港区界隈の個性派 博物館

自然と科学技術の変遷がリアルに!歩くタイムマシン国立科学博物館

上野駅から徒歩5分の「国立科学博物館」。1877(明治10)年に創立した自然史と科学技術史を扱う唯一の国立科学総合博物館で、そのコレクションは452万点を超える。来館者は未就学児から高齢者まで幅広く、修学旅行や遠足で訪れる子どもも多い。GWやお盆など、長期休みには大変混み合う。大人がゆっくりと回るなら、金・土の17〜20時が狙い目。

園山さんと井口さん広報・運営戦略課の園山千絵氏(右)と井口槙子氏(左)。日本館は、上空から見ると“飛行機”の形をしている

「日本列島の自然と私たち」がテーマの日本館と、「地球生命史と人類」がテーマの地球館から成る。入口は日本館の地下。
 日本館は3Fの日本列島の自然環境や生い立ちから始まり、階を下るごとに現代へと近づく展示の流れ。地下から階段を上ろうとすると、そこには天井から吊り下げられた巨大なフーコーの振り子。ゆっくりと揺れる様子を眺めつつ、3Fへ。展示室へ入ると、膨大な標本の数々がどっと視界に入る。日本近海の説明では魚、タコ、カニ、サンゴまで大集合、日本に落下した隕石もずらりと並び、こんなにたくさん落下していた事実を突きつけられる。「まず展示を見てほしいので、展示物のそばに詳しい解説文はありませんが、キオスクという展示情報端末でご覧いただけます。また、音声ガイドとともに、ICカードの貸し出しもしています」。広報・運営戦略課の園山氏からユニークなサービスを教えてもらう。入口でICカードを借りてキオスクにタッチしていくと、後日ホームページでキオスクの閲覧場所を確認できる。日本館、地球館の常設展示に対応しており、復習や次回の見学ルートの検討に使えそうだ。

関東大震災による震災復旧を目的に1931(昭和6)年に完成した日本館。文部省大臣官房建築課の設計でネオルネサンス様式を基調としている。装飾性の高い飾りやステンドグラスが優美な雰囲気
実際の土を採取して展示された土壌標本コーナー。色合いや湿り気具合まで感じられるリアルさは、文字や画像で受ける印象とは比較にならない

各フロアとも単に標本が並んでいるだけでなく、1つの部屋の入口にプロローグ的な展示があり、ぐるりと回るとドキュメンタリー番組を見たような物語性が感じられる。2Fでは、日本人や生き物たちの進化にフォーカス。ユニークなのは、復元模型で旧石器時代、縄文時代、弥生時代、中世時代、近世時代と各時代の生活を再現した展示の最後に、何も展示がない現代人と題された空間が用意され、来館者自身が展示の一つとして参加できること。子どもたちが様々なポーズをとって楽しんでいた。園山氏に聞くと、大規模リニューアルは10〜15年ごとだが、一部の入れ替えや新たなコーナーの設置などは随時行われているという。「例えば、日本館2Fの稲のコーナーに“ゆめぴりか”を追加したり、フローレス原人の発見後、地球館の地下2Fに復元模型で紹介する新たなコーナーを設けたりといったものです。進行中のプロジェクトなどは、パネル展示で知らせることもありますね」。取材時は、日本館の中央ホールに海を越えてやってきた最初の日本人の航海の謎を検証する“3万年前の航海−徹底再現プロジェクト”のパネルが並んでいた。

地域で異なるクワガタのアゴの形の比較(写真)や、セミ鳴き声を聴くといった体験ものもバッチリ
有名な忠犬ハチ公も秋田犬の代表として展示されている。犬は縄文時代から埋葬され、大切にされていたらしい

1Fは自然を見る技と題し、日本人の科学と技術の足跡をたどる。いくつもの星座が描かれた江戸時代の天球儀、工芸的な美しさもある江戸時代の和時計、地震計、顕微鏡などがいくつも並ぶ。江戸時代の顕微鏡の一つは実際に覗くことができ、意外とくっきりと見えて当時の技術に驚く。ちょっと分かりにくい地震計の構造は、折よく行われていた「かはくのモノ語りワゴン」で教えてもらう。各担当研究者から研修を受けたボランティアが、実際の展示物の横で仕組みを紹介したり、模型で実演して見せたりする。日本館5フロア、地球館6フロアでそれぞれ実施しており、プログラムも期間ごとに変わる。
 地下に戻って、全球型映像施設「シアター36○」を見学。球体の真ん中を突っ切る通路に立って見るというユニークな鑑賞スタイルが人気だ。海に潜るシーンや飛翔するシーンなど、独特な浮遊感が楽しい。

全球型映像施設「シアター36○」。月ごとに変わるコンテンツは2本立て。研究者が監修し、専用の映像として作っており、迫力ある映像が楽しめる
展示室を3等分したスクリーンに宇宙史、生命史、人間史がアニメーションで展開される地球史ナビゲーター。細部までこだわりがあり、何度も見てしまう

日本館を見たら、地球館へ。地上3F、地下3Fを使って、宇宙誕生から科学技術まで広く学べる。まずは、1Fの地球史ナビゲーターで、宇宙誕生から今に至る138億年の歴史の流れをつかもう。スクリーンの下には、始祖鳥のレプリカなど関連標本・資料が並び、中央のタイムラインステージには鉄隕石、アロサウルス全身復元骨格、気象衛星ひまわり1号予備機が鎮座。
 1階の奥には、生物の多様性に関する展示も。多くの標本が並び生物の多様化を体感できる系統広場や、ものすごく長いウシの小腸など、リアルさが強いインパクトとなって印象に残る。「生物に国境はないため、学名の物的証拠であるタイプ標本(基準とする標本)を保管することは、博物館の国際的な責任です。さらに生物には、見た目が異なるのにDNAが同じ場合や、同じ種類でも色が異なる場合など、時代が進むごとに新たな発見が生まれます。未来に新しい技術が開発されたら、今は無理な調査も可能になるため、標本は増え続ける一方ですね」。研究施設は筑波にあり、隣接の実験植物園と共に収蔵庫の一部が公開されている。年に1度、研究施設の公開も行われる。

ティラノサウルスがトリケラトプスを待ち伏せしている様子を表した展示は、どちらも巨大なだけに圧倒される
地下3Fには、霧箱がひっそりと。蜘蛛の糸のような宇宙線の筋が止めどもなく現れては消えていく

地下1Fには、人気の高い恐竜の骨格標本がズラリ。「ティラノサウルスはしゃがむと短い前あしを使わないとすみやかに立ち上がれないという研究成果に基づいて、3年前のリニューアルの際に姿勢を変えました。トリケラトプスの前あしの向きも最新の研究成果を反映しています」と、園山氏。恐竜シチパチの全身骨格は卵を温めている姿勢、パキケファロサウルスは実物化石とレプリカを色分けして展示するなど、見所は多い。上から見下ろせる場所もあり、一脚、三脚、自撮り棒などを使わない個人利用であれば、撮影も可能だ。
 地下2Fは地球の46億年の歴史をたどるエリア。三葉虫やアンモナイトなどの海の生物、植物の陸上進出、シーラカンスの仲間やマンモスなど、さまざまな生物が誕生と絶滅を繰り返しながら進化していく様子や、霊長類の中から人類の祖先が誕生、ホモ・サピエンスがアフリカから世界各地へと広がっていった軌跡も見られる。骨を使った笛や縫い針など、その器用さにも驚く。
 地下3Fでは、自然のしくみを探る。日本の自然科学系のノーベル賞受賞者を一堂に紹介しているコーナーでは、受賞理由となった研究内容の解説はもちろん、意外な素顔もチラリ。法則を探るコーナーでは、物理学で用いる熱力学温度の単位K(ケルビン)、光度の単位cd(カンデラ)など、なかなかピンと来ない単位を身近に感じるための体験装置も充実している。

地下2Fも迫力ある全身骨格のオンパレード。中でもコロンブスマンモスの太く長い牙や、バシロサウルスとティロサウルスは見ごたえあり
地球史ナビゲーターのアニメーションにも登場する「マンモスの骨を利用した住居」の復元。東ヨーロッパで多く見られ、中には400以上の骨を使って作られたものもあったとか

戻って2Fへ。江戸時代から人工衛星まで網羅した科学技術のエリアが広がる。隣のエリアは、2015年に新設された「科学技術で地球を探る」という体験型展示が多数あるフロア。光や電波などさまざまな“波”をテーマにした多様な装置の体験ができる。偏光板を使うと色が現れたり、自分を赤外線で映してみたり、観測ステーションで流れてくる画像に手をかざして気温や太陽の詳細なデータを眺めたりと、実際に動かしながら見ていくのはやはり楽しい。特に震源地を推測する体験展示は、ゲームに参加するような楽しさも感じられてユニーク。いくつかある観測所から選び、そこに地震の揺れが伝わっていく時間差を利用して、震源地を探っていく。子どもにも人気のようで、空くとすぐに席が埋まっていた。

「地球を探るサイエンス」にある震源を推測する体験。地震が起こる際は、座っている椅子が揺れて実感がわきやすい
1995年にH-IIロケットで打上げられ、1996年に若田光一宇宙飛行士により回収されたスペースフライヤーユニット(SFU)。電源は太陽電池で供給され、独自の軌道変更用推進機も持っていたという

3Fには、動物や鳥類の剥製エリアが広がる。中央の楕円の展示ケースの中に、パンダ、ラクダ、ライオン、クマ、シカ、サイなど、100体以上が来館者の方を向いてズラリ。照明で浮かび上がるその姿は何かを訴えかけるようだ。たくさんの動物の視線を一身に受け、思わずたじろぐ。これらの剥製、大部分は故ワトソンT.ヨシモト氏(1909〜2004)から寄贈されたヨシモトコレクションの一部。ヨシモト氏は、家族の食材を得るために狩猟を始め、事業で成功してからは全世界で狩猟を行って一大コレクションを築き、自身の博物館で展示していたが、管理と保存の観点から同館に寄贈した。現在では調査が困難な地域の剥製もあり、世界的にも貴重な標本なのだとか。園山氏がユニークな見所を教えてくれた。「シカ科とウシ科はパッと見たところでは区別がつかないこともありますが、角が枝分かれしているものがシカ科、太くてもねじれていても1本だとウシ科だそうです」。改めて剥製を見ると、ウシ科が多い。見た目ではシカにしか見えないものもいてびっくりする。

日本に3体しか現存していない絶滅種ニホンオオカミの剥製も発見。オオカミから想像できる怖さはなく、見た目は犬のようでかわいい
かつて上野動物園で暮らしていたパンダのフェイフェイとトントンの姿もある

スケールもボリュームも半端ない常設展示だが、随時行われている企画展も忘れずにチェック。取材時は、日本館の1Fで企画展「南方熊楠−100年早かった智の人−」、地下では企画展「地衣類−藻類と共生した菌類たち−」が開催されていた。コケと混同しがちな地衣類が菌類とも類が共生して進化した生物であることを標本も交えて詳細に解説している。特別展や企画展は研究者が企画から関わるという。調査から展示の内容まで携わり、最新の研究成果などが展示内容に加わることも。3月から開催される特別展「人体-神秘への挑戦-」では、およそ3000年前の縄文人女性の臼歯から抽出したDNAを分析し、シミのリスクや毛髪の細さといった顔の細かい特徴の研究成果を盛り込んだ生前の顔を復元し、展示するという。

取材時に開催されていた企画展「地衣類−藻類と共生した菌類たち−」。標本のほか、マントを使って擬態を体験するコーナーやフィールドワークの映像などもあり、充実している
地球館の屋上にあるスカイデッキとハーブガーデンは小休止や展望を楽しむのにオススメなスポット

一息入れたくなったら、地球館の屋上にあるスカイデッキやハーブガーデンへ。屋根つきのテーブルとベンチがあり、飲食可能。デッキからは、遮るものもなく上野公園や周辺の街並みを一望できて、隠れた展望台といった趣だ。
 中2階にあるレストランも要チェック。パンダを象ったオムハヤシのあるパンダプレート(税込1,280円)、恐竜の足形ハンバーグ(税込880円)、活火山チキンカツ(税込880円)、天重セット(税込1,080円)など、バラエティに富んでいて選ぶのに迷うほど。一番奥の席からは1Fの展示室を眺められる。展示室では見上げていたマッコウクジラの骨格標本を同じ目線で見る体験は斬新だ。
 宇宙の成り立ちから、地球の誕生、人類の進化、科学技術の発達と、自然科学の歴史がギュッと収まり、さながらタイムマシンに乗って時間旅行に出かけているかのよう。膨大な標本、迫力ある恐竜骨格、データ観測の体験など、いろいろなものが見られるため、じっくりと1日かけて科学三昧を楽しむのも良いし、時間がない場合は興味のあるテーマだけつまみ食いするのも良さそう。その時々で自分なりのテーマを決めて何度でも通いたくなる探求の館だ。

国立科学博物館(上野)
外観
台東区上野公園7-20 [MAP]
03-5777-8600(ハローダイヤル)
入館料(税込)
一般・大学生 620円、高校生以下・65歳以上 無料
※特別展は別途
火〜木・日 9:00〜17:00
金・土 9:00〜20:00
※最終入館は閉館30分前まで
※特定日、時間延長あり
休館日
月曜(休日の場合は翌平日)、年末年始(12月28日〜1月1日)、害虫駆除のための館内燻蒸期間(6月下旬)
JR「上野駅」徒歩5分、
銀座線・日比谷線「上野駅」、
京成線「京成上野駅」徒歩10分
webサイト
2018年2月取材/2018年4月更新