カラオケ行こ!

和山やま原作×山下敦弘監督×野木亜紀子脚本
ヤクザの男と合唱部の中学生、奇縁でつながった
異質な人間同士の結びつきをゆるやかな空気感で描く

  • 2024/01/05
  • イベント
  • シネマ
カラオケ行こ!©2024 「カラオケ行こ!」製作委員会

漫画家・和山やまの人気コミックを充実のスタッフとキャストで映画化。出演は、『ヤクザと家族 The Family』の綾野剛、『正欲』の齋藤潤、『Arc アーク』の芳根京子、そして北村一輝、橋本じゅん、やべきょうすけ、吉永秀平、チャンス大城、湘南乃風のRED RICEほか。監督は『オーバー・フェンス』の山下敦弘、脚本は『罪の声』の野木亜紀子が手がける。合唱部部長の中学3年生・岡聡実は、見知らぬヤクザの男に突然カラオケに誘われ、歌の指導を頼まれる。青春学園ものにヤクザもんが絡み、奇妙なつながりのなか変わりゆく少年のちょっとした心情を描く。世代もタイプもまったく異なる人間同士の結びつきをゆるやかな雰囲気で映す、意外と爽やかでやさしい後味のドラマである。

合唱部部長の中学3年生・岡聡実は、中学校生活最後の大会を前に変声期に差しかかり、以前のようなソプラノの高音がだせなくなってきたことに悩んでいた。そんななか、見知らぬヤクザの男に突然カラオケに誘われ、歌の上手くなるコツを教えてほしい、と歌の指導を頼まれる。その男、祭林組の若頭補佐・成田狂児は、組長開催のカラオケ大会で最下位認定されると大変な目に遭うので、なんとしても最下位を避けたいと説明。ヤクザもんに強い圧で詰め寄られた聡実は仕方なくカラオケに付き合い、狂児の十八番であるX JAPANの「紅」を聞かされる。その歌いっぷりに聡実がついズバズバとダメ出しをしたところなぜか気に入られ、狂児は聡実の学校の前で待ち構えたり行く先々に現れたり、組の仲間にも歌を指導してほしいと聡実にまとわりつき……。

綾野剛,齋藤潤

第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞、第24回手塚治虫文化賞短編賞を『夢中さ、きみに。』で受賞した和山やまの原作を、充実のスタッフとキャストで映画化。自らも悩みを抱える中学3年生の合唱部部長が、見知らぬヤクザもんの事情にわけのわからないまま巻き込まれてゆくという、ひとりの少年の受難(?)とかすかな成長をゆるい空気感で描く作品だ。カタギの少年を自身の事情に手前勝手に関わらせながらも、悩める聡実を応援するようなスタンスでもある狂児、友人も家庭も平穏ながら声変わりの悩みは誰にも打ち明けずに煮詰まっている聡実の青春、奇縁のつながりによるユニークな展開や育まれてゆく友情のようなものがさっぱりとほんのりあったかく表現されている。山下監督は狂児と聡実のキャスティングについて、2023年11月15日(現地時間)に台湾の台北市で開催された第60回台北金馬映画祭にて、この作品のワールドプレミアを行った際のティーチインイベントにて、綾野がもともと原作の大ファンだったため「ぜひやりたい」と手を挙げたこと、聡実役はオーディションを行った当時に聡実と同じ中学3年生だった齋藤に「彼から原作における聡実の影や青春の悩みを一番感じ取ることができた」ことから選出したと説明。原作者の和山氏は映画化とキャストへの期待をこのようにコメントしている。「綾野さんに狂児を演じてもらえるのはとても光栄に思います。どの役も魂を込めて演じられているお芝居に心を打たれていたので、狂児という役を安心してお任せできると思いました。齋藤さんを拝見したときは、なんてバランスのいい方なんだ…と驚きました。きっとどんな役もこなしていかれる役者さんだと思い、そんな齋藤さんの聡実くんはスクリーンでどう輝くのでしょう。映画化がますます楽しみになりました」

合唱部部長の中学3年生・岡聡実役は齋藤潤が、基本的には真面目で温厚だけれどなかなかのツッコミで毒舌を吐く少年として。聡実に歌の指導をお願いする四代目祭林組の若頭補佐・成田狂児役は綾野剛が、関西弁と押しの強さでするりとふところに入り込む、つかみどころのない人物として。綾野は2023年12月4日に東京で行われた完成披露試写会にて、ありえない出逢いや記憶に残るエピソードという問いに対して、今回の撮影現場に原作者・和山氏が見学に来た時のことをあげてこのように話した。「いっぱいありますけど、この撮影の時に和山先生が現場に来てくださったのも強烈に残っています。素直に嬉しかったですし、和山先生が描く世界観が皆とても大好きで、先生はヤクザチームが集まってカラオケをするシーンに来てくださったので、あの時の和山先生の存在が現場にいいスイッチを生み出してくださって感謝しています」
 聡実が所属する合唱部の副顧問・森本もも役は芳根京子が、祭林組の組長役は北村一輝が、同組の構成員でカラオケ大会の万年最下位脱出を目指すハイエナの兄貴こと小林役は橋本じゅんが、同じく構成員の唐田役はやべきょうすけが、若頭代行・銀次役は吉永秀平が、キティの兄貴こと尾形役はチャンス大城が、 峯役は湘南乃風のRED RICEが、息子思いであるもののややズレている仲良し両親、聡実の母・岡優子役は坂井真紀が、聡実の父・岡晴実役は宮崎吐夢が、狂児の母・和子役はヒコロヒーが、狂児の父・田中正役は加藤雅也が、合唱部の指導コーチ・松原役は岡部ひろきが、合唱部の副部長でしっかり者の中川役は八木美樹が、聡実の合唱部の後輩・和田役は後聖人が、それぞれに演じている。

齋藤潤, ほか

この映画の見どころのひとつはやはり、俳優たちの歌唱シーンだ。特に綾野があらゆる歌い方で歌う「紅」、後半のクライマックスで聡実が熱唱するシーン、あとは歌の下手な組員たちがカラオケで歌うシーンなどなど。歌唱シーンについては、綾野と齋藤は山下監督と3人で合宿さながらにリハーサルを行い、狂児と聡実の関係性もその時にできていったという。また綾野は狂児を演じると決まってすぐに山下監督と脚本家の野木亜紀子とカラオケに行ったそうで、前述の完成披露試写会でそのエピソードについて楽しそうに笑いながら語った。「狂児をやるってなった時に、野木さんや監督と、カラオケに行って、歌って、どんなパターンがありえるのかというのを歌って、できる限りのことはさせていただきました。裏声が気持ち悪いという設定ですので、全編裏声で歌っています」
 映画の公式HPのNEWSでは、組員たちによる歌唱シーンのメイキング映像(2023年12月22日付)を紹介。万年最下位の小林(橋本)が歌うももいろクローバーZの「行くぜっ!怪盗少女」、音痴の唐田(やべ)が歌うKing Gnuの難曲「白日」、銀次(吉永)が微妙なビブラートで歌う桑名正博の「月のあかり」、尾形(チャンス大城)がひどい高音で歌う米津玄師の「Lemon」、レゲエミュージシャンであるRED RICEは調子はずれに歌う久保田早紀の「異邦人」と、新旧の名曲が力の抜けるような映像で次々と。また組長開催の“恐怖の”カラオケ大会セットリストには(2023年12月11日付NEWS)、さらに井上陽水の「少年時代」、斉藤和義の「歩いて帰ろう」、奥田民生の「マシマロ」、寺尾聰の「ルビーの指環」、クレイジーケンバンドの「タイガー&ドラゴン」、高橋洋子の「残酷な天使のテーゼ」、氣志團の「One Night Carnival」なども。劇中では誰がどの曲をどんなヤバさで歌うのか注目だ。選曲については、山下監督が前述の台北金馬映画祭のティーチインイベントにて、音楽プロデューサーを交えてみんなで協議し、なるべく世代が偏らないよう、かつカラオケで人気のある曲を揃えたと語った。そして主題歌はLittle Glee Monsterが歌うX JAPANの「紅」。合唱コンクールで受賞経験のある強豪校、府中市立府中第四中学校の合唱部90名とともに合唱アレンジでカヴァーされている。
 また山下監督はこの映画を監督した経緯について台北金馬映画祭にて、「綾野剛さんが主演、野木亜紀子さんが脚本を担当されるのを聞いて参加することに決めました」とコメント。筆者は個人的に“脚本:野木亜紀子”とあるだけで、前情報なしでまず観たくなるため、山下監督が彼女の脚本の魅力を語るエピソードをとても興味深く感じた。「さすが野木亜紀子さんですよね。町がなくなっていき、古いヤクザもいなくなっていく切なさや寂しさ――屋上で始まり屋上で終わるような構造も含めて、裏テーマの盛り込み方が上手いな、と思います。僕自身はそこまで狙っていませんでしたが、編集でつないでみたらそうした味わいが出てきて、改めて野木さんの力を感じました」

北村一輝

中学3年生の合唱部部長と、祭林組の若頭補佐である裏社会の男が出会い、カラオケでの歌の練習をきっかけにつながっていく奇縁を描くユーモラスな物語。住む世界が違う、年齢が違う、キャラクターが違う、とにかく接点がまったくない、けれども一緒にいるとなぜかしっくりくる。そのユニークなバディ感の風合いが楽しい作品だ。公式HPの2024年1月1日付のNEWS「狂児と聡実、二人の関係を 名作映画オマージュで表現!!」では、名作のポスターを狂児と聡実でアレンジしたユーモラスなビジュアルの公開も。『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』は世代の異なる2人のコンビでイメージぴったり、『E.T.』は異星人レベルにありえへん相手と心が通じ合うという意味合いがハマり、そして個人的には『ラ・ラ・ランド』が一番ツボ。ピシッとした例のダンスシーンのポーズで、どんな運命的な出会いやねん、とツッコミたくなる感じがキュートだ。原作者の和山氏は映画を観た感想について、喜びと共にこのように語っている。「漫画では描けなかったキャラクター達の生活や在り方が、空気感はそのままに繊細に肉付けされていて感動しました。かつ大胆で美しく、ときにチャーミングで『これが観たかった』というのが一番の感想です。是非観てほしいです!」
 現在は、原作『カラオケ行こ!』の続編『ファミレス行こ。』の連載が2020年11月より『月刊コミックビーム』で始まり和山氏が連載中。この映画がヒットすれば、続編の映画化もありそうな気配濃厚だ。最後に、完成披露試写会にて綾野、齋藤、山下監督が観客に伝えたメッセージをご紹介する。
 綾野「今から見ていただくのが本当に嬉しいです。自分の俳優人生のなかで、この作品の出来上がりを見た時に、自分は青春と呼ばれる作品に初めて参加したんだなという体感がありました。青春はいろいろな表現方法がありますが、暖かく優しく、こんなたおやかな映画が出来上がるんだなと思いました。中学生の皆さん、ヤクザチームもですが、音楽に向き合って、音楽と映画の親和性を改めて表明した映画だと自負しています。みなさんにとって映画がいろいろな音楽を聴くきっかけになって、「紅」の魅力に気づいていただけたら幸いです」
 齋藤「一言で言うと、笑えてただただ面白い映画になっていると思います。ヤクザの皆さんの歌にも注目していただきたいですし、狂児と聡実の関係もエモくなっていると思うので、楽しんでいただければと思います」
 山下監督「最高に面白い原作を、最高の脚本家がシナリオを書いて、最高のキャストが揃って、面白くなかったら全部俺のせいだと思います(笑) めちゃくちゃ面白い映画が出来上がったので、楽しんでいただければと思います」

能登半島地震と羽田航空機事故に関係する方々にとって今は映画どころではないなか、やさしさや明るさ、気持ちがやわらぐような感触のある映画があり、いつか観たいと思う時の参考になればと考えてこの作品をご紹介いたしました。
 みなさまの安全と健康、被災地域の復旧を心よりお祈りいたします。

作品データ

公開 2024年1月12日より全国公開
制作年/制作国 2023年 日本
上映時間 1:47
配給 KADOKAWA
監督 山下敦弘
脚本 野木亜紀子
出演 綾野 剛
齋藤 潤
芳根京子
橋本じゅん
やべきょうすけ
吉永秀平
チャンス大城
RED RICE(湘南乃風)
八木美樹
後聖人
井澤徹
岡部ひろき
米村亮太朗
坂井真紀
宮崎吐夢
ヒコロヒー
加藤雅也
北村一輝
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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