ロスト・イン・トランスレーション 試写会日記 毎週、熱田美希から映画ファンの皆さんへ熱いメッセージ!傑作でも愚作でも、映画ってやっぱり素敵!!
ロスト・イン・トランスレーション

本作のアカデミー賞脚本賞受賞にて史上初、
コッポラ父娘が2世代受賞を果たした話題作
「大好きな街・東京を描いた」とのことだが……?



 「私は東京への愛、東京の魅力を描きたくてこの映画を撮ったの」。そう語るのは、名監督フランシス・フォード・コッポラの娘であり、映画監督、女優、フォトグラファー、「MILK FED」のデザイナー、とさまざまな顔をもつソフィア・コッポラ。本作はそんな独自の世界観をもつ彼女が東京を舞台に、監督・脚本を手がけた作品。アカデミー賞脚本賞受賞、ゴールデングローブ賞主演男優賞、主演女優賞、編集賞の3部門を受賞した話題作だ。欧米でも評判のようだが、本作がウケている真の理由は「日本カルチャーが世界的に人気だから。サムライもウケてるし」……というイイ意味ばかりでもなさそうだ。

ロスト・イン・トランスレーション
 東京にCM撮影のため来日したハリウッドスターのボブ。彼はまともな通訳もなく日本人スタッフに意味不明な注文をつけられる今回の仕事や、海外の宿泊先にまで些細なことで連絡してくる妻の態度に疲れていた。そんなときボブは宿泊中のパークハイアット東京のバーで、夫の仕事に同行して東京に滞在しているシャーロットと知り合い、連絡を取るようになる。
 それぞれ夫婦生活にゆきづまりを感じている男女が異国で出会い、心の距離を縮めていく……というのはよくあるパターン。実のところ、日本人の立場でフツーに観ると、さして面白い映画でもないように思えた。では何がそんなに海外でウケているのか? おそらく欧米の視点からすると奇妙に見える日本人の言動や習慣、良くも悪くも何でもアリな街トーキョーの雰囲気が、ソフィア・コッポラの表現力によって的確に、やや誇張されて描かれているからだろう。また本作のヒロインは、忙しく働くカメラマンの夫とすれ違いの生活に疲れはじめている……という設定。スパイク・ジョーンズ監督と'03年12月に離婚したS・コッポラは、本作で元夫との関係を描いたのではないか、と言われている。ちなみに、劇中でカメラマンに「あなたに撮ってもらいたいの」とモーレツアピールする軽薄な女優役のモデルは、キャメロン・ディアスとの噂。日本人向けのネタとしては、作中に音楽バラエティ番組『Matthew's Best Hit TV』のワンシーンの登場、エンディングには日本の伝説のバンド、はっぴいえんどが'71年に発表した曲「風をあつめて」、とマニアなツボをついてくる。そして主演女優のスカーレット・ヨハンソンはとても魅力的。しっとりとした嫌味のない色気に、透明感や知的な雰囲気をあわせもつナチュラルなムードは、『死ぬまでにしたい10のこと』『ドーン・オブ・ザ・デッド』で注目されている若手女優サラ・ポーリーと通じるものがあった。こうしたキャスティングの妙は、やはりS・コッポラのセンスと人脈ゆえだろう。


 いろいろ書いてはきたが、ニュアンス命の作品についてレビューすること自体が、本当は野暮なのかもしれない。ヨーロッパ映画好き、シーン写真のテイストが好き、海外ステイで異邦人感覚を痛感したことがある、雑誌『オリーブ』愛読者だった……という方々は外野の声など気にせず、まずは観てみるといいだろう。
『ロスト・イン・トランスレーション』 2003年アメリカ映画
データ
2004年3月更新

ロスト・イン・トランスレーション

2004年4月17日公開
シネマライズほかにて全国公開

■2003年 アメリカ映画
■上映時間1:42
■東北新社配給
■監督・脚本/ソフィア・コッポラ
■プロデューサー/ロス・カッツ
ソフィア・コッポラ
■エグゼクティブ・プロデユーサー/フランシス・フォード・コッポラン
■出演/ビル・マーレイ
スカーレット・ヨハンソン
ジョバンニ・リビシン



プロフィール
 
あつた美希 あつた美希
あつた美希
フリーライター、アロマコーディネーター、クレイセラピスト インストラクター/インタビュー記事、映画コメント、カルチャー全般のレビューなどを執筆。1996年から女性誌を中心に活動し、これまでに取材した人数は600人以上。近年は2015〜2018年に『25ans』にてカルチャーページを、2015〜2019年にフレグランスジャーナル社『アロマトピア』にて“シネマ・アロマ”を、2016〜2018年にプレジデント社『プレジデントウーマン』にてカルチャーページ「大人のスキマ時間」を連載。2018年よりハースト婦人画報社の季刊誌『リシェス』の“LIFESTYLE - NEWS”にてカルチャーを連載中。