っています。私たちが代々受け継いできたものは、世の中が変化し、ツールや常識が変化しても受け継がれていくもの。それがよりはっきり見えてきているのが今の時代なのかなとも思っています。圧倒的な速度で変わっていく世界と、自分たちにとって本当に大切な変わらないもの、それを今作で楽しんでいただければと思います」

作品データ

公開 2021年7月16日より全国東宝系にてロードショー
制作年/制作国 2021年 日本
上映時間 2:02
配給 東宝
原題 BELLE
監督・脚本・原作 細田守
声の出演 中村佳穂
成田 凌
染谷将太
玉城ティナ
幾田りら
森山良子
清水ミチコ
坂本冬美
岩崎良美
中尾幸世
森川智之
宮野真守
島本須美
役所広司
石黒 賢
ermhoi
HANA
佐藤健

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