eHills Club 試写会日記

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映画 太陽の子

日米合同で、“日本の原爆開発”をもとに描く
太平洋戦争末期の日々を懸命に生きる
青年たちのひたむきな姿を描く人間ドラマ

映画 太陽の子©2021 ELEVEN ARTS STUDIOS / 「太陽の子」フィルムパートナーズ

太平洋戦争末期に行われていた“日本の原爆開発”という事実をもとに、当時の青年たちの姿をフィクションで描く日米合同製作の作品。出演は、『HOKUSAI』の柳楽優弥、『るろうに剣心 最終章The Final/The Beginning』の有村架純、この映画が遺作となった『天外者』の三浦春馬、『ひとよ』の田中裕子、『MINAMATA―ミナマタ―』の國村隼ほか。監督・脚本は、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」、大河ドラマ「青天を衝け」を手がける黒崎博。1945年の夏、軍の密命を受けた京都帝国大学・物理学研究室の石村修をはじめ研究員たちは、原子核爆弾の研究開発を進めている。そんななか、幼なじみの世津が修の家に居候することになり、修の弟・裕之も戦地から一時帰郷。3人は再会を喜ぶが……。科学者が戦争終結のため、平和のために兵器を開発するという矛盾と葛藤、軍人が戦争に身を投じて責務を果たすことと死の恐怖との苦悩、どんな状況にあっても生き抜いて未来を見据える女性の強さ。3人の若者、周囲の人々それぞれの思いが交錯してゆく。膨大なリサーチのもと、太平洋戦争末期の疲弊する日本で、ひたむきに生きる青年たちの姿を描く人間ドラマである。

1944年9月、京都帝国大学理学部の荒勝教授の指導のもと、石村修ら学生たちは海軍から依頼された原子核爆弾の開発を急いでいた。それは、尊敬するアインシュタインの理論の具現化である一方で、世界を滅ぼしかねない研究でもあった。修は、「この研究が成功すれば、戦争は終わる」と信じて実験に没頭する。そんななか、建物疎開で家を失った修の幼なじみ、朝倉世津と彼女の祖父が、修と母の家で一緒に暮らすことになる。
 1945年の初夏、修の弟・裕之が戦地から一時帰宅。修と世津と裕之は久しぶりの再会を喜び、一緒に出かけた思い出の海へと行く。そこで修と世津は、裕之が戦地で負った深い心の傷を目の当たりにする。最先端の研究に熱中していた修もまた、核分裂エネルギーの底知れぬ破壊力への恐怖と葛藤していた。しかし世津は、終戦後の世界で生きることを力強く見据え、修と裕之を励まし、3人は再会を約束する。そして裕之は戦地へと戻り、修はひたすら研究と実験を続けていたが、8月6日、広島に新型爆弾が投下され……。

柳楽優弥,有村架純,三浦春馬

1940年代に行われていた“日本の原爆開発”という事実と、戦時中を生きる若者たちの300日を描く物語。地道に取材やリサーチをし続け、10年以上かけて本作を完成させたことについて、黒崎監督は2021年7月5日に日本外国特派員協会にて行われた記者会見でこのように語った。「テーマがすごくセンシティブであり、原子爆弾の被害について、日本人は非常にナーバスなところがあり、この映画のように、(原爆について)被害者の視点だけで描かれていない物語はほとんど存在しません。でも、僕はこの映画を勝者と敗者の視点では描きたくなくて、誰もが加害者にも被害者にもなりえたという視点で描きたいと思いました。それを理解してもらうのに10年以上の時間がかかってしまったのかなと思います」
 本作に参加したロサンゼルス在住の映画プロデューサーである森コウは、最初に脚本を読んだ時に、「とても面白くてとてもチャレンジグだが、デリケートな要素がたくさんあるので、日本でプロデュースするのは難しい」と感じたとのこと。その後、ロサンゼルスで黒崎監督と会って話し、脚本を練り上げていったことについて、2021年7月10日、17日に上智大学英語学科主催で行われた本作のオンライントークイベントにて、森プロデューサーはこのようにコメントした。「黒崎さんと、“戦争映画は作りたくない”、“政治的なこととは切り離して”、という話をした。若いキャラクター、そして当時の彼らの生きた時間のストーリーにフォーカスする。普遍的で、有機的、本物の、彼らの生活や未来についての話をしている。そしてもうひとつ、科学について描かれている面もある」

海軍の密命を受けて、研究室の仲間たちと共に原爆開発に打ち込む石村修役は柳楽優弥が、研究者の性(さが)や実直な青年としての思いなどさまざまな面をくっきりと表現。修の弟・裕之役は三浦春馬が、兵士としての責務と死への恐怖に葛藤するさまを繊細に。兄弟の幼なじみ朝倉世津役は有村架純が、厳しい状況下でも前向きに生きていこうとする女性として。本作で唯一実在の科学者であり、劇中で修たち学生を指導する日本の原子物理学の第一人者・荒勝文策役は國村隼が、修と裕之の母・石村フミ役は田中裕子が、焼き物の釉薬として使用する硝酸ウランを修に提供する陶器屋「釜いそ」の主人・澤村役はイッセー尾形が、澤村の娘はな役は土居志央梨が、世津の祖父・朝倉清役は山本晋也が、修が在籍する京都帝国大学・理学部の仲間たちは、三浦誠己、宇野祥平、尾上寛之、渡辺大知、葉山奨之、奥野瑛太が、それぞれに演じている。
 三浦春馬を裕之役にキャスティングしたことについて、黒崎監督は語る。「裕之は死と隣り合わせにいるからこそ、毎日を愛おしく思って生きています。期限付きの命だと自分で分かっているからこそ精一杯生きる。初めて春馬君と会った時、『全力を傾けます』と言ってくれて、とても励まされました。この役がなぜ自分かということもわかってくれていたようで、それも意気に感じました」
 柳楽優弥は2021年7月7日に東京で行われた完成披露上映会にて、この映画の印象的なシーンは海に行く場面であると語り、本作が遺作となった三浦春馬との共演について、このように語った。「春馬くんとは10代前半から一緒にオーディションをしたりするような仲だったんですけど、戦友というかライバルというか、今回の兄弟のような関係でいろいろ関わらせてもらって。春馬くんがこの作品に愛を持って参加してくれたように、僕自身も、みんな参加したメンバーで春馬くんをこれからもずっと愛して大切にしていきたいなとそう思える大切なシーンです」

田中裕子,柳楽優弥,三浦春馬

そもそも企画のきっかけは、黒崎監督が10年以上前に広島県の図書館で、若い科学者の日記の断片を見つけて映像化したいと考えたことだった。その後、監督は仕事の合間にさまざまな人たちを訪ねて各地に赴き、膨大な資料を集めていく。そのリサーチをもとに黒崎監督が執筆したシナリオが、2015年にサンダンス・インスティテュート/NHK賞を受賞。NHKの浜野高宏プロデューサーが前述の森プロデューサーに話し、日米合同製作の企画が始まった。まずはドラマが2020年に放映されギャラクシー賞を受賞し、映画版はドラマとは異なる視点と結末により完成した。
 物語の学術アドバイザーとして、京都大学の名誉教授であり、『荒勝文策と原子核物理学の黎明』の著者である政池明氏が参加。政池氏は当時に執筆中だったこの著書のすべての資料を黒崎監督に提供。劇中に登場する実験用の回転体は設計図が残っていたことから、物理学アドバイザーを務めた五十棲泰人氏が、京都大学の研究チームが実際に発注している実験機材制作会社に制作を依頼し、忠実に再現されたという。
 劇中にある、京都大学の時計台を正面から撮影した映像と学徒出陣のシーンは、大学側の許可を得て撮影。この撮影について、京都大学出身の黒崎監督は知り合いの教授をたどり、京都ロケの3日前にようやく当時の総長だった山極壽一氏と面会。監督が映画製作の意図を熱心に伝えたことで、基本的にすべてのロケ撮影を断っているなか、総長から1日だけ「私の権限で許可を出しましょう」と許可を得て、撮影を行った。また修が比叡山に登るシーンは実際に比叡山にて、修の家は、左京区吉田神楽岡町の吉田山と呼ばれる孤立丘の近くに戦前に建てられた住居にて撮影した。

主人公の修は、監督がリサーチしたさまざまな人物から生まれたとのこと。前述のオンライントークイベントにて、“日本の原爆研究”に対する理解をどのように深めていったか、という質問に対して、監督はこのように答えた。「(専門分野でもないので)わからないことだらけで難しかった。文献がないか、この件について調べている大学の先生がいないか、などを調べることから始めた。しかし、当時在籍していた人たちはほとんど亡くなってしまっていてたどり着けなかったが、一番若手の研究者を知ることができて、手紙を書いた。なかなか返事をいただけなかったので無理だったかな、と思っていたころ、親族から電話をもらい、手紙の相手は高齢でなくなってしまっており、未開封の手紙が残っていたのを発見して連絡をしてくれた。すぐに会いに行ったところ、実験ノートやメモ、戦後に回想して描いた文章をいくつか見せてもらうことができた。戦後2年ほど高校の教師をして、その後は、晩年まで物理学者として生きた、ということで、それを参考にして、主人公の姿を作っていった」

尾上博之,宇野祥平,渡辺大知,國村準,柳楽優弥,葉山奨之,ほか

この作品の製作は、東京のスタジオで撮影、京都でロケーションをした後に東京で編集。そしてニューヨークで音楽を作り、トロントでナレーション録音を行い、最後にロサンゼルスで仕上げたとのこと。音楽は『愛を読むひと』のニコ・ミューリー、サウンドデザインは『アリー/スター誕生』のマット・ヴォウレス、そしてアインシュタインの声は『アルマゲドン』などのピーター・ストーメアが担当、とハリウッドで活躍するメンバーが参加している。NHKの土屋プロデューサーは、2015年に黒崎監督から本作の構想を聞いた時のことについて、日本外国特派員協会の記者会見にてこのように語った。「黒崎から最初に脚本を見せてもらった時、これをNHKだけで作るのは無理だなと思いました。ドラマのクオリティでは世界に届いていかない――テレビドラマのクオリティを超えるものにしたいと共同制作のパートナーを探しました。黒崎の想いでもある、加害者、被害者を超えた普遍的なテーマで作るということであれば、国際共同制作としてアメリカと一緒に作ることができればと思いました。結果的にNHKの技術に加え想像を超えるすばらしい作品に仕上がったと思います」

主題歌「彼方で」は、この作品に共鳴したという福山雅治が提供。このようにコメントを寄せている。「僕自身の祖父母、両親は、1945年8月9日の長崎を生きていました。奇跡的に大きな被害を免れましたが、それは恐ろしく苛烈な現実だったと聞いています。『映画 太陽の子』は、そんな過酷な時代を懸命に生きた人たちの物語。人間は、その生まれた時代や逃れられない現実によって、かくも美しく、と同時に、時に愚かな選択をしてしまうのかと。 僕にとって本作は、遠い過去の話ではなく、自分ごととして、そして今に続く『平和な世界への願い』という人類の未来へ向けてのメッセージを受け取った映画でした。すべての生命が等しく生きられる世界、また、そういう時代へと、未来へと向かっていくための願いが込められた本作に、歌という形で関わらせていただけるこのオファーを、大切に、光栄に受け止めています」
 また劇中では、「命短し恋せよ乙女」というフレーズで有名な楽曲「ゴンドラの唄」も流れる。黒澤明監督作品『生きる』で使われていることは、監督は「あとで思い出した」そうで、同曲について日本外国特派員協会の記者会見にて監督はこのように語った。「何度も見返して、(『生きる』と)何が共通していて、何が違うのか? 慎重に考えた上で、それでも歌ってほしいと(使うことを)決断しました。『生きる』の主人公もこの映画に出てくる人たちも、スーパーマンやスーパーウーマンではなく、ただの庶民であり、(本作の主人公は)科学者ですが、天才的な科学者ではなく、ただのひとりの若い男の子であり、生きることに一生懸命です。自分が正しいか間違っているのかわからないまま、一生懸命に生きている――そこは同じかもしれないと思いました」

1940年ごろの“日本の原爆開発”という事実をもとに、戦時中の日本を懸命に生きる青年たちの姿を描く本作。日本外国特派員協会の記者会見にて、史実とフィクションのバランスについて質問されると、黒崎監督は「一番気を使った」と話し、本作のテーマも含めてこのように語った。「一番のポイントは、若い科学者がとても楽しく科学を突き詰めようとしていたということ。戦争のさなかでも、彼らの『科学が好き』というモチベーションは大事にしたいと思っていました。彼らは殺戮兵器を作るために科学者になったのではなく、見つけたい真実を求めて科学者になったのであり、自分自身でもこの研究の結末がどこに向かっているか、本当はわかっていなかったんじゃないか? それは世界中の誰も、広島を見るまでは知らなかった結末であり、そのリアリティを追求したいと考えていました。そして、いま現在もその問題は全く同じで、科学技術が人類をどういう結末に導くか? 誰もわからないと思います。COVID-19もゲノム編集もそうで、あらゆる科学技術は、人類を将来どこに導くかわからずに進んでいる――そこを描きたいと強く思いました」
 そして柳楽は前述の完成披露上映会にて、本作への出演を決めた時の気持ちをこのように語った。「脚本を読んで素晴らしいと思ってすぐに参加したいと思ったんですけど、実際に(原爆の)研究を重ねていたという事実を知らなかったし、日本と戦争したアメリカと日米の合作映画になると聞いて、簡単に『やりたい』というよりは、覚悟を決めて参加しました。僕や架純ちゃん、春馬くんのような30歳前後の若い俳優がこのテーマの作品に参加して、また若い世代に伝えていかなければと思いました」
 そして本作に込めたメッセージについて、土屋プロデューサーは語る。「新型コロナウイルスで大変な時代となった今を生きる私たちに、『未来へ』というキーワードをくれる作品になったと思います。明るい未来が待っていると信じ、くじけそうになったら、見守ってくれる仲間と共に未来を想う。平和というものがいかに大事か、思ったことを言えることがいかに幸せか改めて感じました。人によって様々な受け止め方ができる物語ですので、観ていただいていろんなことを考えてもらえるとうれしいですね」

2021年8月6日更新

作品データ

公開 2021年8月6日TOHOシネマズ日比谷ほかにて全国公開
制作年/制作国 2021年 日米合作
上映時間 1:53
配給 イオンエンターテイメント
監督・脚本 黒崎博
出演 柳楽優弥
有村架純
三浦春馬
田中裕子
國村隼
イッセー尾形
山本晋也
ピーター・ストーメア
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。