哀れなるものたち

エマ・ストーン主演×ヨルゴス・ランティモス監督
新たな生を得て猛進するベラのエキセントリックな冒険と
出会いとつながり、“平等と解放”を奇抜かつ美的に描く

  • 2024/01/26
  • イベント
  • シネマ
哀れなるものたち©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

スコットランド人作家アラスター・グレイがウィットブレッド賞とガーディアン賞をダブル受賞した1992年のゴシック小説を映画化。主演は『ラ・ラ・ランド』のオスカー俳優エマ・ストーンで彼女が製作としても参加、共演は『アステロイド・シティ』のウィレム・デフォー、『アベンジャーズ』シリーズのマーク・ラファロ、『マリア・ブラウンの結婚』のドイツ人俳優ハンナ・シグラほか。監督・製作は『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモスが手がける。自ら命を絶った女性ベラは、天才外科医によってある方法で奇跡的に蘇生。その後、ゼロから成長していくなかベラは“世界を自分の目で見たい”という強い欲望に導かれ……。新たな生を得て、知識欲と好奇心に突き動かされ進んでゆくベラのエキセントリックな冒険を追う。異性との逃避行、初めて知る格差の衝撃、性の追究、家族のような存在との結びつき、そして。迷いなく猛進してゆくベラと彼女と関わることで変わってゆく人々をカラフルな衣装や美術、美しい映像と共に描く風変わりな物語である。

イギリスのロンドン。自ら命を絶った若き女性が、天才外科医ゴッドウィン・バクスターにより奇跡的に蘇生する。生まれたての女性ベラとなった彼女は、ゴッドウィンの庇護のもと日に日に回復。そして「世界を自分の目で見たい」という強い欲望に駆られ、放蕩者の弁護士ダンカン・ウェダバーンの誘惑にのり、ヨーロッパ横断の旅に出る。ポルトガルの首都リスボンに到着したベラは、貪欲に外の世界を吸収してゆき、船旅での出会いを経て、思いもよらない手段により自身の力で真の自由と平等を見つけ始める。そんななか、ベラはある知らせを受け取り……。

エマ・ストーン,マーク・ラファロ

ゾッとするようなおぞましさ、鮮やかな美しさ、無垢ゆえの傍若無人さ、本能的に本質を突く探求心、気持ち悪さやかわいさなどなどあらゆる感覚を引き起こす奇譚を描く。この映画は、第80回ヴェネチア国際映画祭にて金獅子賞(最高賞)を受賞、第81回ゴールデングローブ賞にて作品賞(ミュージカル/コメディ部門)と主演女優賞を受賞、そして2024年1月23日(現地時間)に発表された第96回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞、脚色賞、撮影賞、編集賞、衣裳デザイン賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、作曲賞、美術賞の11部門にノミネートされたことでも話題となっている。ランティモス監督は原作の小説をずっと映画化したいと長年考えていたことから、生前の原作者アラスター・グレイと連絡を取り合い、グラスゴーで直接会って、一緒に街を巡り小説ゆかりの地を訪れたという。監督は著者について、「グレイは画家で、文章に挿絵も添えていました」と話し、原作の魅力とテーマについてこのように語っている。「アラスター・グレイの小説は、テーマ、ユーモア、登場人物や言葉の複雑さがあり、視覚的に非常に印象的でありつつ難解です。これまでこのような作品を読んだことがなかったので、とても心を奪われました。この小説は全体として、社会における女性の自由についての物語です。このような物語を伝える道が開かれていたのです」

自死から蘇った女性ベラ・バクスター役はエマが、精神的に自立したタフな女性として。エマは第81回ゴールデングローブ賞の受賞スピーチにて、ベラというキャラクターへの思いをこのように語った。「ベラを演じることは信じられない体験でした。私はこの映画はロマンチック・コメディだと思っています。ですが、ベラは誰かと恋に落ちるのではなく、人生そのものに恋をするのです。彼女は善も悪も等しく受け入れます。そのことが私に人生についての違う見方、本当に大切なことは何なのかを教えてくれ、彼女は私のなかに深くとどまってくれています。この体験は私にとって世界そのものでした。ありがとうございます。心から感謝します」
 ベラをある手段で蘇らせた天才外科医ゴッドウィン・バクスター役はウィレム・デフォーが、ゴッドウィンの教え子でベラに惹かれていく実直な青年マックス・マッキャンドレス役はラミー・ユセフが、ベラを連れ出す放蕩者の弁護士ダンカン・ウェダバーン役はマーク・ラファロが(真面目なマークにそぐわないイメージもあるかもながらハマっている)、パリの売春宿のマダム、スワイニー役はキャスリン・ハンターが、自死以前の過去のベラを知るアルフレッド役はクリストファー・アボットが、ベラの同僚トワネット役はスージー・ベンバが、ゴッドウィンのもとでベラの世話をするプリム夫人役はヴィッキー・ペッパーダインが、ベラの失踪後にゴッドウィンの新たな実験体となるフェリシティ役はマーガレット・クアリーが、それぞれに演じている。なかでも筆者が特に印象的だった登場人物は、ハンナ・シグラが演じる裕福な年配の女性マーサと、ジェロッド・カーマイケルが演じる彼女の連れの青年ハリーだ。ベラは2人と船上で出会い、知的な問答をし、マーサにすすめられた本を読み、世間知らずの理想主義にイラついたハリーに見せられた現実の格差を目の当たりにしたことで、より思索を重ねて自身のなかにさまざまな問いをもつようになっていく。こうしたありがたい出会いは若い頃にはあるもので、実際に筆者もさまざまに影響を受けた尊敬する人たちと過ごした時間を思い出した。

ラミー・ユセフ、ウィレム・デフォー

この映画では時代設定が曖昧で、さまざまな要素がミックスされた世界観や美術セットなどがユニークだ。寓話のようでありパラレルワールドのようでもある、クラシックとSFがミックスされたような街の景観やさまざまなアイテムなども面白い。ランティモス監督は「ベラが住む世界を作り上げる」ために意図的にそのようにしていると語る。「それは単に現実的なものではだめです。私たちは時代を押し広げ、特定の時代をほのめかす要素を入れつつも、さらにおとぎ話や物事のメタファーとなるようなものを目指しました。ですから、SF的であったり、時代錯誤的であったり、空想的であったり、様々な要素が入り混じっているのです」
 また監督は1930年代の映画に着想を得て、「フェデリコ・フェリーニやマイケル・パウエル、エメリック・プレスバーガーがかつて撮影していたような方法で、古風な映画を作ること」を実現したかったとも。アカデミー賞にノミネートされた通り、衣装やヘアメイクや美術セットは個性的で美しく、撮影は特殊なピントのレンズを用いて、この映画のためにコダックに製造してもらった35mmのエクタクロームでフィルムによなされている。エマはベラが纏うウエディング・ドレスをとても気に入ったそうで、着た瞬間に泣きそうになるほどだったと話し、性愛のシーンが多い劇中の内容もふまえてこのように語った。「(そのウエディング・ドレスは)この上なく素晴らしいものでした。薄く繊細でありながら、とても強いのです。私がセックスの本質を、脆さと自信が溶け合ったものだと考えているのと少し似ていて、あのドレスは私にとってそれを象徴していました。とてつもなくメッセージ性の強いドレスでした」
 またエマはランティモス監督と脚本家トニー・マクナマラが練り上げた脚本に感動したことについて、「ユーモアと心の傷を美しく撚り合わせる二人の手法に、いつも尊敬の念を抱いています。それが人生というものですから」とコメント。そしてエマは、女性を理解し尊重する監督への敬意をこのように語った。「ヨルゴスは女性を理解し、愛し、見事に語ります。そしてもちろん、それは一緒に働く仕事現場からも感じています。(撮影現場では)多くの女性がリーダーを務めていますし、第一助監督も女性です」

エマ・ストーン,ほか

日本でのこの映画の劇場公開は、オリジナル無修正R18+バージョンでの上映が決定。サーチライト・ピクチャーズの映画公式HP内の2024年1月23日付のNEWS「『哀れなるものたち』第96回アカデミー賞®11部門ノミネート!キャスト・スタッフより喜びのコメントが到着!」にて、ベラを演じて得たものについてこのように語った。「ベラを演じ、彼女の目を通して世界を見る機会を与えられたことに深く感謝しています。彼女は私に、人生は決して砂糖と暴力だけではないのだと教えてくれました(訳注:ベラのセリフの中に「冒険し 砂糖と暴力を知った」というものがある)」
 そして主演と製作をつとめたエマは、ベラというキャラクターとこの作品について2023年12月6日(現地時間)に行われたニューヨーク・プレミアにてこのように語った。「この映画は1人の女性の自己発見の物語です。(主人公の)ベラは彼女自身から生まれた存在ですが、いろんな経験に積極的かつ興味津々で、大胆な女性です。彼女のキャラクターは私のお気に入りで、とても想像をかき立てられました。この作品は人によっていろんな受け取り方ができますが、それ以上に多くの疑問を投げかける映画かもしれませんね」
 最後に、ランティモス監督がニューヨーク・プレミアにて語ったキャストへの感謝とこの映画への思い入れ、そして観客のメッセージをご紹介する。「自分自身の視点で世界を体験する女性の物語です。また、キャストの皆さんは素晴らしかった。私たちはお互いに多大な信頼を置き、一緒に取り組みました。このチームを続けたいとさえ思います。私は映画の撮影中に緊張していましたが、キャストの皆さんはリハーサルの時から大いに楽しんでいました。映画そのものがとても面白い作品なので、(私自身も)色々と考えをめぐらせることは非常に楽しかったです。(この映画を観た方が)私たちがどのように社会や社会常識を作り、それぞれの経験や背景など様々なことに興味関心を持ってくれると嬉しく思います」

作品データ

公開 2024年1月26日より全国ロードショー
制作年/制作国 2023年 イギリス
上映時間 2:22
配給 ウォルト・ディズニー・ジャパン
映倫区分 R18+
原題 Poor Things
監督 ヨルゴス・ランティモス
原作 『哀れなるものたち』 アラスター・グレイ著(ハヤカワepi文庫)
脚本 トニー・マクナマラ
出演 エマ・ストーン
マーク・ラファロ
ウィレム・デフォー
ラミー・ユセフ
クリストファー・アボット
スージー・ベンバ
ジェロッド・カーマイケル
キャスリン・ハンター
ヴィッキー・ペッパーダイン
マーガレット・クアリー
ハンナ・シグラ
:あつた美希
ライター:あつた美希/Miki Atsuta フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。
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