シュウゴアーツ(六本木)
ピラミデビルの隣、ギャラリーが集積する「complex665」。その2Fにあるのが「シュウゴアーツ」だ。80年代以降のアートに主眼を置く、日本の現代アートを知るには欠かせない老舗ギャラリーの1つで、絵画、彫刻からヴェネチアン・グラスまで多彩な作家が所属している。仕切りの少ない新感覚の展示室で、個性あふれる作家たちが各々の世界観をまるごと創作。その雰囲気はユニークで、初心者でも分かりやすい見所満載だ。父の経営する佐谷画廊で研鑽を積み、2000年に同ギャラリーをオープンさせた代表の佐谷周吾氏に多岐にわたるギャラリストの仕事や注目の作家について聞いた。
入ると、床も壁も天井も真っ白な展示室。そのコンセプトは“原っぱ”と佐谷氏は言う。「設計は、演出したい世界を自由に作り上げられる“原っぱ”的な空間を提唱してきた建築家の青木淳さんに依頼しました。彼は美術館の建築や作家の個展の内装などを多く手掛けており、作家のニーズを的確にとらえて空間を作り上げられる希少な方。ギャラリーを新設する際にはぜひお願いしたいと考えていたのです。子どもの頃は、道具がなくても原っぱで自由に遊びを考えたものです。あの広くて自由な場を目指しました。できる限り仕切りやオフィススペースをなくし、スタッフも展示室で業務をしています」。
奥の展示室では天井に照明がなく、4本の強力なLEDスタンドだけで明るさを演出している。空間に広がる光の質は自然光に大変近いもので、色の再現性も高いのだとか。「照明は天井からという固定観念を打破し、スタンドにしたことで、毎回の個展の演出にも幅が出ました。4本をまとめたり、1本も使わずにプロジェクターの光で見る回もありました。才能のある作家は演出も上手いので、展示室ごと作品化してしまうのです」。スケジュール的に個展が決まってから作家は制作するため、自然と空間を意識した作品が生まれるという。
美術館と違い、ギャラリーはあくまでも“店”。所属作家のクオリティを上げること、コレクターのニーズに合う作品をそろえることは至上命題だ。
作品の質は耐久性にも及ぶ。展示をすれば、どうしても紫外線で劣化してしまう。紙の黄ばみは洗うと戻るものの、水にさらした感じが出てしまい、商品価値は低下。劣化が進む酸性ガスの発生を抑える額装の調査や、修復家と耐久性の良い画材について話すなど、販売面以外の専門的な知識もギャラリストには必要だ。
納品時もプロの配慮が求められる。戸建、マンション、借家と住宅が多様化し、壁の材質もまちまちな昨今、アート作品をベストな位置で展示することは意外と難しい。要望があれば、顧客の自宅にも設置に赴く。展示の仕方をアドバイスしたり、既存の作品とのバランスを提案したり、設置に適した金具を紹介。「作品の良さが存分に発揮されるように展示するのは、作家に対する礼儀でもあります」。作家と顧客、両方の満足を目指すギャラリストならではの考え方だ。
なぜ客先での展示にそこまで力を入れるのか。佐谷氏は、その理由を作品力が一番試される場だからと話す。「ギャラリーで見るのとは違い、起き抜け、団らん中、仕事帰りなど、24時間どのタイミングで見るか分からない。その上で、購入者はやっぱりこの作品はいい、ちょっと違ったなどと結論付けるわけです」。ネガティブな判断だと買った本人もショックな気がするが、そこは違うと佐谷氏は否定。「自分の基準でアートを選んだ経験は、どんな結果になっても残ります。違う作品を選ぶ基準にもなるわけです。また、購入時は違うと感じていても好みが変わったり、売って、別の作品を購入することもできるわけです」。そうして自分のアートの歴史が蓄積されていく。それも絵を所有する醍醐味だという。
佐谷氏を始め、スタッフも何かしら作品を所有している。ギャラリストとしての勉強のためではない。作品を見て、作家と話をしているうちに興味が湧いてくるのだ。「作品自体も魅力ですが、会話の印象といった人間的魅力も付加されるところが現代アートの楽しさですね」。
今、注目の所属作家は、光を活かした作品を創作する現代ヴェネチアン・グラス作家 三嶋りつ惠と、オブジェや写真などのある非日常的な日常世界を描く千葉正也。特に千葉は若手画家の中で評価が高く、2017年の個展で作品が完売するほどの人気ぶり。
ギャラリー創設時から所属している画家 小林正人と、彫刻家 戸谷成雄も重要な作家たち。50年代の「具体」や70年代の「もの派」という美術の潮流の歴史を踏まえつつ、それらと一線を画した独創的な表現方法を獲得し、“新しいアート”に主眼を置く同ギャラリーの原点とも言える存在だ。キャンバスを張りながら描く小林正人は、その手法の革新性からアーティストの中のアーティストと呼ばれてきたが、作家やキュレーターのみならずコレクターの間で支持が広がっている。その作品は展示した壁ごとアート化してしまうほどのパワーにあふれているのが特徴だ。
一方の戸谷成雄は、デッサンを描いて着色する油絵のように、骨組みに肉付けしていく西洋美術的な考え方ではなく、表面を削った末に生まれた立体という非西洋的な側面も意識して作品を制作しているという。
所属作家で最年少の近藤亜樹は、絵を描く才能とパワーが破格。震災の後に作った約30分の自主映画「HIKARI」では、監督や役者の出演交渉も担う傍ら、1万4千カット分を油絵でアニメーションを描いた。
奥の展示室のテーブルには、個展のリリース、プライスリスト、フロアプラン、ポートフォリオ、所属作家の展覧会やイベントの案内まで並ぶ。公式サイトには、事前に作家へ個展の意図などをインタビューした動画も掲載されている。「新聞や雑誌でアートの取り扱いが減少傾向にある昨今、リアルタイムに作家の想いを伝えていくためにwebの充実を目指しています。海外を拠点にしている作家の場合は、インタビュー動画を撮りに現地まで行くこともありますね。キュレーターを交えたトークショー仕立てにしたことも。来場者一人ひとりに作品の解説や個展の意図を伝えたいところですが、実行するのは大変ですから」と、佐谷氏。専門性の高い作家ほど、その知名度は業界内に留まりがち。アートに詳しくない人でも名前を知っている草間彌生のようなレベルに、所属作家がなってほしいという。そんな知名度アップへ向けた情報公開なのだ。
実は、同じビルに入居する小山登美夫ギャラリー、タカ・イシイギャラリーとは、隅田川にかかる永代橋周辺で開業していた当時から一緒に行動。「展示室、倉庫、事務所と広さが必要なギャラリーは、アクセスが不便になりがちなので、複数のギャラリーがまとまればお客様にも喜ばれると一緒にやるようになりました」。
現在は、展示室は六本木、倉庫と事務所は港区海岸に置いて行き来する。美術館もギャラリーも多く、アクセスも良い六本木はまさにアートにおける理想的エリア。出かけついでに、公式サイトを覗いて気になる個展があったら、気軽に現地を訪れよう。同ギャラリーの魅力は“常に新しいインパクトがあること”。習うより慣れろの精神で実際に見てみることが吉のようだ。
名称 | シュウゴアーツ |
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所在地 | 港区六本木6-5-24 complex665 2F |
電話番号 | 03-6447-2234 |
営業時間 | 11:00〜19:00 |
休廊 | 月曜日、日曜日、祝日、展示替え期間 |
アクセス | 日比谷線・大江戸線「六本木」駅徒歩1分 |
公式サイト | https://shugoarts.com/ |
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